最新のフルCG作品はどういった過程で作られたか

 2012年10月27日に全国ロードショーされる『バイオハザード』のフルCG映画『バイオハザード ダムネーション』。同作の神谷誠監督と土井淳CGディレクターによる特別講義が、2012年10月10日、デジタルハリウッド大学・秋葉原メインキャンパスにて行われた。

 神谷監督は、平成『ゴジラ』シリーズの川北紘一特技監督、平成『ガメラ』3部作の樋口真嗣特技監督などの助監督を務め、2000年『ホワイトアウト』で特撮監督デビュー。メイキングビデオ、テレビ番組の再現ドラマなども幅広く手掛け、2007年には『真・女立喰師列伝 /「歌謡の天使 クレープのマミ」』にて脚本・監督デビューを果たした。その神谷監督が、『バイオハザード』のフルCG映画『バイオハザード ディジェネレーション』(『バイオハザード ダムネーション』の前作)の監督を務めることになったのか。そのキッカケは『ディノクライシス3』まで遡る。神谷監督は、『ディノクライシス3』のムービーパートの演出を担当。もともとホラー映画やアクション映画好きの神谷監督は、『バイオハザード』のファンだったことから、『ディノクライシス3』の開発スタッフ(当時『バイオハザード』シリーズのスタッフも多数参加していた)と意気投合。それが縁になって『バイオハザード ディジェネレーション』の監督という依頼につながったのでは、と振り返る。

開発秘話も! デジタルハリウッド大学で『バイオハザード ダムネーション』に関する特別講義が開催_02
■神谷誠監督(画面右)
1965年生まれ。東京都出身。平成「ゴジラ」シリーズの川北紘一特技監督、平成『ガメラ』3部作の樋口真嗣特技監督などの助監督を務め、2000年『ホワイトアウト』で特撮監督デビュー。ゲームのムービーやCM、メイキングビデオ、テレビ番組の再現ドラマなども幅広く手掛ける。2007年には『真・女立喰師列伝 /「歌謡の天使 クレープのマミ」』にて脚本・監督デビュー。2008年の『バイオハザード ディジェネレーション』で監督を務める。

■土井淳CGディレクター(画面左)
CGディレクター:土井淳氏。デジタル・フロンティアディレクター。1997年デジタル・フロンティア入社に入社後、映画、ゲーム、CMなどのCGを手掛ける。最近では、『DEATH NOTE』(2006)、『GANTZ』(2011)など、おもに映画、フルCG映画のCGディレクターを務める。
開発秘話も! デジタルハリウッド大学で『バイオハザード ダムネーション』に関する特別講義が開催_34

 『バイオハザード ディジェネレーション』は、全国3館での2週間限定の公開ながら、平日も満席になるほど好評で、DVDやブルーレイディスクも好調なセルスルーとなり、続編の制作が決定する。続編の話は2008年の年末に打診され、具体的な作業は2009年春ごろからスタートしたという。

 まずはシナリオ制作に取り掛かり、神谷監督とプロデューサー、脚本担当者らとミーティングを重ね、そこで出た要素を脚本担当者がプロットとして起こし、さらにそれをもとに話し合いながら、脚本を完成させていく。「予算や作品のバランス、尺などを考慮して、最終的な脚本を完成させます。前作で実現できなかったカーチェイスが今回もボツになり(笑)、バイクで走るシーンなども入れたかったのですが、(予算や作品のバランスを考慮して)これもボツにしました」(神谷監督)。脚本の完成度を上げることで、入れるべきシーンや、入れたいけれど割愛すべきシーンなどがおのずと見えてくるということだ。

開発秘話も! デジタルハリウッド大学で『バイオハザード ダムネーション』に関する特別講義が開催_06
開発秘話も! デジタルハリウッド大学で『バイオハザード ダムネーション』に関する特別講義が開催_05
▲綿密に決められた制作スケジュール。今回は、比較的スケジュールはタイトだったという。
▲制作ワークフロー。キャラクターと背景制作は同時進行。
開発秘話も! デジタルハリウッド大学で『バイオハザード ダムネーション』に関する特別講義が開催_07
▲のちのちのムダを省くため、シナリオは何度もミーティングを重ねて作り上げていった。

 前作はスケジュールの都合でロケハンは実現しなかったが、今回はウクライナでのロケハンが行われた。「(前作の舞台である)アメリカは、行ったことがスタッフも多いし、映画などから何となくイメージしやすい。でも、今回の舞台となる東欧は、スタッフ間のイメージもまちまちでイメージの共有が難しかった。それが、ロケハンを行った大きな理由のひとつです。実際に目で見て、確認することはとても大切なことでした」(神谷監督)。また、街行く人物の写真も衣装などの資料として、大いに役に立ったとのこと。

開発秘話も! デジタルハリウッド大学で『バイオハザード ダムネーション』に関する特別講義が開催_11
開発秘話も! デジタルハリウッド大学で『バイオハザード ダムネーション』に関する特別講義が開催_10
▲ウクライナへロケハンへ。スタッフ間の共通イメージ、資料用の写真など、得るものは多数。
開発秘話も! デジタルハリウッド大学で『バイオハザード ダムネーション』に関する特別講義が開催_09
開発秘話も! デジタルハリウッド大学で『バイオハザード ダムネーション』に関する特別講義が開催_08
▲豪華な建物やレトロな町並み。ヤルタ会談が行われた建物を映画では官邸として使用しているとのこと。

 そして、いよいよCG制作。今作では、キャラクターや背景、アニメーション、エフェクトなどがすべて同時進行で進行。ロケハンの資料をもとに、すべてのシーンの舞台設定を決定し、その舞台設定からローレゾの背景を作成。されにモーションキャプチャーからアニメーションをつけていく。

 キャラクターデザインは、まず、アニメーターが線画でキャラクターデザインし、最終の質感に近いものを写真、レタッチで起こす。それをもとに3Dモデルを作成していく。レオンやエイダなど、ゲームに登場するキャラクター以外、つまり、『バイオハザード ダムネーション』オリジナルのキャラクターに関しては、東欧らしい人物に近づけることに苦労したという。ちなみに、本作の舞台“東スラブ共和国”の女性大統領であるスベトラーナ・ベリコバは、ティモシェンコ前ウクライナ大統領をイメージしたとのこと。

開発秘話も! デジタルハリウッド大学で『バイオハザード ダムネーション』に関する特別講義が開催_33
開発秘話も! デジタルハリウッド大学で『バイオハザード ダムネーション』に関する特別講義が開催_16
開発秘話も! デジタルハリウッド大学で『バイオハザード ダムネーション』に関する特別講義が開催_15
▲本作におけるレオンのイメージ。前作でNGだった無精髭は、『6』でレオンが無精髭を生やしていることもあり、今回はOKになったとのこと。
▲微妙な表情もつけられるように、CGモデルは前作より口や目の回りのメッシュを細かく作成。
▲衣装は「装備品をゴテゴテつけているので、ポリゴンがめり込むなど問題もあって、苦労して調整しました」(土井)
開発秘話も! デジタルハリウッド大学で『バイオハザード ダムネーション』に関する特別講義が開催_12
開発秘話も! デジタルハリウッド大学で『バイオハザード ダムネーション』に関する特別講義が開催_14
開発秘話も! デジタルハリウッド大学で『バイオハザード ダムネーション』に関する特別講義が開催_13
▲ミリタリーものにこだわりを持つ神谷監督。監督の私物も多数、ディテールに活かされているという。
開発秘話も! デジタルハリウッド大学で『バイオハザード ダムネーション』に関する特別講義が開催_17
開発秘話も! デジタルハリウッド大学で『バイオハザード ダムネーション』に関する特別講義が開催_18
▲アニメーターがデザインした線画から、最終の質感に近いものを写真、レタッチで起こして……。
▲それをもとにCGモデルを制作。
開発秘話も! デジタルハリウッド大学で『バイオハザード ダムネーション』に関する特別講義が開催_19
開発秘話も! デジタルハリウッド大学で『バイオハザード ダムネーション』に関する特別講義が開催_20
開発秘話も! デジタルハリウッド大学で『バイオハザード ダムネーション』に関する特別講義が開催_21
開発秘話も! デジタルハリウッド大学で『バイオハザード ダムネーション』に関する特別講義が開催_22
▲絵コンテも並行して進行。脚本を具現化したより詳細な設計図とも言える。
開発秘話も! デジタルハリウッド大学で『バイオハザード ダムネーション』に関する特別講義が開催_23
開発秘話も! デジタルハリウッド大学で『バイオハザード ダムネーション』に関する特別講義が開催_24
開発秘話も! デジタルハリウッド大学で『バイオハザード ダムネーション』に関する特別講義が開催_25

 3Dモデルにアニメーションをつけるために、モーションキャプチャーを行い、リアルな動き(芝居)をデータとして取り込んでいく。『バイオハザード ダムネーション』の登場人物は欧米人で全編英語のため、ボディーアクター、ボイスアクターともにハリウッドでオーディションを行ったという。「ボディーアクターとボイスアクターは通常は別々の役者が演じるのですが、JD役はボディアクターのボイスがイメージにピッタリだったので、同じ俳優に演じてもらいました」(神谷)。また、レオンのボイスアクターがレオンのボディーアクターとしても応募してきたというが、今回は見送ったという制作秘話も披露された。

開発秘話も! デジタルハリウッド大学で『バイオハザード ダムネーション』に関する特別講義が開催_26
開発秘話も! デジタルハリウッド大学で『バイオハザード ダムネーション』に関する特別講義が開催_27
▲オーディションはハリウッド。
▲モーションキャプチャーなどの実作業は日本で行われた。

 映像は、ボディのアニメーションのみの映像から、画面内での人物やカメラの動きを決め、そこからフェイシャルを加え、ライティングなどをつけるなどしていき、映像の完成度を高めていく。「その後も、監督の演出に沿うように、ライティングやコンポジット(映像の合成)調整など行なっていきました」(土田)。今回は、スケジュールがタイトで、さまざまな制作過程が同時進行だったため、制作終盤はかなりの修羅場だったとのこと。

開発秘話も! デジタルハリウッド大学で『バイオハザード ダムネーション』に関する特別講義が開催_28
開発秘話も! デジタルハリウッド大学で『バイオハザード ダムネーション』に関する特別講義が開催_29
開発秘話も! デジタルハリウッド大学で『バイオハザード ダムネーション』に関する特別講義が開催_30
開発秘話も! デジタルハリウッド大学で『バイオハザード ダムネーション』に関する特別講義が開催_31

 そんな修羅場も経て、『バイオハザード ダムネーション』はついに完成。2012年10月27日から2D&3D同時公開で全国ロードショーとなる。ハイクオリティな質感、パワーアップしたスピード感と臨場感となった最新フルCG映像をぜひ劇場で確認しよう。

開発秘話も! デジタルハリウッド大学で『バイオハザード ダムネーション』に関する特別講義が開催_32
▲特別講義後、学生さんたちと。モデレーター(写真右)は、デジタルハリウッド大学 准教授 高橋光輝氏が務めた。