いまは、スマートフォン向けゲームの開発ノウハウを貯めている最中

 東京ゲームショウ 2012の会期に合わせて、グリーのキーパーソンにインタビューを敢行。最後は、開発本部 Japan Studio統括部 部長 エンジニア 細谷伊佐武氏へのインタビューをお届けしよう。『探検ドリランド』などのエンジニアを経て、『MONPLA SMASH(モンプラスマッシュ)』などを担当している細谷氏。そんな細谷氏が見据えるグリーの未来像は?

グリー・キーパーソンに訊く(04)細谷伊佐武氏/ネイティブアプリの魅力【TGS 2012】_01

――まずは、東京ゲームショウに出展されての手応えを教えてください。

細谷 2年目ということもあり、逆にどれだけのお客様が来ていただけるか心配だったのですが、そんな不安も杞憂だったほどの、たくさんの方に来ていただけましたね。一般日初日には、『探検ドリランド』のコーナーにもブースを取り巻くほどのお客様が列を作ってくださって、すごい手応えを感じています。

――今回、注力したポイントは?

細谷 前回は、フィーチャーフォン向けゲームタイトル中心の出展で、「ソーシャルゲームでは、こんなのが流行っています」ということがお見せできたと思っていました。今年は、スマートフォンに特化していまして、「ソーシャルゲームでは、こういう新しいリッチな体験もできます」ということで、ソーシャルゲームの進化を伝えるべく出展しています。

――そんな進化をわかりやすく提案しているタイトルは何になりますか?

細谷 内製タイトルとなると、やはり『MONPLA SMASH(モンプラスマッシュ)』ですね。ソーシャルゲームはいままでブラウザベースが主流だったのですが、『MONPLA SMASH(モンプラスマッシュ)』はUI(ユーザーインターフェース)なども含め、スマートフォンに特化した形で作っています。

――フィーチャーフォンからスマートフォンに移行するにあたって、とくにたいへんなのはどんなところですか?

細谷 作りかた自体が変わるので、ひとつひとつ考えていかないといけない苦労はありましたね。あと、大きな課題だったのが、UI。いままではブラウザだったので、縦にスクロールさせることでいくらでも長い画面が作れたんです。それでお客様にも慣れ親しんだ部分があったと思うのですが、ネイティブアプリと、一画面に固定させて表現したかったので、どうUIを配置していくかは悩みどころでした。

――ああ、そんなご苦労もあるんですね。

細谷 そうなんです。ボタンひとつにしても、ブラウザだったらいくらでも置けるという想定でレイアウトを考えるのですが、ネイティブでは置ける数が限られてくるし、大きさも考慮しないといけない。「一画面に必要なボタンはこのくらいの数で、このくらいの大きさだったら押せるだろう」というようなところから、手探りでやっています。

――フィーチャーフォンからスマートフォンに移行するにあたっては、グラフィック面だけではない、いろいろな変化があるということですね。

細谷 そうなんです。細かいところで言うと、いままで取り組んできたのとは違うスキルが必要になるので、エンジニアがフィーチャーフォンのときとは異なるノウハウを習得しないといけないということもありました。今回『MONPLA SMASH(モンプラスマッシュ)』では、新たな取り組みとして“Adobe AIR 3.3”を採用し、システムを構築してまいりました。まだ、スマートフォン向けゲームの開発自体が過渡期で、開発環境が固まっていなかったので、エンジニアがかなり苦労して作っているというのはあります。

――まさにいまは、スマートフォン制作のノウハウを貯めている最中だということですね?

細谷 そういった意味では、まだまだ物足りないとは思っています。もちろん、いろいろと配慮はしているのですが……。「とはいえ、これは本当に使いやすいのだろうか?」と悩んだりもしています。グリーの得意としているのは、どんどん改善してよくしていくところなんですよ。『MONPLA SMASH(モンプラスマッシュ)』の日本でのリリースはこれからなので、お客様がどういうふうに遊んで、どういう使いかたをしてくれるかによって、中身をブラッシュアップしていきたいと思っています。そういった意味では、リリースしてからが勝負ですね。

――ソーシャルゲームらしいですね(笑)。

細谷 はい。ソーシャルゲームのスマートフォンアプリの魅力は、お客様といっしょに開拓していくものになると思います。

グリー・キーパーソンに訊く(04)細谷伊佐武氏/ネイティブアプリの魅力【TGS 2012】_03
グリー・キーパーソンに訊く(04)細谷伊佐武氏/ネイティブアプリの魅力【TGS 2012】_04
▲会場限定ハンターカードが配布されたこともあり大好評だった『探検ドリランド』(左)と、ネイティブアプリのポテンシャルを見せつけた『MONPLA SMASH(モンプラスマッシュ)』。
グリー・キーパーソンに訊く(04)細谷伊佐武氏/ネイティブアプリの魅力【TGS 2012】_02

――東京ゲームショウでは、レースゲームやFPSなど、幅広いジャンルのスマートフォン向けゲームが出展されましたが、今後スマートフォンで作って行きたいジャンルは?

細谷 そうですねえ。家庭用ゲームにできて、スマートフォンでは遊べないジャンルって、いくつかあると思うのですが、そういうジャンルはすべてスマートフォンでもフォローしていきたいですね。「家庭用ゲームに遜色のないジャンルのゲームが遊べる」というところまでは、持っていきたいと思っています。やっぱり、いろいろなゲーム体験を、スマートフォンでもお客様に提供したいですからね。

――一方で、スマートフォンで言うと、開発費が高騰してコストを回収し切れないといったリスクも背負いやすくなると思うのですが、そのへんはどう判断されていますか?

細谷 そこに関しても、お客様の方が求めるクオリティーはあるのかなと。もちろん、ある程度のリッチなクオリティーのグラフィックは必要だとは思っています。ただ、ソーシャルゲームがなぜここまで広がったかというと、それは誰でもわかりやすいUIであったり、UX(ユーザーエクスペリエンス)だったりするわけです。あとは、敷居の低いコミュニケーション。ゲームの中でどうコミュニケーションを取っていくかを考え抜いて作られているのがソーシャルゲームです。そういったキモとなる部分を抑えつつ、グラフィックのクオリティーとのバランスを図る。そのへんは、今後のスマートフォン向けゲーム開発の大切なポイントになってくると思います。

――クリエイターは最先端を追い求めがちですが、ハイクオリティーな映像を求めるクリエイターを、ときに抑えることも必要になる?

細谷 そうですね。そこは、バランスを取りたいと思っています。これは社内で、(『ドラゴンアーク』などのゲームタイトルを担当している)土田俊郎とも話をしているのですが、そちら(ハイクオリティーな映像)だけを求めると、遊んでいただける方がコアなほうに偏ってしまうのではないか、との思いもあります。やはりグリーとしては、幅広いお客様に求められるものを追求していきたいです。

――最先端を追い求める、コアな人向けタイトルは、いまは考えていない?

細谷 というわけでもなくて、じつはそこもあるんです。幅広い層に向けてのゲームを用意している一方で、コアなお客様向けのタイトルも開発しています。グリーではやり込み要素の多い尖ったタイトルにも取り組んでいこうかなと思っていまして、いずれ発表させていただけるのではないかと思っています。

――わかりました。最後に、今後に向けての抱負をお願いします。

細谷 「いま、ソーシャルゲームってカードバトルだけなのでは?」と思われる方も多いかと思うのですが、東京ゲームショウのグリーブースを見ていただければ、そんなことはない、大きな可能性を感じていただけると期待しています。もちろん、グリーではソーシャルゲームを引っ張ってきたカードバトルにも力を入れていきますが、それ以外にも、どんどん新しいジャンルにもチャレンジしています。いろいろなタイトルを皆さんのお手元に届けられれば……と思っています。これからのグリーにご期待ください。