ふたりが語る格闘ゲームの未来とは!?

 2012年9月27日にコーエーテクモゲームスから発売される3D対戦格闘ゲーム『デッド オア アライブ 5』。その発売直前となる2012年9月20日発売の週刊ファミ通10月4日号では、『バーチャファイター』シリーズの生みの親である鈴木裕氏と、『デッド オア アライブ 5』プロデューサーの早矢仕洋介氏による対談を掲載した。本記事では、その完全版をお届けしよう。

鈴木裕氏&早矢仕洋介氏が『デッド オア アライブ 5』を語る!_07
■写真左 鈴木裕氏(文中:鈴木)
セガ在籍時に、『バーチャファイター』シリーズや『ハングオン』、『アウトラン』など、多数のヒット作を手掛ける。2008年に独立し、株式会社YS NETを設立。スマートフォンや家庭用ゲームの企画及びプロデュースを行っている。

■写真右 早矢仕洋介氏(文中:早矢仕)
テクモ(当時)入社後、『デッド オア アライブ 3』からシリーズに携わる。現在は、コーエーテクモゲームスの開発チーム“Team NINJA”のリーダーとして、『デッド オア アライブ』シリーズや『NINJA GAIDEN(ニンジャガイデン)』シリーズのプロデュースを担当。

『デッド オア アライブ』のアイデンティティー

──おふたりが初めて会ったのは、いつごろですか?

早矢仕 いまから半年くらい前ですね。『デッド オア アライブ 5』のα版(開発初期版)ができたころ、鈴木さんが当社にお越しになる機会があって、そのときに初めてお会いしました。

鈴木 襟川恵子さん(コーエーテクモゲームス取締役名誉会長)とよくお会いして、楽しくお話しさせていただくのですが、話の流れでコーエーテクモさんに遊びに行くことになりまして。

早矢仕 そのときは、まだ『バーチャファイター』とのコラボレーションは発表していなかったのですが、そのことを鈴木さんにもお話ししておきたいと思っていたんです。それで、セガさんにコラボレーションのお話をする許可を頂戴して、鈴木さんに来ていただきました。

──コラボレーションのお話を聞かれたとき、鈴木さんはどう思われましたか?

鈴木 コーエーテクモさんもいろいろな取り組みをされているんだな、と素直に感じました。コラボレーションは『デッド オア アライブ』と『バーチャファイター』のどちらにとってもいい影響を与えると思います。

早矢仕 私がテクモに入ったのは、『デッド オア アライブ 3』の開発をしていたころでした。なので、昔の話は社歴が長いスタッフに聞いたのですが、じつは初代『デッド オア アライブ』をリリースするときに、セガさんや鈴木さんにお力になっていただいたんです。そういった縁もあったので、今回、お話ししておきたいなと。

──セガさんから、MODEL2基板を借りて開発されたんですよね。

早矢仕 はい。ただそのスタッフは、自分たちが『デッド オア アライブ』を出展したのと同じショーで、セガさんが新しいMODEL3基板の『バーチャファイター3』を出されていて、とてもショックを受けたと言っていました(笑)。

鈴木 ああ、そうだったんですか(笑)。

――でも、いまや両シリーズとも『5』で追いついたと(笑)。初代『バーチャファイター』のころは、早矢仕さんはまだゲーム業界に入っていなかったんですね。

早矢仕 当時は高校生ぐらいで、プレイする側でした。とくに『バーチャファイター2』は、みんなで家に集まって1日中遊んでいた思い出があります。当時はジャッキーを使っていましたね。やっぱり、初心者はジャッキーから入りますよね?(笑)。

──わかります(笑)。

早矢仕 今回のコラボレーションでは、初代『バーチャファイター』からのキャラクターを出したいと思っていたので、ジャッキーは非常に迷いましたね。最終的には、アキラ、サラ、パイの3人をお願いしました。

──「ジャッキーを出してほしかった!」という人も多いかもしれませんね(笑)。鈴木さんが『デッド オア アライブ 5』のゲームを見たときのご感想はいかがでしたか?

鈴木 ハリウッドで流行している最新の演出方法が取り入れられていて、「おお、進化しとるぞ!」と。エンターテインメント性を高める方向に向かう、というアプローチがハッキリしているので、これはいいなと思いました。僕はコーエーテクモさんの人間ではないので、こんな言いかたも変ですけど、「正しい方向に向いとるぞ」という。

早矢仕 「いろいろな対戦格闘ゲームがあるなかで、『デッド オア アライブ』の持っている強みやアイデンティティーをしっかり伸ばしていて、それは正しい」とおっしゃっていただいた記憶があります。でも、ここまで褒めていただいたのは今回の対談が初めてなので、うれしいですね(笑)。

鈴木 迷わず、ずっとこの道を行けばいいと思います。いま3Dの対戦格闘ゲームといえば、『バーチャファイター』もあるし、『鉄拳』もあるし、『ソウルキャリバー』もあります。それらひとつひとつが特徴を持って、個性を活かした形で進化しています。ユーザーからすると、似たようなものはいらないし、それぞれが魅力的に伸びたほうがいいと思うんです。そのなかで『デッド オア アライブ』は、エンターテインメント路線に向かっています。ハリウッドの演出方法をインタラクティブに取り入れたときに、どういった表現になるかというのを追いかけていくと、まだ体験したことがないものが出てくる可能性があるので、すごく楽しみです。

早矢仕 『デッド オア アライブ 5』の開発チームがキーワードにしていたのが、“格闘エンターテインメント”だったんです。ちょうど鈴木さんからも、エンターテインメントという言葉が聞けて、ばっちりハマっているのかなと思うとうれしいですね。

――確かに、先ほどから早矢仕さんのお顔から笑みがこぼれていますね(笑)。早矢仕さんは、鈴木さんがいらっしゃったときのことは覚えていますか?

早矢仕 緊張しましたね。じつは、そのときはまだ鈴木さんにコントローラをお渡しせず、私がプレイをして、いいところを見ていただいたという感じでした。いまはゲームが無事完成したので、ROMで遊んでいただいています。

──鈴木さんは実際に、アキラたちが『デッド オア アライブ 5』の中に登場しているのをご覧になって、いかがでしたか?

鈴木 違うゲームの世界に違うゲームのキャラクターが入っていくので、作り手としては世界観が保てるかどうかが気になるでしょうが、個人的にはうまくいっていると思います。

──編集部でプレイした人間も、『バーチャ』の動きが再現されている、と驚いていました。

鈴木 キャラクターの話で言えば、『デッド オア アライブ 5』の女性キャラクターはかわいいですね。

──やっぱり、鈴木さんもそう思いますか!

鈴木 そうですね(笑)。対戦格闘ゲームのプレイヤーには男性が多いでしょうから、これは非常に効果的だと思います。

早矢仕 そこがウチのアイデンティティーでもあるので。ほかのゲームと比べる気はないですが、“いちばんかわいいキャラクターが出てくるゲーム”というところまで到達しないといけない、ということは意識しましたし、スタッフも気合を入れて作ってくれました。

──主人公のかすみを始め、キャラクターの顔立ちも変わりましたね。

早矢仕 みんなにかわいいと言ってもらえるように追求した結果ですね。あとは、汗をかいたり衣装が汚れたりするのも本作ならではの特徴です。格闘ゲームは、登場シーンから勝利演出までキャラクターがすべて同じ姿をしているものが多いですけど、闘いの過程を体に刻みつけたいと思いまして。であれば、最初はキレイなんだけど、だんだん汗をかいたりするようにしようと。ただ、女の子のキャラクターが多いので、“汗をかいてもかわいい”というところに持っていこうというのは、最初からある程度決めて作っていましたね。

――汗や衣装の汚れの表現は、とても新鮮に感じました。

早矢仕 それも、僕らの強みを伸ばすために“これは相乗効果になる”と思ったから導入しました。ただ、すべての格闘ゲームがそっちに行く必要はなくて、それぞれが持つIP(知的財産)の強みを活かすものを入れていくことが大事だと思っています。

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格闘ゲームファンの層を広げるために

──おふたりで、格闘ゲームについてお話をされたりはしますか?

早矢仕 そうですね。このあいだは格闘ゲームの未来の話を少し。

鈴木 作るとしたらどんなものがいいか、お互いに喋りましたね。

──具体的に聞いてもよろしいですか?

早矢仕 格闘ゲームは、“ボタンを押して殴る”という、直感性のようなものが快感になっています。でも、直感の方向性は、ボタンを押すだけではなくて、もっと気持ちよく、一体感を感じられる方法があるんじゃないかと。あえてボンヤリ言いましたけど(笑)。

鈴木 言ってしまってもいいんじゃないですか(笑)。久しぶりに格闘ゲームを遊んで改めて実感したのですが、こうした、タイミングよくボタンを押すタイプのゲームは、スパスパっとうまく決まると気持ちいいんです。ただ、そこは表裏一体で、“状況に合わせてタイミングよくボタンを押す”というスキルが上達しない人は、プレイをやめてしまいます。ですので僕は、この格闘ゲームの快感を、もっと多くの人が味わえるようにしていきたいのです。

──確かにいまの格闘ゲームは、決してユーザー層が広いとは言えないと思います。

鈴木 たとえば『バーチャファイター』を例にとると、「ここでサマソ(サマーソルトキック)を出したい!」と思っても、操作が下手で、出せずにやられてしまうことがあります。思った通りに操作できていれば絶対に成功していたのに、スキルがないからそこで技を出せなくてやられてしまうと、ストレスを感じます。反対に、出す技の判断を間違えて負けた場合は納得がいきます。ですので、“思った技が出せないせいで負ける”というパターンを減らせるようなゲームを作れたらいいなと思うんです。テクニックではなく、戦略を重視するという。

──ある程度の技術がないと、相手との読み合いをする土俵にすら立てないですものね。

鈴木 いまは、努力の先に技術を身につけるとか、苦労した分だけ達成感を得るといったスタイルのゲームが苦戦するんです。昔は選択肢が少なかったからそのゲームをやるしかなかったのですが、いまは世の中に多種多様なゲームがあるので、ユーザーとしては最初から楽しいゲームのほうがいいですよね。

――だからこそ、技量をあまり必要としない格闘ゲームが必要だと。

鈴木 とりあえず思ったことができるという土俵の上での勝負にしてあげると、参加者が増えるのではないかと思います。やはりゲームはエンターテインメントなので、より多くの人に遊んでいただきたいなと。

早矢仕 初代『バーチャファイター』では複雑なコマンド入力が必要ないのは、その考えに基づいているんですね。

鈴木 当時『バーチャファイター』は、いちばんやさしい格闘ゲームだったはずなんです。そういうゲームを作りましたから。

――ボタンの数も3つと少ないですものね。

鈴木 小さな子どもからお年寄りまで、ゲームを全然やらない人にも操作してもらって、その操作をサンプリングしたのです。みんなガチャ操作なのですが、どういう順番でボタンを押しているかをデータ化して、ガチャ操作の傾向を分析し、多かった操作に効果的な技を当てはめていきました。デタラメにプレイしても、勝てるようにしたのです。

――それがユーザーを増やすための方法だったわけですね。

鈴木 当時のライトユーザーのほうを向いて作っていたんです。ですので、つぎにやるとしても、いまの格闘ゲームファンの層を、もう1段下に向かって広げるものを作りたいです。

──それを実現するカギはどこにありますか?

早矢仕 入力のデバイスが進化すれば、可能性はありますよね。

──脳波を感知して、とか。

鈴木 医療で体内にマイクロチップを埋め込んだり、脳波を研究するなど、そういった分野の研究は進んでいますが、それを応用してプレイヤーのやりたいことを汲んであげられるようになると、操作の煩雑さがだんだん減ってきて、よりストレスなく、思ったことができるようになるのかなと考えています。

――もし、そういった格闘ゲームファンの間口を広げるゲームに取り組むとしたら、『デッド オア アライブ』の次回作になるのでしょうか?

早矢仕 それをやるとしたら新規タイトルでしょうね。シリーズもののファンの方は、そのシリーズが深みを増していくことを期待されていると思うので。

鈴木 新規のほうがいいと思います。シリーズものの強みは、同時に「これはできない」という縛りにもつながります。だから、チャレンジはニュータイトルのほうがいいのではないでしょうか。「こういうゲームです」って言ってしまえば、何でもありですから(笑)。

──楽しみにしています(笑)。では最後に、『デッド オア アライブ 5』を楽しみにしている方へのメッセージをお願いします。

鈴木 最新版のROMをプレイさせていただいて、率直に「家庭用でここまでのゲームができるようになったんだな」と、感慨深いものがありました。格闘ゲームのプレイに慣れていない方でも、ガチャ押しするだけで連続技が出せて気持ちよく闘えるので、エンターテインメント性に優れたゲームだと思います。みなさん、ぜひ遊んでみてください。

早矢仕 鈴木さんがすべて言ってくださいました(笑)。『バーチャファイター』のキャラクターは、ちょっとゲームを進めていただくとすぐに使えるようになりますので、期待してください。『デッド オア アライブ』と『バーチャファイター』のキャラクターによる掛け合いもありますので、そのあたりも楽しみにしてもらえたらと思います。

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デッド オア アライブ 5
メーカー コーエーテクモゲームス
対応機種 PS3プレイステーション3 / X360Xbox 360
発売日 2012年9月27日発売予定
価格 各8190円[税込]
ジャンル アクション / 格闘
備考 コレクターズエディションは各11340円[税込]、開発:Team NINJA、プロデューサー:早矢仕洋介、ディレクター:新堀洋平