体験予定の人はネタバレ注意

 2012年9月20日~23日の期間、千葉県・幕張メッセで開催されている東京ゲームショウ2012(20日、21日はビジネスデー、22日、23日は一般公開デー)。センス・オブ・ワンダー ナイトプレゼンツ ヘッドマウントディスプレイ 没入快感研究所 Powered by Sony”ブースで、非常に興味深い出展が行われている。

 独立行政法人理化学研究所 藤井チームが開発した実験装置“SRシステム”は、ひと言で言えば現在と過去との境を曖昧にするものだ。体験に使うのは、ソニーのヘッドマウントディスプレイ“HMZ-T2”を改良した、東京ゲームショウ2012限定仕様ヘッドマウントディスプレイ“PROTOTYPE-SR”。この装置には、頭の動きを感知する“ヘッドトラッキングシステム”と、本体前面にライブカメラが搭載されている。さて、これを装着することでどんな体験ができるのか? 以下、ネタバレを含んだ内容なので、一般公開日に体験する人(事前応募で当選した44名のみ)は注意してほしい。

松山洋氏が本気で怯え、恋に落ちた――ソニーのヘッドマウントディスプレイを改良した“PROTOTYPE-SR”の仮想現実がスゴイ【TGS 2012】_03
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※以下、体験内容に関してネタバレがあります

 

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■目の前に人がいる……けど、本当はいない!?

 今回、エンターテインメント業界のクリエイターを代表してPROTOTYPE-SRを体験したのは、サイバーコネクトツー代表取締役社長の松山洋氏。なぜ松山氏が選ばれたのかは本人にも説明されていなかったようだが、じつは同氏とヘッドマウントディスプレイは縁が深い。サイバーコネクトツーを代表する『.hack』シリーズ。この作品の登場人物たちは、“FMD(フェイスマウントディスプレイ)”と呼ばれる装着型のディスプレイを使い、架空のMMORPG“The World”の世界へとダイブしているのだ。当然松山氏自身もソレ系のガジェットへの造詣は深く、新商品が出ればすぐ買うとのことで、“HMZ”も所有済み。ソニー側がそこまでの事情を汲んで起用したかどうかは定かではないが、とにかくヘッドマウントディスプレイを体験してもらううえで、同氏ほど最適な人物はなかなかいないと思われる。あとは、巧みな話術と芸人顔負けのリアクションも……話を続けよう。

 松山氏が通されたのは、イスとPROTOTYPE-SR(およびそれに付随する装置)だけが置かれた真っ白な部屋。これから何が起こるのかほとんど説明がないまま、松山氏は白衣姿のお姉さんに促されてイスに座り、PROTOTYPE-SRを装着した。ここで取材陣は部屋から退出。以降、部屋の外に設置されたモニターを通じて、中の様子と、松山氏のディスプレイに映し出されている映像を同時に確認することになった。

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▲PROTOTYPE-SRを装着。
▲この時点ではまだ部屋にお姉さんがいる。

 装着直後、ディスプレイに映し出されているのは、PROTOTYPE-SRの前面に設置されたカメラから見える景色で、白い部屋の真ん中に白衣のお姉さんがいる。何もおかしいところはない。続いて映像は、現在全国公開中の映画『バイオハザードV トリビューション』のプロモーションムービーに切り替わる。この映像は、イスの後ろに置かれた装置から出力されているものだが、内容についてとくに変わったところはない。同作の迫力ある映像をHMZ-12で観られて、うらやましいなぁくらいである。しかし、部屋の中でひとつの変化が起きた。さきほど松山氏に装置の装着方法を説明していた白衣のお姉さんが、部屋を出ていったのである。数分間の映像が終わると、モニターには再びライブカメラの映像。

 あれ……? 松山氏の目の前にさっき出ていったはずのお姉さんがいる。

 部屋の中を映した映像には、イスに座った松山氏しかいない。しかし、同氏が観ている映像にはお姉さんが映っており、プロモーションムービーの感想などを聞いている。松山氏はいたってふつうだが、観ているこっちは頭が混乱しっぱなしだ。そのとき、松山氏にしか見えないお姉さんが苦しみだした。胸を抑え、うずくまるお姉さんを、松山氏が心配そうに見守る。その直後、お姉さんは突如ゾンビ化して襲い掛かってきた! 思わずのけぞる松山氏。噛まれそうになる直前で、ゾンビは消えた。くり返しになるが、このあいだ部屋には松山氏ひとりである。いったい何が起きたのか? ここで再び、さきほどの白衣のお姉さんが登場。今度は映像の中だけでなく、部屋の中にもちゃんといる。そして、ネタばらしが行われた。

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▲こちら録画映像からのスチール。

 PROTOTYPE-SRは、装着者がいる空間内で“過去”に撮影された映像と、ライブカメラで映している“現在”の映像を違和感なく融合させる装置。過去の映像は360°パノラマカメラで撮影されており、フェイストラッキングと組み合わせることで、録画映像にも関わらず視点の移動ができる。そのため、装着者は録画映像をあたかもいま自分が見ている光景と勘違いしてしまうのだ。さきほどの状況を例に説明すれば、『バイオハザードV』のPVを境に、現在と過去の映像が切り替わっている。そして、ゾンビお姉さんが襲い掛かってきた直後に、映像は再び現在に戻ったわけだ。

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▲恋に落ちた松山氏。

 今回はこのほかにも、バイオリニストの宮本笑里さんによる演奏映像をPROTOTYPE-SRでトリッキーに見せるという手法も披露された。お姉さんが部屋を出た(本当に部屋も出ている)直後、入れ替わるように宮本さんが登場。現在と過去の映像が切り替わったのは、お姉さんがいなくなった瞬間で、つまり宮本さんは実際には部屋にいない。しかし、PROTOTYPE-SRのディスプレイ上で、(前情報なしに)それに気づくのはかなり難しいだろう。それほどまでに、映像の切り替えはスムーズで自然なのだ。宮本さんの演奏映像ではそのほかに、瞬間移動や突然風船が降ってくるといった手法も披露。映像の撮りかた次第で、さまざまなサプライズを起こすことができそうだ。ちなみに、松山氏は目の前で演奏する(ように感じる)宮本さんの美しさにすっかり魅了されたのか、途中から視線の動きが、まるで恋人を見るかのように艶かしいものに……あとで聞いたところ、実際恋に落ちていたそうだ。

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■スタンド“キングクリムゾン”が理解できる

 体験を終えた松山氏はかなり興奮した様子で「これのすごさは、体験しないと絶対にわからん!」とコメント。マンガ『ジョジョの奇妙な冒険』に登場したスタンド“キングクリムゾン”の攻撃を受けたような感覚になると説明した。ちなみにキングクリムゾンのスタンド攻撃は“時間を消し去る”というもので、誰でもわかるように説明するのはやや難解だ。しかし松山氏は、PROTOTYPE-SRを使えば、それが体感的に理解できると力説。とにかく、すさまじいらしい。

 今回の体験はクリエイターの本能も刺激されたようで、「これ(PROTOTYPE-SR)ありきで、何か作りたくなる!」、「これは代わりになるものがないから、エンターテインメントと組み合わせればおもしろくなるよ!」と熱弁。そこで、もしPROTOTYPE-SRでゲームを作るとしたら? という質問をしてみたところ、「日常の中の非日常を表現したい。日常と地続きなんだけど、たまに嘘を入れるようなゲームを作りたい」という答えが。続けて、自身が手掛ける『.hack』シリーズにも触れ、「これがあれば、本物の“The World”が実現しますよ」と話していた。

 なお、PROTOTYPE-SRはあくまで実験装置の参考出品となるため、商品化の予定はないとのことだ。