さまざまなことを考えさせられる、大人のファンタジー

 ポーランドのCD Projekt REDが制作し、海外で高い評価を受けたダークファンタジーRPG『ウィッチャー2』がいよいよ日本でも発売となった。本作は重厚な世界観を持っており、複雑な事情を持つ登場人物たちが、主人公とさまざまなドラマを織り成していく。

緻密な“異世界の体験”が満喫できる――『ウィッチャー2 』インプレッション_01
▲本作の主人公は“ウィッチャー”と呼ばれる身体を変異させた特殊な人物。常人には不可能な戦闘能力を持つが、その力ゆえ通常の人間からは疎まれる存在でもある。

 『ウィッチャー2』はち密な設定を持つ、アクション性の強いロールプレイングゲームである。プレイヤーは主人公ゲラルトを操作しながら、クエストをこなして物語を進めていく。本作でとくに目を引くのは、考え抜かれた複雑なストーリーだ。陰謀を追って進むうちに、新たな展開が次々と提示される。プレイヤーは剣や魔法を駆使し、運命を切り開いていかねばならない。

 やり応えのある本格派RPG『ウィッチャー2』の魅力を、ファミ通Xbox 360を中心にレビューや攻略記事を担当してきた古株ライター、石井ぜんじがインプレッションする。

 本作の最大の特徴は、海外のRPG作品に特有のアダルトな雰囲気である。日本で開発される多くのロールプレイングゲームがコミカルな描き方をしているのに比べ、本作で描かれる世界はシビアだ。不穏な社会情勢の中、人々はそれぞれの身分に応じて自分に利益があるように立ち回ろうとする。高貴なものは、保身や利権の拡大のために。一般庶民は日々の暮らしを保ち、生き残るために。ドラゴンや魔法が存在する世界ではあるが、そこに住んでいるのはまぎれもないリアルな人間なのである。

 主人公のゲラルトは、ウィッチャーと呼ばれる特殊な能力を持つ人物である。変異してウィッチャーとなった彼は、もはや人間とはいえないのかもしれない。人々は彼を利用しつつも、恐れも抱いている。歯向かう者もいれば、心が通じ合うと思われる瞬間もある。このような人々の感情がさりげなく描かれており、これが本作の物語に深みを与えている。そして語られるのは単純な正義の物語ではなく、プレイヤーはさまざまなことを考えさせられることになる。本作で描かれる世界は決して甘くなく、そのような意味で大人のファンタジーである、といえるだろう。

緻密な“異世界の体験”が満喫できる――『ウィッチャー2 』インプレッション_02
▲ゲラルトの前には、さまざまな事情を抱えた人たちが登場する。そこで交わされるさりげない会話の中に、練りこまれた世界観やキャラクター設定を感じることができる。

主人公を中心に進むシナリオ構成

 ストーリーは、基本的に主人公の視点で語られていく。サブクエストも発生するが、メインクエストに比べれば重要度は低い。街中でサブクエストを受けながら、ひたすら探索して楽しむ、というタイプの作品とは少し違う。どちらかといえば最初から一貫して続くストーリーが重視されており、骨太なメインクエストが中心となる。

 プレイヤーの主な行動は、移動や探索、会話、そして戦闘である。会話をするときには選択肢が発生することがあり、これによって展開が変化する。他人からの印象や、重要な人物の生死なども、この会話によって左右される。比較的最初のうちから変化が現われるので注意したい。

 会話選択などによる展開の変化は、ときにシナリオの分岐につながる。それによって、進む道が大きく変わることもあるだろう。その意味では、会話シーンだからといって油断はできない。長い会話テキストをただ垂れ流すだけのゲームとは、ひと味違う緊張感があるといえる。

緻密な“異世界の体験”が満喫できる――『ウィッチャー2 』インプレッション_03
▲会話の選択肢によって、その後の結果やストーリーが変化することがある。アクションシーンが多い本作だが、主人公の意思が表明されるのはむしろ会話シーンだといってもいいだろう。

シナリオとゲーム、どちらを重視して楽しむかを選べる

 装備、魔術、錬金術、成長システムなど、本作はロールプレイングに特有の複雑なシステムを持っている。しかもそれが、リアルタイム性の強いアクションに結びついているのがポイントだ。すべてのシステムを理解し、使いこなすにはそれなりの修練が必要となる。不安な人は、まずチュートリアルを試してみるとよいだろう。多岐にわたるシステムを、ていねいにわかりやすく説明してくれる。

 最初のうちは、これらのシステムをすべて使おうと思わなくてよい。ただし印と呼ばれる魔法は戦闘や探索で必要なので、最低限これだけは利用していこう。戦闘シーンでは、敵の性質、動きを考えながら慎重に戦っていく必要がある。無策で正面から斬りかかるのではダメージをくらいやすい。

 ゲームの難度は低、中、高から選べるが、全体的に難度は高めと思ったほうがいいだろう。アクションが楽しめるのは“中”だが、この難度だと強敵のいる場所ではゲームオーバーになりやすい。そこでストーリーが気になる人には、“低”の難度をオススメしたい。

 「難度を“低”にするのは負けたような気がする」。そんなふうに感じて、難度を下げることに抵抗感があるプレイヤーもいることだろう。だが本作はストーリーが重視されているので、それを追っていくときに何度も同じ場所をプレイするのはあまり得策とはいえない。また本作のアクションは爽快感よりもリアルさ、戦略性が重視されているので、好みが合わない人がいるかもしれない。ストーリーに引き込まれた人、戦闘シーンで悩まされた人は、あまり考えすぎずに難度を“低”にしてもかまわないのではないかと思う。
もちろん、すべての技術を駆使して敵を倒したい人は、難度を“中”以上にしてプレイすればよい。剣に塗るオイルや霊薬、罠を使った戦闘は他の作品ではあまり見られないもの。本格派RPGならではの凝ったシステムをとことん使いこなしてみよう。

緻密な“異世界の体験”が満喫できる――『ウィッチャー2 』インプレッション_04
▲プレイを続けていくと、事件の真相や背景が気になり、どんどん先に進みたくなってくる。そんなときはこだわらずに、難度を“低”にするといいだろう。

ゲームに娯楽以上のものを求めてしまう人に

 本作の特徴は、ストーリーや設定がとてもち密に作られているところである。その結果、モニターを通して別世界をリアルに体験できるところが最大の魅力といえるだろう。このような“異世界の体験”が好きなプレイヤーには、本作は特にオススメである。ただし本作は自由気ままに探索する“体験”ではなく、ウィッチャーという宿命を負ったゲラルトと体験を共有するものだ。プレイヤーは彼の置かれた状況や宿命に、どうしても縛られることになる。

 気ままに探索できるオープンワールドのゲームは、自由度が高く楽しい。しかし骨太なストーリーのある本作はドラマ性が高く、プレイヤーの心に強く訴えかけるものがある。これはプレイヤーが名無しの第三者ではなく、ゲラルトという個人であるということが影響しているはずだ。

 ゲームを単なる娯楽と捉えるだけではなく、プラスアルファを求める人は、本作を試してみるとよい。作り手が本作に込めたいろいろな想いを、受け取ることができるかもしれない。

筆者紹介 石井ぜんじ
おもにファミ通Xbox360誌で攻略、クロスレビューを担当してきた古株ライター。ゲームの文章を書き始めてから20数年、飽きずに続けております。過去に『NINJA GAIDEN』シリーズ攻略本、『シュタインズ・ゲート公式資料集』『科学アドベンチャーシリーズマニアックス』などに参加。これらからも、ファンが喜ぶ本作りを目指していきたいですね。