失敗できない状況になる前に試行錯誤し、質を高める
2012年8月20日~22日にかけてパシフィコ横浜にて開催された、日本最大のコンピュータエンターテインメント開発者向けカンファレンス“CEDEC 2012”。会期中に行われた公演の模様を引き続きお届けする。
ゲーム開発において、プロトタイピングとは、ゲームのアイデアを試作して検証すること。近年は商用ゲームエンジンの売り文句などで、仮素材を使って高速なプロトタイピングができることが挙げられていたりする。マイクロビジョンの西田竜太氏がCEDECの講演“ゲーム作りに役立つ! デジカメ・プロトタイピング”で提案するのは、その名の通り、スマートフォンやデジカメでできてしまうプロトタイピングだ。
西田氏は、専門学校に通っていた際から現在まで、「新しく考えるゲーム、どうしたらいいか?」と悩むという。どうすれば面白いのか? このアイデアは有効なのか? ゲームとして成立するのか? 卒業制作をした当時、パズルゲーム『I.Q』の原案者である佐藤雅彦氏が、ストップモーションで撮ったコマ撮り映像でプロトタイピング映像を作って企画を持ち込んだという話を知った西田氏は、早速自身でもビデオカメラを使ってアイデアを映像にしたのだという。
実際その映像と当時制作されたゲームを並べて見てみると、人形を使って撮ったプロトタイプ映像の段階で、ゲームの核となる魅力が確かに表現できているのがよくわかる。映像段階で確かな感触がつかめ、方針を決定できたのだ。
では、そもそもなぜプロトタイプは必要なのか? 西田氏は、ゲーム開発が初期アイデアの意図通りうまくいくなら不要だと述べる。最初は面白いと思ったけど、作ってみたら面白くなかった、なんてことが往々に起こったりするからこそ、存在意義があるのだ。思いついたアイデアが本当に面白いのか、それとも机上の空論にすぎないのか、仮説の検証・披露のためにこそ必要なのだ。また、ゲームデザイン面などで、リスクを取ってでもチャレンジしようとする時にこそ役立つという。
一方で、「α版とプロトタイピングは違う」とも述べる。α版では、完成に繋がっていく道のりに乗ってしまっている。そうではなく、開発するかしないかわからない程度の仮説の検証や実験をするのがプロトタイプなのである。西田氏は、プロトタイピングでは「失敗を必要以上に恐れないことが重要です」と語り、初期の失敗を恐れるぐらいならば、(何月までにとにかく仕上げなければならないとか)失敗が許されなくなっている状況そのものを恐れるべきだと指摘した。
講演ではサンプル資料として、テーブルゲームの例“ジャンケン・リバーシ”、アクションゲームの例“メデューサと恋人”といったプロトタイプ映像が披露された。撮っているのはスマートフォンや市販のフツーのデジカメで、あとあればいいのは三脚ぐらい(ひとりで撮影と作業を両立できるのがいいとか)。それ以外は“ジャンケン・リバーシ”なら紙で盤面を表現してしまうし、“メデューサと恋人”ならササッとそれっぽい絵を書いて箱に貼り付ければキャラクターの出来上がり。おおざっぱなものなら1日から3日で完成し、カメラ以外の機材費はかかって数千円というリーズナブルさ。
この簡易さがポイントで、作り込んでいないからこそ、微妙だった時の作り直しが気楽にできると西田氏。ちなみに評価は、想定する顧客モデルに近い周囲の人々に映像を見せて意見を聞いてみるのがいいという。
そのほか、簡単な割に動く映像になっているので他人に説明しやすいとか、撮影のためにプレイの流れを再現していくことで、プレイヤーに近い視点から問題を早期に発見できるといったメリットを挙げていた。
逆にデメリットとしては、それでも多少の手間はかかること、ゲーム性のチェックは不完全であることが挙げられたほか、“(公園や会議室で)ひとりで撮影をしていると怪しまれる”という悩ましい問題も。
それはさておき、試行錯誤が完成度を高めるというのが西田氏の考え。ものすごく完成度が高いが誰も欲しくない製品を作っても仕方がない。とにかく試して、よりよい方法を探ることが、質を高める近道なのだ。西田氏が参考として紹介していたトム・ウージェック氏による講演“塔を建て、チームを作る”はオンラインで無料で見られるので、気になった人はチェックしてみるといいかもしれない。
最後に西田氏は結論として、冒頭の「新しく考えるゲーム、どうしたらいいか?」に立ち返る。答えは「失敗できるやり方で 素速く試し続けよう」。試すコストもかけずらいなら、手元のデジカメでも使えばいいのだ。