プレイヤーはゲームをどのように遊んでいるのか?

 2012年8月20日~22日に神奈川県・パシフィコ横浜で、ゲーム開発者向け会議“コンピュータエ ンターテインメントデベロッパーズカンファレンス2012”(CEDEC 2012)が開催された。ここでは、8月22日に同イベントのショートセッションとして、立命館大学 映像学部/ゲーム研究センター客員教授/センター長の上村雅之氏が行った“~プレイデータはプレイヤーから直接取れ!~ ビデオゲームはどのように遊ばれているのか―コントローラーの操作履歴からみえるもの”の内容を紹介しよう。

プレイヤーのコントローラー操作履歴データから見る、最適なゲーム設計とは?【CEDEC 2012】_01
立命館大学
映像学部/ゲーム研究センター客員教授/センター長
上村雅之氏

 任天堂でファミリーコンピュータ(ファミコン)の開発に携わっていた上村氏は、立命館大学上村研究室が独自に開発した“コントローラー操作ログ記録デバイス”のデータを紹介しつつ、ゲームを通じてプレイヤーがどの局面でどのような行動をとるのか、プレイヤーはどのようなプロセスでゲームを習熟し飽きていくのか、もっとも適切な(プレイヤーに集中を促す)ゲーム設計とはどのようなものかの3点について解説した。

 まず、自身が開発したファミコンについて、コンピューター(ファミコン)には入力と出力があり、プレイヤーはゲームの画面を見て、考え、判断しながらコントローラーを操作しており、それに対してコンピューターのプログラムが作動し、つぎの画面を出していると、入力、出力、プレイヤーの関係性を説明。現在のゲーム機の入力は、基本的な仕組みは変わらないが、加速度センサーなどが付くなど進化している。しかし、プレイヤーの入力するという動作は、当時と現在で何も変わっていない。そこで、プレイヤーがどのようにしてゲームを楽しんでいるかを調べるため、“コントローラー操作ログ記録デバイス”を使った研究を始めたと経緯を語った。

 続いて、“コントローラー操作ログ記録デバイス”では、ゲームプレイ画面(ゲームの画面)、コントローラーボタン操作状況確認画面(コントローラーのボタンに対応したランプがリアルタイムで点灯する装置の画面)、コントローラーボタン操作数確認画面(各ボタンが押された回数をカウントした画面)、プレイヤープレイ状況画面(プレイヤーの姿勢や表情を表示した画面)の4つの画面を記録、保存し、そのプレイデータの詳細を解析することができると説明。また、使用したゲームについては、ワールドワイドで多くのユーザーがプレイできるものとして『スーパーマリオブラザーズ』を選んだという。

 では、実際に“コントローラー操作ログ記録デバイス”で何か読み取れたのか? AプレイヤーとBプレイヤーのふたりが、『スーパーマリオブラザーズ』を40分間どのように楽しんだかグラフ化されたものを公開し、分析結果を公開した。

プレイヤーのコントローラー操作履歴データから見る、最適なゲーム設計とは?【CEDEC 2012】_04
分析例 その1

 上の分析例では、ふたりのプレイヤーのミス、ゲームオーバー、キノコやフラワーを取った回数(右上のデータ)に加え、プレイ時間と進んだワールドが表示。Bプレイヤーは、プレイを始めてから15分位までは、ワールド1をうろうろしているが、ワールド1を突破後すぐにワールド2、ワールド3へ進行。逆にAプレイヤーはなかなかワールド1から出られず、ようやくワールド2へ進んだものの、すぐに失敗していることがわかる。上村氏によると、いままで測定したほとんどの人がAタイプであり、「一般のユーザーは入り口の部分でゲームを楽しんでいる」と語った。

 つぎに、皇學館大学 教育学部教授の小孫康平氏博士論文から、『スーパーマリオブラザーズ』における左ボタンと右ボタンの操作回数比率は1対2であることや、各ボタンの平均操作回数の男女比データから、男性よりも女性のほうが静かにボタンを押していることを解説したほか、今回の研究により、特定のボタンを同時に押してしまっている人が多いことが判明したという。これは、危機的状況になると上ボタンとAボタンを同時に押してしまう傾向が強く、「上に行きたいという思いから、Aボタンと上ボタンをいっしょに押している」とコメント。ほかにも、左ボタンと上ボタン、下ボタンと左ボタンの同時押しを行うプレイヤーいるようで、「プレイヤーは、操作したものがきちんと動くという爽快感を楽しんでいると思っていたが、じつはそうではない。やたらにボタンを押してもゲームは進行するので、プレイヤーによって楽しいと感じる部分は異なる」と分析した。

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 最後に上村氏は、これまでの分析結果を以下のようにまとめ、「ゲーム戦術展開に必要な各キャラクターの能力に関する知識が少なかったり、誤操作をしてしまってもプレイヤーが楽しむことができるのが『スーパーマリオブラザーズ』の魅力であると思います。ゲームがプレイヤーにどう遊ばれているかを考慮に入れてゲームデザインすることで、多くのユーザーを抱え込むことが可能です」と、来場者にメッセージを送った。

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