海外市場で勝負がしてみたかった

 2012年8月20日~8月22日の3日間、神奈川県のパシフィコ横浜・会議センターにて、ゲーム開発者の技術交流などを目的とした“CEDEC(コンピュータエンターテインメントデベロッパーズカンファレンス)2012”が開催されている。

コンシューマーの人気クリエイターたちが、“いましかない!”とMobageに転職した理由【CEDEC 2012】_01
▲モデレーター役の松原健二氏。

 開催2日目に、ディー・エヌ・エー(DeNA)により協賛セッション“我々が「今しかない」と思った瞬間”が行われた。何ともキャッチーなタイトルのこちらの講演は、長らくコンシューマーゲームを開発してきたクリエイターが、まさに“いましかない!”と思い立ち、ソーシャルゲーム業界に転身した経緯などを語るというもの。ジンガジャパン 代表取締役社長CEOの松原健二氏をモデレーターに迎え、DeNA ソーシャルゲーム事業本部 第一総括部 マネージング プランナー 馬場保仁氏と同じくDeNA ソーシャルゲーム事業本部 第三統括部 マネージング エンジニア 門脇宏氏の両名が語り合った。なお、念のために説明しておくと、松原健二氏はコーエーテクモゲームスの代表取締役社長を務め、馬場氏はセガにて『プロ野球チームをつくろう!』、『J LEAGUE プロサッカークラブをつくろう!』などの『つくろうシリーズ』のプロデューサーやディレクターなどを担当。門脇氏はコーエーテクモゲームスで『大航海時代 Online』のリードプログラマーや『TROY無双』のディレクターを歴任……と、それぞれコンシューマーゲームの分野で華々しい実績を誇っている。ちなみに、松原氏は2011年3月にジンガジャパンに入社。馬場氏は2012年1月に、門脇氏は2011年12月に、それぞれDeNAに転職している。

コンシューマーの人気クリエイターたちが、“いましかない!”とMobageに転職した理由【CEDEC 2012】_04
コンシューマーの人気クリエイターたちが、“いましかない!”とMobageに転職した理由【CEDEC 2012】_02
▲DeNAの馬場氏(左)と門脇氏(右)

 セッションは、松原氏が用意した設問に対して、馬場、門脇両氏が答えていくというスタイルで実施された。まず、松原氏から出されたのが「(1)なぜ、このタイミングでソーシャルゲーム業界を選んだんですか?」というもの。これに対しては、「海外に向けて、日本のノウハウを活かして戦ってみたかった。日本のゲームが世界で戦える最前線のフロンティアに立ち会っていたかった」(馬場)、「『TROY無双』に取り組んでみて、北米マーケットに挑戦したいという思いがくすぶっていた。いま海外に向けていちばん熱く攻めているのはソーシャルゲームだ、と思い決意した」(門脇)と、いずれも“海外市場への挑戦”が大きなポイントであったと語った。門脇氏に関しては、進路の相談をしたときに、もと上司の松原氏から「楽しいぞ、成長業界は」と言われたことも大きな後押しになったようだ。

 おつぎのお題は「(2)実際に飛び込んで感じた違い、戸惑いって?」というもの。モデレーターを務めた松原氏自身は33歳のときに転職。そのときは不安で、「入社した当初は、人間関係を作れるか不安で、どれくらい時間がかかるかな?とか、成果を出さないと白い目で見られるかも……とか思っていました。それが杞憂だと気づくのに数ヵ月かかりましたね」と、自身の体験を明らかにしつつふたりに問いかけると、図らずもふたりが口にしたのが、ソーシャルゲーム業界の“スピード感”。馬場氏は、1月4日に出社すると、やけに受付に人がいるなと思ったら、それが全員(27人)同期だったと知ってびっくりしたと語りつつ、3日後には中国に飛んでいる同僚もいたとのエピソードを披露した。かくいう馬場氏自身、午後にはチームに参加していたそうで、「とにかくスピード感が違いますね」(馬場)とのことだ。

 さらに門脇氏がスピード感と並んで挙げたのが“透明性”。DeNAには透明性がモットーとしてあるそうで、相当量の情報が共有されるのだという。ふつうの会社だと上位下達の傾向があるのはやむなしといったところだが、DeNAでは毎日すごい量のメールが飛んできて、ありとあらゆる情報が飛び交う。情報が共有されているので、根回しもいらず、意思決定が早い。マネージャーの裁量権も高く、いろいろな速度に対応できるような組織になっているという。

 それに対して松原氏は、「情報遮断をしないのは重要です。大きな企業だと判断が遮断される。情報漏えいの危険性も高まるので、そのへんはバーターですが、DeNAは大きくなっても、いい意味でのベンチャー意識を失っていない」と賛同する。

 さらに社風をうかがわせるエピソードで興味深かったのが、DeNAでは“発言責任”と“全力コミット”が徹底されていること。たとえば、開発で足りないことがあったことに気づいたとして、「これないんだね」と発言すると、「じゃあ、作ってくださいよ」ということになるらしい。気づいた以上は、たとえ自分の担当ではなくてもやらなければならない。「当然仕事が増えることになるわけですが、“最後の砦感”はありますね」と馬場氏。

 さらに馬場氏がソーシャルゲームの開発で驚愕したというのが、DeNAのデータ分析の部隊。「とにかく膨大な数字を分析して、我々の大事な指標となるデータを抽出する。本当にすごいなと思います。私たちとしても“ゲームを楽しいでほしい”と思っているわけですが、データをベースにそれを分析してくれる。データ分析に関しては、“餅は餅屋に任せておこう”ということで、彼らにお願いしています。会社の宝ですね」と賛辞を惜しまない。

 松原氏による最後のお題は「(3)逆によかったこと 喜びを感じることって?」。この設問に対して門脇氏は、「40歳になって初めての転職で心配でした。(ソーシャルゲームは)成長産業で自分が成功できるか、との不安もありました。実際は、いままでやってきたすべてのことがありがたがられるので、ほっとしました。まだ行ける!という自信がつきました。ソーシャルゲームにしてもコンシューマーゲームにしても、基本的に“モノを作る”というところでは、まったく差はなくてマインドはいっしょです。大切なのはプロ根性。プロ意識があれば、どこへ行っても通用するのがわかったのでほっとしました」と語る。

 さらに、馬場氏も「自分のアウトプットが役に立つことがほっとする」と続けた上で、DeNAが研修のためにかかる費用を惜しまないことがすばらしいという。馬場氏もDeNAに入社してからしばらく午前中は研修に参加していたそうだが、研修が行われるのは、新しい人が入社しているので、共通認識を作らなければいけない、との会社の方針から。DeNAにはさまざまな業種からの優秀な人材が溢れており、当然入社したばかりの人も多い。「まさにいま、自分たちでカルチャーを作っているという感覚があり、やり甲斐があるんです」(馬場)とのことだ。

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 質疑応答では“スピードを上げるための取り組み”についての質問が飛び出した。それに対して馬場氏は、「無駄な会議をしないことがいちばん大事」だという。会議はひとつにつき30分~1時間。そして無駄な定例会議をなくして、発言をしない人はつぎに来る必要はない。そして、30分以内で収まるから……とのことで、立ち話でのミーティングが多いという。さらにスピードアップのキモとしては、「意思の疎通を速くすること」(馬場)。そして馬場氏は、「仕事を速く回すコツは、とにかく1日に決める量を多くすること」だとDeNAに入社して気付かされたという。1日に決まることが多いので、明日までにやらないといけないことがタスクとしてたくさん計上される。そうすると、スピーディーに回すようになるというのだ。いずれにせよ、それは“組織”ではなくて“人”の問題だとのことだという。最後にセッションを締める形で、馬場氏と門脇氏は、それぞれ以下の通りコメントしている。

「いまは、“誰が”というよりは、“どんなふうに作っていけるか”というところが大事なフェーズに入っていると思います。私自身がいちばん思っているには、どうすればおもしろいものをわかりやすく伝えるか、ということです。“おもしろい”だけでは売れない、触ってもらえない時代になっているんです。そこはコンシューマーもソーシャルもいっしょです。いかに、お客様にお届けするか、ということを“送り手”の全員がやっていけるかというのが、これから必要とされるメンタリティーだと思います」(馬場)

「技術者としての立場から言うと、コンシューマー系とソーシャルの技術者には壁みたいなものがありますが、どちらの業界にも触れてみた立場からすれば、ゲームクリエイターとして、自己表現する場はどちらもいっしょですし、どちらもやっていることは変わりません。最後は自己実現だし、テクニックの差はあれど、クリエイターとして得られる満足感はいっしょです。プロダクトに上も下もないですし、そういう中では、1個のゲームの違ったジャンルくらいだと思います。あまり垣根を意識しないで、同じ、ゲームを作っている同じクリエイターとして、もし転職を考えている方は、コンソールごりごりの人も選択肢のひとつとして、自信を持ってオススメできる業界ですよ(笑)」(門脇)

 馬場氏にしても門脇氏にしても、まさに“いましかない!”という思いが伝わるセッションだった。