グローバル化とマルチプラットフォーム化の波を生産性をあげて乗り切れ
エピック・ゲームズのCEOでありテクニカルディレクターも務めるティム・スウィーニー氏が“加速する次世代: ティム・スウィーニーが語るゲームの未来”と題する講演を行った。エピック・ゲームズは、『アンリアル』シリーズ、『ギアーズ オブ ウォー』シリーズなどを手掛けたゲーム会社でありながら、商用ゲームエンジンのアンリアルエンジンを開発する関連技術の会社でもある。クリエイティブと技術の最先端を走る同社を率いるスウィーニー氏は、ゲームの未来をどう見ているのか?
エピック・ゲームズでは、5年先、10年先の未来を見ながら、NVIDIAやAppleといったハードウェアメーカーとも密な関係を築き、長期的なロードマップを立てているという。会社のポリシーは“我々が制作するものはすべてエピック(最高)でなければならない”というもの。ハイエンドかつ画期的なゲームプレイ体験を提供するタイトルを世に送り出し、技術の実例でも業界をリードする。そのためにゲームとテクノロジーの両者を手掛けることが必要とされるのだ。
同時開発の例として、スウィーニー氏は初代『ギアーズ オブ ウォー』を挙げた。ゲームとテクノロジーの同時開発を2003年から2006年にかけて行い、カバーシステムを使ったTPS(三人称視点シューティング)という新たなトレンドを生み出す一方、アンリアルエンジン3という現代的な商用ゲームエンジンを築き上げ、会社としてもそれまでのPC向けデベロッパーというイメージから、Xbox 360の主力タイトルを手掛けるコンソール(家庭用ゲーム機)向けデベロッパーとして躍進している。
この同時開発においては、ゲームを実際に開発してみることで、アーティスト職やゲームデザイナーなどの現場からの要望・フィードバックを受けてエンジンやツールを改良し、何が求められているのか、今後何が必要とされるのか、開発の方向を策定していくことができるのがメリットだという。
そして話はアンリアルエンジン4など、最新技術の話へ。技術リサーチを行った上で、どういった技術・表現がPCや次世代コンソールで実現できるのかを検証し、実装したのがいわゆる“サマリタンデモ”だ。これは30人のチームで3ヶ月をかけて制作を行い、サブサーフェイス・スキャッタリング(皮膚下の光の散乱)、光沢のある反射、高度なクロスアニメーション、テッセレーションなどの実証を行なっている。
しかし、グラフィックの質にかなりの改善が見られてそれ自体はすばらしいものの、その分開発コストの上昇がネックとなることが教訓として得られたとスウィーニー氏。2分46秒の映像に30人で3ヶ月かかるというのは、フルゲームの開発を考えると現実的ではない数字だ。このため、生産性を改善するためにツール群の開発への投資強化を決断することになったという。
お次はアンリアルエンジン4のデモ“エレメンタル・デモ”だ。こちらではリアルタイムな反射光や、DirectX 11世代のGPUによるパーティクル(粒子表現)、大規模な屋外地形といった表現を実現しており、DX11世代のGPUの演算機能がビジュアル面の品質のさらなる大きな飛躍をもたらすことが確認できたという。こちらのデモも3ヶ月の制作期間を要したそうだが、それでもアンリアルエンジン4に向けてツールを改善したことで、アーティストやプログラマーの生産性の向上も実現できたとのこと。それでも、次世代におけるハイエンドゲームの予算は将来的に大幅増するだろうと予測する。一方で、ハイエンドからスマートフォンなどへのローエンドへのスケーリングは旧世代より容易になるとの見方を示した。
ここから話は、スウィーニーが期待する技術や次世代への展望に移った。
F2P(フリー・トゥ・プレイ、基本無料)やスマートフォン、オンラインゲームなどにより、ハードウェアやゲームの種類など、選択肢の幅が世界中で急増すると述べた上で、グローバル市場での競争の激化において経済的競争力を保つには、やはり効率的かつ生産的な開発環境が求められるのではないかとの考えを示した。
また、世界的なゲーム業界が、PC&オンラインゲームと、モバイルゲーム、コンソールの3つに集約されると延べ、その上でこれらのプラットフォームはDX9から11世代のグラフィック、マルチコアCPU、オンラインゲーム配信といった共通の要素を持つように収束していくと予測。数年前なら絵空事に聞こえたかもしれないが、特にスマートフォンにおける性能向上や、PCゲームの復権、F2Pモデルがアジアに次いで欧米でも広まりつつある現在では、実にうなずける内容である。
こうした点を踏まえた上でスウィーニー氏は、ゲーム市場が“デフラグメント”されつつあるのではないかと語る。つまり、ビジネスモデルやプラットフォームの単純な数で言えば多様化が進む一方、技術レベルで見ると性能の差こそあれ同じような環境になっていくと見ているのだ。
そして『League of Legends』を例に挙げ、以前と比較すると地域差もなくなってきていると指摘。PCオンラインゲームとコンソール、モバイルゲームとブラウザゲームといったプラットフォームの垣根もなくなってきているとし、マーケットの統合は非常に重要な傾向であると語った。
エピック・ゲームズでは“Epic Everywhere(どこにでもエピックを)”というテーマのもと、一度の開発で対応タイトルすべてにリリース可能にできるようなマルチプラットフォーム対応や、世界的なパートナーシップ締結などにより、3年から5年をかけて、プラットフォームや国を問わずにゲームをリリースしていく体勢を固めている最中とのこと。パートナーシップでは、『ギアーズ オブ ウォー』シリーズのパブリッシャーであるマイクロソフトや、PC用配信プラットフォーム最大手のValveと同列に、中国でのオンラインゲームやコア層向けF2Pタイトルの展開という点において、Tencentの名を挙げていたのが印象的だ。Tencentはエピック・ゲームズの競合会社である独Crytekと、F2PのオンラインFPS『Warface』の配信契約を結んでいる。それぞれの契約内容は異なるが、西洋のトップクラスのゲームエンジン企業2社が、同じ中国のオンラインパブリッシャーと契約書を交わしているというのは、いかにこの市場に期待が寄せられているかの現れでもあるだろう。
また、将来性を感じる革新技術の紹介も行われた。興味深かったのはクラウドゲーミングについて。GaikaiやOnliveのサービス内容から、PCや従来のコンソール向けに開発されたゲームをクラウド処理して動かす図を想定してしまいがちだが、スウィーニー氏は、サマリタンデモクラスの環境をマルチプレイで実行するような例を想定する。
これはまったく正しい話で、(余り規模が大きくなると採算が取れないが)理論的には現行のハイエンドPCでも不可能なクラスのゲームをサービスとして提供することは可能だろう。もちろんこれは未来予測のひとつであり、遅延などの現在ある問題を解消しなくてはならないが(グラフィックがウルトラ綺麗なハードコアゲーマー向けなのに遅延は今のママというのはアンバランスだ)、将来的にクラウドゲームが“ハードコアゲーム環境を揃えられない人向け”ではなく、“常人が揃えられる以上のゲーム環境を求めるウルトラハードコア層向け”のサービスとして機能する可能性だって、ないとはいえないのだ。
最後にスウィーニー氏は、スマートフォンの進化などを引用し、現代的なゲームの開発サイクルを上回る速度でハードの進化が激化していると語り、昨今のゲーム市場はコンソールが核となってきたが、これからはより広汎なものへと業界の形が変わっていくとの展望を示した。
これはすでに部分的に起こっていることだ。エピック・ゲームズがPC畑からコンソールにやってきたように、PCゲームやアーケードで始まったメーカーがコンソールで一時代を築いたものの、いまその収支を見てみるとソーシャルゲームなどが結構な割合を占めているということを現在実際に目にしている。スウィーニー氏の言う「地球上で最も刺激的な業界」が今後どのように変化を遂げていくのか注目だ。