クリエイターがのびのびと働ける環境づくりを目指して

 2012年8月20日~8月22日の3日間、神奈川県のパシフィコ横浜・会議センターにて、ゲーム開発者の技術交流などを目的とした“CEDEC(コンピュータエンターテインメントデベロッパーズカンファレンス)2012”が開催されている。

 開催2日目となる8月21日、音楽ゲームを多数手掛けていることで知られているデベロッパー、イニスの瀧本弥生氏によるセッション“業界初の試み? 4社合同新人研修の内容と今後について”が行われた。

 大学受験予備校でのチューター、IT関連企業での採用業務アシスタントを経て、2008年よりイニスで人事・採用業務を行っている瀧本氏。クリエイターがのびのびと働ける環境づくりを目指し、日々活動しているという。

ゲーム業界で新人を育てるにはどうしたらいい? イニスが行った4社合同研修に見るヒント【CEDEC2012】_01
ゲーム業界で新人を育てるにはどうしたらいい? イニスが行った4社合同研修に見るヒント【CEDEC2012】_02
▲イニス瀧本氏。

 イニスは、2009年に初の新卒採用を行い、3人を採用した(プランナー2人、グラフィックデザイナー1人)。3人とも大卒のため、ゲーム開発経験はゼロ。現場も、未経験の新人を受け入れたことがなかったうえ、当時は社員数が30人ほどで、皆開発にかかりっきりになっており、教育する土壌がなかった。

 そこで瀧本氏は、ほかのゲーム会社ではどのような新人研修を行っているのかをリサーチした。しかし、大手ゲーム会社のような大規模な研修は難しい。同規模の開発会社では、大学を卒業するまでアルバイトとして入ってもらうことがよくあるが、イニスでは、「在学中は学生でしかできないことをしてほしい」と、アルバイトはさせない方針をとっていた。

 そこで瀧本氏は、いくつかのテーマを設定した。“とにかく多くの課題に取り組ませる”、“現場で求められる最低限の知識を身につけさせる(メールの書きかたなど)”、“学生から社会人への意識転換”だ。社会人としての基本を教えるテキストは、瀧本氏が自作したという。

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▲2009年に行った新人研修のスケジュール。

 このイニス初の新人研修により、新入社員は、社内に早く溶け込め、かつ社会の厳しさを体験できた。しかし現場の負担が大きかった、系統立てずに課題を行わせたため、「こなしただけ」になってしまった、などの反省点もあった。

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▲昨年の反省を踏まえて行われた2010年のカリキュラム。

 上記の反省点を踏まえ、2010年(5人を採用)には、1ヵ月の外部研修を組み込んだ。これに加えてOJT(※On the Job Training。新人に、現場で実務を行わせながら、上司・先輩がスキルを教えるというもの)を行ったところ、成果が昨年より上がり、かつ学生から社会人への意識変化が速く訪れたという。

■実践型人材養成システム

 ここで、イニスが利用している“実践型人材養成システム”の紹介が行われた。新人研修の費用で悩んでいるゲーム会社の方は、利用してみてはいかがだろうか。認可を受けられるということは、新人研修をしっかり行っていることのアピールにもなる。

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▲イニスが提出した“実践型人材養成システム”申請書の一部。
▲申請から支給までの流れ。

■4社合同研修の実現

 中小のゲーム会社が新卒として採用するのは、年によって違うものの、多くて10人。1人ということももちろんある。相談したり、刺激を与え合ったりする同期が少なく、悩んでしまう新人も少なくない。また、研修をする側も、人手・お金不足で悩むことが多い。

 それならば、複数の会社で研修を実施すれば、問題が解決されるのでは? そうして2011年に行われたのが、イニス、トイロジック、ヘキサドライブ、ランド・ホー4社による合同研修だ。実施期間は2011年4月4日~5月9日で、参加人数は12人(プランナー3人、プログラマー6人、グラフィッカー3人)。都内の貸会議室にて行われた。

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 4月前半に実施したのは、ビジネス系の研修。ビジネスの疑似体験をして社会人への意識転換を図ったり、ビジネスのコミュニケーションを学び、仕事を進めるうえでのテンプレートを身につけさせたりした。

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 4月後半から実施したのはゲーム開発系の研修。ゲーム開発で使用されるツールの基礎を教えた。また、職種間の相互理解を深め、ゲーム開発のプロジェクトをスムーズに進めるスキルを身につけさせる意図もあった。

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▲プランニング研修では、会社も職種もバラバラにしてチーム分けし、企画書を作ってプレゼンしあった。

 この1ヵ月の研修についてアンケートをとったところ、参加した新人たちは、ゲーム業界の仲間ができた、社会人としての意識が身についた、と肯定的な意見を述べた。期間については、「長すぎる」という意見もあり、瀧本氏も「ゲーム開発研修については、内容を絞って短くしてもよかった」とコメントしている。

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 瀧本氏は、今後について、“合同で実施する強み”をもっと生かしていきたいと語る。今回は、実践型人材養成システム申請までの時間がないということもあり、イニスが行ってきたカリキュラムをベースにしたが、今後は各社と情報共有を進め、より充実した内容にしたいという。また、この研修をきっかけに、技術・人材交流をもっと発展させたい、と考えているとのことだ。

 人材を育てることの大切さは、どの企業においても変わらないもの。質疑応答の時間では、さまざまなゲーム会社からの参加者が活発に発言しており、各社が新人教育について試行錯誤していることが伺えた。イニスが行った合同研修のように、今後は、“技術”だけでなく、“教育”に関する企業の交流も増えていくかもしれない。

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