いかにしてMTフレームワークは広まってきたのか?
2012年8月20日、神奈川県横浜市のパシフィコ横浜で、ゲーム開発者向け会議“コンピュータエンターテインメントデベロッパーズカンファレンス2012”(CEDEC 2012)が開幕した。
商用ゲームエンジンの採用の広がりなどにより、ゲームエンジンやミドルウェアのメリットを聞くことが増えてきた。いわく、毎回ゼロから作らなくていいからゲームの面白さの追求に専念できるとか、同じ環境を使うことでスタッフがイチから使い方を習得しなくていいとかいったメリットをしばしば聞く。
カプコンの“MTフレームワーク”は、内製の共通開発フレームワークとして開発され、『ロストプラネット』や『デッドライジング』で導入されて以降、さまざまなタイトルで使われるようになってきた。会社が主導して内部で作っている共有開発環境ということならば、そういったメリットを武器にすんなり広まったんじゃないかと思える。しかし、そこにはさまざまな障害があったという。カプコンでテクニカルディレクターを務める大井勇樹氏による講演“あなたのゲームエンジンをもっと多くの人に使っていただくために”をご紹介する。
大井氏によると、導入初期には、「共通のエンジンを使っていては、一番大事なゲームの個性が失われてしまうんじゃないか?」(タイトルの開発側)、「プラットフォーム間で共通化してしまっては、各プラットフォームごとの強みを活かせないんじゃないか?」(プログラマー)、「各タイトルに合わせて一番慣れた方法で開発した方がコストが安くあがるんじゃないか?」(上層部)といった意見があったという。
それだけでなく利用時の問題として、どこかのタイトルのために入れた機能で他のタイトルに悪影響を与えてしまうとか、良かれと思って入れた機能のメリットよりもニーズを見誤ったことでデメリットが上回ってしまうとかいった環境の提供側由来の問題や、タイトル開発側が環境を大幅に改変してしまってバグの責任の所在が曖昧になるとか、誤った使い方をされてしまうといった利用側由来の問題も発生したという。そもそも複数のプロジェクトを俯瞰して全体の最適化を目指すエンジン側と、眼前のプロジェクトに最適なものを目指すタイトル側では、基本的な考え方も対立している、と大井氏。
しかし、エンジンは使う人があってこそのもの。そういった壁を乗り越えるための取り組みとして、否定的意見に対しては安心感を与えるよう説得するとか、起きた問題に対して軽減策・回避策を速やかに実行するとか、回避できないデメリットはある程度受け入れた上でメリットを増やすとかいったことにより、「最終的に使った方がいいと判断してもらえればいいじゃないのか」という考えに至ったそう。先ほどの意見については、それぞれ「エンジン部分を独自開発するための手間を、そのまま個性を伸ばす方向に割くことで、十分ゲームの個性を出せる」(前述のタイトルの開発側の意見に対して)、「移植の手間が軽減されることで、プラットフォームの独自対応にも時間を割ける」(同・プログラマーの意見に対して)、「2タイトル目からはほぼゼロコストで作業が始められるので長い目で見ればコストは低い」(同・上層部の意見に対して)といった答えを例示していた。
そして、「開発環境共通化とは「サービス」と見つけたり」と極意を明かし、“1.タイトル開発側からの意見や要望を共有する場を設ける”、“2.タイトル開発側とエンジン開発側の橋渡し役としてテクニカルディレクターを配置する”、“3.先を見据えた技術トレンドの研究を怠らず、タイトル開発側に提案も行なっていく”といった“サービス”としての施策を紹介。また、互いの担当領域と責任の所在を明確にしておくこと、エンジンの利用開始はスタートラインに過ぎず、要望対応や不具合修正を地道に行って積み重ねていくことで初めて利用者が拡大すること、お互いを理解し双方で協力体制を構築するのが不可欠であるといった“教訓”も披露した。
開発環境の共通化は社内向けの“サービス”であるとして、利用側とコミュニケーションを密に取り、リスクとデメリットに対抗できるサービスとメリットを用意した上で、柔軟な視野と明確な方針をもって提供していくべきであるとまとめ、講演をしめくくった。