多士済々な“大喜利メンバー”たちの回答とは?

 2012年8月20日~22日、パシフィコ横浜にて開催されている、日本最大のコンピュータエンターテインメント開発者向けカンファレンス“CEDEC2012”。初日の2012年8月20日に行われた、“バンダイナムコ S3D 大喜利”と題したセッションをリポートしよう。

 このセッション、お題目を見ただけだと、“バンダイナムコ S3D 大喜利”と、まるでバンダイナムコゲームスの新作タイトルか、はたまた“飛び出る大喜利”的なハチャメチャなセッションか!? ……などと思ってしまいそうだが、CEDECでそんなセッションが行われることなど、もちろんあるわけがない。
 実際は、S3D、つまり3D立体視(Stereo 3D)を用いたバンダイナムコゲームスのヒットタイトルを手がけたトップクリエイターたちが集まり、3D立体視を使ったゲーム制作におけるノウハウを、大喜利形式で披露してくれる、というものだ。
 “大喜利”のルールは、出されたお題に対して、各自が挙手をして回答。ただし回答の制限時間は1分30秒とし、時間を過ぎるとタイムキーパーに銃で撃たれてしまう。もちろん銃と言ってもおもちゃの銃で、撃つ振りをするだけ、なのだが、“撃たれた”人は、大勢の聴衆が見ている前で、それなりのリアクションを取らなければならない、という過酷な(?)キマリが……。
 以上のように、大喜利形式ということで、全体にユーモラスな雰囲気の中で進行されたものの、非常に具体的な回答が多数飛び出し、3D立体視ゲームを制作しているクリエイターにとっては極めて有用なセッションとなった。

 司会進行を務めたのは、バンダイナムコスタジオ 第1開発本部P&S部門 技術部 開発サポート1課エンジニアの石井源久氏。そしてタイムキーパーを、同課のエンジニア、豊田耕志氏が務めた。両氏が所属する開発サポート1課は、立体視に限らず、AR、カメラ入力、モーションセンサーなど、ちょっと変わった入出力技術をとりまとめる部署なのだそうだ。石井氏は、回答者たちにお題を出しつつ、回答に対して、自身の経験や知識をもとにした補足や解説を加えて、3D立体視ゲーム制作のツボを、わかりやすく説明していった。

“バンダイナムコ S3D 大喜利”精鋭クリエイターが3D立体視ゲーム制作のツボをユーモラスに披露【CEDEC 2012】_01
▲石井源久氏(写真左)、豊田耕志氏(写真右)

 対する回答者は、ニンテンドー3DS用ソフト『エースコンバット3D クロスランブル』でアートディレクターを務めた和田太一氏、『鉄拳タッグトーナメント2』でリードプログラマーを務める堂前嘉樹氏、アーケードゲーム『ダークエスケープ3D』でゲームデザイナーを務めた木水克典氏、アーケードゲーム『デッドストームパイレーツ3D』でリードプログラマーを務めた湊和久氏、の以上4名。それぞれが、自身が開発したタイトルについて紹介をした後、いよいよ本題に入った。

“バンダイナムコ S3D 大喜利”精鋭クリエイターが3D立体視ゲーム制作のツボをユーモラスに披露【CEDEC 2012】_09
“バンダイナムコ S3D 大喜利”精鋭クリエイターが3D立体視ゲーム制作のツボをユーモラスに披露【CEDEC 2012】_07
“バンダイナムコ S3D 大喜利”精鋭クリエイターが3D立体視ゲーム制作のツボをユーモラスに披露【CEDEC 2012】_05
“バンダイナムコ S3D 大喜利”精鋭クリエイターが3D立体視ゲーム制作のツボをユーモラスに披露【CEDEC 2012】_03
▲和田太一氏
▲堂前嘉樹氏
▲木水克典氏
▲湊和久氏

 なお、記事を読み進めるうえで、各クリエイターの作品について知っておくと、より理解が深まるはずだ。有名なヒットタイトルばかりではあるが、万一よくわからないタイトルがある場合、ぜひ各タイトルの公式サイトで、概要を把握しておいてほしい。

◆『エースコンバット3D クロスランブル』→【コチラ
◆『鉄拳タッグトーナメント2』(家庭用)→【コチラ
◆『ダークエスケープ3D』→【コチラ
◆『デッドストームパイレーツ』→【コチラ
※『デッドストームパイレーツ3D』は、期間限定実施であったため、現在はページが公開されていない。このリンクは、参考までに立体視でないバージョンである『デッドストームパイレーツ』へのものとしているので注意してほしい。

“バンダイナムコ S3D 大喜利”精鋭クリエイターが3D立体視ゲーム制作のツボをユーモラスに披露【CEDEC 2012】_02
▲冒頭では、PVを上映しながらタイトル紹介が行われた。PVも、各公式サイトでチェックしてほしい。

小さくても苦労、大きくても苦労!?

 まず最初のお題は、“画面サイズ”について。今回登壇した4人の開発したタイトルは、以下のようにモニターのサイズが大きく異なる。

■『エースコンバット3D クロスランブル』 3.53インチ(従来型ニンテンドー3DSの場合)
■『鉄拳タッグトーナメント2』 20~50インチ程度(PS3/Xbox 360用タイトルのため、使用者の環境により異なる)
■『ダークエスケープ3D』 47インチ
■『デッドストームパイレーツ3D』 150インチ

“バンダイナムコ S3D 大喜利”精鋭クリエイターが3D立体視ゲーム制作のツボをユーモラスに披露【CEDEC 2012】_04

 画面の大きさは、3D立体視の効果を左右する大きな要素のひとつだが、決められた仕様に従ってゲームを制作するのが開発者の使命だ。というわけで、「画面サイズに応じて立体視ゲームを作った際の苦労話は?」というのが最初のお題となった。

 これに対する、湊氏の回答は思いもよらないもの。湊氏の開発した『デッドストームパイレーツ3D』は、当初から150インチのモニターを採用することが決まっていたため、その点での苦労はなかったそうだが、苦労したのは「筐体の大きさです」(湊氏)。繊細な調整が要求される立体視ゲームなだけに、頻繁なテストと修正は必須。しかし、試験用の筐体を社内に常駐しておくスペースがないため、「作ってはバラし、を繰り返しましたが、最終的に社外のある場所に常駐させました。おかげで、テストのためにクルマで通うハメになりましたが……(苦笑)」(湊氏)とのことだった。
 一方、『鉄拳タッグトーナメント2』の堂前氏には、家庭用ゲームとあって、使用者の環境がまちまちになることは避けられないという事情が。テレビサイズはもちろん、立体視についても、アクティブシャッター方式、偏光式、最近ではヘッドマウントディスプレイなどもあり、いろいろ確認をする必要があった点に苦労したという。ただし、立体視でもっとも問題となる“クロストーク”、つまり映像がぶれて2重に見える現象については、もとより対応しきれないとして諦めるという判断もしたそうだ。むしろ苦労話としては、「開発チームで、3Dテレビが僕のところにしかなかったのですが、メガネをつけて作業をしてると、まわりから冷やかされるのがつらかったです(笑)」と意外なエピソードを披露し、聴衆の笑いを誘っていた。
 そして和田氏の『エースコンバット3D クロスランブル』は、ニンテンドー3DS専用ソフトだ。やはり据え置き機やアーケードゲームに比べれば画面は小さく、解像度もそれほど高くないという事情がある一方で、『エースコンバット』は、非常に情報量が多く、画面に表示するオブジェクトが多いタイトルでもある。そこで、「下画面があるので、必要なものだけを上に、それ以外は下に、と徹底的に整理しました」(和田氏)のだそうだ。ちなみに和田氏は、「ニンテンドー3DS LLでプレイすると、すごく迫力が増しますので、ぜひ試してみてください」ともアピールしていた。

立体視の基本“視差0面”設定にもヒミツアリ!

 続いてのお題は、“視差0面の位置”について。視差0面とは、画面から飛び出しても引っ込んでもいない、いわば基準となる面のことだ。石井氏によると、ゲームの空間の中でどこを0面とするかには、いろいろなテクニックがあるそうで、「おもな被写体のところに合わせるのが普通ですが、そうすると飛び出すものが多くなりすぎるという問題も出てきます」(石井氏)と、調整の難しさを説明する。ちなみに2011年にリリースされたアーケードゲーム『マキシマムヒート』(【コチラ】を参照)の場合、通常は自車のナンバープレートのあたりに視差0面を置き、“3Dボタン”を押して”3DMAX”モードにすると、視差0面が奥に移動する、という仕掛けを作ったのだという。視差0面が奥に移動すれば、当然、それより手間にある世界が飛び出してくるように感じられ、迫力が大きく増すわけだ。

 このお題に最初に回答したのは、木水氏だ。木水氏が制作した『ダークエスケープ3D』はアーケードゲームで、筐体の特性上、現実でのプレイヤーからモニターまでの距離を、ゲーム内での被写体との距離と一致させることができる。そこで、あえて視差0面を固定することで、「本当にそこにある、そこにいるような、リアルなサイズ感で表現することができました」(木水氏)と語った。
 続いて堂前氏は、「『鉄拳』は格闘ゲームなので、構図は横から見た感じになることが多いんです」(堂前氏)と前提を解説したうえで、視差0面は、向かい合ったお互いのキャラクターの腰あたりに設定したのだと説明した。これにより、「腕や羽などが飛び出してくる感じになります」(堂前氏)という効果が得られるのだそうだ。ちなみにキャラクターのカスタマイズモードでも、同様に腰あたりに視差0面を設定し、体が飛び出してくる感じを演出しているそうだが、このあたりはモードごとに、視差0面を工夫して変えているのだという。
 和田氏は、やはり戦闘機の後部に視差0面を設定していると説明。これは、見やすさとともに、「雲や爆炎を突っ切ったときに、飛び出して見えるようにするためでもあります」(和田氏)と、『エースコンバット』ならではの爽快感を際立たせるための配慮もされていることを説明した。
 『デッドストームパイレーツ3D』の湊氏は、個人的な考えとしつつ、「お客さんには飛び出しを求められがちですが、私は奥行きが重要だと思っています」と語る。そのため、奥行きを重視した設定にしてあるそうだが、同時に、「岩が迫ってくるときなどは、視差0面を少し奥にずらすなどの処理もしています」(湊氏)と、細かい工夫も加えていることを明かしてくれた。

“バンダイナムコ S3D 大喜利”精鋭クリエイターが3D立体視ゲーム制作のツボをユーモラスに披露【CEDEC 2012】_06
▲ここでちょっと宣伝、ということで、堂前氏の著書『ゲームを動かす技術と思考(仮)』が2012年9月に発売されることがアピールされた。プログラマーに限らず、広くゲームクリエイターにとって役立つ内容になっているとのこと。

3D立体視の弱点とその克服方法とは?

 つぎのお題は、“見やすい範囲を超えるときの対応”。石井氏によると、現在の立体視の技術では、強く飛び出したり、引っ込んだりしている部分や、画面のふちにかかる部分の対応は難しいのだという。これについても、前述の『マキシマムヒート』を例として説明がなされた。このゲームでは、クルマがはね飛ばした破片が手前に向かって飛んでくるときに、そのまま描画すると、人によっては見づらく、やや目にキツく感じられる場合も考えられるため、飛んでくるオブジェクトにモーションブラーをかけることで、少しでも目にやさしくなるように調整しているのだそうだ。

 和田氏の工夫は、ニンテンドー3DS専用ゲームらしいユニークなもの。画面の端のほうはチラチラして見づらくなるため、そこにHUD表示は置かないようにする。そのために、なんと3Dボリュームの量に合わせて、左右のHUD表示が内側に寄っていくようになっているのだそうだ。これにより、プレイヤーは、立体視の使用状況に合った最適な状態でプレイができるようになるというわけだ。
 木水氏の『ダークエスケープ3D』の場合、クリーチャーが画面に向かって迫ってくる際に、画面のフチにかかってしまう状況が起こりうる。そこで、フチを黒くぼかしておくことにしたのだそうだ。この手法は、筐体の色が黒であったため、画面フチが自然に回りに溶け込んでいくような状態になったこともあり、高い効果を発揮できたのだという。さらにもうひとつ、ゲーム制作の過程で、モニターと同じ大きさの“枠”を作り、それに従ってアクターに演技をしてもらい、それをモーションキャプチャーすることで、フチにはみ出ることを防ぐ工夫もなされていたのだそうだ。

クリエイターの工夫が問われる“UI”処理

 続いては、“UIの表示”について。HUDなどの2Dオブジェクトの処理は、立体視ゲームの制作において、非常に難しい問題なのだそうだ。石井氏は、画面の中に出ている物体に対して、文字やパラメータなどの情報を吹き出しや看板のような2Dオブジェクトによって付加したい場合、原則として、「オブジェクトとHUDが離れていると見づらくなってしまいます」(石井氏)という。しかし、たとえば画面の最奥にある物体のそばに2Dオブジェクトを配置した場合、手前にほかの物体が出てきたときに、せっかく配置した2Dオブジェクトが隠れてしまうことになる。その解決方法として、またしても例に挙げられたのが『マキシマムヒート』。レースゲームならではの必須情報として、カーブの手前に“曲がれ”の看板を配置する必要があるが、このとき少し上に配置すると、クルマは地面を走っているもの、つまり画面下方に表示されるものだから、重ならずにすむというわけだ。

 まず『エースコンバット』の和田氏は、前述のように、「もともと大量の計器が表示されるゲームなので、HUD類を総ざらい、下画面に引っ越した作りにしてあります」(和田氏)ということを前提にしつつ、セリフはある程度ボイスにまかせて、字幕は下画面のギリギリ目に入る位置に表示するようにする、上画面の“コンテナ”(攻撃対象などを示すカーソル)の表示は、拡大縮小して、距離感に合わせる工夫もしたそうだ。
 木水氏の『ダークエスケープ3D』も、ライフバー、心電図、スコア、字幕、クレジットなど表示する情報量は多いが、「地味なことを積み重ねて、とにかく画面の真ん中を開けました」(木水氏)と説明。目立たなくていいものは半透明にする。字幕、クレジットなど真ん中に出さざるを得ないものは、黒いぼかしをつけて、オブジェクトがかかったときの違和感を軽減する。字幕はほかのオブジェクトにかぶらないように演出を構成したが、どうしてもかぶるときは、字幕を少し手前に持ってくる。……などなど、細かい工夫の積み重ねで、矛盾を解消していったそうだ。
 湊氏は、ほとんどHUD類がないという『デッドストームパイレーツ3D』の特殊性により、苦労は少なかったと言うが、画面に唯一残った2Dオブジェクト、“ガンサイト”の処理には工夫したという。ガンサイトをオブジェクトに合わせた際に、視差矛盾を起こさないよう、ターゲットしているものより少し手前にガンサイトを瞬時にワープさせる。そしてターゲットが外れたときは、ガンサイトがゆっくり奥に戻っていくようにする、という処理を施しているのだそうだ。

こんな立体視ゲーム、遊んでみたい! ただし「発言内容は(以下略

 最後に、それぞれが言い残したこと、今後の抱負について語ってくれたので、まとめてお伝えしよう。なお「発言内容は、今後の製品計画とは無関係です」(石井氏)とのことなので、その点はご注意のほどを。

 和田氏は、「とにかく、飛行機をちゃんと飛ばすだけでも面倒なことが多かったです」としつつも、見やすく、目に負担をかけないことを重視して制作を進めた結果、「うまくやれば、立体視はすごく気持ちがいいんですよね」との結論に至ったと話し、「つぎは大きな画面でもやってみたいですね」」(和田氏)との意欲も語ってくれた。

 堂前氏は、「『鉄拳タッグトーナメント2』は、3Dありきという商品ではなく、いってしまえば立体視はおまけみたいな感じなのですが(笑)」(堂前氏)と冗談を飛ばしつつ、プログラマーらしく、今後の技術的な目標として、「ふつうに作っていて、気がついたら、立体視にもなんとなく対応できてた……というシステムを作れたらと思っています」(堂前氏)とのこと。また、『鉄拳タッグトーナメント2』では、「立体視表示時の60fps描画は実現できませんでしたが、つぎの機会にはぜひ実現したいです」(堂前氏)とも語っていた。

 木水氏は、立体視の迫力はかなりのものだとしつつ、「でも、枠が邪魔くさいんですよね」(木水氏)と話す。今後の製品としては、画面の枠がなく、足下から壁まで地続きのモニターを使ったゲームを作りたいとの願望を語ってくれた。また、クロストークなどのデリケートな調整にソフト側で対応できるシステムも作りたいと考えているとのことだった。

 湊氏は、「『ダンシングアイ』を立体視で作りたい」(湊氏)というユニークな願望を披露。縦型モニターのボトル型の大きな筐体で、中に人が入っているようなビジュアル表現を考えているそうで、確かに実現したら、大興奮のプレイが楽しめそうだ!?

 最後に石井氏からは、近年、プリレンダリングの映画でも、旧来の24fpsではなく、60fpsに移行しようとする動きが起こっていることを紹介しつつ、「そういったものについては、ぜひ映画館に足を運んで観てみたいですね」(石井氏)と、さらなる進歩への意欲が語られた。
 ちなみに石井氏からは、木水氏、湊氏が語った願望に関連して、先日開催された“テイルズ オブ 夏祭り”にて披露された、地面から壁につながった実寸大立体視映像についても紹介された。【コチラ】で紹介しているので、チェックしてみてほしい。

“バンダイナムコ S3D 大喜利”精鋭クリエイターが3D立体視ゲーム制作のツボをユーモラスに披露【CEDEC 2012】_08

 以上で本セッションは終了となった。ニンテンドー3DSの急速な普及もあり、ゲームファンに取ってみれば、いまや3D立体視は目新しいものではなくなっている。立体視を活かすことが当然のように求められる時代にあって、それに十分に応えることは、百戦錬磨のゲーム開発者たちにとっても、簡単なことではないだろう。まずは、今回の“大喜利メンバー”たちのように、高い技術と豊富な経験を持つクリエイターたちが、立体視の威力を存分に発揮したタイトルをどんどんリリースし、立体視の世界をさらに広げ、活気あるものにしてくれることを期待したい。