三池監督&巧氏が映画の制作秘話や次回作の構想を語る!!

映画『逆転裁判』三池崇史監督&ゲーム『逆転裁判』巧 舟ディレクター・夢の対談が実現!_01
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 人気法廷推理アドベンチャーを豪華キャストで映像化し、話題となった映画『逆転裁判』が、2012年8月22日にBlu-ray&DVDで登場する。映画本編のほかに、特典DVDやブックレットなども同梱される豪華な内容となっているこのソフトだが、監督を務めた三池崇史氏と、ゲーム版監督である巧 舟氏によるオーディオ・コメンタリーが収録されているのも大きな魅力だ。
 今回は、オーディオ・コメンタリーの収録を終えた直後の三池監督、巧氏のおふたりに、お話を伺うことができたので、その内容をお伝えしよう。映画版制作の始まりから、オーディオ・コメンタリーの聞きどころ、さらにはおふたりの今後の活動まで、映画ファンもゲームファンも、必見のインタビューとなっている。

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 なお映画『逆転裁判』Blu-ray&DVDの詳細は、【コチラ】で紹介しているので、ぜひチェックしてほしい。

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◆三池崇史(みいけ たかし、写真左) 1991年にVシネマ『突風!ミニパト隊』で監督デビューして以来、映画、Vシネマ、テレビドラマなどで、多数の作品を手掛けてきた、日本を代表する映画監督のひとり。最新作『悪の教典』が2012年11月10日より東宝系で公開予定。

◆巧 舟(たくみ しゅう、写真右) 1994年にカプコン入社。ディレクターとして、『逆転裁判』シリーズや『ゴースト トリック』など、多数のヒット作を手掛ける。

こだわり抜いたキャラクタ-、世界観の再現

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――まずは映画化のお話しを受けて、おふたりそれぞれどのように思いましたか?

巧 舟氏(以下、) じつは映画化以前に、宝塚歌劇団による舞台化というのがあったので、衝撃度ではそれには敵いませんでした(笑)。それはともかく、やはり『逆転裁判』は、ゲームならではの映像表現をしている作品なので、それが映画になったときに、ふつうのサスペンスドラマになってしまわないかという不安はありましたね。ですが、監督を三池さんがやってくれると聞いたときに、「なるほど、それなら大丈夫だろう」とすぐに安心できました。

三池崇史氏(以下、三池) 僕は話を受けたときに、これは大変な仕事だなと思いました。まずシリーズの『1』~『3』を遊んだのですが、ゲームの中で世界観が見事に完成しているじゃないですか。さらにゲームには、プレイヤーが自分でボタンを押して進めていくという、映画にはない直接的な感触もある。これを映画化というのは、ある意味無謀なことだと思いましたね。ゲーム版のファンをガッカリさせてはいけないし、何よりも巧さんを始めとするゲーム版の制作者に、「映画になんかしなければよかった」と思われないようにしなくてはいけない。その上で、自分たちが作りたいものを作っていくというのは、ハードルが高かったですね。

――ゲーム版の制作者がいちばんの観客だった、というわけですね。

三池 実際に遊んだり、いろいろお話を聞いていると、ゲーム版をすごく愛情を持って、しかもかなり苦しんで作っているというのがわかるんですよ。ゲームとしていろんな方向に持って行ける題材を、あえてこの形で作ったんだという葛藤と試行錯誤が、伝わってきました。そのそぎ落としっぷりというか、たたずまいの潔さというのも『逆転裁判』の美学だと思うんです。すごく手強い題材でしたね。

――映画の制作前には、入念なミーティングをされたのでしょうか?

 じつはほとんどなくて、実際に僕が三池さんにお会いしたのは、本当に最初のころの1回ぐらいでした。こちらからあれこれ希望を出す気は、最初からなかったんです。お会いすると三池監督は、ゲーム版をしっかり遊んでいてくれていましたし、キャラクターに関しても、独自にしっかり理解されていて、これが映画のプロなんだと圧倒されました。やはりせっかく三池監督というクリエイターのフィルターを通して、『逆転裁判』を作ってもらえるわけですから、自由に作ってもらわないと作品にならないし、意味がないと思ったんですよ。そのスタンスはほかのメディア、たとえば宝塚のときもそうでした。だから注文はしませんでしたね。

三池 宝塚版のスタッフも同じだったと思うのですが、ゲームを遊んでファンになると、注文されるまでもなく、変えようのない部分、変えたくない部分というのが出てくるんですよ。大事にしないといけないものが見えてくるんです。

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――三池監督は『逆転裁判』の大事な部分はどこだとお考えですか?

三池 やはり、まずはキャラクターですね。キャラクターが、“物語を語るための道具”になっていなくて、ちゃんと生きているところです。これは映画、とくにハリウッド映画ではよくあることですが、“主役のためにほかの役が存在する”という作品がすごく多いんですよ。これってじつは、すごくゾッとする構図で、暴力的だといっていいぐらいだと思います。作品に出てくるキャラクターが生きているからこそ、犯罪などの悲劇が起きるわけですから、彼らを道具にしてはいけないんです。映画でもそこを大事にして、役者たちにそのキャラクターはこういう人物で、だからこういうセリフを言うんだというのを、納得してもらうようにしました。そういう環境、状況を作るというのが監督の仕事ですね。

――キャラクターも含めて完成した映像を見て、巧さんはどのように感じましたか。

 最初は完全に観客の立場から観るつもりだったのですが、観ているとどうしてもお客さんがどういった観かたをするだろうかという、どちらかというと制作者側の気持ちになってしまいましたね。この論理展開の速さにお客さんがついてこれるだろうかとか、ハラハラしながら(笑)。それでも、やはりゲームでしかできないと思っていた世界が実写になり、「こういう解釈がされているんだ!」というのは、ひとりの観客として引き込まれました。最初に観たのは仮編集のもので、音楽もCGもない状態だったのですが、それでも飽きずに一気に最後まで観られたのは、それこそキャラクターが生きていたからでしょうね。これはおもしろい作品になるなと確信しました。完成したものを観たときは、ビジュアル面での再現度にも驚きました。それと、これはゲーム版制作側としての個人的な感想ですが、ゲーム版のロゴがバシーンと出るところは、本当にグッと来ましたね。

――やはりビジュアルの再現には、かなり注力されたのでしょうか。

三池 キャラクターと同じぐらい、そこは大事な部分、使命みたいに感じていました。キャラクターの外観もですが、法廷のビジュアルをどうするかというのが、最初の重要な課題でした。法廷を映像化するにあたり、たとえばもっと近代的な設備にするという選択肢もあったんです。証拠品の提示にホログラムを使ったりしているので、そのほうが合ったかもしれません。だけど、ゲームを遊んでイメージする法廷とは違うんですよ。やはり木目調があって、それなりに歴史があって、昔から多くの人を裁いてきた神聖な場所であるべきだと思うんです。それらのイメージを大事にしつつ、そこにどのような映画的表現を組み込めるのかがポイントになりました。

 ナルホドくんの再現度もですが、法廷での証拠品の表現には驚きましたね。ゲームのシステムをこういうふうに解釈したのかと。

三池 本編では使っていませんが、あれらの証拠品のデータを、裁判開始前にデータを入力するといったカットもあるにはあるんですよ。机を叩いたり指をパチンとやるのも、それぞれのデータを呼び出すための動作なんです。ただ、これらの設定は僕らが映画を作るプロセスで必要な説明であって、実際に撮ってみると本編で使う必要はなくなるんです。だけど決して無駄ではなくて、こういった積み重ねが映画全体の構造を強くしていくんですよ。

 オーディオ・コメンタリーでも少し話題になったのですが、そのシーンも含めて、けっこう僕は、カットされたシーンで観たいものがたくさんあるんですよ。だけどお話しを聞いていると、なるほどなと思います。

三池 以前ほかの映画で、おじいちゃんと孫がある会話を経て、少しわかり合えるという場面を撮ったのですが、実際に編集してつないでみたら、会話のシーンがいらなくなったことがあるんです。というのもそのシーンを撮ったことで、役者としてのふたりの関係性も変化して、明らかにそれ以前と以後で異なる空気になったんです。結果的に会話のシーンが余計になってしまったけど、それを撮ったからできた空気なんです。

 それはゲーム制作ではありえない、生身の役者を使っている映画ならではの作りかたですね。おもしろいし、少しうらやましくもありますね。

特典オーディオ・コメンタリーで語られる内容とは?

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――そんな裏話も満載で、オーディオ・コメンタリーは聞き応えがありそうですね。

三池 オーディオ・コメンタリーは何度かやったことあるのですが、たいてい地獄のような時間でして(笑)。何かを言わなくちゃいけないような空気になると最悪なんです。明らかに不自然な雰囲気になってしまう。今回は巧さんのおかげで緊張せず、楽しい時間を過ごせました。お酒がないのが残念なぐらいに(笑)。制作者だけが味わえる、数少ない特別で贅沢な時間でしたね。話している内容は、必ずしもそのシーンに沿っているわけではないのですが、ちょっと引いた視点で楽しんでもらえたらなと思います。

 僕はオーディオ・コメンタリー自体が初めてだったので、ずっとグルグルと緊張していました(笑)。三池監督の話がおもしろいので聞き入っていると、重要なシーンが終わっていたりとかもあって、「あ、映画の話をしなくちゃ」とグルグルしていましたね。

三池 でも、やはり巧さんは『逆転裁判』の世界を作った人なので、話すことすべてに理屈が通っていて、ある意味僕は楽でしたね。その世界をスタッフや役者に伝えるのに、日々苦労している仕事なので、最初から、それこそ僕以上に理解している巧さんと会話をするのは、楽だし楽しかった。役者がみんなこんな感じだったらいいのですが(笑)。

 いえいえ、緊張していたばかりで。でも、本当に楽しくてあっという間でした。軽くカットの質問をしてみても、しっかりとした理由が返ってきて、こうやって映画を作っていくんだなとすごく感心しました。……だけど個人的には、録り直したいなという場所がいっぱいあります(笑)。僕の中では、終わってからすぐ反省会が始まりました。三池監督はそういうのはないのですか?

三池 あまり振り返りませんね。むしろオーディオ・コメンタリーは、不完全で失敗しているのがおもしろいというか、ツッコミどころがあっていいのかなと思っています。こちらはタレントではないし、原稿があってそれを読むだけだと、ナレーターになっちゃいますよね。結果として、笑える部分があったり、真面目な部分があったり、それを映画と同時に見て、どんな風に楽しめるのかという、ライブ感覚で楽しむものなんじゃないでしょうか。あまり反省はしないでいいと思います(笑)。

映画続編も!? 巧氏の最新作は……!?

――今後のこと、たとえば続編の可能性なども含めて、お聞かせください。

三池 基本的に映画というのは1本を作って、自分たちの中ではそこで完全燃焼していないとおかしいんです。やっぱりそれは今回も同じで、そこから続編を作るとなると、すごく大変な作業になるんです。たぶんそれは、ゲームでも同じですよね。

 それこそ『逆転裁判』シリーズは、毎回これが最後だというぐらいに、絞り尽くして作ってきました。

三池 だから僕としては、ただ『逆転裁判2』を映画化するというのでは、作れないと思うんです。少しゲームとは違ったアプローチ、たとえばゲームの『3』と『4』のあいだで、いちどナルホドくんが表舞台から姿を消しますが、その空白の時期を描くなんていうのだったらやれるかなと思います。なぜ彼があんなにやさぐれたのかと。

 ゲームでは見られない、描いていない部分ですね。それは僕も気になります(笑)。

三池 せっかく映画での『逆転裁判』のキャラクターもできたので、そういった意外な方向性から、まったく違うものができたらおもしろいですよね。極端な話、『逆転裁判』のタイトルもなくて、観ているうちに「これナルホドくんの話じゃないか?」と驚くぐらいでもいいと思うんです。そういうゲームとは違ったアプローチができるなら、作ってみたいですね。

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――ゲームファンは、巧さんの新作も心待ちにしていると思います。

 いまはまさに『レイトン教授VS逆転裁判』の制作が佳境です。生活のすべてが、そこに集中しているというような感じですね。まだあまりお話しはできないのですが、順調に進んでいますのでもう少しお待ちいただければと思います。今回はレベルファイブさんと共同開発をしているのですが、これは僕の本職であるゲームなので、映画のようにお任せという感じにはいきませんからね。

――それでは最後に、あらためて映画『逆転裁判』を観る方に向けて、ひとこといただけますでしょうか。

 三池監督の味付けで再構築した『逆転裁判』は、ゲームとは違う、ゲームではできないエンターテインメント作品です。実写になったことで意外性が生まれた表現もあり、本当にほかでは見られない映像になっているので、ぜひ観てください。そして、ゲーム版のファンの方は、三池監督のほかの作品にも興味を持っていただけたらなと思います。そういうことが起きれば、僕たちとしてはいちばんうれしいですね。

三池 原作の美学を残しつつ、僕らなりに再構築した『逆転裁判』をお楽しみください。ゲーム版のファンの方にはもちろんですが、ゲーム版を遊んだことのない人にも、楽しめる内容になっています。そしてこの映画がゲーム版を遊ぶきっかけになったら、本当にコラボレーションとして大成功ですね。

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