苦労して作ったものを捨ててでも楽しさを追求

ゲームを作るというゲーム――なぜ苦しくてもゲーム作りをやめないのか? トップクリエイターが語る【QuakeCon2012】_05

 アメリカのテキサス州ダラスで行われた、id Softwareのファンイベント“QuakeCon 2012”。その開催中には、id Softwareや同グループに属するベセスダ・ソフトワークスのクリエイターたちが登場する各種講演も行われた。
 本稿では、トッド・ハワード氏(ベセスダ・ゲーム・スタジオ)、ラファエル・コラントニオ氏(Arkane Studios)、イェンス・マティーズ氏(Machine Games)といったゼニマックス・メディア傘下のスタジオのクリエイターたちと、Insomniac Gamesを率いるテッド・プライス氏らにより行われた“The Game of Making Games(ゲーム開発というゲーム)”というディスカッションの内容をお届けする。

ゲームを作るというゲーム――なぜ苦しくてもゲーム作りをやめないのか? トップクリエイターが語る【QuakeCon2012】_04
ゲームを作るというゲーム――なぜ苦しくてもゲーム作りをやめないのか? トップクリエイターが語る【QuakeCon2012】_03
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ゲームを作るというゲーム――なぜ苦しくてもゲーム作りをやめないのか? トップクリエイターが語る【QuakeCon2012】_01
イェンス・マティーズ氏(Machine Games)
id SoftwareのゲームエンジンTech 5で未発表の新作を開発中
ラファエル・コラントニオ氏(Arkane Studios)
『Dishonored(ディスオナード)』の共同クリエイティブディレクター。
テッド・プライス氏(Insomniac Games)
『ラチェット&クランク』シリーズなどで知られるInsomniac Gamesを率いる。
トッド・ハワード氏(ベセスダ・ゲーム・スタジオ)
『エルダースクロールズ』シリーズや『Fallout』シリーズなど、ベセスダ・ソフトワークスの主要タイトルを手掛ける。

 まず話題に上がったのは、ゲームのデザイン哲学について。トッド・ハワード氏は「いいゲームは作られるのではなくプレイされるもの。デザインしすぎないことだ」と語り、『ザ エルダースクロールズ V: スカイリム』を例に挙げる。いわく、同作で特徴的な要素だったドラゴンを作る際には、まずどんなものであるべきかを箇条書きで1ページのドキュメントにして、そこから具体的な要素を付け足していったという。とにかくプレイヤーの楽しみのコアとなるものが何なのかを追求するのが大事で、あとはそれにかけるソースでしかないというのがハワード氏の考えだ。
 とにかく“遊んで楽しい”ことを第一とするのは全員共通した意見で、テッド・プライス氏は毎日ゲームを動かしながら作りこんでいき、どれだけ大事に作った要素でも、本質的に楽しくないことがわかったら捨てる決断をしていると語った。積極的に思い切って捨てることは勇気がいるが、「まずゲームのロジックを作り、そこから背景を形作っていく」と、ややアーティスティックな哲学を述べたラファエル・コラントニオ氏も「クールなモノを伸ばし、そうでないものはどんどん捨てる。開発とは使わないものを捨てることだ」とこれに同意。未発表タイトルを手掛けているため余り多くを語れないイェンス・マティーズ氏だが、過去に凝りすぎて失敗してしまうことを学んだため、適切なタイミングに適切なやり方を選択しているかどうかを注意しているという。

 ゲーム業界に入りたい人へのアドバイスを問われたトッド・ハワード氏は「グループで仕事をするということに早く慣れること。エゴは捨てること」を挙げた。ラファエル・コラントニオ氏いわく「スタッフには、いま作っているものがゲームに入らないかもしれないと伝えている」そうで、ゲームはチームの制作物であるという考えの転換がないと、厳しいのかもしれない。
 フラストレーションのコントロールや情熱の維持も重要なテーマだ。テッド・プライス氏は「毎朝起きてやりたいと思うものでないと生き残れない」として、その方が情熱を維持できるのならば、モバイルやソーシャルなど小規模なチームで開発できるものを目指す手もあるとする。

 ゲームを出荷する際の気分は、と問われたマティーズ氏は、「ファック。ハッピーであることはありえない」と表現。これにラファエル・コラントニオ氏が「すべてがうまく行ったとしてもプレッシャー」、トッド・ハワード氏が「疲労。並んで買ってくれる人の期待に応えられたかを考えている。ゆっくりと世の中に戻っていくには時間がかかる」と付け加えた。

 それでもなぜゲーム作りに挑戦し続けるのか? マティーズ氏は「クールなアイデアを紙に書いた時が最高の気分だ」と語り、テッド・プライス氏は「開発の終盤に何か魔法が起きて満足感を得られるようになる」と語る。また、トッド・ハワード氏はテッド・プライス氏に「ゲームジャムは毎年やるのか?(必ずしも製品化を目指すわけではなく、新たなゲームデザインやアイデアをあれこれ考え・試してみる会。スタジオ内のゲームジャムから騎乗戦闘などが生まれている)」と聞かれ、イエスと答えている。自分の最高のアイデアをゲームに盛り込むこと、そのために彼らはゲーム作りに挑戦し続けるのだ。