可能性は無限大!
アメリカのテキサス州ダラスで、id Softwareのファンイベント"QuakeCon 2012”が開催中。同社を率いるジョン・カーマック氏が最近熱中しているのが、Oculus社が開発しているVRヘッドセットだ。これは、3D立体視が可能なディスプレイを内蔵し、顔の向きをセンサーでキャッチして、ゲームの視点操作を行えるという製品だ。
id Softwareの製品ではないし、まだ一般に販売できる製品段階でもないし(クラウドファンディングサイトのKickstarterで開発キットを出資受付中というレベル)、自身が直接開発に関わっているわけでもないのだが、カーマック氏はE3やここQuakeConでPR役となっている。世界的に有名なプログラマーである氏が、なぜそこまで熱中しているのか? 百聞は一見にしかずというわけで、実際に遊んできた!
実物を見せてもらったのは、会場内のスイートルーム。行ってみると、そこにはジョン・カーマック氏本人が! 「よく来たねー! じゃあそこのキミ、着けてみようか」と、いきなり手渡されるハプニング。『Quake2』をプレイしてから15年、まさか本人にお目にかかれるとは……。
渡された機械はかなりハンドメイド感あふれるプロトタイプで、まだ解像度が十分に高くないこと、そしてレンズの調整機構などを備えていないこともあって、残念ながらかなり画像はぼやけていた(眼鏡も外さなければならなかった)。しかし、それはまだ製品じゃないのだから当たり前。むしろ、「この段階なのにスゲェ」というのが感想。実際に装着して『DOOM3 BFG EDITION』をプレイしてみると、そんなことが些細な問題に思えるほどのポテンシャルが感じられた。
センサーによって顔の角度がエイミング(銃の狙い)と連動しており、FPS画面への没入感がまったく違ってくるのだ。3D立体視も、画面が自分の体の動きに合わせて動くことで真の意味を持つ。あなたはコントローラーを初めて持った時、キャラクターを動かそうとして、思わず体ごと動かしてしまった日々を思い出せるだろうか? このデバイスを使うことで、長らく忘れていた、カーマック氏が言うところの「魔法の感覚」に匹敵するプレイ感をふたたび味わえたのは、本当に驚きだった。
デモはXbox 360コントローラー(恐らくPCに接続)を使って行われたのだが、エイミングは顔の角度だけで行うのではなく、通常エイムに使う右スティックと併用する形になっていた。実際には、体の向きが変わるような大きな動きは右スティックで行い、銃の角度を頭で微調整するといった感じ。顔を横に傾ければリーン(障害物の陰から顔だけを傾けてのぞき込むような動き)もできるし、足元や天井を見たければそうすることもできる。
もちろんFPS以外への応用も可能だ。かつてないバーチャル世界とのシンクロ感が味わえるこのデバイスなら、ディズニーなんかのファンタジー世界や、ホラーな環境との相性もバッチリだろう。ちなみにカーマック氏は「バーチャルIMAXシアターを作ってみたいね」とのこと。フルバージョンのIMAXシアターは特定の場所でしか体験できないものだから、それを乗り越えちゃおうってわけだ。ちなみにid Softwareで鋭意開発中の最新FPS『DOOM4』も対応させたいとのこと。
しかしながら現在は顔の動きに対して約40ミリ秒の遅延があり、カーマック氏は世界をより自然に感じるために今後乗り越えるべき課題だとする。そのほかにも、位置のトラッキング(しゃがんだり、上体を傾けるといった動作に対応できる)、解像度(現在は片目640×800ピクセル)、人間工学的な最適化(重量は十分だが、ケーブルが邪魔。可能ならワイヤレスにすべき)、リフレッシュレートの向上(遅延を感じる原因のひとつ。このサイズでは適当なパネルが出ていないが、120ヘルツが望ましい)といった項目を今後の課題として挙げていた。
カーマック氏は「5年後にはWiiみたいな広がりを見せていてもおかしくない」、「次世代コンソールはVRヘッドセットの形をしているかもしれない」と語る。このキットが一般の民生品として遊べるようになるかはわからないし、なるとしても数年後のことだろうが、それでも「2012年がVRの始まりの年と記憶されるかもしれない」(カーマック氏)だけのポテンシャルは十分にあると感じた。開発用キットは前述のとおり、Kickstarterで一定額以上出資することで手に入れられる。当初は200台ぐらい出荷するつもりだったのが3000台以上に膨れ上がりそうで困っているそうだけども。