ダラスにハードコアゲーマー大集結!
2012年8月2日、アメリカのテキサス州ダラスで、id Softwareのオフラインイベント"QuakeCon 2012”が開幕した。FPSの元祖『DOOM』、『Quake』などを生んだ同社のファンが一同に会する巨大ファンイベントの模様をお伝えする。
初日は、同社を率いるジョン・カーマック氏による基調講演が行われた。カーマック氏は、まず昨年発売された『Rage』について言及し、「ゲームプレイについてはハッピーでいい仕事が出来た」としながらも、エンディングの質や、PC版で起きたグラフィックドライバー関連の問題について「弁明の余地なし」とお詫び。会場に駆けつけた多くのPCゲーマーに向けて、今後はこのようなことがないようにすると約束した。
そして『Rage』では開発リソース(人員)不足に陥り、その分時間をかけているあいだに『Fallout』シリーズや『ボーダーランズ』などのリリースがあったため、ゲームファンの期待のハードルがどんどん上がっていってしまったと振り返り、次期主力タイトルである『Doom4』では、基本的に全開発スタッフを投入して開発に取り組むと語った。
ちなみに、荒廃した世紀末的世界を描いた『Rage』に対して、「Doomはファンの期待するものがショットガンとデーモンだけだから、『Rage』みたいに遅れないよ」とのこと。
その流れで、今秋のリリースを控えるHDリメイク『DOOM3 BFG EDITION』についても触れ、今回銃と併用できるようになったフラッシュライトについて「暗すぎたので入れた。雰囲気が壊れたという人もいるが、敵が見える方がいい」と考えを披露。一方で、「今のマリオはサクサク進められるけど、最近久々に『スーパーマリオブラザーズ3』をやってみたら、すごい難しくてチャレンジだった」と、昔のゲーマーがいかに今よりハードコアだったかを感慨深げに語った。『DOOM3 BFG EDITION』では、オートセーブ機能などもついている。
FPS(一人称視点シューティング)を生み出した天才プログラマーとして知られるカーマック氏は、ロケット開発などにも乗り出す筋金入りの技術屋だ。講演はほとんど姿勢を変えないまま(3パターンぐらいしかなかった)、早口で次から次へと新たなトピックへと移っていくマシンガントークが特徴的で、前説も含めて2時間という枠を大幅にオーバー。1時間半を過ぎたところで「今日はあと何を話すつもりだったんだっけ」とiPadのメモを見始めたのには驚愕した。つまり、それまでアンチョコもなしに隙間なく喋り続けていたのだ! 結構な聴衆がすでにノックアウトされている中、カーマック氏がそこから1時間以上話し続けたことは言うまでもない……。
その内容は非常に多岐に渡っていたのだが、中でも多くを割いていたのが、ゲームのプラットフォームと、自身が入れ込んでいるVRシステムだ。
噂される次世代ゲーム機については「まだ何も言えない」としながらも、異なるプラットフォームに対応していくことを表明。iOSについては、市場の動きが非常に早く、求められる開発リソースも大きくなっており、デベロッパーが大型化、専門化して、リスクの大きいギャンブルになりつつあると指摘。だが開発そのものはとても楽しく、どうやら新しいプロジェクトも考えているようだ。また、Macもビジネスとして利益が十分に得られるプラットフォームであり続けるとしている。
オンラインのプラットフォームについても、ValveのSteamについて「ビジョンをもって継続しているのがすばらしい」と評価。さらに、クラウドゲームについても、遅延をいかに吸収するかといった大きな問題がありながらも、クラウドゲームを前提にした開発を行うことで解消できる部分もあるとの見方を示した。逆にロード時間の解消などのメリットもあり、将来は明るく、いずれ本格化するだろうとのこと。
そしてVRヘッドセットについては……と、その前に概要を紹介しておこう。要はヘッドマウントディスプレイに、顔の動きを追うヘッドトラッキングシステムを足したもの。自分の顔の角度を変えると、画面内の視野もそれに追従するという仕組みのものだ。id Softwareの製品ではないのだが、カーマック氏はOculus Riftという製品をかなり気に入っており、プロモーションに協力しているのだ。
Oculus Riftは現在クラウドファンディングサイトのKickstarterで出資を受け付けており、25万ドルの目標額は早々にオーバー。275ドル以上を出資すると開発キットが手に入るのだが、これには『DOOM3 BFG EDITION』がついてくる。
出会いの発端は、カーマック氏が、『Rage』の開発後、たまたまいいヘッドセットはないかと探し始めたことに始まる。
市場に出回っているヘッドセットを片っ端から試したものの、500ドルから10万ドルの製品まで「ほとんどがひどいもの」で、多くはヘッドセット内のディスプレイの解像度が低く、またセンサーの反応もよくなく、ゲームでの使用には耐えない代物だったという。
また、没入感の点で表示の遅延やフレームレートが障害となっていることから、ヘッドセット内の小型ディスプレイを120ヘルツで動かすか、レーザーで直接網膜に投影することで解消できないかも検討したそう(後者は目が潰れかねないと忠告を受けてやめたそうな)。
そういった時期を経てRiftのプロトタイプに出くわし、感心して協力することになったのだが、依然としてディスプレイの反応速度やフレームレート、位置の正確な把握などに問題があるそうで、噂が噂を呼んで期待感が加熱している状況に「まだ完成していると思わないでほしい。たった1本のゲームをサポートしているだけで、民生品ではないし、VR体験ができる開発キットでしかない」とコメント。
果たしてカーマック氏が言うように、まだ新しいもの好きの人向けのものなのだろうか? 実際どういったものなのかは、2日目に行われるデモの模様をお届けする予定なので、そちらをお待ち頂きたい。