稲船敬二氏「口下手じゃダメ、コミュニケーション力と積極性を磨け」とゲーム業界志望者を激励

ヒューマンアカデミーでは、ゲーム業界のプロフェッショナルを講師に招いたセミナー“ゲームサーキットフォーラム”を開催中。2012年7月21日には、コンセプトの稲船敬二氏が東京校で講演を行った。

●思いを伝える努力と積極性が未来を変える

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 ヒューマンアカデミーでは、ゲーム業界のプロフェッショナルを講師に招いたセミナー“ゲームサーキットフォーラム”を開催中。2012年7月21日には、コンセプトの稲船敬二氏が東京校で講演を行った。

 お題は、“ゲーム業界の歴史とビジネスモデルの変化”。まず稲船氏は自身の経験として、仕事をしていくにあたり、いかにやる気と積極性を持つかが大事だと語る。嫌いなことでも好きなことと同じ感覚で対峙できること、ゲームなら好きなジャンルだけでなく、あらゆるジャンルに挑戦できること、好きなもの同士で集まるだけでなく、そうでない人とも交流できることが大事なのだという。その意図するところは、考え方に多様性を持たせ、凝り固まらせないこと。「こういうゲームがいいゲーム」と自分を絞り込んでしまっては、真にいいゲームは生まれてこないというのだ。

 そして話は次にコミュニケーションの重要性に移る。ゲーム業界志望の学生と多く対してきた経験から、“ゲームを作りたいが口下手”なことをよくないパターンとして挙げる。企画のプレゼンテーションなり、他の職能のスタッフとのやり取りしかり、いかに人に自分の思いや考えを伝えるかが一番重要なことだとして、「(過去に多くのゲームを作ってきた)自分でもこうしてまだ人に伝える努力をしているのだから、君たちは口下手とか言っていないで、もっと頑張らなければいけない」と受講生たちに語りかけた。

 では、なぜこの話がお題に繋がってくるのか? それは、稲船氏いわく現在は“グローバルにゲームを作っていくこと”が必要な時代だからだ。
 稲船氏は、「日本のゲームクリエイターには価値を持っている人がまだたくさんいる」と前置きしながら、海外市場は日本を「クリエイターの能力は高いが、(ゲームが)パッケージになるとそこそこでしかない」と見ていると語る。そこで日本人のクリエイティブを活かしつつグローバルなゲームを作るには、海外の文化を持つスタッフと共同で開発するのが近道であり、例えばクルマ産業でも、日本のメーカーだからといって工場もデザインも日本だけということはないと続ける。グローバルな企業とはそういう(日本と海外が融合した)ものであり、日本だけで作って世界で受けているから(日本の)グローバル企業なのではないというのが稲船氏の考えだ。
 稲船氏はここでBlue Castle Games(現Capcom Vancouver)と開発した『デッドライジング2』を引き合いに出し、日本人のコンセプトと企画、カナダ人の能力と技術を合わせた本作が“日本のゲーム”かどうかはもはや重要ではなく、面白いか面白くないかこそが肝要で、未来のゲーム開発者を目指す受講生たちがやらなければいけないのは、まさにこのこと(海外とも連携してでも、とにかく面白いゲームを作ること)だというのだ。

 そして、このためにこそ、人に伝える努力が重要になってくる。言語の違いは腕のいい通訳を雇えば解決するが“面白さ”などの感覚的な部分は、育ち方や文化によって違うからだ。なかなか伝わらず、途中で伝えることを諦めると失敗する、海外開発がなかなか上手くいかないのは、諦めてしまうからだと稲船氏。受講生たちに対して「僕らの時代よりも厳しい時代になっている。(中略)今はいろんな選択肢がある、(受講生たちを採用する)企業のハードルも上がっている。そこで勝つにはアイデアや技術だけでない」と語る。そして、やる気・積極性を持って、自分の思いを伝えていくことが近道になると受講生たちを激励した。
 その上で稲船氏は、「君らは積極性があるか?」と問い掛けて、多くが頷くと「じゃあ質問」と促した。ここですぐに手が上がらないのを見た稲船氏に「どこでもこう。講義が終わるとみんなやってくる。誰かがするだろうからそれを聞けばいいやというのは積極性ではない」と(あくまでもにこやかに)諭されたことで、受講生にとって記憶に残った授業となったのではないだろうか。その後の質問タイムでは、多くの質問が出た。ここではその中から、興味深かったいくつかを概要でご紹介する。


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質問 昔は日本のゲームが世界的に流行って、今はそうではないと話していたが、その原因はなんだと思うか。

 いろんな原因がある。マラソンでトップを走っている人は誰を目標に走るか。日本は先頭を走ってきたが、目標を見失ってきた。二番手、三番手だった人たちは、日本のゲームを研究し尽くして、日本のゲームの良さと自分たちの良さを組み合わせてきた。日本は目標がないからずっと同じことをやってきた。そして抜かれているのに気付かず、「日本だとシューターは流行らないでしょ」とか「首を飛ばせないでしょ」とか言って参考にしなかった。そろそろ何が起こっているのか気付き始めてきたが、遅れてしまった。そしてソーシャルゲームも出てきて混乱している。
 自分は負けを認めようとずっと言ってきた。うまくいっていないことを認めることは大事なことだ。そしてよそのいいところを取り入れること。

質問 自分は台湾出身。海外からやってくる外国人をどう見ているのか。

 外国には外国の文化があり、いいところも悪いところもある。コンセプトにも外国籍の人が3-4人いる。小さな会社だが。それはすごく大事にしているところ。
 それと、欧米と同じぐらいアジアの意識を持たなければいけない。海外のことばっかり言っているのが欧米と思われているが、アジアも大事に考えている。来週もチャイナジョイに行って講演する。昔、中国の大学で講演したときは質問もすごかった。質問が終わっても座らずにそのまま質問してくる。それが必ずしもいいこととは言わないが、積極性がすごくある。
 今は技術が上でもそんなものはいつの間にか抜かれる。日本は何もかもがあり、積極的にならなくてもいい環境を作ってしまった。アジアは積極性をすごく持っている。台湾もそうだ。

質問 ソーシャルの“神”になると言っていたそうですが。

 目標を自分に課すという意味合い。いないなら目指せばいい。それだけをやると言ってるわけじゃないし、そう言っている間は神ではない。宮本茂さんもマイケルジョーダンも自分で神とは言っていない。そこでもしなれなくても、別に悔やむ必要はない。なれなかったら新しい目標に向かってやるだけ。
 ソーシャル業界には、“神”に近い人もいないと思う。クリエイティブが無視されて、いくら儲かったかだけが重要視されているように感じる。(あるべき姿は)そうではないな、と思う。だが、ソーシャルの要素自体は、いずれコンソール(家庭用ゲーム機)にも組み込まれていくだろう。

質問 ミニゲームの企画書を作っているので聞きたいが、アイデアはどう出しているか。

 アイデアは出そうと思っても出ない。勝手にわいて出るもの。自分が調子がいいとか、考えていることがあった時に何かのきっかけで出てくる。論理的ではないかもしれないけど。
 それと、話している時が多い。議論している時などは、相手に対して臨機応変に答えなければいけない。これは脳味噌がすごく働く。その状態が一番脳が活発なので、アイデアがでやすい。8割は人と話している時で、「あっ」と気付く。こうしてリアルタイムに反応することからアイデアが出てくる。
 質問に対してもそう。今こうして話しているように、短く答えるのではなく、どう考えているかを返している。自分はこういう感じに心がけている。みんなは違うかもしれないが。

質問 海外の人と開発する際、何を伝えるのが難しかったか。

 全部。面白さ、かっこよさ。二枚目のイメージ。海外の人は、男ならヒゲの跡があるのはは当たり前で、年をとっていればハゲるし皺もある。日本の感覚で「(それらを)取った方がいいんじゃない」と言うと「何で?」と言われる。お互いが理解しないといけない。そこで「日本ではこうだから」とは言わない方がいい。世界で売りたいなら永久脱毛しちゃいけないんだ。
 伝えるために心がけていることはいっぱいある。相手を幼稚園児だと想定して、「このゲームの面白さを伝えるにはどうするか」を考え、何が伝わっていないのかを考えながら伝えるようにしている。そうすれば伝わる可能性はあがる。


 なお、ゲームサーキットフォーラムでは今後もさまざまなゲストが登場予定。事前予約が必要で、一部を除き受講は無料。稲船氏も、9月8日に仙台校でふたたび講演予定だ。スケジュールについては関連リンクを参照のこと。