幅広いユーザー層が楽しめるダンジョンRPGに

 2012年6月26日に行われた角川ゲームスとエクスペリエンスの共同発表会“EXP COLLABORATION KICK OFF MEETING 2012”にて、ダンジョンRPGを新時代に向けて展開するプロジェクト“DRPG PROGRESS”が発表されたのは、既報のとおり。

 この“DRPG PROGRESS”という新プロジェクトは、エクスペリエンスにとってどんな意義のあるものなのか? エクスペリエンス代表取締役社長の千頭元氏にお話を伺った。

エクスペリエンスが新たなダンジョンRPGに挑む! 千頭元代表取締役社長が“DRPG PROGRESS”について語る_01
エクスペリエンス代表取締役社長
千頭元氏

――ファミ通.comでのインタビューは初めてとのことですが、エクスペリエンスのことをあまり知らない読者のために、まずはどのような会社なのかを説明していただけますか?

千頭元氏(以下、千頭) まだ規模は小さい会社です。純粋にゲーム制作が大好きなスタッフ達と一生ゲームを作っていきたいと考え、自分たちで会社を設立しました。ダンジョンRPGに力を入れて作っていまして、いままではPCとXbox 360で何本かソフトを出させていただきましたが、今回初めてPSPとPS Vitaに参入させていただきました。

――ダンジョンRPGを専門に作られているところが特徴的ですよね。

千頭 そうですね。何よりダンジョンRPGが大好きなスタッフが集まっていることが最大の特徴となります。まだ規模が小さい会社ですのでまずはダンジョンRPGを極め、しっかり評価を得たうえで、ほかのジャンルにも挑戦したいと考えています。

――開発チーム“Team Muramasa(チームムラマサ)”はいつごろ立ち上げられたのですか?

千頭 マイケルソフトさんの『ウィザードリィ エクス ~前線の学府~』の開発に携わったときに、現在のエクスペリエンスの前身でもある開発チーム “Team Muramasa”を正式に立ち上げましたが、実は、その中核となるメンバーとは、その前の『ウィザードリィ エンパイア』のときからいっしょに制作していました。

――そのエクスペリエンスが、角川ゲームスといっしょにタイトルを展開していくという発表がありました。協業にいたった経緯をお聞かせいただけますか?

千頭 Xbox 360版『円卓の生徒』を発売したときに、ユーザーの方から「PSPで発売してほしい」という要望がたくさんありましたが、当時はまだプレイステーションプラットフォームに参入していないため開発できない状況でした。そこで、権利を買っていただくか、ご協力していただける会社がないかと探していたときに、角川ゲームスさんをご紹介していただいたのがきっかけですね。その後、何度かお話させていただいているうちに趣旨が変わってきまして(笑)、“せっかくやるのでしたらもっとおもしろいことをやりましょう”ということで、今回の“DRPG PROGRESS”を立ち上げることになりました。

――“DRPG PROGRESS”に関して、意図や狙いなどを説明していただけますか?

千頭 ダンジョンRPGを進歩、発展させるということが命題になっているのですが、それはどのメーカーさんも当たり前のようにやらなくてはいけないもの。それを含みつつ、プラットフォームを代表できるダンジョンRPGを作りたい、ブランドを作っていきたい、というのが最終的な目標ですね。また、今回は協業ですから意志の共通化をしなければよりよいものにはならない、ということで、両社の志を込めて“DRPG PROGRESS”というプロジェクトコンセプトをつけさせていただきました。

――2社がタッグを組むことによる効果、長所となる要素などをお聞かせください。

千頭 視点によって変わります。ビジネス面では、我々はメディアや流通に対しての営業力が少なく問題になっていたのですが、角川ゲームスさんはそこのノウハウをお持ちなので、我々のマイナス面をプラスに転化してくれるという点。もうひとつは、これまではPS VitaやPSPのソフトを自社で開発することができませんでしたが、それが可能になったという点ですね。プロデュース面で見ても、もともとダンジョンRPGは“ロールプレイ(役割演技)”が主体になっていたものなので、弊社ではボイスやグラフィックに関してのノウハウがあまりなかったり、“ロールプレイ”に慣れていない比較的カジュアルなユーザーを視野に入れていなかったりしてきた分けですが、角川ゲームスさんはそちらの経験も積まれていますので、両社でプロデュースを進めることで、コアユーザーだけでなく比較的幅広い層に楽しんでいただけるものに進化させることができると感じています。

――役割としては、ゲーム本編の開発はエクスペリエンスが、パブリッシュや演出などを角川ゲームスが行われているということですか?

千頭 大きくはそういう形ですね。また、ベースの企画は我々が担当していますが、システムやシナリオ、バランスなど、既存のファンだけでなく幅広い層へアピールできる点に関しても、角川ゲームスさんと相談しながらプロデュースを進めさせていただいております。

――多くのゲームファンは、良質のダンジョンRPGを手掛けるソフトハウス、という認識を持っていると思います。ダンジョンRPG作りでこだわっている部分をお聞かせください。

千頭 いちばん力を入れている部分は、快適性も含めて“ハックアンドスラッシュ”(※)ですね。

エクスペリエンスが新たなダンジョンRPGに挑む! 千頭元代表取締役社長が“DRPG PROGRESS”について語る_02

――ダンジョンRPGの魅力はどこだと思われますか?

千頭 ライトユーザーに対しては短所になってしまうかもしれませんが、ロールプレイが最大の魅力ですね。与えられた主人公や装備ではなく、自分で思う容姿や設定など、自分の想像で遊べるところだと思います。

――なるほど。コミュニティーサイトでユーザーから意見を募るなど、ユーザーといっしょにゲームを作っている印象ですが、これもエクスペリエンスのポリシーのひとつなのでしょうか?

千頭 そうですね。エクスペリエンスはクリエイティブを売りにする集団ではないと思っています。もちろんクリエイティブなことはしていますが、自分たちのクリエイティビティ溢れる作品を楽しんでくださいというのではなく、出来る限りユーザーが求めているものを制作していきたいと考えてきました。ですから、すべてを反映できるかは別として、つねにユーザーからいろいろな意見を挙げていただいて、そのなかから汲み取ったもので我々が作れるものを作る。いわば料理人のような存在かもしれませんね(笑)。

――これまで、PCのほか、Xbox 360用ソフトを手掛けられていましたが、今回“DRPG PROGRESS”のタイトルラインアップ第一弾としてPSP用ソフト『円卓の生徒 ザ・エターナル・レジェンド』が発表されました。また、第3弾となるタイトルは、PlayStation Vita用の完全新作とのことですが、プレイステーションプラットフォームでの制作の手応えはいかがですか?

千頭 ハードによって特徴やできることが違うので、技術レベルも上がってきたと思います。皆でわいわい言いながら楽しんで作っていますね。

――『円卓の生徒 ザ・エターナル・レジェンド』について詳しく教えてください。

千頭 Xbox 360版『円卓の生徒』は、ダンジョンRPGというコア向けのゲームをより多くの方に楽しんでいただけるように、キャラクターやシステム、ストーリーなどをRPGユーザー向けに遊びやすくしたものになります。PSP版での追加要素はある程度ありますが、新しいダンジョンやシナリオを追加することになって、Xbox 360版やPC版を買われた方が前のものを買わなければよかったと思うようなことはしたくないので、おもしろさの根幹を変えるような追加要素は行っていません。その代わり、PSPのユーザー層がこれまで我々の作品を遊んでくださった方と違うと思いますので、バランス面はもちろん、BGMやボイスの追加、デフォルメキャラクターをPSPのユーザー向けに描き直すなど、ブラッシュアップを全体に施しています。

――第2弾の『剣の街の異邦人』はXbox 360用タイトルとして発表されましたが、これはこれまで通りXbox 360でも出していくという意思表示でもあるのですか?

千頭 そこはすごく強く思っています。じつはこの作品は、『迷宮クロスブラッド リローデッド』の前に発売する予定だったのですが、震災の影響でスケジュールが大幅に変更になり、『迷宮クロスブラッド リローデッド』を先に発売することになりました。『迷宮クロスブラッド リローデッド』を発売して、ユーザーの意識や思考がよくわかってきましたし、自分たちの技術も上がったので、いままで作ってきたものをブラッシュアップするため再開発しています。具体的な内容はまだお話できませんが、メインビジュアルにヒントが隠されていますのでチェックしてみてください。

――第3弾タイトルは、PS Vita向けの完全新作とのことですが、気になるPS Vitaの機能ややってみたいことはありますか?

千頭 今回のタイトルでの実装に関するコメントは控えさせて頂きますが(笑)、個人的にやってみたいのはやはりネットワーク要素ですね。ユーザーどうしでゲームの中身のやりとりを行うダンジョンRPGは少ないので、やってみたいなと思います。

――発表会では、ユーザーから広くアイデアを募集し、それをゲームに落とし込むということもやりたいと話されていましたが、具体的な内容をお聞かせください。

千頭 “DRPG PROGRESS”ですから、ダンジョンRPGであることは決定しています。ハックアンドスラッシュをベースに、アイテムを集めることがひとつの楽しみになっていますので、すべてのジャンルの武器、防具をユーザーの方といっしょに決めていこうと考えています。数は各ジャンルで40~50ぐらいになるかと。

――ちなみに、PS Vitaのタイトルの開発状況はどのぐらいなのでしょうか?

千頭 かなり進んでいます。『円卓の生徒 ザ・エターナル・レジェンド』を発売してから、あまりあいだを空けずに、第2弾、第3弾を発売できると思います。

――最後に御社のタイトルを期待されているゲームファンへメッセージをお願いいたします。

千頭 “DRPG PROGRESS”として現在開発している3タイトルは、世界観やシステムなど、それぞれ異なるものになっていますが、どれも角川ゲームスさんの協力を得てより上質な作品になっていますので、ぜひ楽しみにお待ちいただければと思います。

※ストーリーや世界観の表現よりも戦闘に勝つ、敵を倒すということを意識しているスタイルに対して使われる言葉。