コンセプトは“新たなチャレンジ”

 ついに続報が公開されたカプコンのニンテンドー3DS用ソフト『モンスターハンター4』(2013年春発売予定)。週刊ファミ通2012年7月19日号(2012年7月5日発売)では、『モンスターハンター4』を手掛ける辻本良三プロデューサーと藤岡要ディレクターへのインタビューを実施した。本記事では、その完全版をお届けしよう。(聞き手:週刊ファミ通編集長 長田英樹)

『モンスターハンター4』辻本良三プロデューサー&藤岡要ディレクターインタビュー完全版_01
写真左:カプコン ディレクター 藤岡要氏
1993年、デザイナーとしてカプコンに入社。初代『モンスターハンター』のディレクターを務めて以降、据え置き機のシリーズや『MH3(トライ)G』などを手掛ける。

写真右:カプコン プロデューサー 辻本良三氏
1996年、プランナーとしてカプコンに入社。『モンスターハンターポータブル 2nd』以降、シリーズ作のプロデューサーを歴任する。

フィールドに段差や高低差を導入

『モンスターハンター4』辻本良三プロデューサー&藤岡要ディレクターインタビュー完全版_02

──『モンスターハンター4』が発表されたのは、2011年の9月でした。実際に制作に入られたのは、いつごろからですか?
辻本良三氏(以下、辻本) 2年くらい前からですね。開発規模は、いままでのシリーズでもっとも大きくなっています。

──これまでの『モンスターハンター』シリーズは、2と書いて“ドス”、3と書いて3“トライ”というように、ひねった読みかたをしていました。今回の『4』は、どのように読むのでしょう?
辻本 『4(フォー)』です(笑)。今回のタイトルはどうしようかと藤岡と相談しまして、新たなチャレンジをしたいということもあり、路線を変えてシンプルに“フォー”と読むようにしました。同時にロゴも見直し、“MH”という部分をいままで以上に強調しています。

──新たなチャレンジとは、リニューアルのようなことを指すのでしょうか?
辻本 リニューアルと言うと、まったく違うゲームになるというイメージがありますが、そうではなく、あくまでも『モンスターハンター』シリーズとしての進化です。『MH3(トライ)』のときには、いつもとは異なるシチュエーションを作りたいという思いがあり、水中での狩りという要素を導入しました。『4』では水中はありませんが、プレイヤーの選択肢の幅を増やせるように進化させています。地上でのアクションに対して新たなアプローチを入れるのは、シリーズで初めてのことですね。

──なるほど。では、そのチャレンジの内容とは?
辻本 毎回、ナンバリングタイトルを開発するときは、いままでの感覚や経験を失わずに、さらにアクションゲームとして楽しく、ワクワクすることはないかと考えていました。今回はそのひとつとして、地面の段差という概念を取り入れることにしました。
藤岡要氏(以下、藤岡) アクションのベースとなる部分に手を入れると、これまで積み上げてきたものが崩れる可能性があります。ですから、アクション部分に手を入れるというのは、なかなかデリケートなんです。とはいえ、これからの『モンスターハンター』シリーズのことを考えると、いまのままでいいのかという思いもありました。ですから、既存のアクションを見直したり、新たな試みを導入するという、アクションゲームとしての見直しが必要だと感じたんです。地面の段差や傾斜という要素を入れたのも、そういった意図からでした。結果として、フィールドを走ってもらうだけで、いままでよりも臨場感を感じてもらえるようなものになっていると思います。

『モンスターハンター4』辻本良三プロデューサー&藤岡要ディレクターインタビュー完全版_03

──先ほど見せていただいたデモプレイでは、ハンターが坂からずり落ちないように踏ん張る、といった操作を要求されていました。ハンターが傾斜の影響を受けることはわかりましたが、モンスターの場合は?
藤岡 モンスターごとに、傾斜に対するリアクションはさまざまですが、モンスターの動きにも変化は起こります。地面に傾斜や段差をつけることによって、地形の作りかたやモンスターとの立ち回りに幅が出る、という狙いがありました。ただ、1年ほど前に出したコンセプト映像では、自分たちのイメージそのものを表現していましたが、いざそのフィールドで実際にプレイするとなると、考えなければならない問題点も多くなります。そこをスタッフが練り込んでくれたことで、いまは当時のイメージがいい形でゲームになってきています。地形は変化したり、壊れたりということもありますよ。

──エリアのデザインは、藤岡さんがみずから行っているのですか?
藤岡 いえ、僕はやりたいことをスタッフにバーンとぶつけるだけなので(笑)。

──(笑)。辻本さんは、高低差や傾斜といった要素の導入についてどうお考えでしたか?
辻本 このタイミングでアクション部分を進化させたいという思いは藤岡といっしょでしたから、賛成しました。高低差を導入すると、とくにマルチプレイの様子が大きく変化するんです。これまではモンスターとハンターが地面に立っているだけだったのが、高低差があることで、崖の上に立っている人がいたり、壁を上っている人がいたりと、画面が賑やかになるんです。また、従来と同じアクションでも、高低差が出ることによってスピーディーに感じる、といった効果もあります。

──高低差があることで、あそこまでプレイ感覚が変わるということに驚きました。
藤岡 本作では、段差を利用してジャンプしつつ、攻撃を行うことができますが、見た目が派手で目立つので「俺が当てたろ」という欲も出るんですよ(笑)。ただ、高低差ができるということは、"段差を上る"というアクションが発生するということなので、上り下りがストレスなくできなくてはいけません。そこはとくに大事な部分だと考えていたのですが、展開がスピーディーに感じられるということは、その取り組みがうまくいっているということなのかなと思います。

──そうした新アクションは、カプコン サマージャム(2012年6月30日・7月1日に開催されたカプコンのゲームイベント)で公開された映像でも見られました。あれは実機のプレイ映像なのですか?
藤岡 そうです。前回のコンセプト映像は、検証用にいろんなアクションが行えるフィールドを専用に作り、そこにティガレックスを野放しにして、実際にスタッフがハンターを操作した様子を動画にしたものですが、今回の映像は、そういった要素がゲームとして組み込まれ、遊びとしてしっかり処理されているものとなります。

物語性を強めたシナリオ

『モンスターハンター4』辻本良三プロデューサー&藤岡要ディレクターインタビュー完全版_04

──本作は、従来よりも物語性を強めている、とのことですが?
辻本 『MH3(トライ)』では、世界に没入できるようにストーリー色を強めました。『4』ではさらにストーリーを強化するべく、過去最大級のNPC(プレイヤー以外のキャラクター)を登場させています。
藤岡 『モンスターハンター』のストーリーとしては、今回は思い切って設定を変えてみました。いままでのハンターは基本的に、村に雇われるところから始まるのですが、本作のハンターはキャラバン隊の一員となり、さまざまな地域を訪れることとなります。キャラバンにはさまざまな人種が集まっているので、個々の彩もとても個性的になっていると思いますよ。

──キャラバンということは、ハンターたち一行は旅をすることになるのですか?
藤岡 今回のキーワードは“冒険”です。これまでのシリーズでは、ハンターは村を拠点にして活動し、クエストを受けて狩りに行くという形でした。ですが、今回はそこも変えられないかと思い、従来の『モンスターハンター』の世界観に、あえて“冒険”という要素を加えてみたんです。ハンターはキャラバンの団長に雇われるという形でキャラバンに付き添い、さまざまな土地に行くことになります。行く先々の村にはそれぞれ村長がいて、固有の文化があるというのは、いままで通りです。
辻本 村が多いので、キャラクターの数も多くなるんです。特色が異なる村を移動できるので、バリエーション豊かなキャラクターを登場させられる、ということもありますね。マルチプレイにおけるドラマ性は、皆さんで作ってもらえると思いますが、シングルプレイの場合はこちらで提供したいなと。
藤岡 『モンスターハンター』はマルチプレイが楽しいゲームですが、移動中を始め、ひとりで遊ぶ状況もけっこう多いですよね。そこで、シングルプレイにより没入感を持たせられないかということで、これまで以上の大きな展開を作ろうとしています。

──なるほど。最初に訪れる村がこの“バルバレ”なのですか?
藤岡 そうです、『モンスターハンター』シリーズは多くの人に遊んでいただいていて、さまざまな思いが詰まったタイトルになりました。そういうことを思い描いていると、“何かを中心にたくさんの人が集まる場所”という設定が浮かび、市場のような活気ある拠点“バルバレ”が誕生しました。

『モンスターハンター4』辻本良三プロデューサー&藤岡要ディレクターインタビュー完全版_05

──作中でも、賑やかな人の集まりを再現したかったと。
藤岡 店を経営している人もいれば、情報を求めてくる人もいる。ハンターであるプレイヤーはハンター登録をしにバルバレに向かうわけで、本当にいろいろな目的の人たちが集まってきています。バルバレには、『モンスターハンター』としてスタンダードな施設が揃っていて、集会所の機能もあります。ここがスタート地点となり、物語が始まるんです。物語が進むにつれて訪れることになるほかの村にはさまざまな特徴があり、ベーシックなことはどの村でもできるのですが、それとは別に、個々の村でしかできないことも存在します。最終的には、気に入った村を拠点にして遊んでもらえたらなと。

新要素について

『モンスターハンター4』辻本良三プロデューサー&藤岡要ディレクターインタビュー完全版_06

──そのほかの新要素についてもお伺いします。まず、狩りのときの視点が、フリーカメラになっていましたよね。
藤岡 地形に高低差ができるので、従来のようなカメラの高さを段階で区切る形式は、相性が悪いと感じていました。従来は、見やすい高さを設定しやすいように段階式のカメラにしていたのですが、そういった理由もあって、今回はフリーカメラにしてみようと。じつは、『MH3(トライ)G』のターゲットカメラの発想も、ここから生まれたんです。
辻本 リリースは『MH3(トライ)G』のほうが先でしたが、『MH3(トライ)G』と『MH4』は並行して開発していました。初めてのハードだったので試行錯誤していたのですが、2タイトルあることで、『MH3(トライ)G』でうまくいった要素を『MH4』に入れるなどといった工夫ができました。ターゲットカメラもそのひとつで、もともとは『MH4』でやろうとしていたものを、『MH3(トライ)G』にも導入したんです。
藤岡 フリーカメラにすると、どうしてもカメラ操作が複雑になります。その操作量を減らそうとしたときに、ターゲットカメラを思いつきました。ニンテンドー3DSということで、タッチスクリーンが使えるのもよかったですね。ボタン入力以外の操作が可能なハードでなければ、ターゲットカメラという発想は生まれなかったかもしれません。

──2タイトル同時開発ならではの強みがあったんですね。そのほか、ファンが気になるところでは、新武器種があるのか、という点だと思いますが……。
辻本 新武器種は用意しています。また、シリーズで好評だったオトモアイルーもいますよ。今回も2匹同時に連れていけますし、キャッチーな新要素も導入しています。

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──新情報が楽しみです。では、最後に読者へのメッセージをお願いします。
藤岡 『モンスターハンター』シリーズは、アクションゲームであり、コミュニケーションツールだと思っています。今回はそれぞれの要素を見直し、新要素を取り入れることで新たな感覚が生まれるようにと考えています。相手のアクションがあり、それに合わせてアクションするというのがアクションゲームのおもしろさですが、それだけではなく、「フィールドを走り回るだけで楽しいな」と思ってもらえるようなゲーム性を目指しています。
辻本 シリーズを多くの方にプレイしていただきましたので、いままでのノウハウが使えなくなるようなゲーム性にはしません。ノウハウはそのままに、新鮮なプレイ感覚を実現したいと思っています。皆さんの期待に応えるべく、新規要素をたくさん用意していますので、続報をお待ちください。

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