「導入ではなく、プロジェクトの成功こそがOROCHIの成功」

『ガンスリンガーストラトス』の開発を支えた国産ゲームエンジン“OROCHI”のサポート体制【GTMF2012】_01

 2012年7月4日、東京都内でゲーム開発者を対象としたツール&ミドルウェアの総合展示会“Game Tools&Middleware Forum”が行われた。シリコンスタジオ提供のセッションでは、7月12日より稼動予定の『ガンスリンガー ストラトス』での、国産ゲームエンジン“OROCHI”の導入事例が紹介された。

 OROCHIはシリコンスタジオ製のマルチプラットフォーム対応のゲームエンジンで、PC、アーケード、360、PS3、PS Vitaに対応しており、Wii Uも秋ごろには対応予定。次世代機を見越して、すでにDirectX 11世代の技術も実装を行なっている。
 そんな本エンジンが強みとしているのが、日本で開発しているがゆえのサポートの厚さだ。現在は海外の商用ゲームエンジンを提供する各社も日本支社を設立し、サポート体制の充実に努めているが、数年前は技術講演などで「外部エンジンを使っていかに失敗したか」を聞いたこともあるほどだ。各社の日本語サポートが充実した現在でも、場合によっては頭を悩ませている部分を設計した本人からアドバイスを受けられるというのは、確かにそれだけで大きな強みだと言えるだろう。シリコンスタジオでは、プロジェクトに合わせて柔軟にカスタマイズできるエンジンであることと、契約してOROCHIがプロジェクトに導入されることそのものではなく、OROCHIを使ってもらって、そのプロジェクトを成功に導くことを目指しているという。

 さて、『ガンスリンガー ストラトス』は、合体可能なガンコントローラーを使った専用筺体で、破壊可能な実在の都市を舞台とし、4vs4のチームバトルがオンライン対戦可能で、フルHDで秒間60フレームで動作するという、アーケードのガンアクションゲームだ。
 今並べたいかにも大変そうな各要素は当初から必須項目としてあり、さらにOROCHIの導入当時、7ヶ月後の商談会にプレイアブル出展しなければいけないという状況だった。
 導入にあたって、本作のディレクターであり、開発元バイキングの代表取締役社長の尾畑心一朗氏は、プロジェクトの成功こそを是とする点を「信頼できる」と感じたそう。それ以前から、「実在の街でむちゃくちゃするという絵」(尾畑氏)を実現するために、OROCHIに含まれているシリコンスタジオ製のポストエフェクトツール“YEBIS”に惹かれていたという縁もあったそうで、機能を諦めることなく、当初のイメージ通りに完成させられたのは、OROCHIとサポートのおかげだと語っていた。ちなみに、ハードウェア部分はタイトー製で、コントローラー部分などでタイトーのライブラリーを使っているとか。

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 OROCHIでは、評価版を使ってもらってから、それを元に要望リストを提出してもらい、どの部分まで対応するか折り合いをつけ、それから契約としているそうで、『ガンスリンガー ストラトス』の場合も、破壊表現のためのHavokや、カリング(描画を考慮しなくていい3Dモデルを除外する)処理を行うUmbraといったミドルウェアの導入や、影を環境に焼きこむ“SSAO”、光が差し込むような表現を出す“ゴッドレイ”エフェクト、髪の毛の表現に使った“異方性反射”や“アルファ・トゥ・カバレッジ”といった機能の実装が要望として出たとのこと。一方で、説明では期待する効果をイメージしづらかったワープエフェクトやバリアエフェクトなどは、結局シリコンスタジオではなく開発チーム側で制作しているという。

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 テクニカルサポートにあたっては、開発側の定例会議にも参加するそうで、前述したように、必要な場合は担当技術者も直接サポートを行うという。また、完成版提出の期日が近づいて来ると、サポート人員を強化するといった対応も行なっているそうだ。

 しかし、それでもトラブルは起こるもの。講演では、最後に幾つかの事例が紹介された。速度が出ないという致命的な問題は、破壊表現や各種処理の高速化や処理低減で対応。最終的に、それでも足りない部分は横方向の解像度を減らして対応し、商談会をやり過ごしたんだとか。ちなみに現在はさらに最適化を進めてフルHDで秒間60フレームという当初の必須条件を実現しているそうなのでご安心あれ。

 最後に尾畑氏は、「ゲームエンジンの質は、機能と同じぐらい、サポートの質、サプライ側の姿勢が大きい」と語り、「今後もおつきあいできれば」とラブコール。OROCHIとしては『ガンスリンガー ストラトス』が採用第1弾タイトルだそうなのだが、出展ブースにも多くの人が集まっていたので、今後もどんどん増えていくかも。

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