ファン必見のスペシャル対談!

 2012年6月28日に任天堂から発売が予定されているWii用ソフト『零 ~眞紅の蝶~』。本作のテーマソング『くれなゐ』を手掛けるシンガーソングライター天野月さんと、ゲーム制作のディレクターを務めるコーエーテクモゲームスの柴田誠氏のスペシャル対談が実現! 開発チームとのやり取りや『くれなゐ』に込められた想いなど、テーマソング制作の秘蔵エピソードを交えながら、『零 ~眞紅の蝶~』の魅力を語っていただいた。

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天野月(あまの つき)
2001年、天野月子の名でデビュー。本作『零〜眞紅の蝶〜』のテーマソング『くれなゐ』を手掛けたシンガーソングライター。『零〜紅い蝶〜』以降、『零』シリーズすべてのテーマソングを担当。ハードでありながら心の琴線に触れる繊細な楽曲と、神秘的かつ寓話的な歌詞は、『零』の世界をより深く掘り下げており、ゲームファンからも強く支持されている。
柴田誠(しばた まこと)
コーエーテクモゲームス所属。『零 ~眞紅の蝶~』のディレクター。『零』シリーズすべてのディレクターを務めている。天野さんにイメージソング制作の依頼を行った人物でもある。

『零』シリーズの楽曲一覧
『蝶』:『零 ~紅い蝶~』テーマソング&エンディングソング
『聲』:『零 ~刺青ノ聲~』テーマ&エンディングソング
ゼロの調律』:『零 ~月蝕の仮面~』テーマソング
NOISE』:『零 ~月蝕の仮面~』エンディングソング
 ※すべて天野月子名義。

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2012年7月25日(水) NewAlbum『天の樹』発売!
テーマソング『くれなゐ』のほか、全10曲を収録。

品番:DGSA-10041 価格:3000円【税込】
発売元:ドワンゴミュージックエンタテインメント

『零 ~眞紅の蝶~』とは?

2003年にプレイステーション2で発売された和風ホラーアドベンチャーゲーム『零 ~紅い蝶~』をベースに、数々の新要素を盛り込んだ作品。主人公は、双子の姉妹、天倉澪(あまくらみお)と繭(まゆ)。幼いころの事故がきっかけで、右足に痛みが残ってしまった姉を想う澪。控えめでおとなしい性格ながら、霊感の強い繭。ふたりは、紅い蝶に誘われるように、皆神村に迷い込んでしまう。偶然見つけた、“ありえないもの”─怨霊を封じる力を持つ“射影機”を使い、村からの脱出を図るのだが……。本作は、グラフィックやキャラクターモデルが刷新されており、初心者でも気軽に楽しめる新モード“お化け屋敷”も追加されている。

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『蝶』と『くれなゐ』の2曲でひとつになる

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──まず、『零 ~紅い蝶~』にて天野さんがテーマソングを手掛けることになった経緯からお伺いしたいのですが……。
柴田誠(以下、柴田) 『零』1作目にはテーマソングがなかったのですが、『零 ~紅い蝶~』開発の途中、プロデューサーの菊地(菊地啓介氏。コーエーテクモゲームス所属。『零』シリーズすべてのプロデューサーを務めている)が「やっぱり主題歌がほしいね」と言っていて、「誰かいい人知らない?」と相談されたのがきっかけですね。「探してみます」と答え、新宿にある大手CDショップのインディーズコーナーに行って"あ行"から順にそれっぽい人を探し出し……。すると"あ行"のいちばん上に天野さんのシングル『箱庭』があったんです。聴いてすぐ「この人しかいない!」と思いまして(笑)。

天野月(以下、天野) それは初めて聞いたエピソードですね(笑)。

柴田 あれ、そうでしたっけ?

天野 確かに"あ行"にいますね(笑)。個人的にですが、あ行にいるのは、見つけやすいという意味でポイントだったりはします(笑)。

柴田 『箱庭』を聴いてみて、とてもよかったんですよね。菊地にその話をしたら「そんな都合のいい話があるわけないだろ、証拠を見せてみろ」と言われ、最初は信じてもらえなくて(笑)。和風ホラーアドベンチャーゲームのイメージソングが"歌:天野月子 曲:箱庭"というのは出来すぎだろうと(笑)。でも、天野月子・箱庭というフォントや、音倉レーベルの書体も和の雰囲気があったんですよ。

――曲や歌詞、天野さんが作られる世界が『零』に合っていたということですか?
柴田 ちょうどつぎの話を考えているときだったんですけれど、まるでそのキャラクターがしゃべっているように聞こえて。『箱庭』の最後のほうに繰り言のような部分があるのですが、初めて聞いたときには怖いと感じたんです。でも、聞いているうちに心の深いところから言葉を出していると思いましたし、なんだか幽霊がしゃべっている感じがあって……。

――その後、天野さんに楽曲の依頼をされたのですね。
柴田 そうですね。最初はホラーゲームは嫌がられるかな、と思ったんですけれど、意外にも軽い感じで「いいですよ」とオーケーをいただいて。

天野 軽かったですね。最初ホラーのイメージって具体的にわからなかったですし、私自身ゲームが好きだし……という軽い気持ちでお答えして。ただ、「ホラーのイメージ」というのは、後々になって降りかかってきました。本当に後々ですけれどね。

――『零』というゲームは以前からご存知でしたか?
天野 ちょうどレコーディングしていたときにイメージソングの担当が決まったという連絡を受けて、その場にいたミュージシャンが、「こうこうこういうゲームだ」と教えてくれました。わたしはどんなゲームかまったく知らなかったので、まず『零』の世界観を学ぼうと、購入してプレイさせていただきました。

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――プレイされていかがでしたか?
天野 怖かったですねー。明るい時間帯にやるよりは暗いほうが楽しめるのかなと思いましたし、"ヘッドホン推奨"とパッケージに書いてあったので、ヘッドホンをしてプレイしたんです。小さいテレビに近づき、部屋を暗くしてプレイしていたんですけれど、悪寒が止まらなくて、風邪を引いたんじゃないかと思いました。でも、いちばん世界観が知りたいのはエンディングの雰囲気なわけですよ。当たり前ですが、エンディングを知るには、この怖さと戦いながらクリアーするしかないわけです。せめて、つぎにどこに行けばいいのかがわかれば、怖さが紛れるのではないかと思って、攻略本まで買いに行きました。

――『零』の空気感を肌で感じたのですね。
天野 そうです。最初に柴田さんからは「『零』には『箱庭』のような曲が合うんじゃないか」と言われていたのですが、エンディングロールを見ながら『箱庭』を思い浮かべ「あ、なるほど。確かに合うな」と思いました。

――主題歌をお願いする際、ゲームの概要を伝えてイメージを広げてもらったのですか?
柴田 そうですね。

天野 いただいた資料の8割くらいが霊のイラストで……。首が折れた女とかね。「イラストはこんなにたくさんいらないよ!」と思いましたね(笑)。

柴田 まだゲームが完成してなかったので、設定画をお渡ししようと思って。当時は天野さんの歌のテイストから、てっきりホラーものが好きなんだと思っていたんですよね。だから「もっと資料を渡さないと!」と思っていました。そのほうが喜ばれるかと。でも、ご迷惑だったとは……。あと『紅い蝶』独自の和風テイストをつかんでほしかったというのもありました。そういえば、当時、天野さんのメーカー担当の方に『零』が和風ホラーだというお話をしたら、「いいですね、今年は天野も和風でいこうと思っていたんです」とノリノリの回答をいただいて。でも、ちょうど撮影が終わったという『蝶』の1作前のシングル『鮫』という曲のPVを見ると、和は和でも侍の格好をしていて、ちょっと違う和だったという(笑)。

天野 ウエスタン村でチャンバラですもんね。

柴田 冒頭のカットがウエスタンで「あれ?」って思いました(笑)。

――(笑)。『零』ファンからすると『紅い蝶』の世界はとても美しい印象があるのですが、ゲームのストーリーを聞いてどう思われました?
天野 美しいというよりも怖いという印象でしたね。最初の資料で双子の少女が並んでいるビジュアルをいただいたのですが、『八つ墓村』のような感じで。和風ホラーで双子ですよ? 「これはすごく怖いのがきたな」と思いましたね。

柴田 1作目の『零』は冷たくて孤独な感じだったのですが、「怖すぎて売れないからやめてくれ」と言われて、2作目は幻想的な雰囲気にしようと思い……。最初は怖くなくて、だんだん怖くなっていくような感じにしようかなと。

天野 でも、怖くない場面って、本当に冒頭の5分くらいですよね。すぐ肩をつかまれるじゃないですか。スタッフにゲームを貸したんですけれど、あの場面で「怖い」と言ってやめたそうですよ(笑)。

――テーマソングの『蝶』はどういったところからインスピレーションを受けたのですか?
天野 最初に『紅い蝶』というタイトルを聞いたとき、真っ先に"手"が浮かんだんです。体の部位で蝶の形を作れるのは"手のひら"ですので、重なっていた手の片方がなくなるというイメージが最初からあって。その後にいただいた資料を見て、「あ、いっしょだ」と思いました。私がイメージしていたのは"握っていた手のひら"ですので、ゲーム中の"手のひら"とは違うのですが、ぜんぜん違う方向から同じく"手"を選んでいたという感じで。

柴田 その話は初めて聞きました。あれ、ゲームのストーリーからじゃないんですか…

天野 私は最初にタイトルから決めるのですが、『蝶』という曲名に決めたときから、"羽がちぎれて上手く飛べない蝶"というイメージがあって。蝶ってシンメトリー(左右対称)ですよね。双子と蝶のシンメトリー感をかけようかなと思ったら、そこで同じように違う目線からの掛け合いがあった感じでした。

柴田 逆のイメージなんですよね。ゲームのほうでは、紅贄祭の儀式で双子がひとつになるから蝶ができる、という話だったので。

天野 そうですね。私が考えていたのは、シンメトリーの蝶の羽が片方ちぎれている、というものでした。

柴田 偶然同じようなことを考えたのだとしたら、ちょっと怖いです…。

――ちなみに、依頼を受けてからは、途中で柴田さんとのやり取りはなかったのですか?
天野 『紅い蝶』のときはそうでしたね。それ以降は最初から"柴田からのお願い"という資料が届くようになりました。

柴田 社内的にはラブレターと言われています(笑)。

天野 あれはラブレターの長さですよ。原稿用紙10枚くらいありますから。

柴田 狙いとかが全部書いてあるので、書いていて恥ずかしいんですよね。でも、自分の内面とか霊体験とかもすべて出したほうが、「もっとすごいもの」を歌として出してくれるかな、と思って。

天野 すごく失礼な話ですけれど、かなり流し読みでいいところだけを受け取っている感じですね(笑)。でもときどきすごく大事なことが書いてあるので、歌詞を書きながら見直すなど、参考にさせていただいています。

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――『零 ~眞紅の蝶~』のテーマソング『くれなゐ』ですが、『紅い蝶』のリファインで主題歌をもう一度、というお話を最初に聞いたときはいかがでしたか?
天野 かなり以前から企画を聞いていたので、驚きはしませんでしたね。「そろそろです」という前振りを1年前くらいからじわじわといただいていて、ある日「お願いします」と言われまして……。自分がゲームに初めて関わった作品ですし、思い入れがとてもあった作品ですので、うれしかったですね。同時に、『零 ~眞紅の蝶~』はリファインされ、バージョンアップされたものだと思いますが、根底にあるところは同じだろうなという意識が私にはあったので、一度作ったものをもう1回作るというのはすごく難しかったです。私としては『蝶』で完結していましたから。

柴田 先ほど『箱庭』という歌の話をしましたけれど、その曲と同じ世界を5年後に『ウタカタ』という曲で書かれていて。"同じ世界でもう1曲作る"という経験を天野さんはされているので、もう1回『紅い蝶』を天野さんが作ったらどうなるんだろうという期待感がありました。

天野 なかなか突破口が見えず、どうすればいいのかなと悩んでいたころに「姉妹ソングを書けばいいんですよ」というヒントをいただいて、そこから光が見えた感じでしたね。

柴田 お互いの曲がお互いを補完する関係でもいいんじゃないかな、とお話ししたんですよね。

――『蝶』から引き継ぐ部分、壊す部分というのではなく、『蝶』の妹として『くれなゐ』が生まれたということですね。
天野 そうですね。"姉妹ソング"という話が出たあとは、まっすぐそこへ向かっていけましたね。

――『くれなゐ』も曲名を最初に決めてから楽曲を作られたのでしょうか?
天野 話を聞いたときは『眞紅の蝶』というタイトルは聞いていなくて、『紅い蝶』だと思っていたんです。"蝶"という単語は1度使っているので"紅い"という単語を、と思って。ひらがなで"くれない"にすると「~してくれない?」というニュアンスが入ってしまうので、旧字体の"ゐ"を用いました。対となるなら曲名は『くれなゐ』しかないと思って。

柴田 2曲で『紅い蝶』になるという……。

天野 最初に言ってくれれば『眞紅』にしたのにな(笑)。

柴田 そのときはまだはっきりとタイトルが決まっていなかったので……(笑)。

――対となる部分で意識されたところは?
天野 視点です。『蝶』は、飛んでいるほうが歌の主人公で、傷ついた羽で無様に飛んでいるほうの視点だったので。じゃあ、『くれなゐ』ではちぎれて身体から離れたほうの歌にしようかなと。

――なるほど。天野さんの歌詞は哲学的な印象を受けますが、世界観を彩る歌詞の源泉はどこにあるのですか?
天野 ぜんぜんわからないですね。自分では独特だとも思っていないので。

柴田 夢からヒントを得たりすることはありますか?

天野 夢自体あんまり見ないですし、見ても幸せな夢ばかりですね。

柴田 そうなんですね。僕は怖い夢をよく見るのですが、『紅い蝶』のストーリーも、ひと晩で見た夢を形にしたものなんです。夢の中では自分は観客として物語を見ているので、「エンディングはどうなるんだろう?」と客観的な視点に立っていて。タイトルの意味とか、伏線をどうやって回収するのかなと思っていたり。

天野 あれは夢で見たストーリーだったんですか?

柴田 天野さんは夢で曲を作って、それを実際に書き起こした経験などはないですか?

天野 私は夢の内容はほとんど覚えていないので……。あ、ライブ前に「会場でお客さんがゼロ」という夢を見た記憶はあります(笑)。

柴田 それは緊張しているからじゃないですか?

天野 緊張しているか、「練習しろ」という神様からの警告かもしれませんね。

柴田 もう少し夢の話をすると、夢では勝手に行動できないので、右側のマップを夢で見てないから、右に曲がりたいのに曲がれないということがあったんです。そのため、ゲームを作っているときも「右側のマップは夢で見ていないから、作るのはもうちょっと待って」とお願いしたり。

天野 屋敷に入るときも最初は左に曲がりますもんね。そういえば、『箱庭』という曲を作った後で 箱庭療法を体験しに行ったんですけれど、人の潜在意識的に、右奥にあるものはいちばん大事なものらしいですよ。

柴田 じゃあ無意識に「大事なもの」を避けていたんですかね。ゲームでも右側には樹月の蔵がありますから。

――(笑)。お話を戻しますが、曲作りで好きなものから影響を受けることはありますか?
天野 それはありますね。ひょっとすると、何からでも影響を受けるから、私の歌にはいろいろなものが混じっているのかもしれません。かたくなに何からでも影響を受けたくない、というタイプではないので。

柴田 もともと『零』と『箱庭』が符合するところがあったので、どこから歌詞が出てくるのかな、というのがすごく気になっていたんです。

天野 テーマありきで書いていまして、『箱庭』の場合は"何かを終わるときは何かが始まり、何かを始めるときは何かが終わる"ということがテーマだったんです。いままさに箱庭を出る1歩、という歌になればいいなという思いがあって。たまに「歌詞が哲学的ですね」と言われることがあるんですけれど、物の見かたがそうなのかもしれないですね。着飾ったうわべではなくて着飾った中身、"着飾っている事象"ではなくて"着飾ることになった心情"を知りたいし、調べたい性格というか。

――天野さんは楽曲制作時、最初に歌詞を作られるのですか?
天野 最初は曲です。1パーツメロディーができたら、すぐに詞をつけて。ですから、1番ができたら2番は歌詞を書くだけになるので、1番さえ出来上がればもう完成したようなものだという気持ちが沸き起こったりはします(笑)。

柴田 そうだったんですね。詞と曲が非常に合っているので、どちらが先か、というのは僕もずっと気になっていました。

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――本作のテーマソング『くれなゐ』の聞きどころを教えていただけますか?
天野 弦楽器によるカルテット(四重奏)です。じつは『蝶』以降は、すべての曲を同じストリングスアレンジの方が携わってくださっているのですが、弦が『零』の世界を助長してくれている、と思っています。

柴田 最初のデモバージョンから弦が入っていましたよね。

天野 そうですね。あれから生音に差し換えていて。楽曲全体のアレンジャーも、「『零』っぽさ」を目指してアレンジしてくださっていますね。

柴田 『零』っぽいっていうのも不思議な話ですよね。

天野 柴田さんのオーダー上にある「死にたくなる感じ」というか(笑)。

柴田 自分はキャラクターに感情移入しているほうなので、ゲームを作っているうちに主人公と自分の区別がつかなくなるため、エンディングを飾る楽曲には「死にたくなる感じ」というものを求めてしまうんですよね。

天野 書いている私もどこかで死を想ってますからね。ドライに詞を書いているときもあるんですけれど、ちょっと入り込んじゃうと、疑似的にではありますが、相当暗い気持ちになったりもして。ゲームの曲作りに向かう前に、沈んだ気持ちの状態で、浮かんだ言葉をメモ書きしたことがあったのですが、あとで見返して怖くなりました。これは遺書か、と(笑)。

柴田 僕もよくやりますね。ぜんぜん憶えていないけれど思いつめた怖い言葉がメモしてあったり。しかも、寝ながらぼんやり思いついて、忘れないように携帯から会社のメールアドレスに送信し、つぎの日にメールを開いたら「なんだこれは!」と驚いたり。ひとりホラーですよね(笑)。ちなみに、天野さんは霊体験はありますか?

天野 私はまったくないですね。オバケが出ると言われるところへ行ってもまったく見えないですし。柴田さんのお話で忘れられないのが、道を歩いていたら霊の行列がいたという話ですね。

柴田 それは見えたわけじゃなくて、声だけが道幅いっぱいにやってきたんです。神社からやってきて、ぼそぼそと呟いているような。

――それは怖いですね(笑)。ところで、Wii用タイトルの『零 ~月蝕の仮面(つきはみのかめん)~』のときは、どのようなお話を経て楽曲を制作されたのですか?
天野 ジャイアントケルプの写真のみ、またしても「こんなにいらないよ」という量でたくさん送られてきました(笑)。エンディングは大きなわかめみたいなのが出てきて、その中に落ちます、と伝えられて(笑)。

――(笑)。『月蝕の仮面』はテーマソングとエンディングソングの2曲を手掛けられていますが、そのイメージをもとに2曲を作られたんですか?
天野 設定の文章と、その写真から作りました。

柴田 『月蝕の仮面』は、それ以前のシリーズとは感情の持っていきかたが違うんです。それまでのシリーズでは、主人公はストーリーが進むにつれてだんだんと自分の内面世界に入っていって、最後に待つ幽霊の感情とも絡んでリンクしていく……というものだったんです。でも、『月蝕の仮面』は主人公が複数いて、いろいろな視点があり、分担して感情を持っているんです。ですから、ほかのタイトルとはちょっと感情の盛り上がりが違うんですよね。

天野 設定の中でも主人公それぞれを覚えるのがたいへんでしたね。誰をピックアップすればいいのかな、と……。

柴田 そのため、天野さんから提供された曲も『零』シリーズ全体としての曲という雰囲気でしたね。シナリオ担当者がひとりではなかったこともあり、ゲーム中で感情がひとつに収束していかなかったので、これまでのテーマソングとは違った作りかたをされたと思います。

天野 まさしく『零』といゲームの全体のテーマソングとして『ゼロの調律』という曲を書きました。それとは別に、個別のものがほしいという依頼をいただき、『NOISE』を書いたんです。

柴田 曲がかっこよすぎて、どうしようかと思いました。

天野 和風じゃなくなってる、と思われたんじゃないですか(笑)。

柴田 それまではエンディングでテーマソングが流れていたのですが、エンディングまでいけなかった人は歌の感動を味わえないんじゃないかなと思って、オープニングで使わせていただいたんです。思いのほかかっこいいオープニングソングになってしまったので、これはエンディングソングもいるなと。

天野 確かに『ゼロの調律』はオープニングソングっぽいですね。

――シリーズを通じて天野さんがテーマソングを手掛けられていますが、ほかのゲームと大きく異なるのは、ゲーム中の物語との親和性が非常に高いという部分だと感じます。
天野  そう言っていただけるとうれしいですね。『零 ~刺青の聲(しせいのこえ)~』制作時のエピソードですが、私はゲームが発表される前に『刺青(いれずみ)』という曲を書いていたんです。読みかたは違うのですが、同じ語句だったので"刺青"という曲名はもう使えないなと思い、"聲"をテーマにしようと考えました。『刺青の聲』は主人公の女性、黒澤怜が恋人を交通事故で亡くしてしまうという物語が軸となるのですが、じつは私の友人に、実際に婚約者を亡くした方がいて。その友人のことを考えながら曲をイメージしていたのですが、亡くした人が生涯でいちばん好きな人かもしれないけれど、"もう誰も好きにならない"ってかたくなにならなくてもいいんじゃないかなと思ったんです。絶対に1ミリたりとも忘れたくない、その気持ちはわかるけれど、声くらいはおぼろげになってしまってもいいんじゃないかな、ということが根底にありました。だから、"忘れそう、忘れたくない"という曲にしようと思っていたんですけれど、柴田さんからは「ずっと忘れない、という曲を書いてほしい」と言われて。私は友人を見ていて「忘れまいと、ただかたくなにいることは幸せじゃない」と感じていたため、そうではない曲を書いたのですが……。結果として、意見が分かれた柴田さんと私のあいだに菊地さんが立ち、両者を「まあまあ」となだめて(笑)。

柴田 最初に楽曲をお願いした際、「じつはもう作っていました」ということを天野さんから言われたんですよ。

天野 ああ、そうでしたね。柴田さんから「曲はこんな感じで」と言われた時にはもう書き上げてたんでしたっけね(笑)

柴田 じつは、ゲームが完成してからそういった話になったので、ムービーの最後をつけ足したんです。そこがふたりの意見の中間だったんですね。僕はゲームに入り込んで、主人公の黒澤怜になりきって「忘れられないんです」と言っていたら、傍でドライな目で見ている天野さんに「いや、忘れてよ」と言われたような感覚でしたね。

天野 あとは最初に台本をいただいて、まだ曲を書いてもいないのに"ここからエンディングの前奏スタート"と書いてあって、「この曲には絶対に前奏が必要なようだ」と思ったり(笑)。

柴田 台本を書いている段階で、天野さんの『ライオン』という曲のイメージが頭の中にあったんです。『ライオン』は前奏があるので、そのままをイメージしてエンディングシーンを考えていました。『ライオン』も未練たっぷりの曲ですよね?

天野 いえ、音楽は、曲を受け取った人を映す鏡のようなものだと思っていて。『ライオン』は、男性には未練たっぷりの曲に聞こえるかもしれないのですが、女性には出発の曲に聞こえるんじゃないかというのが持論です。汽車を待つ君の横で時計を気にする僕、的な。

柴田 え!? そうなんですか? 心理テストみたいになってきた(笑)。

――柴田さんはいろいろな作品を手掛けられていますが、ここまでアーティストの方がゲームに対して共感を持っていただけるというのは、なかなかないですよね?
柴田 めずらしいですね。ゲームよりも歌のほうが感情が強いというのは、なかなかないと思います。「歌のほうが、ゲームが出そうとしている感情を超えてしまうのでは?」とさえ感じています。

天野 じつは、『零』の1作目をプレイした際、私は主人公の雛咲深紅に感情移入ができなかったんです。この子に感情移入できたら……と思い、感情移入ができる方向に持っていける可能性があるのが歌かな、と思いながら曲を書きました。

――お話を聞いていると、『零』1作目に天野さんが曲をつけたらどうなるんだろうと思います。
天野 どうでしょう。やっぱり『箱庭』のような曲が合いそうですよね。

柴田 うん。確かに合うんですけれど、『紅い蝶』ともかぶっているところがあるんですよね。

天野 やっぱり霧絵(『零』1作目の事件の核を成す霊)の気持ちになりますね。『蝶』は どちらかと言えば天倉繭のほうです。『紅い蝶』で思い出深いのは、天倉澪が「お姉ちゃんそこにいて」と言ったのに、繭がいなくなっているというのが多すぎてですね、お姉ちゃんが足手まといという印象が強かったですね(笑)。

柴田 崖から落ちた日を境に、お互いにわだかまりみたいなものがあったんです。そのわだかまりを皆神村で解消するという……。

天野 そういうお姉ちゃんを補足してあげたくなった、というのはありましたね。

『零 ~眞紅の蝶~』天野月×柴田誠スペシャル対談! 『蝶』から『くれなゐ』へ_07
『零 ~眞紅の蝶~』天野月×柴田誠スペシャル対談! 『蝶』から『くれなゐ』へ_08

――『眞紅の蝶』には新たなエンディングが追加されているというのはご存じですか?
天野 追加されるというのは聞いています。ただ、内容は教えていただいていません。『紅い蝶』のエンディングはいくつか知っていますけれど……。

柴田 『紅い蝶』はノーマルのエンディングと曲が非常にマッチしていたので、今回の曲『くれなゐ』にシーン、ストーリーを合わせるのが使命でした。

――『眞紅の蝶』を天野さんにプレイしてもらって感想を伺うのは楽しみですね。
柴田 楽しみですが、怖くもありますね。また「お姉ちゃんがジャマ」って言われるかも(笑)。

天野 『零』シリーズのファンの方って、世界はもちろん、キャラクターにも感情移入している人が多いと思うので、作るほうはたいへんだろうな、と思います。『眞紅の蝶』はキャラクターデザインも変わっているし、なかなかすぐに受け止められない人がいるかもしれませんね。そういえば、「胸が大きくなっている!」という意見をネット上で見ました(笑)。

柴田 それは任天堂さんが「もう少し大人びた感じのデザインに」という意向で作っていった結果です……。

天野 『紅い蝶』のときも衣装にこだわっていましたよね? 

柴田 そうですね。『眞紅の蝶』には、任天堂さんとのコラボレーションコスチュームとして、マリオとルイージの服も登場します。

天野 そうなんですね。それは楽しみです(笑)。これまでのシリーズでもそうでしたが、コスチュームチェンジできるという要素は私も好きですので。

柴田 天野さんにクリアーまで遊んでいただいて、さらにコスチュームチェンジも楽しんでいただければうれしいですね。

――では、最後に発売を楽しみにしているファンに向けてメッセージをお願いします。
柴田 『零 ~眞紅の蝶~』は、『紅い蝶』のストーリーをベースにゲームプレイをリニューアルしたゲームです。ゲームプレイの視点は『月蝕の仮面』と同じような三人称視点になっていますので、皆神村をうろつく臨場感が増していますし、いろいろな追加変更の要素もありますので、『紅い蝶』を遊んだ方でも新鮮な感覚で楽しめると思います。エンディングに流れるテーマソングの『くれなゐ』も堪能していただきたいですね。また、新たな要素として短い時間で手軽に和風ホラーを楽しめる"お化け屋敷"というモードを追加しています。こちらは操作も簡単になっていますので、アクションが苦手な方でも気軽に遊んでもらえると思います。いろいろ盛り込んだ、2012年のホラーゲームとして楽しんでいただける自信作に仕上がっていますので、ぜひご期待ください。

天野 ぜひエンディングまで進めて『くれなゐ』を聞いていただきたいです。じつは、現在『くれなゐ』を収録する『天の樹』(そらのき)というアルバムも現在作っています。『くれなゐ』は、『零』で私を知ってくれた人にも聴きやすいナンバーだと思うのですが、『天の樹』は、『くれなゐ』を含む楽曲ひとつひとつこそが大きな樹のひと枝なんだなと思ってもらえるような、色とりどりなアルバムです。サウンド的にロックなものや、サウンドではなくマインドがロックなもの、可愛らしい曲など、いろいろな雰囲気の曲を収録しています。ひさしぶりのフルアルバム、ドワンゴさんから7月25日に発売を予定しています。アルバム発売までのカウントダウンを盛り上げていこうと、いろいろ考えていますので、今後の動向も楽しみにしていてください。

(C)2012 Nintendo / コーエーテクモゲームス ※画面は開発中のものです。