コンプガチャとは?

 2012年5月5日付けの新聞で、「違法として消費者庁より問題視されている」との報道がなされた“コンプリートガチャ”、通称“コンプガチャ”。一部のソーシャルゲームなどで採用されていたアイテムデータ販売手法のひとつだが、テレビ、新聞などで連日報道されたことにより、いまやソーシャルゲームのプレイヤーでなくとも、多くの人が認知する言葉となった。その後、2012年7月1日より適用される景品表示法の運用基準改正により、コンプガチャが違法とされることとなったのは、多くの人が知る通りだ。
 しかし一連の報道では、コンプガチャのみならず、ソーシャルゲーム自体をネガティブなものとして扱う風潮もあり、必ずしも正しく理解されていない面もあるようだ。そこで、コンプガチャが問題視されるようになった経緯と、現在のソーシャルゲームが置かれている状況をまとめるとともに、識者の話からソーシャルゲーム業界の今後の展望を探っていく。
(※本記事は週刊ファミ通6月28日号に掲載されているものです)

最初の報道以降の経緯
◆5月5日 読売新聞朝刊に「コンプガチャは違法懸賞、消費者
 庁が中止要請へ」との報道が掲載
◆5月9日 消費者庁長官が「問題があると認識している」と発言
◆5月9日 ソーシャルゲームプラットフォーム連絡協議会の参
 加6社が、コンプガチャの新規リリースを中止し、現在運
 用中のものも5月中に終了することを発表
◆5月18日 消費者庁が景品表示法の運用基準改正案を示し、
 コンプガチャが違法となることを明確にすると表明
◆5月25日 ソーシャルゲームプラットフォーム連絡協議会
 が"コンプリートガチャガイドライン"を策定

“コンプガチャ”とは?

そもそも“ガチャ”とは、中に景品が入ったカプセルを販売する機器のこと。2006年ごろからPC用ブラウザゲームにおいて、このガチャ形式でアイテムなどを販売するケースが増え始め、現在では多くのソーシャルゲーム、ブラウザゲームなどで採用されている。コンプガチャは、ガチャの形態のひとつで、ガチャを引くとランダムで入手できるアイテムのうち、指定されたアイテムをすべて集める(=コンプリートする)と、レアアイテムをもらえる、という仕組みだ。コンプリートまでの過程や達成状況がわかりやすいことなどから人気を集め、ビンゴゲームのように異なる絵柄のカードを一列に揃えるとレアアイテムがもらえる“ビンゴガチャ”などの派生も生まれていた。

一連のコンプガチャ問題を追う 現在のソーシャルゲームが置かれている状況_03
※イラスト:森永ピザ

消費者庁の見解

 消費者庁が違法の疑いがあるとしたコンプガチャ。その“違法の疑いがある”との根拠になっているのは、景品表示法の“カード合わせ”に抵触するのでは、という見解だ。消費者庁の具体的な見解は、2012年5月18日に発表された、“「カード合わせ」に関する景品表示法上の考え方の公表及び景品表示法の運用基準の改正に関するパブリックコメントについて”と題された資料に詳しい。これによると、景品表示法では、懸賞による景品類の提供は、原則として景品などの最高額や総額によって制限されているが、例外として、懸賞景品制限告示第5項で「二以上の種類の文字、絵、符号等を表示した符票のうち、異なる種類の符票の特定組み合わせを提示させる方法を用いた懸賞による景品類の提供」は、景品類の最高額や総額にかかわらず、提供自体が禁止されているとしている。「コンプガチャは、異なる種類の符票の特定の組み合わせを提示させる方法に該当し、懸賞景品制限告示第5項で禁止される景品類の提供行為に当たる場合がある」(資料より)というのだ。それを受けて消費者庁では、“懸賞による景品類の提供に関する事項の制限”の運営基準の改正案を提出(詳細は下囲み記事を参照のこと)。実質的にコンプガチャを禁止する旨の基準を盛り込み、2012年7月1日より運用を開始することを明らかにした。

 “懸賞による景品類の提供に関する事項の制限”の運用基準(消費者庁が発表した改正案より抜粋)
 1~3(略)
4 告示第五項(カード合わせ)について
・ 次のような場合は、告示第五項のカード合わせの方法に当たる。
携帯電話ネットワークやインターネット上で提供されるゲームの中で、ゲームのプレーヤーに対してゲーム中で用いるアイテム等を、偶然性を利用して提供するアイテム等の種類が決まる方法によって有料で提供する場合であって、特定の数種類のアイテム等を全部揃えたプレーヤーに対して、例えばゲーム上で敵と戦うキャラクターや、プレーヤーの分身となるキャラクター(いわゆる「アバター」と呼ばれるもの)が仮想空間上で住む部屋を飾るためのアイテムなど、ゲーム上で使用することができる別のアイテム等を提供するとき。
・(略)
5~12(略)

※消費者庁ホームページ:「カード合わせ」に関する景品表示法(景品規制)上の考え方の公表及び景品表示法の運用基準の改正に関するパブリックコメントについて

ゲーム業界の対応

 消費者庁より、コンプガチャが問題視されているとの報道を受けてのメーカー各社の対応は、迅速だった。まず、2012年5月9日には、NHN Japan、グリー、サイバーエージェント、ディー・エヌ・エー、ドワンゴ、ミクシィのプラットフォーム事業者6社が、各社が提供しているすべてのコンプガチャに関し、新規にリリースするゲームについて中止する方針を決定。各社で現在運営しているソーシャルゲームのコンプガチャについても、2012年5月31日までに終了すると発表。さらに、KONAMIやセガ、バンダイナムコゲームスなどの各社も、同様の対応を取ることを明確にした。そして、5月25日に、プラットフォーム事業者6社で構成されるソーシャルゲームプラットフォーム連絡協議会は、"コンプリートガチャガイドライン"を策定。2012年6月1日より運用を開始するとした。さらに、プラットフォーム事業者6社は、「より安心、安全に楽しめる環境の維持と向上を図るため」(リリースより)、事業者全体による自主的な取り組みを強化していくとしている。

 コンプリートガチャガイドライン(一部抜粋)
 (コンプガチャの禁止)
第3条
プラットフォーム事業者は、その運営するプラットフォームにおいて、その開発・運営の主体が自社であるかその他のソーシャルゲーム提供事業者かであるかを問わず、コンプガチャを利用者に提供してはならない。

(公開停止等)
第4条
プラットフォーム事業者は、自らが運営するプラットフォームにおいて、前条に定める禁止行為を認めた場合、当該行為をすみやかに是正するものとする。当該 禁止行為がプラットフォーム提供事業者以外の者による場合、当該事業者に是正を指示するものとし、是正が行われない場合は、当該ソーシャルゲームの公開停 止等、利用者による当該ソーシャルゲームの利用を制限するために必要な措置を講じるものとする。

“コンプガチャ問題”の本質とは? コンプライアンス(法令遵守)の専門家に聞く

 新聞報道に端を発し、社会の大きな注目を集めたコンプガチャ問題だが、メーカー各社の迅速な対応により、事態は収束に向かっている。しかし、そもそも今回消費者庁が動いた理由とは? またゲーム業界は、将来に向けてどう対応していくべきなのか? コンプライアンス(法令遵守)問題に詳しい、弁護士の郷原信郎氏に聞いた。

一連のコンプガチャ問題を追う 現在のソーシャルゲームが置かれている状況_02

郷原総合コンプライアンス法律事務所
郷原信郎氏

東京大学理学部を卒業し、1983年に検事任官。公正取引委員会事務局審査部付検事、東京地検検事、広島地検特別刑事部長、長崎地検次席検事などを経たのち、2006年に検事を退官し、郷原総合法律事務所を開設。2009年より総務省顧問・コンプライアンス室長を務める。

――今回のコンプガチャ問題について、どのようにお考えですか?
郷原信郎氏(以下、郷原) 経緯としては、ソーシャルゲームにおいて、子どもが多額な課金をしてしまったり、大人も高額な請求を受けているということがマスコミで報じられるようになり、それに対して消費者庁が動いた形ですね。

――やはり、きっかけとなったのは、新聞報道なのでしょうか?
郷原 そうでしょうね。消費者庁としては、消費者に被害があると言われれば、何か動かざるを得ませんから。

――今回の決定は、法改正ではなく、運用基準の改正ですね。その結果として違法となった、ということなのでしょうか。
郷原 そこは非常に微妙なんです。今回、運用基準が改正されたことで初めて違法になったのか。それとも、その前から違法だったけれど、運用基準の改正によってそれがより明確になったのか。何とも言えませんね。

――そこは明確に示されていないということですか?
郷原 ええ。いきなり、以前から景品表示法違反であったとしてしまうと、どこまでも遡って違法ということになってしまう。消費者庁としては、それでは業界に対する影響が大きすぎると考えて、運用基準の改正という形にしたのでしょう。ただし、消費者庁には、いままでが違法だったか否かを決める権限はありませんし、仮に訴訟に持ち込まれた場合、最終的には裁判所の判断になります。

――大半のゲーム会社は、消費者庁からの通達が出る前に、自主的にコンプガチャ中止を決定しました。これをどう評価されますか?
郷原 業界にはソーシャルゲームプラットフォーム連絡協議会という団体があり、ここでは今年の4月から対策を講じてきていたんです。私は、総務省の顧問も務めていますが、ソーシャルゲーム業界を所管する総務省としては、業界が自主的によい方向に向かう努力をするのであれば、その後押しをしようとするスタンスだったのだと思います。消費者庁のように、“違法”として取り締まるという姿とは違います。「違反だから」、「制裁を受けるから」という考えかたではだめ。ソーシャルゲームというバーチャルな空間を通じて、人と人との交流を育むというのが、彼らが実現しようとしている社会的価値だと思いますが、その一方で、射幸心を煽って、過度な課金などの弊害を社会にもたらしているのだとすれば、業者側が自主的にそういう弊害を除去するように、事業のありかたを見直すべきです。

――なるほど。企業活動は、法に従ってさえいればいいというものではない、というわけですね。
郷原 コンプガチャが景品表示法違反になるのかという点にも、微妙な問題はあるんです。景品表示法のもともとの規定として、“景品”というのは、経済上の利益があるものを指しています。そして、賞状やトロフィーのような、個人の名誉を表彰するものは含まれないという規定があります。多くのコンプガチャにおける“強いカード”なども、経済上の利益というよりは、個人の名誉欲を満足させるもので、トロフィーなどに近く、景品表示法の問題ではないのではないか。さらに言えば、ネット空間での情報のやり取りを中心とする世界は、“物”のやり取りを前提とする伝統的な法体系では想定されていなかった。そのため、この問題に限らず、ネット社会の問題においては、現行の法体系ではついていけない事例も多いんです。でも、だからといって、法の網の抜け道を突くようなやりかたでは、社会の支持は得られないでしょう。ソーシャルゲームの実情をいちばんよくわかっている業界自身が、どれだけそういった努力をしていくのか。ゲームを通じて、社会の要請に応えることはどういうことなのかを考える。そういう考えかたをしていくのが、正しいコンプライアンス対応だと思います。