週刊ファミ通のニュースページ“エクスプレス”で連載中のゲームに関連した著名人へのインタビューコーナー“Face”。誌面スペースの都合などからカットした部分を網羅した完全版をファミ通.comでお届け。今回のゲストは、映画監督の押井守さんです。

押井守:『重鉄騎』【週刊ファミ通Face完全版】_04

今週のお題
重鉄騎
Xbox360 カプコン 2012年6月21日発売予定 7990円[税込]
※限定版は35000円[税込]

Kinect(キネクト)とコントローラを使い、二足歩行の兵器“鉄騎”を操って戦うドラマティック戦場体験ゲーム。アジアの大国を中心とする国連軍が統治する世界で、自由と正義を取り戻すため、アメリカ軍に所属して戦う主人公パワーズと戦仲間の絆が描かれる。ひとりでのプレイはもちろん、最大4人まで参加できるオンライン協力プレイも楽しめる。


映画の予告編のつもりで作りました

押井守:『重鉄騎』【週刊ファミ通Face完全版】_03
映画監督
押井守(おしい まもる)

1951年生まれ。『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』、『イノセンス』、『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』 など、多数のアニメ映画を手がける。また、『アヴァロン』や『ASSAULT GIRLS』などの実写映画の制作も行っているほか、小説家や脚本家としても活躍している。

 専用コントローラを用い、二足歩行兵器“鉄騎”を操作するという独特なゲームシステムで話題を呼んだXbox用ソフト『鉄騎』。その『鉄騎』の流れを汲む新作が、2012年6月21日に発売されるXbox 360用ソフト『重鉄騎』だ。本作には、Kinectとコントローラの両方を用いて鉄騎を操るという、前作とはまた違う新しいシステムが搭載されている。今回のゲストは、本作のイメージトレーラーを手がけた押井守監督。トレーラーの撮影秘話や、こだわった点を聞いた。

――押井監督が手がけた、『重鉄騎』イメージトレーラーのコンセプトを教えていただけますか?
押井 最初に、カプコンさんが作ったトレーラーをいくつか見させていただいたんですが、それらは俯瞰的な、世界観を説明する内容だったんですよね。そうではなくて、その尺の中でリアルタイムに進行するトレーラーを作ったらおもしろいんじゃないか……そう考えました。また、『重鉄騎』は、鉄騎の中のドラマと、鉄騎の外の戦場のドラマを往復するゲームだと聞きまして。外側はこれまでのトレーラーでも描かれているから、じゃあ僕は鉄騎の中の人間模様をメインに描こう、と決めました。鉄騎の中は、実物の戦車の中を撮影して表現し、外はCGで表現すれば、いままでのトレーラーとは違うものになるとも思いましたし。

――ポーランドでロケを行ったとのことですが、なぜポーランドを選んだのですか?
押井 コンピュータが機能しない、アナログな世界の物語だと聞いたので、撮影に使う戦車もアナログなものがよいなと思いまして。現代の戦車はとても清潔で、コンピュータのモニターがあって、油の匂いがしてこないんですよ。そうではなくて、メーターがごろごろあって、油の匂いがしてくるような、そんな戦車がいいと思って探したところ、T-55という冷戦時代の戦車がポーランドにあるとわかったんです。そこで、ポーランドで撮影することに決めました。役者の方々も、ポーランドでオーディションを行って選んだんです。

――トレーラーでは、どんな物語が展開するのですか?
押井 主人公は、国連軍に占領されたポーランドから亡命してきた女性です。アメリカ軍に入って戦車長を務めている彼女を巡る、ちょっとしたドラマを描いています。短い尺とはいえ、作品である以上、ドラマには芯となるものが必要なんです。なんとなくワーワー撃ち合っているだけでは何にもならない。そこで、“異国から亡命してきた女性”を芯にすることにしました。昔から、亡命者が亡命した国の軍で戦うケースはよくあるんです。第二次世界大戦中も、ポーランドから亡命した兵士が、イギリス空軍に入って、スピットファイアに乗って戦うという例もありました。そこからアイデアを拝借しました。

――では、ポーランドから亡命してきた彼女を巡って、どんな事件が起こるのでしょうか。
押井 ポーランド語でわめいている彼女を、仲間たちは「疫病神なんじゃないか」と考えます。そして、激戦区に送り込まれた彼らは、あっけなくやられてしまうんです。

――倒されてしまうのですか。
押井 よくあるゲームでは、主人公たちは都合よく勝ちますけど、『重鉄騎』はリアルを追求しているゲームだと思うんですよね。さっき少しプレイさせていただいたんですけど、あっという間にやられちゃいましたし(笑)。ウロウロしていたらあっという間にやられる、それが戦場のリアルなんです。ですので、このトレーラーでもそのリアルを表現しました。ただ、"全員死んでしまった"だけではただのゲームオーバーでしかないので、ちょっと違う結末を用意しています。

押井守:『重鉄騎』【週刊ファミ通Face完全版】_02

――撮影はどのように行われたのですか?
押井 早朝から日暮れまで撮影しましたね。日暮れまでに終わらせなければならなかった。照明を使えば夜でも撮影できると思ったんですが、戦車の中が狭くてふつうの照明が入らないんですよ。日が暮れてしまったら真っ暗になって、撮影ができない。

――戦車の中はそんなに狭いのですね。
押井 はい。ですので、ふつうの照明は使わず、LED照明だけで撮影しました。結果的に、いい雰囲気が出たかな、と思いますけどね。とにかく、戦車に潜り込んで撮影するのは予想以上にたいへんでした。1回の撮影につき、役者ひとりとカメラマンひとりしか入れない狭さだったので、役者さんひとりずつ順番に撮影していきました。僕は外でモニターを見ながら指示をして。変則的な撮影でしたね。

――撮影中、とくに苦労した点はどこですか?
押井 女優さんが50口径の機関砲を撃つシーンがあるのですが、彼女を説得するのに時間がかかりましたね。「空砲を使うのでぜったいに安全だから」とお願いしました。承諾を得た後も苦労しましたね……空砲って、実弾を撃つより難しいんですよ。でも、機関砲を女優さんに撃ってもらうなんて、海外でロケを行わなければ絶対にムリなので、どうしてもやりたかったんです。CGで合成しても本物に負けてしまいますし、撃っている人間の表情は再現できないですから。

――時間に限りがある中でひとりずつ撮影し、機関砲を撃ち……と、かなりハードなスケジュールを乗り切られたのですね。
押井 たいへんでしたが、どのみち夕方までには終わらせたいと思っていたんです。撮影が終わった後に、戦車に乗って遊ぶ時間を確保したかったので。というか、ロケの目的の半分ぐらいが、戦車で遊ぶことでしたね(笑)。

――(笑)。皆さん、戦車での遊びは楽しまれましたか?
押井 みんな大はしゃぎでしたね。戦車に鈴なりに乗っかって。かつて演習場だったところで撮影したのですが、アップダウンの激しいスリリングなコースで、けっこう怖かったです。振り落とされないよう、みんな必死でしがみついていました。僕は早々にハッチの中に入りましたけどね(笑)。

押井守:『重鉄騎』【週刊ファミ通Face完全版】_01

――(笑)。ところで、先ほど『重鉄騎』をプレイしたとおっしゃっていましたが、実際に遊んでみての感想を教えていただけますか?
押井 Kinectでプレイするのに最初は戸惑いがあったんだけど、15分くらいトレーニングしたら、楽しさがわかってきましたね。あっという間にやられてしまうので、熟練を要しますが。

――Kinectを使うことで、実際に自分がコックピットの中にいるような臨場感が味わえますよね。
押井 そうですね。部屋を暗くして、モニターだけが光っているような状態で、天井が低い場所で遊ぶといいと思いますね。それから、Kinect自体にも興味が沸きました。いまは、振る、握るといったオーソドックスな操作が中心ですが、もっと微妙な操作までできるようになったら、将来どうなるのかな、と気になります。

――これから先、思いもよらない操作方法が生まれるかもしれませんね。それでは、最後にメッセージをお願いします。
押井 今回のトレーラーは、映画の予告編だと思って観ていただけるとうれしいです。「この映画が見たい」と100万人の方がおっしゃってくれれば、本物の映画にできるかもしれません。ぜひ僕に戦車の映画を作らせてください(笑)。

▲押井監督が手掛けたトレーラーの予告編。なお、本作の公式サイトには、“『重鉄騎』×映画監督押井守 特別企画”が掲載されているので、こちらもチェックしよう。