一年戦争の裏側に迫る

“機動戦士ガンダムU.C.HARD GRAPH”から生まれた小説・コミックの発売記念トークイベントが開催_01

 かつてはガンプラのモデラー集団“ストリームベース”の一員であり、『モデルグラフィックス』の誌上連載“ガンダム・センチネル”のフォトストーリーの小説パートを担当した高橋昌也氏と、模型雑誌『モデルグラフィックス』、ミリタリー模型専門誌『アーマーモデリング』の編集者だった吉祥寺怪人氏。その両氏による、架空戦記小説、『機動戦士ガンダムU.C.ハードグラフ[小説] 地球連邦軍編』(著:高橋昌也氏)と、『機動戦士ガンダムU.C.ハードグラフ[小説] ジオン公国軍編』(著:吉祥寺怪人氏)がエンターブレインより、夏元雅人氏によるコミックス『機動戦士ガンダムU.C.HARD GRAPH 鉄の駻馬(1)』が角川書店より2012年5月26日刊行された。この3冊同時刊行を記念して、2012年6月3日(日)に新宿ロフトプラスワンにてトークイベント“機動戦士ガンダムU.C.HARDGRAPH プラスワン”が開催された。

 イベント当日は高橋昌也氏、吉祥寺怪人氏、夏元雅人氏ら作家陣が、“U.C.HARD GRAPH”のディレクター・今西隆志氏や、同クリエイターら豪華ゲストを迎え、熱くマニアックなガンダムトークをくり広げた。

 “U.C.HARD GRAPH”シリーズとは、『機動戦士ガンダム』の舞台、宇宙世紀を実在した人間の戦いとして再解釈し、史実とも比肩すべきイマジネーションの提供に挑戦するサンライズ×バンダイホビー事業部のプロジェクト。『機動戦士ガンダムU.C.ハードグラフ[小説] 地球連邦軍編』と、『機動戦士ガンダムU.C.ハードグラフ[小説] ジオン公国軍編』の2冊は、一年戦争を振り返って30年後の世界に出版された、という設定で、前者はハイト・M・ブリッジスの、後者はグリューネ・アプリルというキャラクターからの視点で非公開とされた事実が明らかにされるという作りだ。

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『機動戦士ガンダムU.C.ハードグラフ[小説] 地球連邦軍編』の著者:高橋昌也氏。
『機動戦士ガンダムU.C.ハードグラフ[小説] ジオン公国軍編』の著者であり、本トークイベントで進行役を務めた吉祥寺怪人氏。
コミックス『機動戦士ガンダムU.C.HARD GRAPH 鉄の駻馬(1)』の著者:夏元雅人氏。
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当初は歌舞伎町にザクが登場するといった構想も

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 トークイベントでは吉祥寺怪人氏を進行役に、高橋昌也氏、夏元雅人氏により、今回のそれぞれの著書についてのトークが実施された。

 高橋氏は、今回の著書では戦争らしい“リアリティ”を追求するため、ガンダムは“連邦の白いヤツ”、ホワイトベースは“連邦の木馬”といったセリフで示していたリアリティを復活(実際の戦争では、戦闘中、相手側の兵器の固有名詞がわからないことが多いため)。戦場のリアルな空気感がひしひしと伝わる描写については、高橋氏自身の父親の戦争体験談などを参考にしたということも明かされた。また、本書の裏話として、当初は短編集にするつもりで構想を練っていたため、歌舞伎町にザクが登場する、といった驚きのエピソードも構想に入れていたという。だが、諸事情で1本の物語に変更し、アメリカを舞台にハイト・M・ブリッジスという人物の視点で、描くことに。「(ジオン公国軍の地球降下作戦が大きなテーマの作品なので)ハリウッド的な宇宙侵略モノを想定していたんですが、執筆の間、『世界侵略:ロサンゼルス決戦』などが公開され、ヤバイなと思いました(笑)」と、焦りを覚えたという高橋氏だが、「逆に狙いどころは正しかった」と確信を持って筆を進めることができたと述べた。書き上げた『地球連邦軍編』を振り返って高橋氏は、「30~50代の中間管理職の方にはわかっていただける部分が多いのかなと思います」とアピールした。
 
 一方、吉祥寺怪人氏は、当初編集者側で携わるつもりで、連邦側の著者に高橋氏を推し、ジオン公国側は……と考えたときに、高橋氏から勧めで執筆に挑戦することになったという。執筆にあたり、コロニー生まれの公国兵たちが地球環境をどう捉えているのかといった『ガンダム』の映像作品で描かれなかった裏側に焦点を当てたというが、些細なアイデアでも既出である場合が多く、その隙間を探すことに苦労したという。また、初めて小説を書く立場になり、いろいろと悩んだとのことだが、出渕裕氏(『機動警察パトレイバー』のメカニックデザインや『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』νガンダムなどモビルスーツのデザインなどを手掛けたことで知られる。“U.C.HARD GRAPH”のクリエイターに名を連ねている)から「とにかく書き上げることだ」とのアドバイスを励みに、何とか書き上げることができたという。「小説を書くというのは最初で最後かもしれないと思いまして、自分の経験を相当盛り込んでしまってかなり(自分にとっては)ナイーブで恥ずかしいものになってしまいしたが、ぜひご購読していただければと思います」(吉祥寺)

 “U.C.HARD GRAPH”という設定を絵にしたい、という衝動からコミックの執筆に携わることになった夏元雅人氏。モチーフとなっている話は第14話の『時間よ、とまれ』だが、この話を選択したことについては「テレビ放送は私が小学4年生のころスタートしたんですけれど、14話の物語の冒頭でジオン兵がシャツを着て歯を磨いているシーンを見て、“『ガンダム』は連邦とジオンの兵士たちの戦いを描いている”という部分に衝撃を受け、それが強烈にアタマに残っていたんです」(夏元)と、その理由を語った。また、絵を起こすに当たり、「『ガンダム』の長い歴史の中で、同じ“地球連邦軍61式戦車”でもデザインの変遷があり、どの年代のデザインを絵にしたらいいのか悩んだ」(夏元)という。これについては、さまざまなリアリティを取り入れたいま現在のデザインに統一することで、整合性を保つことにしたという。さらに、「U.C.HARD GRAPH用に描き直されたデザインの数々は、どれも兵器としての現実味を追求したものばかりで、描くのはたいへんではあるんですが(笑)、そこには戦場で活躍する人々の存在がはっきりと感じられて、描き甲斐があります。『機動戦士ガンダムU.C.HARD GRAPH 鉄の駻馬』はガンダムAで連載していますので、今後とも応援よろしくお願いします」(夏元)

 『機動戦士ガンダム』の舞台、“宇宙世紀”を実在した人間の戦いとして再解釈した“U.C.HARD GRAPH”の世界観。それを各々の解釈により書籍化した、『機動戦士ガンダムU.C.ハードグラフ[小説] 地球連邦軍編』と『機動戦士ガンダムU.C.ハードグラフ[小説] ジオン公国軍編』、コミカライズ化した『機動戦士ガンダムU.C.HARD GRAPH 鉄の駻馬(1)』の3冊。この3冊をより深く楽しみたい人は、人物を中心にしたドラマ作りが可能な35分の1スケールの“U.C.HARD GRAPH”プラモデルにも挑戦してみてはいかがだろうか。
 
 最後に簡単ではあるが“U.C.HARD GRAPH”プラモデルの開発秘話に触れておこう。本シリーズはフィギュアを中心としたプラモデルシリーズであるため、48分の1だと小さく、24分の1だと(周辺アイテムなどが)大きくなり過ぎるため、35分の1スケールに決定されたという。“ガンプラ”といえば、いまや接着剤や塗装がほぼ必要とされないプラモデルだが、“U.C.HARD GRAPH”シリーズはそうなってはいない。これは、模型が本来から持っている作り込む楽しみを再発見してもらいたい、という意向もあるという。周辺メカの内部もしっかりと再現されているため、破壊されたメカといったシチュエーションもリアルに再現でき(トークでは「壊してもらってナンボ」との発言も)、作り手がいろいろアレンジできる、ミリタリーキット風に楽しめる作りも魅力だ。“U.C.HARD GRAPH”シリーズのラインアップは今後も増えていくとのことだが、トークイベントでは、「スケールの違うシリーズやラジコンなども欲しい」と言った意見も。今後のラインアップのさらなる充実を期待したい。

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