ヴィジュアルワークスとのタッグで生まれた、一般のゲーマーも楽しめるデモ

 スクウェア・エニックスが、米時間の2012年6月5日にE3会場でカンファレンスを開催し、開発中のゲームエンジン“ルミナス・スタジオ”での技術デモ“AGNI'S PHILOSOPHY(アグニズ・フィロソフィー)”を公開した。

 このデモは3分40秒ほどの長尺で、ルミナス・スタジオを開発しているテクノロジー推進部と、同社のCGムービーを手掛けるヴィジュアル ワークスの共同プロジェクトとして作られた。通常技術デモとは、Unreal Engine 3の“Samaritan Demo”のように、そのエンジンで実現可能な映像表現を見せることが主眼に置かれているが、本デモはファイナルファンタジーの世界観を取り入れ、一般のゲームファンでも楽しめる、ストーリー性も重要視したものとなっている。

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 話の流れを簡単に触れておくと、とある召喚獣を復活させようとする儀式に銃で武装した男たちが乱入し、倒れた司祭から何かを受け取った女の子(AGNI)が逃げていくのだが……という内容。もちろんこの設定が直接具体的なタイトルに繋がるわけではないのだが、現実的な銃や街などに、魔法や超科学が共存しているという設定はイマジネーションを刺激されておもしろい。

 もちろん各々のシーンをよく見ると、たとえばキャラクターたちの顔だけ取っても、そのアニメーションの豊かさや、シワ、ヒゲなどの描写の細かさ、表面下散乱シミュレーション(皮膚下で光が散らばる現象を再現する)など、技術的なポイントを見て取ることができる。
 そのほかにも、召喚の儀式で大量の光虫が集まり、召喚獣の肉体を形成していく場面では、10万前後の光虫が飛ぶというシミュレーションや、周囲のオブジェクトからの反射光が召喚獣の骨に当たってカラーブリーディング(ほんのり赤く照らされる)している様子、光虫が召喚獣の骨に取り付いて肉となっていく、ぶよぶよと変形する物体の表現を行なっているのが目を凝らすと見えてくる。

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▲顔まわりの表現をとくに注意して見てみてほしいとのこと。

 そういった、このデモの多義的な性格がもっとも現れているのは、追っ手に追われたAGNIが銃創を癒すために、たまたま見つけた清涼飲料水にケアルをかけて、ポーションに変えるというシーン。清涼飲料水に魔法をかけて薬に変えて治療するという話の引きにもなっていて、ここでケアルを使ってポーションに変えているということを知れば「この世界ではそういう設定なのか」と解釈の面白みもある。
 技術的には、画面奥から手前へとピントが移ってくる過程でのボケ表現や、瓶で歪む透過光の処理、魔法をかけられて液体が光りだすエフェクト、ポーションを傷口にかけて沸き立つ煙やポーションの流体表現、残ったポーションをクチに含んで吐き出す際の顔のアニメーションなど盛りだくさんで、まさに見る人によって注目する場所やシーンの意味合い、感想が変わってくるのだ。
 技術を知っていれば「おぉ」と思うし、知らなくてもそれらの技術の恩恵を受けたリアルで印象的な画面を見て「なんかすげー!」と思ってもいい。この点は本デモが持つ豊かさでもあるだろう。

カメラが動いた瞬間の衝撃! 当たり前だけど本当にリアルタイム

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 ファミ通.com編集部では、5月末日に先行して取材を行い、スクウェア・エニックスのCTO(最高技術責任者)で、ルミナス・スタジオ及びAgni’s Philosophyの開発を主導する橋本善久氏、ヴィジュアルワークス部でチーフ・クリエイティブ・ディレクターを務める野末武志氏、テクノロジー推進部でリードアーティストを務める岩田亮氏、同じくシニアR&Dエンジニアを務めるレミ・ドリアンコート氏、リードパイプラインエンジニアの岩崎浩氏らに話を聞いた。

 そしてPC上で操作できるデモを見せてもらったのだが、「それじゃカメラを動かしてみましょう」と、USBコントローラーを使って視点を動かしてもらった瞬間に、思わず「うおっ!」と叫んでしまった。もちろんプリレンダムービーではなくリアルタイムデモなのだから、当たり前と言ってしまえば当たり前なのだが、細部まで作り込まれた街が、カメラの角度・位置が変わってもそのままあるというのは驚きだ。

 デモはヴィジュアルワークスがまずプリレンダムービーとして作りこみを行い、データ類をルミナス・スタジオ内に持ち込んで、ハイエンドPCで動くようにしているという。デモ機はDirectX 11対応のWindows環境で動いていた。
 すべてリアルタイムに動作しているので、老人のヒゲの色や密度、生え具合などのパラメーターを変更すると、形状はもちろん、陰影などもすべて連動して変化していく。リアルタイムエディットが可能なのは重要で、アーティストが実際の画面を見ながら随時作業できるので調整に集中できるとか、プログラマーが一回設定を行なってしまえば、専門職以外でも自分のアイデアを試してみることができるといったメリットがある。
 こういった、本質的な作業に集中できることや、専門知識がなくても実際の画面を見ながらアイデアを試せること、トライアンドエラーをくり返せることなどは、Unreal EngineやCryEngineとも共通する、現代の統合型ゲームエンジンの長所そのものでもある。

インタビューで聞く、開発チームの意図と狙い

――技術デモというと、GDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス。世界からゲーム開発者が集まる国際会議)など技術系の集まりで公開されるイメージがありますが、なぜE3を選んだのでしょうか?
橋本善久氏(以下、橋本) 単純に技術デモを作ろうというだけなら公開してお見せするほどではないと思うのですが、今回しっかりと映像作品のレベルに持ってきました。それは、このゲームエンジンのポテンシャルをお見せしつつ、スクウェア・エニックスから将来出てくるゲームへの期待感を高めて欲しいからなんです。業界の皆さんはもちろん、ユーザーの皆さんも含めて、広い層に見ていただくならGDCよりE3だろう、ということでターゲットにしました。
――スクウェア・エニックスのゲームには、将来こういう技術・表現が入ってくるぞと。
橋本 そうですね。こういうクオリティーのゲームを出すぞ、という基準として見ていただければと思います。
 これはあくまで映像作品で、(直接具体的なゲームに発展していくわけではない)閉じたものですが、すでに今後に役立つさまざまな経験やノウハウを得られています。こういうクオリティーのものを作るのにどういったアセット(素材)が必要なのか、ヴィジュアルワークスでいろいろと高品質なプリレンダのデータを作って、そのノウハウを活かした上で、どうリアルタイム(の画面・処理)に落とし込むかを、ちゃんと噛み砕いて着地させています。我々自身としては、この部分が重要でしたね。
 未来の作品に繋げるためにも、中途半端なものを作るのでは将来を想定した技術の検証にならないので、トリプルA(最上級)クラスのしっかりしたクオリティーのものを作ることで、はじめてゲームエンジンを鍛えられるだろうという考えがあって、かなりしっかりと作りました。
――ヴィジュアルワークスさんとかなり密接に協力されたそうですね。
橋本 プロットや設定から、ヴィジュアルワークスの野末さんと、テクノロジー推進部の岩田と3人であぁだこうだ決めていって、細かいプロットやストーリーラインは野末さんのほうで構成していただいて、こういう作品ができあがりました。
――めちゃくちゃかっこよかったです!
橋本 良かった(笑)。だんだんプロットが出来てきて、物量が大変だねと言いながら作業していたんですよ。
野末武志氏(以下、野末) ヴィジュアルワークスも今回かなり本気にガチンコでアセットなどを作っています。普通の『ファイナルファンタジー』シリーズと同等クラスのレベルですね。

――協力することで、スクウェア・エニックスで出来ることを見せよう、という意気込みなどはありましたか?
野末 そうですね。もともとリアルタイムの世界にも興味があって、橋本とかなり前から意気投合して、いつか一緒にやりたいと言っていたんです。
橋本 前々からそういう話をしていましたね。それである時期に実際に始めることになりました。。

――リアルタイムで作ることの違いなどはありましたか?
野末 いままさに作業をしていて、ヴィジュアルワークスのメンバーがルミナス・スタジオを使って、ライティングの調整などをしているのですが、ちょっと異次元の体験ですね。スピード感が違います。ムービーだと設定を変えてサーバーでレンダリングするのに2~3時間待つんですが……。
――コーヒーでも飲むかって感じですね。
野末 コーヒーどころか食事行こうかというレベルですが、リアルタイムは結果が出るのは瞬時ですし、チェックのタイミングも20倍くらい早くて、すぐに「できましたチェックしてください」と(笑)。
――作りかたの概念が変わると。
野末 大きく変わっていくと思います。そこは上手く取り入れていきたいですね。

――使っていて、「こういったツールが欲しい」とか、「こういった機能が欲しい」といったフィードバックを出すことは?
野末 そうですね。最初に「こういったものは入れたいね」と話し合いもしたのですが、作っているとどうしても「こういうのを見せたい」といった欲求が出てくるので、そういった場合はプログラマーの方と話をしています。
橋本 ヴィジュアルワークスからアセットが出来あがってきて、作業に入ってもらう前に準備期間がありまして、岩田が主人公のデザインなども手掛けているのですが、それと同時にパイプライン
――どんなデータをどういう形式・順番で取り込んでいくのか、どういうインターフェースで作業をするのかといった設計・ナビゲートをやってくれていたので、ヴィジュアルワークスクラスの絵を持ち込むためのフローを構築をすることができました。その上で現在調整作業をしているのですが、自分たちもびっくりするペースでクオリティーが上がっています。

――ちなみにエンジン自体で、“Version1”と呼べるようなポイントがあると思うのですが、そこで実現したいことに対して、現時点での進行度などはいかがでしょうか?
橋本 開発スケジュールや進行度などを細かくお話するのは難しいですが、順調には進んでいると思います。このデモもひとつの成果だと思いますし。Version1と呼べるものにそう遠くないタイミングで着地させてリリースしたいと思っています。そのときは、一般的なゲームエンジンが持っているであろう機能、グラフィックス、アニメーションのシステムとそれに対するアニメーショングラフ、ビジュアル的にエディットできるものですね、それとワールドエディター(レベルエディター)などのツール、アセットの管理機構であったり、基本的なセットはそのタイミングまでに用意されています。ただ、そこでとどまるわけではなく、AIやサウンド・オーディオ系など、広い範囲でそれぞれを丁寧に構築していこうと考えています。

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▲ほかの多くの現代的なゲームエンジンと同様、視覚的にエディットが可能なツールを持っている。

――ゲームエンジンはやはり使う人があってのものだと思います。統合型のゲームエンジンの特徴はゲームの作りかたが劇的に変わることであり、それがまた注意しなくてはいけない部分だといった話もよく出ます。いまヴィジュアルワークスさんで使われた感想をお伺いしましたけども、ゲームの制作サイドからの反応を聞くことなどはありますか?
橋本 あります。ルミナス・スタジオはモダンなゲームエンジンになるので、UnityやUnreal Engineに近いカテゴリーに入ると思います。するととくに日本の業界のこれまでの作りかたからは、大分パラダイムシフトが起きる。人によってはよく知らないから漠然とした感じかもしれませんが、よく知っている人からすれば、期待が強いものになると思いますし、どのみち触ってもらって、納得してもらえるものにはなっていると思います。実際、ヴィジュアルワークスにもおもしろい体験をしてもらっていると思いますし。
野末 そうですね。
岩田 開発しているスタッフも、僕含めゲーム制作経験者が実際に使いながら作っていますので、自分自身がフィードバックをしながら、落とし込んでいっています。
橋本 テクノロジー推進部のスタンスとして、自分たちが第一顧客であるということを重要視しています。自分たちにとって問題であるものはすべて潰して、最高に使いやすいものにした上で、社内のほかのプロジェクトの人たちに気持ちよく使ってもらう。今回のデモも、その流れのひとつですね。こういうむちゃくちゃなハードルを設定した上で、それを乗り越えていくことで、新しい概念・作りかたを現実に使えるようにする。こうやって見せることで、社内から注目してもらえることもあると思うので、いろんな意味が込められています。

――こういうのが欲しかったというものを作ると。
岩田 バラバラにある技術を、こう使うことで、こう表現するんだよ、というのを自ら試して……一見バラバラに髪だけ、目だけの技術があるんですが、それを合わせて本当に一つのものになるのかも試してみたかったんです。ちゃんと出来あがったうえで、機能個々をあらためて見ていこうという感じですね。

――自分は、この手のデモは「ここはこういう技術が使われています」と、説明されて初めてやっとわかるんです。わかる人はシーンをパッと見て「ここだ!」というポイントがどこなのかすぐわかるじゃないですか。普通は「あぁキレイだな」と思ってしまうと考えるんですけども。
橋本 むしろそれでいいと思っていて、技術が余り匂わず、ナチュラルであることこそが技術デモの真の成功と思っています。一般の方には、ただの映像作品として見てもらいたいという思いが強いですね。その上で、「今までより何かキレイでかっこいいね」という感想を持ってもらえたらうれしいですね。
岩田 世界観をふつうに楽しんでもらいたいですね。
橋本 それで業界の人には、よく見るとポイント満載と(笑)。そんな感じですね。

――少し話が変わりますが、Unreal Engine 4の画像が公開されましたね。
橋本 弊社はライセンス契約していますので、GDCで見せていただく機会がありました。ツールを含めて大変すばらしいものでしたね。技術的なチャレンジもされていて、さすがだなと。
――刺激にはなりますか?
橋本 とても。間違いなく商用のゲームエンジンとして、これからも3から4へ、よりパワーアップして市場を作っていくのかなと思いました。

――負けたくないということはあるのでしょうか?
橋本 勝ち負けではなくて用途による物なのだと思います。スクウェア・エニックスとしては、社内プロジェクトでの使用を目的としたルミナス・エンジンを開発している一方で、今後もいろいろな外販のゲームエンジンを使い続けるものだと思うんですね。用途に対して合うものを使えばいいと思うんです。別にルミナス・スタジオをグループ全体で使うのがゴールではなく、必要に応じて使いわければいいかなと。
 その中で、とくに(ルミナス・スタジオが)社内でフィットするプロジェクトがあれば、そこでしっかりとやっていきたい。社内エンジンの強みとして、かゆいところにすごく手が届くのがいいところなので。ベースとしても大きく蓄積しているので、もちろん真剣にトップクオリティーのゲームを出せるよう支えていければと考えています。

――Unreal Engine 3を契約してきた実績などもあり、G2エンジンやCDCエンジンなど、グループの海外スタジオの持つゲームエンジンとはそれぞれ独立して開発されていると聞いていますが、そもそもなぜ日本で本エンジンの開発が始まったのでしょうか?
橋本 G2やCDCは大変優秀なエンジンなので、私達も出張して見たり、データをもらってきたり、情報交換を活発にやっているんですけれども、やっぱりそれぞれの開発文化があって、それにフィットしたものを作っているわけですね。そして東京スタジオには東京スタジオの文化がある。そこにマッチさせるには自分たちで作るのが一番いいですよね。そこで、最高品質のものを最高効率で作るためには独自にやるのがいいということでスタートしました。
 各スタジオが切磋琢磨していくのが最適なスタイルで、ひとつにしてしまうと進化が止まってしまうと思うんです。グループ内でワールドワイドに「こんなにすごいものを作った」というのを見せあうことで、みんなで上昇していける。それで『トゥームレイダー』とか『ヒットマン』とか『デウスエクス』とかで、互いに刺激を与えながらやっていくのが我々グループのスタイルです。
野末 実は今回のデモにも、デザイナーとしてクリスタル・ダイナミクスのアートディレクターのブライアン(・ホートン)がコンセプトアートで参加してくれていたり、『ファイナルファンタジーXIII-2』のアートディレクターの上国料とかも関わっていたりします。
橋本 (アートを見せながら)コンセプトアートが今回しっかりあって、ちゃんとキャラクターデザインして、これ(司祭)はクリスタル・ダイナミクスでデザインしてもらったり。この背景も『トゥームレイダー』チームに描いてもらってやっています。かなりプライベートに近い感じですね。
野末 お金はいらないからやらしてくれと、向こうが言ってくれて。
橋本 これは上国料が描いた最終シーンのアートで、外のアーティストさんに描いていただいたんですけども。社内でコラボレーションをしながら、みんなで一丸となろう、という意味合いもあるプロジェクトですね。

――ちなみにEPIC GamesでUnreal Engineの担当副社長を務めるマーク・レイン氏ですとか、Crytekで同じくゲームエンジン周りを担当しているカール・ジョーンズ氏などは「自分たちのエンジンはもう次世代機に対応するんだ」といったことを言っていますが、ルミナス・スタジオの場合はいかがですか?
橋本 我々のスタンスは、そのときにある選択肢になるべく広く対応していこうというものです。ハイエンドはもちろんメインターゲットですが、それこそスマートフォンなどにもこれから対応して幅を持たせていきますので、その中でもし次世代機が出てくるなら、そこにフィットさせていくという考えですね。
 そもそもハイエンドのプラットフォームというのが、ハードウェア以外にもクラウドゲーミングなどが入ってくる可能性だってあるでしょうし、自分たちを固定せずに柔軟に対応できるフレームワーク設計をしています。そしてその未来に対して自分たちを高めておくために、いま手に入る高スペックなPCで準備運動をしている状態ですね。
――(体を振って)どっちでも行けるぞと。
橋本 そういうことです。

――Unreal EngineのSamaritan Demoなどは、「これはプラットフォーマーへのラブレターなんだ、これぐらいは出来てくれないと困るんだ」というメッセージが込められていることが語られていますが、何か希望はありますか。
橋本 そういった意味での希望としては、このクラスの映像が当たり前のように動くようなハードウェアが提供されれば、ユーザーさんに夢のあるゲームを提供できますし、逆にこれ以上のものにしないと、大きなインパクトを与えられないのではと思います。大胆に飛躍したパワーを持ったCPU、GPU、メモリー、ストレージ、大容量メディアがほしい、というのは誰もが思うところでしょうけど。基準として、こういったものが動くといいな、というのはありますね。

――次世代機でと言いますか、今後ものすごい巨大予算のタイトルと、インディーや小規模タイトルへの2極化が現状以上に進むと予測されることもありますが、ゲームエンジン開発者としてはこの点についてどう思いますか?
橋本 そうですね。インディー系の人たちが小規模なタイトルに行く一方で、商用でハイエンドゲームを作ろうとすると、ビッグバジェットのタイトルしか存在しなくなる可能性があると個人的には思っています。そうすると相当生産効率や品質を高めないといけないし、難しい戦いになりますよね。だからこそ、なるべく研ぎ澄ました開発体制を作っていかないといけません。
 あとは作り方ですね。データも高スペックな動作環境といい道具があれば作れるわけではなくて、いい調理人が、ノウハウを知っていなければならない。いまはそれをこつこつとやっている段階です。
 ハイエンドのビッグバジェットというのは、うまく打率を上げて、喜んでもらえるものを作るのがいままで以上に難度が上がると思うので、すごく慎重にやっています。
 ちなみにルミナス・スタジオは、小規模なものやカジュアルゲームもどんどん作れるのがコンセプトなんです。スーパートリプルAだけでなく、それこそスマートフォンのゲームも手軽に作れるように。どっちもうまく対応して、グループ内でバラエティー豊かなものが作れればと思っています。

――そういった部分で、企画を立ち上げる前に統合型ゲームエンジンとありものの素材でプロトタイプを作ってみるとか、トライアンドエラーが求められる。
橋本 トライアドエラーこそがキモだと思います。このゲームがどんなゲームなのかを確認するのに、グラフィックから組み始めてやっと絵が出るのに1年かかっていたんじゃ、なかなかいいものを提供できない。とりあえずどんなゲームなのか検証するだけなら数週間で確認できなければいけないと思いますし、簡単なものならプランナーやゲームデザイナーの人が1日とか2日で出来る水準にしたいですね。違うなとおもったらそれを捨てられるぐらいの体制にしなければいけないと強く思っています。それは巨大なタイトルもそうで、巨大なりに早めに完成形を見通せる必要がある。その試行錯誤のサイクルを短くするためにも、ゲームエンジンとノウハウの両方が必要かと思います、

――では最後に、ココを見て欲しいというポイントをお聞きしてもいいですか。もちろん普通に見ても「綺麗じゃん!」と思うでしょうが、「実はこうなんだよ」と言われると気付いておもしろいところもあると思うんです。
レミ・ドリアンコート氏(以下、ドリアンコート) 一番中心になるのはキャラクターですね。とくにフェイシャル(表情)アニメーションは、新しいシステムを使ってすごい力を入れていますし、皮膚やヘアーの表現にも力を入れています。皮膚、目、髪の毛といったものは、どんなジャンルのゲームでも欠かせないので、そこはひとつの大きなポイントだと思っています。
岩田 僕も同じくキャラクターの技術で、「ゲームだからしょうがないかな」というレベルを脱して、きちんと見られる品質になっているかなと思います。あとはデモのために思い切り世界観を作ったので、それを純粋に楽しんでほしいです。ケアルでポーションを作る仕組みだとか、細かいところにこだわって世界観作りをしたので。今回のテーマはビリーバビリティ(真実味があるといった意味。フィクションかどうか問われない点で単なるリアルとは異なる)で、実際あったらこんな世界だろうなというリアリティーを重視しているので、そこを中心に見てもらえるとうれしいですね。
橋本 見てほしいポイントだらけなのでまとめるのは難しいのですが(笑)。技術デモとしては、1点だけここがすごいぞというより、これを成立させるために莫大な技術を投入しているので、ちょっとした光虫の光や瞳の表現まで、1個1個を見つめて見てもらいたいですね。1コマ1コマがちゃんと絵になる絵作りが野末さんによってされていますし、何なら止めながら見てもらいたいくらい、耐えられる絵になったんじゃないかと思いますので。スクリーンショットも公開していく予定なので、そういうのもじっくり、細かいところまで見てもらえるとうれしいです。
 岩田も言ったとおり、世界観も丁寧にみんなで考えて、3分40秒というコンパクトな作品とはいえ、超大作感が感じられるように作ったので、いろいろな想像、妄想を広げられると思います。そしてスクウェア・エニックスの未来にも想像を広げていただいて期待して頂けるようなら、やった甲斐もあるかなと。レミも言っていましたが、表情がすごく繊細にでているとおもうので、そこにも注目してもらえれば。主人公のAGNIのファンになっちゃうくらいのクオリティーになるように作りましたので、いっぱい見つめてほしいですね。
野末 大体言われてしまいましたが(笑)。世界観もそうですが、いままでのリアルタイムと違うところは、ライティングとシェーディングの技術で、かなりプリレンダCGの世界に近いところまで来ていると思います。一見するとリアルタイムだと信じてもらえないんじゃないかという不安はあるのですが。
――最初一連の流れを見せて頂いた時は「綺麗だなぁ、この辺はこういう表現を使っているのかな」と落ち着いて見ていたのですが、カメラが動いたときに本当に驚きました。
橋本 当初から「嘘ついているんじゃないか、こんなものがリアルタイムで動くわけがない」と言われるぐらいを成功と考えていました(笑)。
野末 想定ではこれぐらいは行けるんじゃないかと内々には思っていたのですが、いざ動いてみると「本当に動いちゃったよ」と。それに調整すれば調整するだけ、イテレーション(反復)サイクルが短いのもあってどんどんクオリティーが上がっていくので驚いています。
橋本 自分たちが想定していた通りのものが出ているんですが、たまに自分たちもプリレンダのビデオと錯覚することがあるんです。
岩田 「このカメラがもうちょっと動けばいいんだけどなぁ」と思っていて、「あ、動かせるじゃん」と気付くことがありますね(笑)。
橋本 それくらい、自分たちにとっても新鮮な体験でしたね。
野末 なかなかそこまでは味わえないと思うので、それはおいおい。
橋本 デモの映像を公開した後、技術寄りの編集をしたビデオも後日出そうかと思っています。「なるほど!」と言ってもらえるように。
――解説版が出ると。
橋本 はい。そちらもご期待ください。

ドリアンコート 技術とか世界観は、外の方に見てもらいたい大きなポイントですが、社内としては、ヴィジュアルワークスというムービーのプロと仕事して、どのように仕事しているのかを見てすごくいい勉強になりました。我々もリアルタイムの世界ではどういう制約があるのかをお伝えして、お互いいい勉強になったのではないかと思います。
橋本 データを一緒に作るという次元まで組むのは……
野末 ここまでやるのは初めてですね。
ドリアンコート となりに座って一緒に調整したり。
野末 紙袋にノートPCとか入れて移動しましたからね。
橋本 エース級の人たちに来てもらってライティングを調整してもらったりして、社内のコラボレーションで一丸となるのが非常に重要な目標でしたので、うまくいけたかなと思います。それに紐づいて、ほかの部門の人にも期待して応援してもらっているので、いいプロジェクトでしたね。まだ終わっていませんが(笑)。ギリギリまで直しています。
岩崎 大体出てしまったのですが、マニアックなポイントとしては、瞳などにとてもこわだっているので、止めてじっくり見ていただけると、本物の人と対面しているかのような錯覚があると思います。キャラクターも美形ではありますが、一瞬止めてみると、皺があったり、表情をを歪ませた人間らしい様子も出しているので、その辺も楽しんでもらえればと思います。