お互いが納得する、スタジオどうしのすばらしい結婚
2012年5月下旬に行われた、イギリス・ロンドンの郊外にあるPlayground Gamesでのスタジオツアー。ここでは現在、Xbox 360を代表するレースゲームのシリーズ最新作『Forza Horizon(フォルツァ ホライゾン)』(日本マイクロソフトから2012年秋発売予定)が作られている。スタジオツアー記事第1弾ではゲームの全容を紹介したが、こちらではPlayground Gamesの創設者ふたりと、『Forza』ブランドを生み出したTurn 10 Studiosのキーマンへのインタビューをお届けしよう。
<Turn 10との結婚は本当にすばらしい!>
Playground Games
チーフ オペレーティング オフィサー:トレバー・ウィリアムズ氏
デベロップメント ディレクター:ギャビン・レイバーン氏
Playground Gamesのトレバー・ウィリアムズ氏とギャビン・レイバーン氏は同スタジオの創設者だ。両氏は、レースゲームの開発を得意とするイギリスのメーカー、コードマスターズで出会い、その後「何か新しいことをやるために」(トレバー)独立。2010年の1月に、19名という小規模な体勢でスタートを切った。今回のインタビューではPlayground Games設立の経緯から、両氏のレースゲーム感などを聞いてみた。
右:ギャビン・レイバーン氏
――まず、おふたりの経歴を教えてください。
トレバー ゲーム業界には1987年からいます。初めての職場はElite Systemsという会社で、ここでは任天堂のハードおよび、各種16Bitハードのタイトルを手掛けていました。つぎにRageという会社へ移って、11社ほどの子会社を管理する仕事に付いた後に、ソードフィッシュという会社を設立。ここはVivendiの傘下に入り、私はコードマスターズに入るのですが、そこでギャビンと出会いました。
ギャビン 私は13歳のときに初めてプログラムを書き、17歳で最初のゲームを売りました。その後、コードマスターズでプログラミングをするようになります。同社には23年間勤務し、数多くのゲームのプロデューサーを努めました。1996年に立ち上げたレーシングゲームスタジオでは最初の『コリン・マクレー』を手掛け、最初の『TOCA』ゲームのプロデュースも担当。そのほかにも『DiRT』、『GRiD』、『DiRT 2』などを作りましたね。
――おふたりがコードマスターズを離れたきっかけとは?
ギャビン 誤解してほしくないのですが、コードマスターズでの仕事は楽しかった。チームを率いて、いろいろなレーシングタイトルも作れましたから。ただ個人的には、もっと野心的でよりスケールの大きい仕事がしたかったし、自分の作品をより多くの人にプレイしてもらいたいと思ったんです。
トレバー 『Forza Horizon』のスケールは、予算も含め我々のキャリアの中でもっとも大きいものです。自分もコードマスターズでの仕事は楽しかったし、すばらしい友だちもいた……つまり、何か新しいことをやるために離れる時期が来た、それだけのことだと思う。
――Playground Games設立の経緯を教えてください。
トレバー ギャビンにはレーシングゲームを作るすばらしい才能があり、私には会社を興す経験があった。すばらしいゲームの作りかたを知っている人間と、経営を理解した人間の組み合わせは、スタジオを設立するうえで非常に望ましいものです。ただ、完全に自費でスタートしたのはクレイジーだった(笑)。とは言え、どんなゲームを作りたいかというビジョンはしっかりと持っており、またスタッフの経歴は多くのパートナーから興味を持ってもらうのには十分のものでした。
――パートナーから注目を集めるなか、『Forza Horizon』を作ることになった経緯は?
トレバー 紹介者があってTurn 10 Studiosのダンさんたちと夕食をしました。そのとき、相手チームはギャビンが作ってきたゲームのファンであり、そして我々も彼らのゲームのファンであることもわかったんです。こうやって話すと、あっさり決まったように聞こえるかもしれませんが、うまく話を進めるにはたいへんな努力が必要でした。会社がスタートした当初はスタッフが19人しかおらず、ゲーム以前にチームをどう作るか? というところから始める必要があった。そこで人を雇うことになったのですが、幸か不幸かちょうどその時期に“ビザーレ”、“ブラックロック”などイギリスの大手レーシングゲームスタジオが相次いで閉鎖し、我々はすばらしい人材を一気に雇用することができたんです。人員の確保はスムーズに進みましたが、彼らが自分の力を最大限活かせる開発環境作りと、『Forza Horizon』のビジョンを共有することには苦労しました。なにしろ、1年も経たないうちに100人近くのスタッフが増えたんですから(笑)。
――『Forza』というブランドを手掛けることにプレッシャーなどはありませんでしたか?
ギャビン プレッシャーよりもよろこびのほうが大きいですね。Playground Gamesを始めるとき、「大きなタイトルと競争したい」と考えていました。今回『Forza』というブランドのおかげで、それが早くも実現できるんですから。Turn 10 Studiosとはうまくいっしょに仕事ができると感じています。自分たちの経験をうまく持ち込めるし、彼らからもたくさん学べると思う。このふたつのチームの結婚は本当にすばらしい!
トレバー 自分も『Forza』シリーズを手掛けることにワクワクしましたが、同時に少し怖くもありました。ブランドを背負う責任は重いし、失敗はしたくない。また、Turn 10 Studiosから寄せられた信頼にも応えたかったので、『Forza Horizon』の目標は高く設定しました。
――トレバーさんは経営者として、スタジオ設立当初からどこかのブランドと組むつもりだったのでしょうか?
トレバー いい質問です。我々にとっていちばん大事なことは、すぐれたゲームを作ることであり、いろいろと検討した結果、新しいスタジオで新しいブランドを立ち上げるのはたいへんだということがわかった。しかし、大きなフランチャイズを手掛けたいという思いは強い。『Forza』の最新作というプロジェクトは、その点において我々にフィットするものでした。そして、我々は本作があくまで自分たちのゲームであると考えている。『Forza Horizon』のアイデアはギャビンとラルフが作ったものなんです。
――ということは、もし話があれば『グランツーリスモ』と組んでいた可能性も?
トレバー そうだったかもしれませんが……残念ながらスタジオには知り合いがいません(笑)。ただ『グランツーリスモ』はいいゲームですし、自分たちもプレイしています。
――ちなみに、自分たちが過去に作ったゲームと『Forza』シリーズ以外で興味のあるレーシングタイトルは何でしょうか?
ギャビン 『ミッドナイトクラブ:ロサンゼルス』はとても楽しかったです。あとは、同じ会社が手掛けた『レッド・デッド・リデンプション』もレースゲームではないがすばらしかった。
トレバー 自分は『ニード・フォー・スピード モスト・ウォンテッド』、『テストドライブ アンリミテッド』シリーズなどですね。
――レースゲームの本質、いちばん重要なものとは何でしょうか?
ギャビン 人によって異なると思いますが……自分の場合は、憧れのクルマを思い切り走らせることですね。
トレバー 何よりも本物らしさが大事。それはクルマの見た目だけでなく、操作性にも言えることです。
――『Forza Horizon』には、おふたりがいま語った内容は入っていますか?
トレバー ええ、もちろん!
<Playgroundはスーパーチーム>
Turn 10 Studios
クリエイティブディレクター:ダン・グリーンウォルト氏
Turn 10 Studiosのクリエイティブディレクターを務めるダン・グリーンウォルト氏は、Playground Gamesのことを”スーパーチーム”と表現する。同氏はPlayground Games設立前夜にトレバー氏、ギャビン氏、ラルフ・フルトン氏(『Forza Horizon』のデザイン ディレクター)と会い、『Forza』ブランドの新作を彼らに委ねることを決めたという。実際にいっしょに仕事してみての感想などを聞いてみた。
――Playground Gamesといっしょに仕事をしてみての感想を教えてください。
ダン すばらしい。とても仕事のできる人たちです。我々のスタジオでは能力の高い人たちを集めることもひとつの目標ですが、スタジオはアメリカのシアトルにあるため、ヨーロッパや日本から人材を欲しいと思ってもなかなか難しい。ジュン (Turn 10 Studiosでシニアゲームデザイナーを務める日本人クリエーターの谷口潤氏)がチームに来てくれたことはあるものの、こういった例は滅多にないんです。Playground Gamesといっしょに仕事ができてよかったことのひとつは、ヨーロッパの開発コミュニティーを知れたこと。そのなかでPlayground Gamesは、すぐれた人材を集めている。大手スタジオの閉鎖など理由はさまざまだが、いちばん大きいのは彼らが、人材を磁石のように集める魅力的なビジョンを持っていたことだと思います。Playground Gamesにはイギリスだけでなくフランスから来たスタッフもいる。本当に驚くべきスーパーチームだと思います
――ふだんはどのように仕事をしているのですか?
ダン 実際に開発をするのはPlayground Gamesで、我々は『Forza』ブランドのオーナーとして、アドバイスを送ったりすることが中心です。たとえば絶対に守ってほしいこととして、クオリティー、本物志向、イノベーションの3つを伝えました。ときには彼らから独自のアイデアを求めたりしています。そして彼らはそれにしっかりと応えてくれる。パートナーとしてお互いを刺激しあって将来に向かっている感じですね。
――ヨーロッパのレーシングゲームは歴史があるが、アメリカとの違いは何でしょうか?
ダン 我々も当初はどんな違いがあるのだろうか? と思っていたのですが、実際にいっしょにやってみると思ったほど違ってはいなかった。レーシングゲームを開発するうえで難しいところ、簡単なところはどこでも共通しているんです。ただ、クルマの文化はイギリスとアメリカでは違う。世界で通用するゲームを作るには、国どうしが助け合う必要があると思います。Playground Gamesが世界に羽ばたけるようにサポートする一方で、我々も彼らから多くのことが学べると期待しています。
――レーシングゲームを開発するうえでいちばん難しいこととは、具体的にどんなことですか?
ダン つまらない話になってしまいますが(笑)……パイプラインです。パイプラインはアートコンテンツをどのように組み込むか、という部分の作業で、シェーダーやライティングなどをどう扱うかによって、ゲームの見た目がガラリと変わる。多くの人が難しそうと考えているであろう、物理演算やAIは意外にもそれほど苦労しません。それらの技術は何年も前からあり、すでに十分な研究が行われていますから。
――『Forza』というブランドを外部に任せることに不安はありませんでしたか?
ダン もちろんリスクはあるが、これは結婚のようなものです。結婚相手を見つける際に時間をかけてぴったりの相手を見つけられればすばらしいが、急いで間違った選択をすれば散々な結果になる。だから、我々はPlayground Gamesのことをしっかりと知ろうとしましたし、“この関係はうまくいく”と確信できるまで発表しませんでした。現在、こうして皆様が『Forza Horizon』を見ているということは、つまり結婚はうまくいったということです。