オーディオセッションを設けるほど力の入った『Halo 4』サウンド

 2012年3月某日、Xbox 360の期待作『Halo 4』を手掛ける343 Industries(インダストリーズ)のスタジオツアーが開催された。ファミ通.comでは343 Industriesスタジオツアーで得た『Halo 4』の最新情報を4つの記事にわたって展開する。第4弾では、本作のサウンドに関する情報をお届けしよう。

日本人オーディオディレクター戸島氏が、『Halo 4』へ参加した経緯

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▲オーディオディレクターの戸島氏(左)。

 『Halo(ヘイロー)』シリーズは音楽でも多くの人を魅力してきた。しかし、これまでシリーズの楽曲を担当し続けてきたマーティン・オドネル氏は『Halo 4』のプロジェクトに参加していない。同氏に代わり、オーディオディレクターとしてサウンド全般をまとめるのは、KONAMIの小島プロダクションに所属していた経歴を持つ戸島壮太郎氏。日本人が『Halo(ヘイロー)』シリーズのサウンドを手掛けることに驚いた人も少なくないのではないだろうか。また、ファンから絶対的な信頼を得ているマーティン氏と比較して、『Halo(ヘイロー)』シリーズ初参加となる戸島氏に不安を抱いた人もいるかもしれない。だが安心してほしい。結論から言うと、戸島氏の手掛ける楽曲はまぎれもなく『Halo(ヘイロー)』だった。

 『Halo 4』のオーディオに関するプレゼンテーションを始めるに当たって戸島氏は、最初に自身の経歴を紹介。同氏はKONAMIの神戸オフィスで『キャッスルバニア』シリーズの作曲を担当した後、小島プロダクションへの参加を誘われるが、作曲をやりたかった戸島氏に対して小島プロダクションが依頼した仕事は“ポスト・プロダクション”、つまり楽曲の編集作業だった。自身の希望とは異なることから一度は参加を断るが、社内でオーディオのポスト・プロダクションをやることを強く希望していた小島プロダクションは諦めず、再度参加を依頼。最終的に戸島氏もこれを受け入れた。

 望んで始めたことではなかったが、いざやってみると「仕事がとても楽しくなっていた」と戸島氏。「やっていることは作曲と同じ。メロディーAとメロディーBを使ってプレイヤーを特定のシーンで泣かせるわけです」。そして『メタルギア ソリッド4 ガンズ・オブ・ザ・パトリオット』でオーディオディレクターを務めた後、海外へ渡った戸島氏は343 Industriesで同じ職を得ることとなった。

「すばらしいことが達成できると思っている」と語る戸島氏

 『Halo(ヘイロー)』シリーズの音楽について、「マーティン・オドネルの作った音楽はアイコン的でユニーク、ドラマティックなところがとてもすばらしいと思う。マーティンは友人でもあり、個人的に彼のコード進行とメロディラインはロマンチックで好きです」と最大の賛辞を送る戸島氏。しかし、『Halo 4』における音楽および各種サウンドの方針は、本人も認めるようにかなりチャレンジしたものになるという。

 まず“すべてを最初から作る”。全サウンド中、95%はオリジナルとして戸島氏率いるチームが手掛け、残り5%はいままでのコンテンツを使う考えだという。ただし戸島氏を始めスタッフは全員、『Halo(ヘイロー)』のオーディオを愛している。従来までの音を単純に切り捨てるわけではなく、よく聴いて分析評価したうえで作る方針のようだ。

 もうひとつの方針は“アイコン的でなくてはいけない”という、マーティンの哲学を引き継いだとも言えるものだ。戸島氏は『Halo 4』のサウンドテーマを「デジタルでオーガニック」と説明。これはミュージック、サウンド、エフェクト、ビデオなどすべてに共通しているテーマとのことで、「人々をワクワクさせ、ゲームに没入してもらい、泣かせたい」というのが最終目標だという。

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▲タスマニアデビルの鳴き声は、どこで使われるのか? 個人的にはコヴナントにピッタリな気もします。

 3つ目の方針は“現実味があり信じられる3Dオーディオ”で、こちらは“現実味”という点でアートワークの方針とも共通しているのが興味深い。プレゼンではクオリティーの高い音源を得るために行ったことがビデオで紹介された。武器の発射音に関しては実際の銃器の音を20個以上のマイクを使って収録。SF作品である『Halo(ヘイロー)』シリーズでは、現実には存在しない“ユニークで未知の音”も必要だ。収録にはさまざまなアプローチが行われているが、一例として挙げられたのは“タスマニアンデビル”の鳴き声というもの。「タスマニアンデビルはかわいいが、声はユニークで怖いので、『Halo 4』における脅威的な音として使うことにしました。聞きなれたライオンやゾウの声ではなく、ユニークな音を使うことにこだわっているんです」。収録時の映像も公開されたのだが、キュートな外見のタスマニアンデビルがマイクに噛み付く様子などを、不気味なサウンドに載せて見せるというもので、そのギャップに取材陣から思わず笑いが漏れていた。

 戸島氏は『Halo 4』のオーディオディレクターを務めるうえで苦労している点にも言及。「複雑に考え過ぎたこと、エゴが出過ぎてしまったこと、マーティンの曲をコピーしてしまったこともある」などの悩みを明かし、「こうした混乱や対立を乗り越えて、すぐれた成果に到達するまでたいへんなプロセスだった」と話す。しかし、最近はそれらがすべてうまく回るようになっていると語り、本邦初となる開発中のデモサウンドを公開した。サウンドについて専門的なことを語る言葉を記者は持ちあわせていないが、その音はまさに『Halo(ヘイロー)』そのもの。疾走感があって、勇壮で、重厚な音の波の奥に繊細なメロディーがわずかに聴き取れる、目をつぶれば瞼の裏にマスターチーフの姿が浮かんできそうな仕上がりだ。戸島氏の仕事がうまく進んでいることを物語っている印象を受けた。

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▲公開されたデモ音源は、『Halo(ヘイロー)』の世界観にピッタリの仕上がりとなっていた。

 デモの公開後、戸島氏は、『Halo 4』における主要な作曲をニール・ダヴィッジ氏が担当することを発表。ニール氏は世界的音楽グループ“Massive Attack”でプロデューサーと作曲を手掛ける人物で、ゲーム関連の仕事をするのは今回が初めて。選んだ理由については“美しいメロディー”と“革新的視野”を有しているからだという。戸島氏との関係も非常に良好なようで「ニールにすべてを任せるのではなく会話しながらやっています。イギリスとアメリカをお互いに行き来しながらコミュニケーションを取り、音楽制作に取り組んでいます。彼がいっしょに仕事をすることを楽しんでくれているのはとても大事なポイント。また、彼自身が『Halo(ヘイロー)』の大ファンであることもすばらしい。エゴではなく、『Halo(ヘイロー)』ファンをよろこばせたいと思って仕事をしています」と話している。

 最後に戸島氏は「『Halo 4』のオーディオを作るのはとても難しいが、9人の鋭い感性と才能ある人たちで組織されたチームと、コミュニケーションにすぐれた343 Industriesのサポートのおかげで、すばらしいことが達成できると思っている」と話し、プレゼンを終了した。

ファンへのブレない気持ちで『Halo 4』のサウンドは作られている

 スタジオツアーの中では戸島氏へのインタビュー機会も設けられた。『Halo 4』に関する話だけでなく、海外へ渡り仕事をすることなどについても聞いてみた。

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――いままでいろいろなプレゼンを受けてきましたが、オーディオの紹介にここまで力を入れているのは珍しいと思いました。
戸島 海外のスタジオは、オーディオディレクターがスタジオ内にいて、制作はすべて外部に回すということが多いんですけど、僕はここに入るとき“絶対中にチームを作らせてもらいたい”ということを強く訴えました。これは小島プロダクションで学んだことでもあるのですが、単純に音楽を作るのと、いつもいっしょにいる仲間とディスカッションして作る音楽は全然違う。343 Industriesはそれを理解してくれて、スタジオ内にチームを作ってくれました。そういった理由から、期待が大きいというのはあると思いますね。あとはやっぱり、マーティンの功績もあって『Halo(ヘイロー)』シリーズはオーディオに対する関心がすごく高い。とくに『4』はマーティンがいなくなり、開発もバンジーではないので、“ニセモノかもしれない”と思っているファンもいるでしょう。一方で期待してくれている人もいるので、よくも悪くも注目度が非常に高くなっていると思います。あとは「戸島って何者なんだ?」という見かたもあるかもしれない。ネット上では“マーティン VS 戸島”なんて構図もあるくらいですから(笑)。だから、僕がするべきことはユーザーを音で魅せる、それだけ。そこにすべてかかっています。

――周囲からの期待をかなり意識しているようですが、戸島さんは『Halo(シリーズ)』の音楽をどういったものと捉えていますか?
戸島 ひとことで言えば“ドラマティック”。でも、『4』はマーティンのドラマティックとは違った、ドラマティックを表現できればと思います。

――それは曲の展開、使われかた、どちらの意味でドラマティックなのでしょうか?
戸島 音楽そのものですね。とは言え、『Halo(ヘイロー)』シリーズは第1作目のときから、音楽をゲーム中でどう鳴らすか? という点でけっこうおもしろいことをやっていますよね。でも僕にとっていちばん大事なのは、ドラマティックなメロディーとドラマティックな進行。この2点では負けられないという気持ちでいます。

――ドラマティックなサウンドを表現するうえで意識していることは?
戸島 音楽活動は内面から沸き上がってくる要素が大きいので、ドラマティックな曲を作るというのは、テクニックだけで語りきれないところがある。だから“『Halo(ヘイロー)』の音楽を作りたい”、“マスターチーフの音楽を作りたい”といったことをエモーショナルに考えられる人を見つける、ということはつねに考えていましたし、もっとも苦労した部分かもしれない。いまはその人たちが見つかりましたから、あとは「ユーザーを驚かそうぜ!」とがんばるだけ。伝えたいものをとにかく伝えて共感してもらえれば、結果はついてくると思います。

――作曲家のニール・ダヴィッジさんとは、どういった経緯で関わることになったのでしょうか?
戸島 マーティンの完璧な仕事ぶりを知っていただけに、343 Industriesで働くことが決まったときはうれしい反面、不安な気持ちになりました。343 Industriesのメンバーからは信頼されていたので「すべて決めればいいよ」みたいな感じだったんですけど、本音を言えば「いやいやいや!」っていう感じですよ。だって、『Halo(ヘイロー)』ですからねぇ……(笑)。小島監督はしっかりと指示を与えてくれるし、いっしょに決めごとをする態勢だったから、今回みたいに全部任されると正直プレッシャーを感じてしまいました。それで、最初に作曲家のリストを作ったんです。ゲームはもちろん、ハリウッド映画や商業音楽で名の知られている世界中の有名なコンポーザーたちのです。リストに名前が挙がった人はいずれもすばらしい音楽を作っていた。でも“デジタル&オーガニック”というコンセプトと“ドラマティック”というキーワードに照らし合わせてみると何かが違って……結局6~70人いたリストの中からは決められなかったんです。そんなときに、マイクロソフトの人が“デジタル&オーガニック”というコンセプトに沿って、エレクトロニックミュージックやクラブシーンで活躍する人をたくさん紹介してくれて、その中にニール・ダヴィッジがいた。Massive Attackのことは以前から知っていて、じつは最初のリストにも入れてあったのですが、ニール・ダヴィッジのことは知りませんでした。でも、音を聴いたらまさにMassive Attackの音で「この人がMassive Attackだったんだ!」と確認するとともに、何かシックリ来るものがあったんですよ。

――それですぐにオファーを出したのですか?
戸島 この時点では、彼のバックグラウンドは何も知らない。わかっているのは音源がクールということだけ。とくにパーカッショントラックがクールで、聴いたこともないカッコよさでしたね。しかもロマンチックなミュージックも書ける。彼がいっしょにやってくれるかどうかわからないから、まずはコンタクを取ってみたんですよ。マイクロソフトの『Halo(ヘイロー)』シリーズに関して相談したいことがある、と。それで実際に会ったときに「『Halo(ヘイロー)』って知っています?」と聞いたら……ものすごいファンだったんですよ! 作品のこともすごく語れる人で、まるで恋人のように盛り上がりました。そんな運命的な出会いだったので、僕も興奮してその場で『Halo 4』の曲を書いてほしいと言っちゃったんですね。そしたらニールが「もう書いてきたよ」って!(笑) コンタクトを取ったのは会う1週間前ですよ。なんでも、その連絡があった時点で『Halo 4』の音楽をやりたいと思っていたらしいんです。

――ニール氏の曲を聴いたときの第一印象は?
戸島 パーカッショントラックがマスターチーフのメタリックなイメージにピッタリで、力強くて……もうその場で「やってください!」って感じでした。そしたらニールもお金の話をする前から「そのつもりで来た」と言ってくれたんです。だけど、いざ仕事がスタートすると喧嘩ばっかり。お互いに求める水準が高いので、ひとつの曲をずっとやり続けていて、周囲からも「もういいんじゃないの」とは言われるのですが、僕らは「ダメだ」って納得しない(笑)。

――楽曲のボリュームはどれくらいになる見込みなんですか?
戸島 正確な数字はお伝えできませんが、曲に関しては150~200用意する予定です。

――では、150~200曲ぶんの喧嘩があるわけですね。
戸島 ええ、ありますねえ(笑)。この業界にはクリエイターと、作業をしっかりとこなすプロフェッショナル、2タイプの人間がいると思うんですけど、僕もニールもクリエイタータイプなので、とにかく揉めますよ。たとえば「おまえのストリングスはよくない! これを使え!」と、世界のニールに向けて僕が送る(笑)。そうするとニールも負けじと「こんなのはダメだ! おまえこそわかってないんだよ!」とガンガン返してくるんです。だから彼だけがコンポーザーという意識はなくて、いっしょに作っている感じですね。じつは僕らが作った曲が、先日公開されたトレーラーでこっそり使われていたのですが、ファンの人たちは「これはまさに『Halo(ヘイロー)』の音楽だ」と好意的に反応してくれました。ニールの名前が発表されたら、「やっぱり戸島じゃなかった! あいつはただのオーディオディレクターだよ」とか言われそうな気もしますが(笑)、僕からすればオーディオディレクターは楽曲への影響力がもっとも大きい大事なポジションだと考えているから、気にはなりません。『Halo 4』の音楽でみんなが興奮してくれればそれでいいんです。

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▲こちらが戸島氏の仕事場。音を扱うので、防音の個室となっている。

――『Halo 4』のオーディオをディレクションするうえで心掛けていることは何ですか?
戸島 それに関しては“みんなを驚かせたい”に尽きますね。そして、それをブレさせないこと。たとえば、あるキャラクターのボイスアクター候補がふたりいた場合、会社員としては内部的にもいろいろなことを考えないといけませんよね。上司のこととか、手伝ってくれた部下のこと、出世のこととか……。僕はそうなったとき、まずファンのことを考える。そこをブレさせちゃいけないんです。これは小島監督から学んだことでもありますね。ファンは絶対にコレを望んでいる、コレで驚く、という選択を行うようにしています。ゲームってビジュアル先行の媒体じゃないですか? でも感動を作るのは音であると僕は考えている。音なしでゲームに興奮するっていうのはすごい難しいというか、まず無理な話。そういう意味で、『Halo 4』がユーザーに与える興奮や感動は、僕らの腕にかかっていると思うんです。僕らがしっかりやらないとファンは興奮できないし、泣けません。

――今回は効果音周りもかなり新しく作っていますよね。
戸島 すべてというわけではありません。本音を言えば、自分たちが作った音ですべてやりたいんですけど、ファンの心理を考えると、最低限の『Halo(ヘイロー)』らしさは残さないといけない。割合としては95%を新しく作って、残り5%は基本的に手を加えない。また、新しく作る95%にしてもちゃんとファンの考えを理解したうえで手掛けています。

――体力ゲージが回復するときの音やリスポーン時の音などは、いままでと同じようで少し違う印象を受けました。
戸島 それらの音に関してはリマスターをしていますね。やっぱりあの音じゃないと『Halo(ヘイロー)』を遊んでいる気持ちになれないと思うんですよ。もしここでファンを無視してまったく別の音にしたら、たとえそれがどんなにイイ音だったとしても、エゴになってしまう。効果音を気にする人って意外と多いんですよね。だから、今回そこがどうなるのか心配している人も多いと思いますが、僕はいいさじ加減になっていると思います。とは言えただのコピーではありません。343 Industriesは『Halo 4』で成功して本当の『Halo(ヘイロー)』チームにならなければいけないので、僕らの表現をファンに提示していかなければいけません。まあ、成功すると思いますよ……だって僕らはファンのことしか考えていませんから。

――日本はどうしてもアメリカに比べて『Halo(ヘイロー)』ファンの数が少ないです。この状況に対して『4』では何らかのアプローチを考えていますか?
戸島 343 Industriesは日本のことをすごく意識しています。東日本大震災のときもみんな寄付をしてくれましたし。日本人に対するリスペクトがすごいあるスタジオなんですよ。だから、ゲームの作りも日本向けになっていると思います。またオーディオチームには僕以外にも日本人がいますし、僕自身もローカライズ担当の方とは積極的にコンタクトを取るようにしている。日本人にも楽しめる『Halo(ヘイロー)』というのは、じつは343 Industries全体の大きなテーマでもあるんです。

――戸島さんはローカライズにも関わっているんですか?
戸島 基本的には日本の方たちが中心になって動きますが、人員の配置やチェックなどに関してはアドバイスもしています。また、日本語音声を収録することがあれば絶対に現場へ行こうと考えています。時間は限られますが、可能な限りディレクションをしたいんです。

――戸島さんの話を聞いていると、日本での展開においてはオーディオディレクター以上の仕事が求められそうですね。
戸島 ええ、そうですね。自分が343 Industriesにいる意味というのは、日本のユーザーさんにとって大きく……ありたいものです(笑)。日本の文化、日本人のことは343 Industriesの中で誰よりも知っていますし、日本はゲーム文化を生んだ国という自負もある。だから、その国の人たちにはよろこんでもらいたいですよ。

――最後にゲームとは少し関係ない話になるのですが、日本には戸島さんのように世界で活躍したいと考えている人たちがたくさんいると思います。そういう人に対して何かメッセージをいただけますでしょうか。
戸島 こっちに来た当初は本当にツライ時間を過ごしました。カルチャーショックというか、英語も喋れず何も表現できない自分がすごく惨めで、尻尾巻いて帰ろうと考えこともあった。でも、やがて必要なことは自信だということがわかってきたんです。英語も喋れない人間が、『Halo(ヘイロー)』という大型タイトルでオーディオディレクターをやるなんていう状況は、自信を持つのが非常に難しい。それでも自信を持つんですよ。なんでもいい、ひとつでいいんです。たとえば僕の場合は、ユーザーが求めるものを考えることについてブレないという点。これに関しては、誰と比べても負けていないと思うようにしている。ほかの部分で負けていることはいっぱいあるけど、それは当たり前のことだと思う。僕の場合は英語で負けているし、サウンドデザインにしたってすごい人はいくらでもいる。それこそニールのように曲を書くことはできない。でも、さっき言った点に関しては負けないと自信を持っている。そして、信じてやり続ければ周囲は認めてくれるし応援してくれるんです。自信と情熱を持って取り組めば、アメリカも日本も関係なく通用すると思いました。誰にでも何かあるはずなんですよ、自分が強く思えることというのが。僕はまだ成功体験を語れる立場ではありませんが、そういう気持ちで日々取り組んでいます。