学生とは思えないハイレベルなソリューションの数々

 日本マイクロソフトは2012年4月7日、都内にある同社本社にて“Imagine Cup 2012”日本代表選考会を開催した。Imagine Cupは、ビル・ゲイツ氏の発案で2003年からスタートした学生を対象とするIT技術のコンテストで、“テクノロジの活用で世界の社会問題を解決する”というテーマに沿った革新的なソリューションを発表、表彰する場。前回のニューヨーク大会には180を超える国と地域から35万人以上の学生が参加し、今年は7月にオーストラリアのシドニーで開催が予定されている。この日は、同大会の“ソフトウェア デザイン部門”における日本代表の選考および、“ゲーム デザイン部門”の優秀作品選考、発表が行われた。作品の選考では、作品そのもののクオリティーはもちろんのこと、プレゼンテーション技術も審査対象となっており、学生たちは10分間(ゲーム デザイン部門は5分間)という制限時間の中で、みずからが手掛けた作品の概要や込められたメッセージを最大限伝えるべく、大人顔負けの洗練された立ち回りを披露していた。

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 先に結果からお伝えするが、ソフトウェア デザイン部門で見事日本代表に選ばれたのは東京工業高等専門学校の生徒からなるチーム“Coccolo”の作品、“All Light! ~可視光通信による省電力照明システム~”。同作は、省エネをテーマとしたもので、今後急速な普及が見込まれるLED照明を使い、周囲の明るさに応じて適切に自動調光するシステムとなっている。たとえば、学校の教室などでは、日中の窓際あるいはモニターの周囲というのはある程度の明るさがあるため、部屋の真ん中と比較して照明で照らす度合は低くても問題がない。しかし、一般的にひとつの部屋の照明は一括管理されているため、個別かつ状況に合わせて明るさを調整するというのは困難だ。それを解消するのがAll Light!というわけである。自動調光をする際に利用する技術“可視光通信”とは、無線技術の一種だが、一般的な無線と異なっているのは名前にもある通り通信が“可視光”、光として見えるということである。All Light!における可視光は、LED照明の点滅を利用しており、周りの明るさに応じて照明同士が自動で調光を行うという仕組みだ。とは言え、自動調光の判断材料となるのは周囲の明るさなので、たとえば本を読むためにもう少し明るさ欲しいといった要望には応えられない。そういった場合のために、Windows Phone経由でマニュアル調光が可能なシステムを搭載している。驚きなのは、可視光通信を行うデバイスがまだ商品化されていないという理由から、学生みずからソレを自作したという点だ。コストに関しても照明機器として現実的な値段設定になっているそうで、大手照明メーカーも太鼓判を押す仕上がりになっているのだとか。そのほかAll Light! では、システムのコントロールパネルでは節電状況の確認や、過去の記録も閲覧も可能。“節電の見える化”で、節電意欲が向上する作りとなっている。

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 惜しくも最優秀賞は逃したものの、同志社大学の生徒たちが開発した“コネクト”はKinect(キネクト)を活かしたソリューションで、ゲームユーザーとして注目すべき内容となっていた。コネクトは視覚障害者がWEBサイトを閲覧する際のサポートツールと呼べるもので、Kinect(キネクト)のモーションセンサーおよび音声センサーを利用した、効率的なインターフェースを実現している。たとえば視覚障害者がインターネットを利用する際にネックとなるのはキーボードでの入力である。各キーの位置を把握、記憶するのにはかなりの訓練が必要だろうし、またいざ打ち込んだところで正しいキーを打ち込めているかどうか判断しづらい、という問題もある。コネクトではKinectのモーションセンサーを活かして、画面内に独自デザインのバーチャルキーを表示。腕をぐるぐると回すことでアルファベットが切り替わり、同時に音声読み上げも行なってくれるので、特別な訓練の必要なしに誰でも文字入力を行うことができる。音声センサーに関してはXbox 360でもおなじみの仕組みで、指定の単語を発声することでそれを実行してくれるというものだ。システムとして非常にすぐれたものだが、それ以外に特筆すべき点としてコストの安さが挙げられる。プレゼンでの話によれば、現在流通している視覚障害者用のPC用ツールは訓練の費用なども含めて数十万単位のお金がかかってしまう。それに対してコネクトはKinectセンサーの価格+αでわずか数万円。経済的にもすぐれたソリューションとなっているのだ。

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 視覚障害者向けの作品という点では、“ゲーム デザイン部門”で東京コミュニケーションアート専門学校の生徒から成る“TEAM EXTENSION”が発表したゲーム『Blind Braver』も興味深い取り組みを行なっていた。同作では聴覚を頼りに遊ぶというゲームシステムを採用することで、視覚障害者でも健常者でも同じように楽しめる作りを実現。過去に事故で視力を失った男性となり、クリーチャーが徘徊する病院から脱出するというストーリーの中で、プレイヤーは杖で周囲の音を聴きながら探索を進めるといく。たとえば、コントローラ(Xbox 360用コントローラを使用)の右スティックを右に倒すと“コン”という音がする、これはつまり右側は壁ということ。こういった具合に音がしない方向を探しながら進んでいくのだ。そのほか細かな工夫として、ゲームは探索パートとデモパートに分かれているのだがが、後者のパートでのみBGMを流すことで、視覚に障害がある人でもそれがデモパートであると判断できるようにしている。

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 “ゲーム デザイン部門”では上記以外に、バンタンゲームアカデミーの“Esperanza”が『BLUE FIELD』、トライデントコンピュータ専門学校の“チームブロッサム”が『ブルーム*ブロック』という作品をそれぞれ発表。

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 『BLUE FIELD』は、昨年の東日本大震災を機に自然災害の恐ろしさを世界中の人に認識してもらいたいと考えたことから作られたもので、被災地における瓦礫処理をモチーフにしたリアルタイムストラテジー風の内容となっている。瓦礫を片付けるユニットや、医療を得意とするユニット、一気に瓦礫を処理できる重機などを動かして、被災地の復興を目指してくのだ。個人的に興味を惹かれたのは、ゲームのインターフェース。数字以外は一切の文字を使用しておらず、ユニットへの行動指示などは、ひと目でソレとわかるアイコンを使用しているのである。これは“世界中の誰でも遊べる”という点に着目して取り入れられた仕様で、チュートリアルまでも視覚的に表現しているのには非常に驚かされた。

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 もうひとつの『ブルーム*ブロック』は、環境問題をテーマにしたパズルゲームとなっている。複数組み合わさった3Dブロックの各面を、ひと筆書きの要領ですべて移動すればクリアーというシンプルなルールだが、プレイしながら環境問題を意識できる仕組みがじつに斬新。プレイヤーが通過したブロックの面には花が咲くのだが、花が増えるのと同期してゲームの背景に変化が現れるのである。ゲーム開始時、背景は汚れた河川や植物も動物も住めない荒れた森など環境破壊の残酷さを表したイラストとなっているのだが、パズルが進行するとそれが徐々に改善され、最後は美しい環境が復興。なお同作はシンプルかつ洗練されたゲームシステムと、メッセージ性を高く評価され、見事“ゲーム デザイン部門”の最優秀賞に選ばれている。

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 以上、“Imagine Cup 2012”日本代表選考会の内容をリポートした。取材してとくに感心させられたのは、学生たちの意識の高さ。とくに日本代表に選ばれたチーム“Coccolo”の“All Light! ”は商品化までの流れを提示するだけでなく、メーカーに企画を持ち込み実現に向けて動いているという会社員顔負けの行動力を見せており、“省エネ”という問題に対する彼らの意識の高さと、積極性には驚かされるばかりであった。またマイクロソフト主催のコンテストということで、Kinectを利用した作品が複数見られたのもゲーム記者として非常に興味深いところ。この日は、ベンチャー企業や学生の独創的なソリューションやビジネスモデルを表彰する“Microsoft Innovation Award”の2011年度の最優秀賞選考・発表会も同時開催されていたのだが、その中ではKinectを使ってPC内のファイルを検索&印刷するというユニークな発表もあった。“KinectでPC操作”と聞くと、体を使ってマウス操作を行うのか? と思う人もいるかもしれないが、当然そんな“普通”のものではない。ファイルごとにモーションが設定されており、そのモーション――たとえば始末書だったら“スクワットをする”といった動きをKinectセンサーの前で行うとファイルが開かれ印刷されるという仕組みなのだ。実用性に関しては正直“?”と感じるところもあるが、Kinectならではという点では非常に意義深いのかもしれない。

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