『ブレイブリーデフォルト』開発者インタビュー全文掲載第1回

『ブレイブリーデフォルト』プロデューサー浅野智也氏&リードアーティスト吉田明彦氏インタビュー【完全版】_01
写真左:プロデューサー 浅野智也(あさの ともや)氏
代表作:『光の4戦士 -ファイナルファンタジー外伝-』、『ファイナルファンタジーIII』(ニンテンドーDS版)

写真右:リードデザイナー 吉田明彦(よしだ あきひこ)氏
代表作:『タクティクスオウガ』、『ファイナルファンタジー タクティクス』

 スクウェア・エニックスが、ニンテンドー3DS向けに放つ新作、『ブレイブリーデフォルト』。本作は、自由に世界を巡り、旅の過程で成長したキャラクターを操って強敵と戦うという、日本人にとって馴染み深いスタイルを踏襲したRPGだ。ニンテンドー3DSのカメラを通じて、現実とムービーが融合する“ARムービー”の採用など、さまざまな点で話題になっている。そんな本作の開発者インタビューを、2本同時に掲載。どちらも、週刊ファミ通に掲載されたものを増補改訂した完全版となっている。今回掲載するのは、週刊ファミ通2012年3月15日号に掲載された、プロデューサー浅野智也氏と、リードアーティスト吉田明彦氏へのインタビュー。ふたりの本作に対する熱い想いを、インタビューから感じとってほしい。

本作のヒロイン、アニエス

――2011年9月のタイトル発表後、ユーザーからの反響はいかがでしたか?
浅野 想像以上に多くの反響をいただきました。とくにスクウェア・エニックスが王道RPGの新作を出すということに、大きな反響がありましたね。開発チームとしては、弊社の『ドラゴンクエスト』、『ファイナルファンタジー』、『キングダム ハーツ』に続く、新たな作品に育てたいと考えていますので、とてもいいスタートになったと思います。
吉田 ユーザーさんの声を見る限り、いい反響が多くてホッとしました。Facebookなどの反応を見ると、海外の方の反響も多かったですね。

――最初に公開されたイメージイラストの反響は大きかったと思いますが?
浅野 そうですね。(吉田氏のほうを向いて)あのイラストは、構図などにかなりこだわって描いていましたよね?
吉田 浅野のほうから、「(イラストの)コンセプトは太ももだ!」と言われましたから(笑)。
浅野 いやいや!(笑) 僕からは“萌え”ではなく、“セクシーさ”というお願いをしました。
吉田 イラストにまつわる、ちょっとした裏話のひとつです(笑)。

『ブレイブリーデフォルト』プロデューサー浅野智也氏&リードアーティスト吉田明彦氏インタビュー【完全版】_02

――(笑)。このイラストですが、点描のようなタッチで描かれているように見えました。
吉田 いつもは鉛筆で描いて色を塗る手法にしているんですが、今回はちょっと違う手法にしています。でも、点描というよりは油絵のような厚塗りにして仕上げていますね。

――ヒロインのアニエスは、どのようなキャラクターなのでしょうか?
浅野 最初のARムービーにも登場した本作のヒロインで、“クリスタルの巫女”という特別な存在です。お姫様のような印象があるかもしれませんが、巫女なんですよ。とはいえ、彼女が属するクリスタル正教という組織では、お姫様のように大事にされています。

――吉田さんは、彼女をどのようなイメージで描かれていますか?
吉田 かわいさの中にちょっと陰がありながらも、母性が感じられるようなイメージですね。今回のイラスト(下記イラスト参照)は、彼女の波乱の運命を意識して、かわいいだけではない不安感も表現したいと考えて描きました。

『ブレイブリーデフォルト』プロデューサー浅野智也氏&リードアーティスト吉田明彦氏インタビュー【完全版】_03

――彼女は、プレイヤーが操作できるキャラクターになるのでしょうか?
浅野 はい。主人公のティズといっしょにパーティーを組んで冒険します。

――ティズのキャラクターデザインも吉田さんが担当されていますが、ティズはどのように描きましたか?
吉田 自分から行動するタイプのキャラクターではないので、デザインもそれほど個性を強く出していません。プレイヤーが自己投影できるようにしています。

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立体視を活かしたビジュアル

――今回のビジュアルコンセプトとキーワードは?
吉田 毎回、明確なコンセプトを作ってはいないので、その通りになっているかわからないのですが、ファンシーな中にもヨーロッパの児童文学などの奇妙さ、ユーモアな要素を取り入れて、美しさに毒があるようなビジュアルを目指しました。あとは、派手さを求めずヒーリング系と言いますか、やさしいビジュアルも意識しています。
浅野 今回、吉田のイメージをできるだけ遜色なくゲーム画面にするのが目標でした。加えて、ニンテンドー3DSならではの表現方法の模索も合わせて、多くの試行錯誤を重ねましたが、最終的には開発を担当しているシリコンスタジオさんから現在の表現方法が提示され、そこに着地することができました。
吉田 いろいろな頭身のバージョンなど、いくつもの手法を試したものの、どれも決め手に欠けていたんですが、この画面(下に掲載している写真)を見た瞬間に「これはいける!」と思いましたね。絵画を背景にする手法は従来にもありましたが、ニンテンドー3DSの立体的な空間表現になったことで、新鮮に感じていただけるのではないでしょうか。

『ブレイブリーデフォルト』プロデューサー浅野智也氏&リードアーティスト吉田明彦氏インタビュー【完全版】_05
▲これがビジュアルの方向性を決めるきっかけとなった、開発初期の画面。ニンテンドー3DSで見ると、背景が立体的に見えるようになっている(この写真は2D表示のものです)。

――(ニンテンドー3DSの実機を見て)これは、すごい! 飛び出す絵本の中を歩くイメージですね。
浅野 いろいろと試した手法のなかには、これ以外にも非常にクオリティーが高いものもあったんです。でも、インパクトがないと言いますか、このソフトだけの表現にはなっていなくて……。
吉田 以前から絵本のような表現を試していたんですが、この手法ならばやっと実現できる気がします。しかも、キャラクターが止まっているときは背景イラストの全景が見えて、歩き出すとカメラがズームして細部まで見られるというインターフェースもおもしろいんです。

――こういう表現をするには、相応の苦労があると思うのですが……。
吉田 この手法を採用するときに思ったのは、「全部のイラストを僕ひとりで描くのはできないぞ……」ということでした(笑)。この手法は、コンセプトアートをそのままゲーム画面に使うものなんです。たとえばクルマの場合、モーターショウで出展されるコンセプトカーは、デザイナーが渾身の力で作ったものですので、とても個性の強い魅力的なものになっていますよね。でも、一般的に販売されるものは、量産向きのデザインに直されてしまう。僕も『FFXIV』などの大作を作るときには、大量のコンセプトアートを描いているんですが、その多くが陽の目を見ることがないので、もったいないなと思っていたんです。それが、今回の手法を使えば、コンセプトアートとして描いたものがそのまま活かせると。それで、いつもコンセプトアートを描いているスタッフに声をかけてお願いしたら、テストマップに使われた背景よりもすごいコンセプトアートを書き始めまして……。最初は、「こんなレベルの高いものをいきなり描かれたら、その後の大量生産がし辛くなるからやめてくれ」と言っていたんですが、そのスタッフは「もう引き下がれない」と(笑)。ですので、そういった高いクオリティーのコンセプトアートが描ける人をたくさん集めて作ることにしたんです。

――なるほど。イラストに奥行きがあって、階段を上り下りできるのがうれしいですね。
吉田 本来であれば、キャラクターが歩く部分のモックアップを作ってそこにパース(角度、遠近感などのこと)を合わせたイラストを描くんですが、今回はパースが多少歪んでいてもいいから、とにかくいい絵を描こうということを心掛けています。

――3Dボリュームを切っても立体感があるように見えますが、3Dで見たほうが断然すごさが伝わりますね。
浅野 この感覚を皆さんに味わっていただくには、ニンテンドー3DSの画面で実際に見ていただくしかありませんから、ARムービーを含めた体験版を配信することにしました。

つぎつぎと配信されていく体験版

――本作の特徴でもあるARムービーですが、体験版の『BRAVELY DEFAULT Demo』シリーズでは、毎回新しいものが収録されていますね。
浅野 最初に配信したARムービーは、東京ゲームショウで観ることを考えて、登場するキャラクターの位置をある程度固定していたんですが、今回の体験版は自宅で観ることを想定しまして、アニエスが寝そべっているところから起き上がって歩いたりと、移動するシーンをふんだんに入れました。

――最初のARムービーから、とても話題になっていました。
浅野 おかげさまで最初のARムービーが非常に評判がよかったので、それを受けて今後の体験版シリーズにも新規のARムービーを入れていこうということになりました。『BRAVELY DEFAULT Demo Vol.1 -クリスタルの巫女篇-』からは、各キャラクターをフィーチャーして紹介しつつ、操作できる部分を入れた内容にしていきます。

――いくつもの体験版をシリーズ化して配信していく意図は何でしょうか?
浅野 意識しているのは、パッケージゲームを買ってもらううえで、ソフトが出るまでの期間もイベントとして楽しんでもらいたいということです。ダウンロード配信のソフトの多くは、配信直前に発表されたり、発表されたらすでに配信されていたりということがありますよね。それもうれしいんですが、ゲームの発売日を心待ちにすることも楽しかったと思うんです。そこで、今回は発売日までの期間で複数の体験版を配信して、発売日までの気持ちをどんどん高めていってもらう、いわばお祭りのような雰囲気を味わってもらうために、このような展開を考えました。それと、体験版を実際にプレイしてくださったユーザーの皆さんがどのように感じたのか、その反応を製品版に活かせればと思っています。

――ARマーカーも毎回印象的なイラストになっていますが、あれを描かれているのは?
吉田 長くいっしょにやっている女性のスタッフ(宮本由香氏)です。彼女は自分で考えてやってくれるので、ある程度方向性の打ち合わせをしたら、あとはお任せでお願いしています。
浅野 ファミ通さんには、体験版配信日の翌日に発売される号に、ARマーカーを印刷したポストカードを毎回付けていただいているので、ぜひコレクションアイテムとして集めてほしいですね。

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――少しお話がそれますが……。『ブレイブリーデフォルト』で描かれるのは“王道ファンタジー”の世界ですが、吉田明彦さんが考える王道ファンタジーというものはどういった内容でしょうか?
吉田 “王道ファンタジー”と言われて僕が挙げるものは、よく人と違うと言われるんですが……。僕の中で、“王道ファンタジー”と考えてすぐに浮かぶものは、『ダーククリスタル』(1982年にアメリカで公開された映画。登場するすべての人物、クリーチャーをロボットで作り上げている)なんです。以前から、「あの世界観をゲームで作りたいんだ」と言っていいまして、いまでもあれに匹敵するものを作りたいと思っています。

――なるほど。ありがとうございます。では、最後に本作を楽しみにしている読者にメッセージをお願いします。
吉田 まだまだ開発途中なので、安心してプレイしていただける製品を作れるように鋭意がんばっております。続報をチェックしていただき、気に入っていただけたらぜひお買い上げください。
浅野 スクウェア・エニックスの新作王道RPGということで、多くの期待をいただいています。ご期待に応え、そして期待以上のものが出せるようにがんばりますので、応援してください。そして、現在配信中の体験版『BRAVELY DEFAULT Demo』シリーズは、定期的に発表される最新情報を、実際にニンテンドー3DSでプレイしながら楽しめるものになっています。ぜひ『BRAVELY DEFAULT Demo』シリーズをプレイしながら、発売までの期間をいっしょに楽しんでください!

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