いよいよ日本語のサービスが開始された、CCP Gamesのオンラインゲーム『EVE Online』。アイスランドでコツコツと作られた本作は定期的にエクスパンション(拡張)が行われ、大きくなってきた。月額課金を支払っている登録者は、いまや全世界で40万人超え。今年は、本作とゲーム的に連動するプレイステーション3向けのFPS(一人称視点シューティング)『DUST 514』のリリースも予定されており、その世界はますます広がりを見せている。

 先日、本拠地アイスランドのレイキャビクで行われたオフラインイベント“EVE Fanfest 2012”の終了後に、開発の首脳陣に話を聞いたので、その模様をお伝えしよう。まずはFanfestでシニアプロデューサーへの就任が発表されたJohn Lander氏から。

『EVE Online』開発首脳陣に聞く、EVE宇宙の未来【EVE Fanfest 2012】_03

――Fanfestの反応はいかがですか?
Lander ちょうどいまTwitterで「よし、(月額課金を)喜んで払ってやろう」というメッセージを読んでいたんだよ(笑)。さて、一般的な話をしよう。もちろんさまざまなフィードバックを受けているわけだが、おおむね「ありがとう」というメッセージが多かったと感じている。我々が自分たちの良かった部分を再確認して新たな方針を打ち出したことを、好意的に受け止めてもらえたのはありがたい。

――10年目に突入するものを動かし続けるというのは、ゲームにしても、プログラムにしても、組織にしても大変だと思うのですが、いかがですか?
Lander 技術的な話から行こう。毎日、実に巨大で複雑なシステムを相手にしている。これをメンテナンスして、さらに新しくしていくのは大きな仕事だ。2007年にグラフィックエンジンを一新したが、今年のFanfestではNVIDIAの協力により、DirectX 11でのデモをお見せした。あれをどう実際にゲームで実現するのか、プレイヤーの意見も聞きながら考えていかなければならないね。

『EVE Online』開発首脳陣に聞く、EVE宇宙の未来【EVE Fanfest 2012】_02
▲DX11でのデモ。テッセレーションによりより細やかにモデリングされた宇宙船が小惑星帯に突入する様子がリアルタイムに再現されていた。

 組織としては、2003年に『EVE Online』をリリースした時は30人しかいなかった。現在、『EVE Online』のスタッフは240人いる。私もIBMなど大きな会社で働いてきた経験があるが、それを踏まえた上での我々の挑戦は、組織が大きくなっても、CCP Gamesのコアや文化を失わずに継続していくことだと考えている。

――『DUST 514』やWebやスマートフォンなど、EVEの宇宙へのアクセスポイントが増えると、そのトラフィックを捌いていくのは大変じゃないですか?
Lander 大変だが、嬉しい悲鳴と言うべきだろう(笑)。1年以上前から、“コブラ・カイ”というチームがクラスターサーバーでどう効率的にアクセスを処理していくか、再編成を行なってくれた。これは本来『DUST 514』からのアクセスに耐えられるようにするためのものだったが、結果としてもっとほかのプラットフォームからのアクセスにも備えられるようになった。

――『DUST 514』が始まると、『EVE Online』にどんな影響が生まれると思いますか?
Lander 『DUST 514』の基調講演でも見たと思うが、たとえば『EVE Online』のプレイヤーが『DUST 514』の世界に向けて軌道爆撃を行える。ああいった衝突の機会は今後増えていくだろう。そしてこれは我々のタイトルのいいところだが、我々は環境とツールをセッティングし、コミュニケーションを整備するだけで、そこにどんな物語が記されるのか、どんな戦いが起こるのか、誰と誰が衝突するのかは、プレイヤーが作っていってくれる。つまりその、面白いことに、私にも実際何が起こるかわからない(笑)。

――とはいえ、EVEの世界内での経済的影響などを予測したりするのでは?
Lander 確かに。我が社には経済学者などもいるので、何が起こり得るかずっと考えている。EVEのプレイヤーはこれまでのプレイでISK(『EVE Online』と『DUST 514』共通のゲーム内通貨)を貯めている から、そういった人々が『DUST 514』のコーポレーション(ギルドやクランにあたる)のスポンサーになったりするかもしれない。あるいは、『DUST 514』で作られた資源が、『EVE Online』のコーポレーションに預けられて流通し、新たな市場を生むといったこともありえるかもしれない。そういった予測も含めて慎重にプランニングしているよ。

――『EVE Online』の基調講演では、宇宙船のゲームであることに再フォーカスするというメッセージを出していましたね。宇宙船をデザインするのは、アートデザインの面でも、ゲームデザインの面でも労力が必要で、だからこそこれまで慎重だったと思うのですが、なぜこれからできるのでしょうか? チームの再編成などを行ったのですか?
Lander もちろん難しいことだが、製作過程を見直し、より効果的なものにしている。BioWareからやってきたスタッフがアートのプロセスを大分整理してくれた。また、何でもかんでも新しいものを作るというだけではなくて、あまり使われていない艦をどう再調整して生き返らせるかも注力していきたいと考えている。

――では、宇宙船以外で、現状の重要な課題は何でしょうか。
Lander 『EVE Online』は10周年を迎えようとしており、すでにそれだけの蓄積もある。これからは“革命”を起こすのではなくいかに“進化”させていくかが重要だと思う。まず考えているのは“EVE Everywhere”という構想だ。タブレットやスマートフォンでデータをいじれるとか、コミュニケーションができるとか。たまたま読んだネットの意見で「Fanfestでみんなが待ち合わせできるアプリがほしい」といったものがあったが、そういったこともいいだろう。
――単純にクライアントソフトでゲームをするという領域だけでなく、EVEという体験をどう広げていくかも含めて考えていくということですね。
Lander まさにその通りだ。まずは『DUST 514』を『EVE Online』の世界にちゃんと繋げて、将来的にはさらなるアクセスを検討していきたいと思う。

――あと数日で日本語サービスも始まるわけですが、最後に何かメッセージをお願いします。
Lander まずは既存プレイヤーの皆さん、これまで誠にありがとうございます。ぜひ新しくやってくるプレイヤーを受け入れ、EVEとは何なのかを教え、コーポレーションに勧誘してください。コミュニティーを最大限に強化する最大のチャンスです。
 そしてEVEをやってみようかと思った皆さん。このゲームは違う人と遊ぶのが一番おもしろい部分です。友達と遊んでもいいですし、コーポレーションに入ってみるのもいいでしょう。人との関係を作っていったほうが最大限に楽しめることをオススメしておきます。自分が与えるほど返ってくるものがある深いゲームです。
 それと最後に、ハードコアなベテランの皆さんに。日本語専用のISD(EVE公式ボランティアプログラム)を新設しました。、ご興味があればぜひコンタクトしていただき、あなたの助けを借りられればありがたいと思います。

 お次はクリエイティブディレクターのTorfi Frans Olafsson氏。日本で昨年行われたプレイヤーカンファレンスにも登壇した同氏は、Fanfestでは全体の最後を飾る基調講演に登場し、さらなるEVEの未来を示唆する映像を公開していた。

『EVE Online』開発首脳陣に聞く、EVE宇宙の未来【EVE Fanfest 2012】_04

――基調講演のラストでアバターを使った探索要素を未来の構想として発表していましたね。あれについてもう少し詳しく教えてください。
Torfi 基調講演は、まず今の『EVE Online』をどうしていくか、次に『DUST 514』はどうなるのか、そして将来『EVE Online』をどうしていきたいか、という3パートに分かれていました。
 私は最後のパートを担っていたわけですが、アバターを使って、太古の建造物や廃墟に入って探索するというアイデアは、未来の『EVE Online』として描いているもののひとつになります。プロトタイプの段階なので、まだグレーな建物に入って、グレーなものを拾うといった程度のレベルですが、まさにいま開発中です。これから時間をかけてコンセプトを詰めていきたいと考えています。

――いまはアバターは見るだけといった感じですが、今後は、自分の宇宙ステーションにみんなで集まったりとか、自分のアバターで冒険を行なうとか、アバターサイズの経験も広がっていくわけですね。
Torfi その通りです。いままで成功した『EVE Online』のゲームのメカニズムを、アバターの方面にも拡張していきたいんです。これまで宇宙船でやっていたことと全然違うことをやるというよりも、それを人でやるという感じですね。

――『DUST 514』で『EVE Online』から軌道爆撃をするのを見たのですが、逆も可能だそうですね。
Torfi そうですね。ゲームデザイナーとして、物事はじゃんけんのようなもので、一方的に強い攻撃というのはアンフェアだと思うんです。
――惑星をコントロールするためには『DUST 514』の協力が必要なんですよね。
Torfi はい。それぞれのゲームのプレイヤーがバラバラに遊ぶのではなく、生態系をともに形成して相互に関係していくのが理想です。
――実際、戦おうと考えてから『DUST 514』でバトルが始まるまで、『EVE Online』では何が起こるのでしょうか?
Torfi 『DUST 514』との接点をどうするかというのは実際まだ『DUST 514』のメンバーが日々調整を行なっている段階なので、ちょっと私もまだ詳しくない部分があるんです。
――ああ、ではまだ我々が見ていない部分がいっぱいあるんですね。
Torfi そういうことになると思います。『EVE Online』がそうであるように、コンテンツはどんどん調整され、追加されていくものでもありますから。『EVE Online』のプレイヤーとしても、実際どういうインパクトが起きるのか楽しみですね。

『EVE Online』開発首脳陣に聞く、EVE宇宙の未来【EVE Fanfest 2012】_01
▲左が『EVE Online』の画面で、右が『DUST 514』の画面。プラットフォームもゲーム内容も違う2タイトルの世界が繋がっているのだ。

――ところで、『EVE Online』はゲームのペースなども含めて、タブレットに意外と向いているんじゃないかと思うのですが、そういった方面に興味はありますか?
Torfi タブレットは伸びていて確かに興味深い領域です。多くはネットワーク能力を持っていますし、PCを使わずに全部タブレットで済ませている人もいますしね。
 『EVE Online』をそのまま移植というのは、フォントの問題などもあって、あらゆるものが小さくなってしまうので、いまのところ現実的ではないと思います。しかしながら現在のタブレットでも、戦闘以外の部分、服とか、トレードとか、コミュニケーションツールといった部分で実現できないかということは検討しています。

――パッと見ると証券マンみたいにスマートフォンをバリバリ使って「アレを買いだ!」なんて熱中してるけど、でも実は『EVE Online』のトレードをやってるだけ、なんて光景が見られるようになったらおもしろいですね。
Torfi ははは、たしかに。今日聞いた話で、ある人が600人のアライアンスの艦隊を指揮してタイタン級の船(最大級の巨大な船)を2つ沈めたそうなんですが、彼はゲームを起動することもなく、スマートフォンで全部指示を出していたそうですよ。

――では最後に、今後『EVE Online』をどういう方向にディレクションしていきたいですか?
Torfi 私個人としてのゴールは、一番最高のSFシミュレーターにすることです。艦隊戦をやる人でも、トレーダーでも、探索者でも、とにかくリアルに感じられる宇宙を実現していきたいですね。