家庭用ゲームの新しい扉が開く……?

 2012年3月29日、プレイステーションVita(以下、PS Vita)専用ソフトとして、『サムライ&ドラゴンズ』がリリースされる。本作は、基本プレイ料金が無料で、アイテム課金によって収益を得るタイプのサービスだ。携帯型ゲーム機において、初の本格的なアイテム課金の作品となる本作。この試みは成功するのか? さらには今後、家庭用ゲームでも、アイテム課金のゲームは主流ジャンルのひとつとなっていくのか? 本作のチーフプロデューサーを務めるセガの菊池正義氏に話を聞いた。
(※本記事は、2012年3月15日発売の週刊ファミ通3月29日号に掲載された記事に、未掲載分を追加したものです)

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セガ
第一CS研究開発部 部長/プロデューサー 兼
オンラインエンタテインメント研究開発部 部長
菊池正義(きくち まさよし)氏

家庭用ゲーム開発を約17年間手掛け、プロデューサーとして『龍が如く』シリーズなどを輩出。現在はオンラインゲームの開発を手掛けている。

■『サムライ&ドラゴンズ』とは

 PS Vita専用タイトルとして、3月29日にセガがリリースするオンラインゲーム。ソフトはPS Storeから無料でダウンロードして遊ぶことができる。プレイにはオンライン環境が必須だが、3G、Wi-Fiのいずれでも、ほとんどの要素を遊ぶことが可能。4月26日には、ソフトに加えて、ゲーム内アイテムなどがセットになったパッケージ版も発売される。
 ゲーム内容は、"ダンジョンを攻略する"、"街を発展させる"、"カードバトルで領地を奪い合う"という3つのパートで構成されており、本格的なシミュレーションとアクションの要素を楽しむことができる。とくにアクションパートでは、アナログスティックを備えたPS Vitaならではの快適な操作性で、モンスターとのバトルやダンジョン探索を進めることが可能。また、ほかのプレイヤーと最大4人までのパーティーを組んで、協力しながらダンジョンを攻略していくこともできる。

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▲施設を増設、拡張して街を発展させ、戦力を整えていく。ゲーム内の世界でも時間が流れており、コマンドの完遂には一定時間を要するものが多い。
▲カードの収集も楽しみのひとつ。カードバトルで領地を奪い合うのだ。
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▲アクションパートは、最大4人までの協力プレイが可能。

いわゆる"ソーシャルゲーム"ではない!

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――まず、本作を携帯ゲーム機用に投入しようとした理由を聞かせてください。

菊池正義氏(以下、菊池) 前提としてiOS、つまりiPhone&iPad用の『Kingdom Conquest(キングダムコンクエスト)』(※)が好評をいただいて、ある程度実績を残せたということがあります。このサービスをさらに展開していく方法を考えていた時期に、PS Vitaが発表されまして。そこで、選択肢として検討し始めました。

――アイテム課金のサービスを展開するハードとして、PS Vitaに可能性を感じたと。

菊池 手軽さという部分では、携帯ゲーム機ですし、iPhoneなどとそれほど大きな違いはないだろうと考えました。ただ、アイテム課金のできるゲームですから、システム的に課金の決済がどれくらいスムーズにできるかというところは、当初は気がかりでしたね。でも実際に開発してみた結果、問題なくできそうでそこは安心しました。

――とはいえ、ポケットからスッと取り出せるスマートフォンと、かばんの中に入れていることが多い携帯型ゲーム機では、気軽さ、心理的な障壁の高さに差があるように思いますが、そこはどうお考えですか?

菊池 確かに電話はつねに持ち歩くものですからね。ゲーム専用機では、そこにハンデが生じるというとらえかたはあると思います。ただ、ソーシャルゲームやアイテム課金のゲームは、十把一絡げに語られがちかなところがありますが、実際にはいろいろなタイプのゲームがあるんですよ。手軽に遊べるという前提は共通していますが、3分程度の空き時間で遊ぶゲームもあれば、すごくディープに遊ぶゲームというのもあります。我々が作っているゲームは、後者のタイプなんです。

――『サムライ&ドラゴンズ』の核は手軽さ、気軽さの部分ではないというわけですね。

菊池 『Kingdom Conquest(キングダムコンクエスト)』の場合は、当初は電話で遊べるから、暇つぶしに始めたという方も多かったと思います。でもそこからハマって、長く続けていただけたのは、ゲームがおもしろく、遊び込めるからこそだと感じています。実際、ユーザーの方々に調査をしたところ、「どこで遊んでいますか?」というアンケートでは、自宅で遊ぶという回答が7割くらいで、自宅でガッツリ遊んでいる方が多いんです。

――なるほど。電車の中などで暇つぶしに遊ぶタイプのゲームではない、と。

菊池 そうですね。一般的にソーシャルゲーム、スマートフォンのゲーム、というふうにくくられるゲームとは違う、異質のものだと我々は思っています。

――より深く遊ぶという部分では、PS Vitaには、スマートフォンよりもすぐれている部分もありますよね。

菊池 ゲーム専用機は、ゲームを遊ぶために設計されているものですからね。スマートフォンもいろいろなことができるようになってきましたし、そのスペックも日進月歩ですが、現時点で市場で普及しているものと比べると、やはりゲームを遊ぶならゲーム機のほうが、表現力とインターフェース、このふたつの点で、一歩も二歩も先を行っていると思います。ですので、よりリッチなものを、より快適に遊べるというのは、PS Vitaならではだと思います。

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――画面が大きいのも有利なポイントですね。

菊池 そうですね。画面が大きくて高精細なので、タッチパネルの押せる範囲が広くなる分、押しやすくなるという利点もあるし、一個一個のアイコンも大きくできます。そういう細かいところもありますが、やはり『サムライ&ドラゴンズ』はアクションゲーム部分が半分くらいを占めるゲームですから、そこの表現力がぜんぜん違いますね。もうひとつは、アナログスティックとボタンがあるというのも大きい。アクション部分が一段も二段もおもしろく、快適に作れていると思っています。

――家庭用ゲームを中心に遊んでいる人にとっては、ダンジョン攻略部分がおもしろいと、入り口として入り込みやすいように思いました。

菊池 アクションを入れることによって世界に入り込みやすくする、というのは『Kingdom conquest(キングダムコンクエスト)』から狙っていた部分なんです。一方で、「シミュレーション部分もどうにか敷居を下げられないか?」というのは課題として取り組んできた部分で、今回はいちから作り直せる機会でもあったので、それまでの反省点を活かした作りになっています。ですから初めて遊ぶときの敷居は、『Kingdom conquest(キングダムコンクエスト』に比べてもぐっと低くなっているはずですよ。


※『Kingdom Conquest(キングダムコンクエスト)』

 セガが2011年1月よりサービス中のiOS向けオンラインゲームで、全世界累計ダウンロード数は240万を突破し、現在もユーザーを拡大し続けている大ヒット作品。本作の基本
システムを継承しつつ、世界観やグラフィックなどあらゆる要素を一新し、PS Vita専用として新たに制作したのが『サムライ&ドラゴンズ』だ。

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▲洗練された奥深いゲーム性は、ゲーム専用機のゲームにも引けを取らない。

βテストは期待以上の結果に

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――ソーシャル系のゲームについては、ユーザーのあいだでもいろいろな意見があり、なかには否定的な人もいるようです。それについてはどうお考えですか?

菊池 ここ数年、新聞やテレビを賑わせるくらい話題になっている市場ですし、まったく未知のもの、得体の知れないものではなくなっているというのはプラスの要素だと思っています。ある調査では、家庭用ゲーム機のユーザーさんの2割くらいは携帯電話用のソーシャルゲームを遊んでいるという結果も出ていますし、オンラインゲームと言えばPCしかなかった時代と比べれば、心情的なハードルはかなり低くなっているでしょう。そしてもうひとつ、"ソーシャルゲーム"としてまとめて否定的な方の場合、「ソーシャルでは家庭用ゲームのような濃い体験ができない」と考えている方が多いと思うんです。でもそういう方々には、一度『サムライ&ドラゴンズ』を体験していただければ、理解してもらえるのではないかと思っています。我々がいちばんアプローチしたいユーザー層もそこで、家庭用ゲームをヘビーに遊んでいるユーザーの方々、濃いゲーム体験を求めている方にこそ、いちばん遊んでいただきたいと考えています。

――基本無料のゲームですし、体験してもらう、という部分のハードルは低いですよね。

菊池 ええ。PS Vitaの発売から間もない時期にリリースするのも、注目されやすく、遊んでもらいやすいだろうと考えてのことです。ある程度ハードが普及してから、というのもひとつの戦略ではありますが、我々としては、先陣を切って、先頭を走ることのメリットを最大限に活かしたいと思っています。

――当然ですが、タイトル数もまだそれほど多くないですしね。

菊池 それに、背面タッチや、ジャイロ、2本のスティックなどがクローズアップされがちで、3G通信やWi-Fi機能をとことん使ったタイトルは少ないですよね。3G通信やWi-fiを使ってどう遊ぶか、というのは、まだユーザーさんたちにあまり提示されていないと感じています。その部分でも、興味を持ってもらえるタイトルになっていると思います。

――たしかに『サムライ&ドラゴンズ』は、3G通信を使えると、より楽しくなるゲームですよね。

菊池 24時間世界が動いているゲームですからね。ハマッた方は、3G通信を利用したくなると思います。私自身も、機器を持たずに出張してしまったときに、ゲーム内の状況を確認したくてソワソワしたりしましたから(笑)。

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――2月16日から29日までβテストが実施されましたが、感触はいかがでしたか?

菊池 まず20000人の応募枠をはるかに超える応募をいただきまして、ニーズの高さを感じました。βテスト開始後の動きも良好でしたね。我々はスマートフォンなどでのサービスを通じて、ある程度指標となる数字を持っていますが、それと比較しても、さまざまな部分が想定していたよりもいい数字になっています。また、反応を見ると、こういったジャンルのゲームは初体験の方も多かったようです。

――新規層の開拓にも手応えアリ、と。

菊池 期待した以上に受け入れてもらえているな、という感触はありますね。

――プレイヤーからは、意見や要望なども寄せられているのでしょうか?

菊池 いろいろご要望はいただいていますが、いちばん強く感じたのは、アクションゲームの部分に強いニーズがあるようだ、ということですね。ある程度は予想していたことではありましたが、予想以上でした。ですので、アクション部分をさらに遊んでいただけるものにしていこうと考えているところです。

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パッケージ版に込めた思いとは

――サービス開始から少し遅れて、2012年4月26日にデラックスパッケージ版が発売されますが、パッケージ版をリリースする意図を教えてください。

菊池 基本プレイ料金無料というスタイルですが、無料とはいえ、遊んでいただくにはなかなかハードルもあると思います。もちろんPS Vitaのユーザーさん全員に遊んでいただきたいのですが、それはなかなか難しい。ひとりでも多くの人に遊んでもらうためにはどうするかと考えたときに、ソーシャルゲームや携帯などオンラインのゲームでは、オンラインの世界でのプロモーションが大部分を占めるのが普通です。でも我々は家庭用ゲームを作ってきて、家庭用ゲームを売ってきた人間ですし、今回家庭用ゲーム機専用のゲームとして出すわけですから。家庭用ゲーム機ならではの売りかた、届けかたはないだろうかと考えた結果、店舗に着目したというところが大きいです。

――なるほど。店舗で、目に触れる形で陳列されることに重要な意義があるわけですね。

菊池 実際、お店で目に触れたことがきっかけで買おうと決断される方はたくさんいらっしゃいますから。そしてその一方で、ゲーム内で使えるアイテムや、ポイントの割引など、価格以上の特典がたくさん詰まっているパッケージになっていますから、すでにゲームを始められている方々にも、お店に足を運んで買っていただける機会になると思います。あまり大それたことは言えませんが、この新しいスタイルのコンテンツによって、家庭用のゲーム業界が、違う方向に活性化できるんじゃないかな、という期待も少し込めています。

――ゲームショップに、従来とは違う層のお客さんを呼び込める可能性もある、と。

菊池 ゲームに限らず、デジタルコンテンツが何でもダウンロード販売になってきて、ダウンロードのみで済んでしまうという時代になってきていますが、「そうなったら街の売り場はどうなるんだ?」という話がありますよね。そこも含めて活性化していけたらいいですし、売り場でゲーム業界を支えられている方々にもご協力をいただけたらな、と思っています。やはり私自身、家庭用ゲームを16~17年やってきましたので。家庭用ゲームに元気がない状況は歯がゆいですし、私自身微力ながら何かできないか、というのはつねに考えています。開発チームも、家庭用ゲーム出身の者が多いので、そういう思いは強いですね。

――収益面での効果を狙ったものかと思いきや、とても遠大なお考えがあってのことなのですね。

菊池 いや、収益面ももちろん重要ですよ(笑)。そこで開発費が回収できたらな、と思いますので。

――では結果次第では、第二弾、第三弾も……?

菊池 いまのところプランは立てていませんが、状況次第で考えていきたいとは思っています。お店で何かしら購入いただいて……というサイクルは、家庭用ゲームならではですからね。


■デラックスパッケージ版は2012年4月26日発売予定。ゲーム内で使用できる特典(ゲーム内通貨100CP×4、フレンドチケット×4、レア武将チケット×4、エクストラチケット×4、CP割引購入チケット×4)がたっぷり詰まっている。また予約特典として「魔獣カード:UC☆風魔小太郎」のコードが入ったカード(画像右)も用意されているほか、店舗別特典も実施されている(詳しくは【コチラ】)。

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アイテム課金のゲームは大きな勢力に?

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――今後家庭用でも、基本無料でアイテム課金のゲームは大きな存在になるのでしょうか。

菊池 もちろん全部が塗り変わるとは思っていませんが、そういうジャンルが大きな一角を占めることができたらいいな、と思っています。いま盛り上がっている市場ですし、そのいい部分を家庭用ゲーム機の市場にも取り込むことができれば、良質なゲームをさらに作り続けることができる環境も維持されると思うので。そうなってほしいな、と……私自身は願っていますが、実際なるかどうかは、ユーザーさん次第ですので、なんとも(笑)。

――最近では有料の追加DLCも増えてきて、ユーザーが課金というものに慣れてきている状況もありますが、障壁はまだありますよね。

菊池 そうですね。有料のDLCや課金は未体験だという方も一定数いらっしゃると思いますし。そこをどれくらい変えていけるかというのは、『サムライ&ドラゴンズ』が大きなテストケースになるのかもしれませんね。

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――最後に、読者にメッセージをお願いします。

菊池 とても濃いゲームを作っています。βサービスを体験していただけた方には、その一端を垣間見ていただけたと思いますが、βサービスは本当に短いあいだしかできなかったので……我々ももっともっと、「1ヵ月くらいできないの?」という話をしていたのですが、開発の都合上、なかなか用意できなくて。また、たくさんの方に応募していただいたのに、体験していただけなくて、とても申し訳なく、心残りに思っております。製品版の正式サービススタート時には、βサービスの段階では制作途中でできなかったところ、歯がゆい思いをしていたところが大幅に改修されておりますし、我々がサービス段階で「これだけのことはできるようにしよう」と考えていたものを、残さず詰め込みましたので、もっともっと、何倍もおもしろいものになっています。また、1週間、2週間だけでも楽しめるゲームではありますが、それが1ヵ月になり、2ヵ月になると、このゲームの真髄が見えてきて、もっともっとおもしろくなっていくゲームですので、そこは本当に楽しみにしていただきたいと思っています。無料でダウンロードできますので、アクション部分だけでも、気軽な気持ちで触っていただければと思います。


サムライ&ドラゴンズ
メーカー セガ
対応機種 PSVPlayStation Vita
発売日 2012年3月29日配信予定
ジャンル アクション&モンスターバトル / ファンタジー
備考 基本プレイ料金無料(アイテム課金) デラックスパッケージ版は2012年4月26日発売、価格は3990円[税込]