『NieR』関連イベントの集大成――今後の展開は……!?

 スクウェア・エニックスは、2012年3月20日、都内にある新宿アイランドホールで、明明日発売の『ピアノコレクションズ ニーア ゲシュタルト&ニーア レプリカント』の発売記念ピアノライブイベント“トオク、チイサク、ハカナイ、ピアノ。”を開催した。

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▲本イベントには、スクウェア・エニックス メンバーズで応募した人の中から抽選で200名が招待された。

 同イベントでMCを務めたのはエミール役の門脇舞以さん。門脇さんは、もともとプライベートでこの日のイベントに参加するつもりだったらしいが、MCの依頼がきたことにビックリしたと同時に「光栄です」と挨拶。そんな門脇さんから1曲目のコールがなされ、『ピアノコレクションズ ニーア ゲシュタルト&ニーア レプリカント』で編曲・ピアノ演奏を務めた帆足圭吾氏により『イニシエノウタ』が演奏され、ライブはスタートした。

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帆足圭吾氏
谷岡久美氏
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▲スクリーンには演奏楽曲にちなんだ名シーンが。改めてゲームがプレイしたくなる気持ちに。

 『イニシエノウタ』の演奏が終わると、門脇さん、そして『NieR Gestalt/Replicant』の音楽を担当したコンポーザー、岡部啓一氏が登壇。岡部氏は「ゲームが発売されてしばらく経ちますが、こんなイベントができるとは思ってもみませんでした。ありがとうございます」と感謝の言葉を述べた。また、『NieR Gestalt/Replicant』と言えば、ディレクターのヨコオタロウ氏だが、ヨコオディレクターは声のみという形でイベントに参加。理由は「ロサンゼルスに出張」(ヨコオ氏談)とのことだが、まるで楽屋からマイクで喋っているかのようなレスポンスに岡部氏から「ホントにロサンゼルス?」とツッコまれると、「完全にロサンゼルスです!」と強固に主張。とりあえずそういうことにして、次の曲『エミール』が演奏された。こちらも帆足氏が演奏。エミール役の門脇さんは、当然この曲への思い入れは強く「とても感動しました」と実感のこもったひと言。また、門脇さんが「ピアノにピッタリ」と感想を述べると、帆足氏は「音数が少ないほうがメロディーがキレイに聞こえるので、『エミール』はピアノにピッタリの曲だと思います」と解説した。岡部氏によると、ピアノ・コレクションズに収録する楽曲の選定には、メロディーが印象に残りやすく、アレンジを変えてもその曲のよさが残る“歌モノ”を主体に選んでいったという。

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MC:門脇舞以(エミール役)
プロデューサー/サウンドディレクター:岡部啓一氏(MONACA)
アレンジャー/ピアノ:帆足圭吾氏(MONACA)
アレンジャー/ピアノ:谷岡久美
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▲全身黒タイツのヨコオ人形。

 続いて3曲目は『ピアノ・コレクションズ ニーア ゲシュタルト&ニーア レプリカント』で初めて『NieR』楽曲に携わり、一部の楽曲の編曲とピアノ演奏を担当した谷岡久美氏が登場し、『光ノ風吹ク丘』を披露。谷岡氏はさらに『掟ニ囚ワレシ神』、『オバアチャン』を演奏。ラストは帆足氏が再びピアノの前に座り『カイネ』を演奏し、予定の楽曲は終了。Ustream中継終了後は、アンコールとして帆足氏演奏による『魔王』で締めくくられた。

 ピアノアレンジにより、名曲揃いの『NieR』の曲が新鮮にも感じられる『ピアノ・コレクションズ ニーア ゲシュタルト&ニーア レプリカント』。ピアノの響きは美しく切ない『NieR』の楽曲にピッタリ。『NieR』ファンの人には、ぜひ一度聴いていただきたいCDだ。

■演奏楽曲
1.イニシエノウタ(帆足圭吾)
2.エミール(帆足圭吾)
3.光ノ風吹ク丘(谷岡久美)
4.掟ニ囚ワレシ神(谷岡久美)
5.オバアチャン(谷岡久美)
6.カイネ(帆足圭吾)

アンコール
魔王(帆足圭吾)

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 以下は、演奏の合間に実施されたトークの模様。

『NieR』楽曲制作秘話

 岡部氏、ヨコオ氏(声のみ)、帆足氏、谷岡氏のゲスト陣を交えて、『NieR』楽曲制作エピソードが披露された。

・そもそもの始まり
 ヨコオ氏と岡部氏は学生時代からの付き合いで、いつかいっしょに仕事をしたいと話し合っていた。それが『NieR』で実現したというわけだ。ヨコオ氏は『NieR』の試作段階から岡部氏に参加してもらったという。通常、ゲーム音楽は、ゲームがある程度出来上がった段階で収録される。だが、試作段階から岡部氏に参加してもらったことで、ゲーム内で歌が聞こえたり聞こえなかったり、近づくと徐々に楽曲の音が豊かになっていくといった“仕掛け”が実現できたという。

ヨコオ ゲームで音楽的な実験をいろいろやってみたかったんです。ほかの作曲家の方に頼んだら怒られそうなので、岡部さんにお願いしました。あと、当時の岡部さんは、ゲームミュージシャンとしては失敗していて……。

岡部 うるさい!(笑)

ヨコオ なので「ゲーム音楽はこれが最後」っていう話しをしていたので、最終作として最後にがんばってもらおうかと。最終作にするというのは、もう忘れていると思いますが。

岡部 その当時は、こんなイベントを開催してもらえるなんて夢にも思っていませんでしたねぇ。

・ヨコオ氏からの発注で苦労したこと
 ゲーム音楽を依頼されるときは、トータルの楽曲数が決まっていることがふつうだと言うが、ヨコオ氏の場合は、まず3曲、それが完成すると次はこのイメージで3曲、といった形の依頼で“エンドレス感”に戦慄したという。全体像が見えないだけに、探りながら作曲していたとのこと。

・一曲でいろいろな使われかたをしている『NieR』の曲
 『NieR』の曲は、曲ごとにリズム、歌といった要素に分かれてデータが作られており、そのため上記のようにあるシーンでは歌をなくす、またあるシーンではリズムをなくす、といった使いかたができる。なので、1曲でも各シーンでいろいろな使われかたをしているという。また、想定していた場所の曲が別の場所の曲になっているところもあるという。谷岡氏が演奏した『光ノ風吹ク丘』は、もともと砂漠の街に使用するために書かれたが、ヨコオのイメージと異なったため、草原の曲に変えられたという。

■レコーディング裏話

・谷岡氏起用の理由
 谷岡氏はオリジナルの『NieR』楽曲には携わっていない。その谷岡氏に『ピアノ・コレクションズ ニーア ゲシュタルト&ニーア レプリカント』制作に当たって編曲・演奏を依頼した理由について岡部氏は、「あるイベントでごいっしょさせていただいたことがあって、生で谷岡さんの演奏を聴かせていただいたとき、ダイナミックな部分と繊細な部分の幅がすごく広く、演奏者としてはもちろん、ご自身で曲も書かれているのでアレンジャーとしての力量もある」という部分に強く惹かれたからだという。

・レコーディング当日に発覚した事実
 本作のアレンジを手掛けたひとり甲田雅人氏。レコーディング当日、甲田氏が演奏する予定の曲があったそうだが、当の甲田氏はそのことを知らず、代わりに谷岡氏が急遽演奏することになったという。谷岡氏はすぐさまその曲の練習に取り掛かり、その日にレコーディングという離れ業をやってのけた。「その曲に練習時間のすべてを費やしたので、自分の曲があやしくなりました(笑)」(谷岡)

・帆足氏の楽譜
 帆足氏の楽譜には音符がひとつも書いてなく、“このあとキラキラ”や“いい感じに”などといった文章が書かれていたという。

質問コーナー

 事前に募集されたユーザーからの質問にゲスト陣が回答。

Q.思い入れの強い曲はありますか? その曲にまつわるエピソードなどもお聞かせください

岡部 『イニシエノウタ』ですね。村でかかるギターっぽいまったりしたバージョンと、ゲーム終盤の戦闘バージョンがあるんですが、皆さんは村の曲のイメージが強いと思うのですが、最初に作ったのは戦闘バージョンのほうなんです。というのは、あるキャラクターとのバトルのとき、曲に合わせてそのキャラクターを踊らせることになっていて、踊りのモーションキャプチャを行うことになっていたんです。ですので、曲を早く仕上げる必要があったんですね。実際にゲームになってみると、戦闘に夢中になるのでキャラクターが踊っていることに気づかれないうえ、気づいてもらったとしても、キャラクターが小さくてよくわからない、という苦労して曲を早く仕上げた甲斐がなかったことが印象に残っています(笑)。

帆足 『NieR』のころはMONACAに入ったばかりのときで、岡部さんにスパルタでしごかれた記憶があります。「これクソ曲だから全部直して」って言われたときに寝込む勢いでした(笑)。そのおかげでいまがあるんですが(笑)。

岡部 とりあえず作ってもらって、それに対していろいろ言うというスタンスなので(笑)。

帆足 曲では『魔王ノ城』の曲の一部が釣りをするときに音楽に使われてて、ビックリしました。

ヨコオ 釣りの曲がなかったんです。

Q.最初にバシっと決まった曲は? なかなかオーケーが出なかった曲は?

岡部 全般的にはすんなりオーケーが出た曲が多かったんですが、ひたすらリテイクを食らったのは『青イ鳥』という『NieR』の中でも特殊な曲です。

ヨコオ 「ハッ」とか「フッ」とか入ってる曲で、そこは岡部さんが声を入れているんですが、思い切りが足りない感じで。なんか喫茶店の曲みたいな。

会場 (笑)。

Q.谷岡さんに質問です。編曲参加されていますがプレッシャーはありませんでしたか? どういったことに注力しましたか? 

谷岡 自分でCDを買うくらい『NieR』の曲は好きだったのでとてもうれしかったんですが、荷が重い仕事がきたな、とも思いました。どうしよう、と思って。もともと『NieR』の楽曲は完成されていたので、もともと自分自身も崩すというアレンジのしかたをしないので、曲を聴き返して、曲がかかるシチュエーションも思い出しながら、『光ノ風吹ク丘』なら“風”を意識してアレンジを考えました。

岡部 出来上がってきたアレンジを聴いたとき、谷岡さんにお願いしてよかったと思いました。

Q.曲作りの際に心掛けていること。

岡部 ゲームだと世界観や設定、企画を考えた方がどういうものを望んでいるかを踏まえて曲を作ります。ただ、『NieR』は特殊で、ヨコオさんも新しいことに挑戦したがるタイプなので、いわゆるゲームらしい曲をあえて外していきました。なので、ある程度、好き勝手でさせてもらいました。あと、『NieR』は歌を入れるというオーダーがありました。あとは、悲しい、暗いとか。

帆足 クソ曲と言われないものをどう作るかに必死でした(笑)。

谷岡 ふだんは世界観、コンセプト、イメージボードがあれば、それを見て……。あとは作り手の方がどういうものを望んているか、話し合って作ることが多いですね。

Q.ピアノにアレンジするのに難しかった曲、また、アレンジしたらもっとステキになった曲は?

谷岡 もともとピアノアレンジを前提にした曲ではないので、その曲の雰囲気を壊さないようにするのは難しかったですね。

帆足 どう違いを出したらいいか悩みました。やり過ぎると原曲がよくわからなくなるので……。最終的にはシンプルな方向性にしたんですが、そこにたどり着くまでは苦労しました。
 
Q.ピアノアレンジすることで印象が変わった曲はありますか?

谷岡 甲田さんのアレンジ曲はガラっと印象は変わりましたよね。

帆足 そうですね。聴いた瞬間、「えっ!?」って。

谷岡 帆足くんがレコーディング現場で即興でアレンジしているのを聴いたときも、「ああ、そういう方向性もあるのか」と気付かされましたね。ほかの人のアレンジはそれぞれのカラーが変わっておもしろいですよね。

Q.ヨコオタロウは何者なのか?(Yosuke Saito)

ヨコオ 『NieR』のディレクターです。だけでは話が進まないので、『NieR』の思い出を語ると、企画を立ち上げた当時、なかなかその企画がスクウェア・エニックスさんに通らなくて、1年くらい試作が続いていたんですね。そのときに作っていたのが砂の神殿で、ステージ中の曲をくり返して聴いていたので、その曲を聴くといまでも憂鬱な気分になるんですけど(笑)。そんな中、プロデューサーの齊藤さん(スクウェア・エニックスの齊藤陽介氏)にがんばっていただいて、発売後は皆さんに支えてもらって、いまは感無量な感じです。

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▲レアグッズがもらえるプレゼント抽選会も実施。ヨコオ人形に仕込まれた当選番号はまさかの該当者なし。

『NieR』の今後に齊藤プロデューサーが言及

 イベント終盤、応援に駆けつけた『NieR』の齊藤陽介プロデューサーが登場。齊藤氏によると、ピアノライブのアイデアはかなり前から持っていて、念願のイベントだったとのこと。また、『NieR』が発売されて約2年が経ち、こうしたイベントができることに感謝の言葉を述べるとともに、そろそろ『NieR』のイベントに関しては一旦、ひと区切り付けていいのでは、と感じていることを明かした。ただ、齊藤プロデューサーは、今後の『NieR』について「現在フリーのヨコオディレクターが何か考えているはず。私個人の思いとしては、『NieR』は何とか続けていきたいと思っていますので、応援よろしくお願いします」と述べると、会場から大きな拍手が起こった。齊藤プロデューサーの発言を受けたヨコオディレクターは、「齊藤プロデューサーの男気ある発言もありましたので、近い将来……(会場固唾を飲む)美しすぎるカードゲームとして帰ってきたいと思います」とコメントし、会場の笑いを誘った。

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▲齊藤陽介プロデューサー。齊藤氏の男気と寛容さがなければ、『NieR』は生まれなかった!

Ustream配信終了後

 Ustream配信終了後にアンコールとして『魔王』が演奏されたが、その前に岡部氏、帆足氏、谷岡氏、門脇さん、そしてLAにいるはずのヨコオディレクター(額に“LA”のペイント)が登壇。「『NieR』のサントラが発売された当初はイベントもなかったんですが、それが2年後にこんな立派なイベントを開催してもらって、感無量です」(ヨコオ)。また、この日会場となった新宿アイランドホールは、スクウェア・エニックスがモーションキャプチャーに使用しているホールでもあり、『NieR』のモーションキャプチャにも使われたという。「ここに来られた方はある意味、聖地巡礼を果たしたってことですね」(門脇)。また、ヨコオディレクターから「ここにいる作曲家で演奏していない人がいる」(ヨコオ)とツッコまれ岡部氏は、「皆さん誤解なさっている方が多いと思いますが、作曲家でも演奏が苦手な人はいっぱいいるんですよ?」と言いつつ、渋々ピアノの前に。『ヨナ』を演奏するものの、苦手というのは謙遜ではなく……(以下略)。

 ピアノライブに加え、トークあり、笑いあり、来場者へのプレゼントありと、盛りだくさんの内容となった本イベント。参加したファン、Ustreamで視聴したファンは大いに楽しめたに違いない。

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▲会場では物販コーナーが設置され、『ピアノ・コレクションズ ニーア ゲシュタルト&ニーア レプリカント』の先行販売も。