前作そのもののクオリティーで楽しめる

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▲光を当てると、闇の使徒を覆っている闇のベールがはがされる。そこに銃弾などを撃ち込めば闇の使徒を倒すことができる。

 『アラン ウェイク アメリカンナイトメア』は2010年に発売されたサイコサスペンスゲーム、『アラン ウェイク』のスピンオフ作品である。Xbox LIVE アーケード作品ながら、そのグラフィックは前作『アラン ウェイク』と同様のクオリティーを保っており、とてもレベルが高い。システムはほぼ前作を踏襲しており、前作のファンならすぐに親しむことができるだろう。独特の世界観をもつ『アラン ウェイク』ワールドの魅力を、ファミ通Xbox 360を中心にレビューや攻略記事を担当してきた古株ライター、石井ぜんじがインプレッションする。

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▲主人公はみずからが記した原稿の断片をヒントにしながら、世界を正しい形に戻していかなければならない。

現実と小説の世界が融合した幻想的な『アラン ウェイク』ワールド

 『アラン ウェイク アメリカンナイトメア』の基本設定、操作性などは2010年に発売された『アラン ウェイク』とほぼ共通している。主人公はベストセラー作家で、みずからが書いた小説や脚本という架空の世界が、現実の世界に干渉し、不思議な事件に巻き込まれていくことになる。
 事件の真相は複雑で、ゲーム中ではそのすべてが語られるわけではない。だが原稿の内容や象徴的な演出が、世界に深みを与えている。その独特の雰囲気に浸るのもよし、真相について考察するのもよし。この世界観こそ、『アラン ウェイク』を支える大きな柱になっているといえる。
 前作においては、主人公は事件に巻き込まれた立場であり、その謎を解いていく過程を楽しむことができた。本作においては、主人公は事件の真相をある程度把握した立場にある。そのためはっきりと目的を持ち、よりアクティブに敵と戦っている印象を受ける。
 前作をプレイ済みのユーザーは、本作にもそのまま問題なく入っていけるだろう。だが本作からプレイしたユーザーは、主人公の目的や、周囲で起こる現象についてすぐには理解できないかもしれない。だがその「よくわからない」感覚こそ、『アラン ウェイク』ワールドの特徴なのだ。完全に理解できなくても、むしろ謎が残るからこそ、深い印象を残すことだろう。またゲームが進んでいけば、主人公の言動や原稿の内容から、少しずつ状況がわかってくるはずだ。

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▲前作『アラン ウェイク』では小説がテーマとなっていたが、本作では主人公の担当したテレビ番組の脚本が世界に干渉している。

爽快感と緊張感を両立した攻撃システムが秀逸

 本作では前作同様、敵を懐中電灯で照らし、闇のベールをはがした後に攻撃して倒す、といったシステムを採用している。闇のベールがある状況では、弾をいくらぶち込んでもほとんどダメージを与えられない。この2段階の過程を踏んで敵を倒すシステムが、奥の深い戦闘を生み出している。
 銃撃戦を行う一般的なTPSのゲームでは、出現する敵をガンガン撃っていくことになる。その場合に爽快感は発生するが、ホラーゲーム独特の“追われる怖さ”が発生しない。これではホラーゲーム失格である。
 “追われる怖さ”を表現するには、飛び道具を弱くして、弾切れなどの状況を発生させるのが手っ取り早い。だがそれだけでは爽快感がなくなってしまい、何もできずに逃げ回るストレスだけが残ってしまう。爽快感と緊迫感、この両立は難しいものなのである。
 本作で採用された2段階の過程を踏む攻撃システムは、その両立をうまく成功させている。最初にライトの光を当てないといけないので、どうしても敵をひきつける必要が出てくる。そのあいだに別の敵が近づいていくるわけで、そのときの緊張感は相当なものになる。ベールをはがしたら、今度は銃弾の雨を浴びせてやる。ここで緊張感が開放され、爽快感が発生する。ライトと武器、これを同時に扱えないところがポイントになっている。
 敵のAIもよくできており、型にはまらない動きがプレイヤーを飽きさせない。敵の相手をしているときに、もう一方の敵が別の角度から襲ってきたりする。この絶妙な連携がプレイヤーを悩ませる。敵の種類は決して多くないのだが、それでも楽しめるのはAIがすぐれているからだといえるだろう。

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▲プレイヤーは懐中電灯、重火器、発炎筒、フレアガンなどを駆使して闇の使徒と戦う。街灯に照らされた場所は安全地帯で、体力が回復する。

アクションを追求したアーケードモード

 本作は前作と比べ、ストーリーはコンパクトにまとめられている。だがそのぶんアクション性が追求されており、操作性が向上してより爽快感を強めたチューニングとなった。その特徴は、本作で初めて取り入れられたアーケードモードにより濃く反映されている。
 アーケードモードでは、フィールドごとに攻撃してくる敵と戦い、朝まで生き延びることが目的となる。敵の攻撃を受けずに倒し続ければ倍率がかかり、得点がアップしていく。攻撃や回避などの基本システムはストーリーと同じだが、敵の数や出現パターンはよく調整されており、アクションゲームとしてやりこみに耐えるおもしろさを生み出している。
 前作や本作のストーリーモードでも、敵との戦闘のおもしろさは十分に感じられた。だがアーケードモードをプレイすれば、それがより明確に理解できるだろう。怒涛のごとく押し寄せる敵の攻撃をしのぎ、ひたすら倒して朝まで耐える。アーケードモードに限っては、アクションゲーマーのほうが楽しめるのではないだろうか。

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▲アーケードモードはとくにアクションゲーマー向きのバランス。スコアが記録されるので、何度も繰り返し遊ぶことができる。

『アラン ウェイク』と『ナイトメア』、両方遊べば2倍のおもしろさ

 本作は『アラン ウェイク』のスピンオフだけに、Xbox LIVE アーケードの常識を超えたハイクオリティーの一品である。ストーリーのボリュームはパッケージ版には及ばないが、グラフィックや操作性は申し分ない。アクション面では、むしろ前作より進化しているといえるだろう。前作『アラン ウェイク』のファンならば、見逃さずに遊んでみることをお奨めする。
 本作から『アラン ウェイク』シリーズに入ったユーザーは、ぜひ前作『アラン ウェイク』も体験してほしい。『アラン ウェイク』には広大なフィールドと謎を解いていく過程のドキドキ感があり、その完成度は近年まれにみるものがある。またつい先日プラチナコレクションがリリースされたのも朗報。お求めやすくなるので、これを機にプレイしてみるとよいだろう。

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▲よりわかりやすく、アクション性が進化した本作。広大なフィールドと世界観に圧倒される前作。どちらも異なった魅力が存在する。

筆者紹介 石井ぜんじ
ファミ通Xbox 360誌でクロスレビュー、攻略を担当する古株ライター。ゲームの文章を書き始めてから20数年、飽きずに続けております。過去に『NINJA GAIDEN』シリーズ攻略本、『シュタインズ・ゲート公式資料集』『科学アドベンチャーシリーズマニアックス』などに参加。これらからも、ファンが本当に喜んでくれる本作りを目指していきたいですね。


Alan Wake’s American Nightmare (Xbox LIVE アーケード版)
メーカー 日本マイクロソフト
対応機種 X360Xbox 360
発売日 2012年02月22日
価格 1200 マイクロソフト ポイント
ジャンル アクション・シューティング