キモはプレイヤーコミュニティーの動向に着目すること
米時間の2012年3月5日から9日にかけてサンフランシスコで開催中の、ゲーム開発者の国際会議GDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)2012の模様をお届けする。
2011年にPC版が基本プレイ無料となった、Valveの対戦型アクションシューティング『チームフォートレス2』。見事成功を収めたビジネスモデル転換の裏側を、ValveのJoe Ludwig氏が3月7日の講演で明かした。アイテム製作、アイテム販売、UGC(ユーザー作成のコンテンツ)の促進……いかにしてこの大転換でプレイヤーを軟着陸させたのか?
Ludwig氏は「ただのAAAのパッケージゲームだったら、利益を与えてくれる相手はまだゲームを買ってない人しかいない。無料モデルではあなたは新しい人をひきつけるために新しいコンテンツを作ったりするわけだが、今いるプレイヤーを満足させるべくゲームを作ることと、新しいプレイヤーをひきつけようとすることは根本的な緊張がある」と語る。
過去4年間、TF2のプレイヤーはだいたい2万人いたものの、利益は順調に落ちていた。F2Pモデルに行き着くまでにも、Valveは新マップやゲームモード、武器、新ゲームシステムなどのアップデートをリリースしていた。Valveの戦略は、プレイヤーコミュニティーに可能な限り接すること。コンテンツのアップデートを出すたびに、フォーラムでの反応を見て、どういう方向にすべきかを探る。ファンからのアイデアを採用することもあったし、コンテストを行うこともある。2008年のメディックのアップデートは、多くの要素が詰め込まれ、もっとも注意を惹きつけるものだった。そしてもっとも多くの利益ももたらした。
「だが、どんなアップデートも基本的にはある種の連中には最悪のもののようだ」と冗談を交えつつLudwig氏は続ける。「"彼ら"は過去どんなタイミングでもアイテムにお金を払うことはなかった。何でいま望んでそうするのか、我々にはわかってなかったんだ」と。Valveは無料化に対して、ネガティブな反応がやってくると予期していた。ゲームアイテムの販売は、新たなビジネスモデルに段階的に軟着陸してもらうための最初のステップだ。ValveはプレイヤーにインゲームアイテムをSteam Workshopで配布したり、マップをデザインする機会を与えたのだ。2010年のMannConomyアップデートでは、ついにこういった個人的なアイテムをSteam Walletで購入できるようにした。ここで、Valveは少額課金に対する嫌な憶測、要は「金を払えば勝てる」というイメージを変えたかった。だから売っているのは、特に有利になるわけではない、服やオプション程度のアイテムだ。
「現在までの半分以上のアイテムがコミュニティーによるもの。コミュニティにゲームを変えるためのチャンスを与えるべきだ。彼らはあなたよりもいい具合にやってくれるだろう」、「コミュニティーによる寄与はもうひとつある。マップだ。これまでに19のコミュニティマップを配信してきた」とLudwig氏。
この仕組みはうまくいき、Valveは利益のいくらかをコミュニティに還元するようになった。ユーザーはSteam Workshopでのアイテム販売で300万ドルを稼ぎだしている。4300万アイテムがオープン後に所有され、それまでのアイテムは"ビンテージ"となって、逆に価値のあるものとなりさえした。
結果として、アイテム販売のセールスは、TF2そのもののセールスよりも、4倍の収入を得ることになったのだ! そして無料化が完了すると、全体の収益はかつてのTF2が月に稼いでいた額の12倍にも達した。もちろんこれは、それまでTF2をプレイしてなかった人がやってきたからにほかならない。
Ludwig氏は、「こういったことは長い承認プロセスを経るプラットフォームでは起こらない。これはTF2とSteamで我々が学ぶことの始まりにしかすぎない。リスキーだし、なにもかもが間違った方向に行く可能性もあった。しかし我々は新たなビジネスモデルに対してリスクを取る価値があると感じたんだ。もし2007年に我々がいま知っていることを知りえていたら、TF2はずっと無料だったろうね」と語り、発表を締めくくった。(文・写真:ジェイソン・ブルックス、構成・翻訳:編集部