長く続けられることが幸せへの近道

「仕事中にツイッターしないほうがいいよ!」インディーゲーム業界の現在を知る男が語る“幸せであるための方法”【GDC 2012】_01

 大パブリッシャーと契約してパッケージゲームを作るのだけが道ではない。インディーゲーム、デジタル配信、F2P(基本プレイ無料モデル)、スマートフォンゲーム、ソーシャルゲーム……ゲーム業界は、これまで以上に多様化を見せている。

 GDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)2012初日となる2012年3月5日に“インディーゲーム・デベロッパーにとっての幸せの追求――クレージーにならずに優れたゲームを作るにはどうするか”と題する講演を行ったアーロン・イサクセン氏は、優れたインディープロジェクトに出資するIndie Fundのスタッフ。多くのインディーゲームプロジェクトを見てきたイサクセン氏の語る、イケてるインディースタイルとは?

 講演は、2003年からの自身の経験と、成功しているインディーデベロッパーへの取材・調査(55人)を元に行われた。
 イサクセン氏はまず、祖母が語っていたという「リッチになっても必ずしもハッピーにはならないが、ハッピーならリッチの方がよい」という言葉を引用する。では、インディー開発者/開発メーカーにとって幸せな業務とはなんだろうか? イサクセン氏は以下の4項目を挙げる。

1.能力 よりよいゲーム作りを目指すことで、さまざまな分野での問題解決能力が向上する。
2.自主性 ゲームデザイン、締め切り、ビジネスモデル、予算など自分たちの行く道を自分たちで選んで決められる。
3.関係作り 社内、他のデベロッパー、ファン、ジャーナリストとのコネクションを築ける
4.大きな目的 世界への貢献(ゲームによって人々の気持ちが和らぐなど)。

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 ではお金はどうだろうか? イサクセン氏の祖母の言うように、お金は必ずしも必須ではないのだろうか。イサクセン氏は、お金は自分たちの独立性を確保するためにも重要だとまず語る。しかしながら、それを最優先にしてはいけないと続ける。いわく「あなたが思っているほどには儲からない」。思ったほどに儲からなかったからといって自責の念にかられないように、という忠告だ。家のリフォーム、子供の教育費、インフレ、バケーション、退職後に向けての積立……。

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 「自分は夜も週末も休日中も必死で働いたが、5年後に働かなくてよい状態になるのはとても無理だ」とイサクセン氏。しかしインディペンデントでいるのは、お金のためだけじゃない。ゲームを作りたいからだ。お金が最優先にならず、一発当てて優雅な余生を送れるのでなければ、長い目で見て、継続できることが大切になってくる。

 せっかく独立性を確保しても、仕事に追われて燃え尽き症候群になってしまっては本末転倒。まずは健康に注意すべきだとアドバイスをする。実際、57%の人に健康問題があるとのことで、これはなかなか耳が痛い。ストレス解消をセラピーで学んだりするのもいいし、カフェインを大量に流し込んで無理をするぐらいなら寝たほうがいいよ、とのお言葉。

 もうひとつ、労働時間を減らすという手もある。しかしこれはさまざまだ。週に40時間で済ますデベロッパーもあれば、80時間(!)を費やすところもある。ノルウェーとオランダでは27時間が平均で、アメリカ全体だと35時間というデータも示された。
 しかしまぁ、作っているものと関わっているスタッフ数によって必要な時間も変わってくる。どうしたら労働時間を減らせるか? 
会社を早く閉めるというのも手のひとつ。Flashbang Studiosは午後4時に閉めちゃうし、大ヒットインディーゲーム『マインクラフト』のMojangであっても一日8時間で収めている。あまり好きじゃないタスクをアウトソーシングしてしまうのも手だし、思い切って要素を絞ったり、そもそも高すぎる目標は立てないほうがいい……と続く。そして「メールは夜チェックしないこと。嫌なメールを見てしまうと眠れないしね……」確かに!

 労働時間の短縮は、効率が上がるし、ストレスも減る、クリエイティブであるために再チャージする時間ができるとイサクセン氏。時間は有限なんだから効果的に使おう、そして時間を全部使うのがクリエイティブ職にとって必ずしも効果的な方法ではないというわけだ。
 とくに機能面のカットや現実的なスケジュールの立案に関わってくるが、あれもこれもと追わずに、主要な顧客にフォーカスすることは、単に時間の短縮以外にも収益を増す可能性があるという。ニッチなターゲットに絞ることで市場が狭くなるのではないというのだが、なるほど、余分が削ぎ落とされた魅力というのも確かにインディーゲームの魅力のひとつだ。

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 そして“もっと(効果的に)働くための方法”として。タイマーを使うこと、仕事を中断されないようにして集中すること、(ここぞと集中するときには)メール・ツイッタ―をやめること、タスクを決めてスケジュール通りにやる、Todoリストを作ること、時間の経過を記録して追跡すること、燃え尽きるぐらいなら人を雇うことを挙げる。ああ……「まだ仕事かよ」とか「原稿が終わらねぇ!」とツイッターに書き込んでいるのは俺です、スイマセン、アーロンさん!

 それと、スタッフとの衝突も避けるべき問題とする。スタッフとの揉めて弁護士を挟んでの話し合いとなった経験があるそうで、時間は取られるは、お金は飛んでいくは、本来休みの時間もそのことを考えてしまうはで散々だった模様。会話をすること、契約はシンプルかつ明快にすること、利益を正しく分配することなどを対策として挙げていた。

 とはいえ、締め切り直前などは追い込みも必要。「それはいいんですよ。何事もバランスってこと。ストレスを減らそうとしてそれをストレスにしないようにね」とイサクセン氏。ひとつひとつは目新しいことではないのだが、軽妙かつ30分以内に以上の内容をまとめた論理的なトークにすっかり魅せられた満員の出席者は惜しみない拍手を送った。ちなみに記者がこれを書いているのは朝6時。えぇと、たまにはOKって言ってましたよね、アーロンさん?

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