週刊ファミ通のニュースページ“エクスプレス”で連載中のゲームに関連した著名人へのインタビューコーナー“Face”。誌面スペースの都合などからカットした部分を網羅した完全版をファミ通.comでお届け。今回のゲストは、書道家の武田双龍先生です。

武田双龍:『墨鬼 SUMIONI』【週刊ファミ通Face完全版】_02

今週のお題
墨鬼 SUMIONI
プレイステーション Vita
アクワイア 2012年2月9日発売 5229円[税込]

墨彩画のような世界を舞台に、主人公の墨鬼が活躍するアクションゲーム。筆で線を書くように、タッチスクリーンを指でなぞってさまざまな行動を起こす“墨汁タッチアクション”が楽しめる。ステージクリアー時の評価によって、つぎのステージの内容や、たどり着くエンディングが変化する。


 

モダンロックをBGMに書きなぐりました

武田双龍:『墨鬼 SUMIONI』【週刊ファミ通Face完全版】_01
書道家
武田双龍 タケダ ソウリュウ

1984年生まれ。熊本県出身。3歳のころより、自身の母である書道家・武田双葉氏に師事する。また、兄は書道家の武田双雲氏。2006年に上京し、現在は300人以上の生徒が通う書道教室“ふたばの街”で教えるかたわら、テレビ・ラジオへの出演や、商品ロゴの制作などを行っている。

 2012年2月9日に発売されたアクワイアのプレイステーション Vita用ソフト『墨鬼 SUMIONI』。和のテイスト溢れる世界観と、指を筆に見立てて行うタッチアクションが特徴の作品だ。今回のゲストは、本作の題字を手掛けた書道家の武田双龍先生。題字に対する思いや、その製作過程などを聞いた。

――最初に『墨鬼 SUMIONI』の題字制作を依頼されたときは、どのような印象を抱かれましたか?
武田 “筆が武器になる”という点にとても惹かれましたね。私は大きい筆を使ってパフォーマンスを行うことがあるのですが、そのときは侍になったような気分で書いているんです。そんな自分のパフォーマンスと、このゲームの“筆で戦うアクション”には似ているところがあって、すんなりゲームの世界に入っていけました。

――では、題字のイメージもすぐに浮かんできたのでしょうか。
武田 そうですね。“墨”も“鬼”も、書道の世界で頻繁に使う2文字で馴染みがあったということもあり、イメージは浮かびやすかったです。“鬼”は一文字では書きませんが、“魂”のつくりに当たりますから。『墨鬼 SUMIONI』というタイトルを聞いた瞬間に、「これは格好いい題字になるな」と感じましたよ。

武田双龍:『墨鬼 SUMIONI』【週刊ファミ通Face完全版】_03
▲『墨鬼 SUMIONI』の題字。この題字は40×60~70センチメートルという、かなり大きな紙に書いたのだという。

――アクワイアの方から、題字に関する要望はありましたか?
武田 いえ、「力強くしてほしい」というくらいで、あとは自由に楽しく書かせていただきました。じつは私は、自分の字に満足することはなかなかないのですが、今回はとても満足していて。いままでに書いた字の中で、いちばん気に入っているくらいなんです。

――いちばんですか!
武田 はい。しかも、いくつか提出した字のうち、自分がもっとも気に入っていたものを、アクワイアさんに選んでいただけたんです。光栄でしたね。

――それは素敵ですね。ところで、満足できる字が書けるまで、何枚ぐらい書かれたのですか?
武田 冗談抜きで、何百枚と書いていますね。“墨”だけでも100~200枚ぐらい。アルファベットも何回も何回も書いていますから、1000は超えていると思います。

――膨大な枚数ですね。
武田 字にはその日の感情や体調が表れるので、毎日何枚も何枚も書いて、その中からよくできたものを選ぶんです。また、その字をどれだけ書いたかということも、字には表れてしまいます。ですので、その字に愛情が持てるようになるまで、“墨”、“鬼”、“S”、“U”、“M”、“I”、“O”、“N”、“I”、すべての文字を平均的に“書き込み”、つまり練習をするんです。

――現在の題字は、先生が何度も何度も字を書かれた結果、生まれたものなのですね。
武田 はい。また、ゲームは“空想の世界を現実化するもの”なので、あまり理論的に書きすぎないように気をつけました。理性より、どちらかというと感情を前面に出して、自分がゲームの登場人物になったような気持ちで“書きなぐった”という感覚です。

――あえて整然とした字にはしなかったのですね。
武田 そうですね。でも一方で、私はこのゲームに対して「男らしすぎない」イメージを持っていたんです。ちょっとスマートで、おしゃれなイメージ。“墨鬼”は、そのスマートさと、感情のバランスを考えながら書きました。ハードロックではなくて、モダンロックの音楽をかけながら制作を進めましたね。

――いつも音楽をかけながら書かれるのですか?
武田 その字のイメージにあった音楽をいつもかけています。“墨鬼”はリンキン・パークやリンプ・ビズキットをかけながら書きました。逆に“SUMIONI”は、モダンジャズやクラシックなど、スローテンポな曲でしたね。

――英字は、漢字を書かれるのとはまた違いますよね。
武田 ぜんぜん違います。英字については、あまりはっきり書かないようにしています。外国の方がさらっとサインをしたようなイメージ。そうでないと、おしゃれにならないんですよ。頭を空にして、腕が動くままに気楽に書きます。

――確かに、ジャズやクラシックがぴったりですね。ちなみに先生は、ふだんゲームで遊ばれるのですか?
武田 ハードはひととおり持っているのですが、最近はご無沙汰していて。でも学生時代までは、かなりハマっていましたよ。友だちとはよくサッカーゲームで遊んでいましたね。私は上手いほうでしたよ(笑)。

――スポーツゲームがお好きなんですね。
武田 大好きです。『Jリーグサッカー プライムゴール』に始まって、『ウイニングイレブン』で衝撃を受けて。

――失礼を承知で申し上げますと、書道家の家系ということで、ゲームをプレイされないイメージがあったのですが……。
武田 私はゲーム世代ですから、かなり遊んでいましたよ(笑)。何時間も遊んでいて、起こられた思い出もあります(笑)。

――そんなゲーム好きな先生だからこそ、『墨鬼 SUMIONI』の題字も素敵なものになったんですね。それでは、最後に読者にひと言お願いします。
武田 この題字は、和風かつモダンである、この斬新なゲームのイメージに近いものだと思っています。これを見て、ぜひゲームについて想像してみてください。