世界のゲーム開発者によるゲーム開発者のための賞、GDCアワード(Game Developers Choice Award)。世界からゲーム開発者が集結するゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス会期中に発表されるこの賞は、同業者からの投票という独自性で、ゲームファンやメディアが選ぶ賞とは少々性格が異なる。その2011年度の候補作が発表されたのでご紹介しよう。
ちなみに、メーカー名が通常目にするパブリッシャーではなく、デベロッパーやスタジオ名になっているのは、開発者が開発者を表彰したいからこそ。というわけで本記事でもそれを踏襲しているのであしからず。なお、発表と授賞式はアメリカ時間の2012年3月7日にサンフランシスコのモスコーニセンターで行われる予定。
Best Game Design(ゲームデザイン賞)
『ザ エルダースクロールズ V: スカイリム』(ベセスダ・ゲーム・スタジオ)
『ゼルダの伝説 スカイウォードソード』(任天堂)
『ポータル2』(Valve)
『バットマン: アーカム・シティ』(Rocksteady Studios)
『ダークソウル』(フロム・ソフトウェア)
ゲームデザイン賞は、得意とするオープンワールドRPGという手法をさらに進化させたベセスダ・ゲーム・スタジオの『ザ エルダースクロールズ V: スカイリム』など、すでに完成度が高かったタイトルを、さらに突きつめた珠玉の5タイトルがノミネート。いずれも日本で発売されているだけでなく、日本から2タイトルがノミネートされているのもうれしいところ。
Innovation(革新賞)
『Skylanders: Spyro's Adventure』(Toys For Bob)
『ポータル2』(Valve)
『バスティオン』 (Supergiant Games)
『Johann Sebastian Joust』 (Die Gute Fabrik)
『L.A. ノワール』 (Team Bondi)
革新賞には、俳優の表情さえも取り込む技術により、微細な表情の変化でキャラクターの嘘を見抜くという新たな可能性を見出した『L.A. ノワール』ほか、ダウンロードタイトルながら評価の高い『バスティオン』などがノミネート。『バスティオン』は、昨年はGDCアワードの前座に行われるインディーゲーム賞のIGFアワードのノミネート作だったが、その評価の高さを武器に今年はGDCアワードにも複数ノミネートされている注目作。見落としていた人はチェックしてみては? 『Johann Sebastian Joust』はPlayStation Moveなどモーションコントローラーをターゲットに設計されたゲームで、実は画面すらも使わない。音楽が変化するタイミングを見計らってほかのプレイヤーのコントローラーを刺激し、アウトにしていくという、いかにもGDCアワードが好みそうな独自性の高い内容。「IGFアワードでいいんじゃ?」という気もするが、映像を見てみると、確かに楽しそう……。
Johann Sebastian Joust! from Die Gute Fabrik on Vimeo.
Best Technology(技術賞)
『バトルフィールド3』(DICE)
『L.A. ノワール』(Team Bondi)
『クライシス2』(Crytek Frankfurt/UK)
『ザ エルダースクロールズ V: スカイリム』(ベセスダ・ゲーム・スタジオ)
『アンチャーテッド −砂漠に眠るアトランティス−』(Naughty Dog)
技術賞は、高精細なグラフィックでの64人対戦(PC版)を実現した『バトルフィールド3』や、前述の『L.A. ノワール』のほか、最新技術を活かした優れたタイトルが勢ぞろい。また賞からは離れてしまうが、Naughty Dogは『アンチャーテッド』シリーズで築いた開発力を、次作『The Last of Us』をどう活かすのかといった点や、資金難からの閉鎖に追いやられた『L.A. ノワール』の技術は途絶えてしまうのかといった辺りも今後注目だ。
Best Handheld/Mobile Game(携帯ゲーム機/ケータイゲーム賞)
『Tiny Tower』 (NimbleBit)
『スーパーマリオ 3Dランド』 (任天堂)
『Jetpack Joyride』 (Halfbrick)
『Infinity Blade II』 (Chair Entertainment)
『Superbrothers: Sword & Sworcery EP』 (Capy Games/Superbrothers)
携帯ゲーム機用のゲームとスマートフォン向けゲームを合わせた賞なのだが、時代の流れか、ノミネート5タイトル中『スーパーマリオ 3Dランド』を除く4本がスマートフォン向けゲーム。記者が個人的に「おっ」と思ったのは『Jetpack Joyride』。強制横スクロールのステージをタップひとつで上昇/下降をコントロールしてプレイするアクションなのだが、スマートフォンのインターフェースの限界をアイデアで突破し、簡単操作ながらきっちりアクションゲームの醍醐味を味わえるのはアイデア賞モノ。ちなみに現在無料セール中という太っ腹ぶり。とはいえこの手のアイデアなら『ねじ巻きナイト』が好きなのですが、ノミネートはされず。うーん。
Best Audio(音響賞)
『バスティオン』 (Supergiant Games)
『リトルビッグプラネット2』 (Media Molecule)
『ザ エルダースクロールズ V: スカイリム』 (ベセスダ・ゲーム・スタジオ)
『Dead Space 2』 (Visceral Games)
『ポータル2』 (Valve)
ここに上がっているのは、単に音楽に優れているというだけでなく、グッと来るサウンドがゲームプレイを盛り上げる5タイトル。『Dead Space』シリーズのサウンドは、グラフィックと相まって怖さ倍増ですばらしかったし、『スカイリム』で山中から突如遺跡が姿を現すところで神秘的なサウンドに変わると感動するし、『ポータル2』のSEや環境音なんかもどこか心地良いんですよね……。
Best Downloadable Game(ダウンロードゲーム賞)
『Stacking』 (Double Fine)
『From Dust』 (Ubisoft Montpellier)
『バスティオン』 (Supergiant Games)
『Outland』 (Housemarque)
『Frozen Synapse』 (Mode 7)
GDCのおもしろおじさん、もとい名物男、もとい個性的クリエイターのティム・シェーファー率いるDouble Fineが手がけたマトリョーシカパズルアドベンチャー(何を言われているかわからないかもしれないが、本当にそういう内容です)『Stacking』のほか、伝説的アドベンチャーゲーム『アウターワールド』を生んだ天才エリック・シャイーのゴッドゲーム『From Dust』、先程から度々登場している『バスティオン』、アーティスティックなアクションアドベンチャー『Outland』、シンプルかつ美しい戦術ゲーム『Frozen Synapse』など、パッケージゲームほどの規模はなくともキラッとセンス光りまくりなタイトルばかり。
Best Narrative(物語賞)
『ポータル2』 (Valve)
『ウィッチャー2 王の暗殺者』 (CD Projekt RED)
『バスティオン』 (Supergiant Games)
『アンチャーテッド −砂漠に眠るアトランティス−』 (Naughty Dog)
『セインツロウ ザ・サード』 (Volition)
魅力的なストーリーを紡いだタイトルがラインアップ。個人的には『ザ エルダースクロールズ V: スカイリム』が入っていてもいいのではと思うが……。ユニークなのは、完全に針の振りきったありえないぶっ飛びストーリーを展開する『セインツロウ ザ・サード』が含まれていること。全力でバカな話を書くのも、もちろんすばらしいことなのです。
Best Debut(デビュー賞)
Supergiant Games (『バスティオン』)
Team Bondi (『L.A. ノワール』)
Re-Logic (『Terraria』)
BioWare Austin (『Star Wars: The Old Republic』)
Eidos Montreal (『Deus Ex: Human Revolution』)
デビュー賞のノミネートが作品そのものではなく、スタジオ名となっているのはGDCアワードらしいところ。新IPのデビューそのものよりも、新IPを鍛えあげて世に出したスタジオと開発チームの努力を表彰しようといったところだろうか。『Terraria』は、『マインクラフト』や『洞窟物語』を絶賛するGDCらしい、一見古くても新しく、そして奥が深いPC用のアクションアドベンチャー。
Best Visual(美術賞)
『アンチャーテッド −砂漠に眠るアトランティス−』(Naughty Dog)
『Rayman Origins』 (Ubisoft Montpellier)
『ザ エルダースクロールズ V: スカイリム』(ベセスダ・ゲーム・スタジオ)
『El Shaddai(エルシャダイ)』(イグニッション・ジャパン)
『バトルフィールド3』 (DICE)
美術賞には日本から『エルシャダイ』がノミネート。本作は登場キャラクターたちの“名言”が話題になったが、一方で、かつて講演でも語られていたように、複雑な幾何学模様を背景に描くいくつものシェーダーやポストエフェクトを大量に用意してまで、独特なアートスタイルへのこだわりが追求されたタイトルでもある。
Game of the Year(最優秀ゲーム賞)
『バットマン: アーカム・シティ』 (Rocksteady Studios)
『ザ エルダースクロールズ V: スカイリム』 (Bethesda Game Studios)
『ポータル2』 (Valve)
『デウスエクス』 (Eidos Montreal)
『ダークソウル』 (FromSoftware)
さてお待ちかねゲーム・オブ・ザ・イヤー。前作が圧倒的な革新性で受賞している『ポータル2』の返り咲きなるか、高評価を受けた前作をさらに超え、問答無用の大傑作となった『バットマン: アーカム・シティ』が勝ち取るか、オープンワールドRPGの最高到達点『ザ エルダースクロールズ V: スカイリム』になるのか、それとも2010年の『デモンズソウル』に引き続きノミネートされた『ダークソウル』が今度こそGDCアワードの覇者に君臨するのか、いまだ語られる名作に果敢に挑んだ『デウスエクス』の挑戦が評価されるのか……。