PS Vitaのネットワーク機能に着目
PlayStation Storeにて今冬に無料配信される予定のPS Vita用ソフト『勇者のきろく』は、日々のタスクを管理するアプリケーション。タイトルからも想像がつく通り、『勇者のくせになまいきだ。』の世界観をモチーフとしており、プレイヤーは、日々の生活の中でやりたいこと、やるべきことの“タスク”を設定。そのタスクをクリアーすると“養分”が貯まり、魔物を生み出すことになる。魔物は、毎週日曜日に攻めてくる勇者を撃退してくれるという内容だ。『勇者のきろく』では、ネットワーク機能を使って、フレンドのタスクを見てみたり、他人のタスクをもらって自分のタスクに設定したり……といったことも可能。タスクを介してコミュニケーションを図るのが、本作の楽しみとも言える。そんな『勇者のきろく』の詳細を、プロデューサーの多田浩二氏に聞いた。
『勇者のきろく』プロデューサー
多田浩二氏
――まずは、企画がスタートした経緯から教えてください。
多田 PS Vitaがさまざまな可能性を持ったハードだということで、位置情報を使った仕掛けとか、カメラを使った仕掛けとか、新しい遊びかたの提案を模索していたんです。なかでも、私たちがとくに注目したのがネットワーク機能でした。3G通信に対応することで、全国どこでもつながる環境を携帯ゲーム機が手に入れることができた。それで、「3G通信を使ったユニークかつ新しいエンターテインメントを」ということで企画を考えていたんです。で、いろいろなチームやスタジオの方々と話をしたときに、出てきたのが、「生活のタスクを遊びにしよう」というアイデアでした。それに対して、3G通信や位置情報を絡めてゲームをデザインしたら、いままでにないユニークなものになるのでは……ということでプロジェクトがスタートしています。時期的には昨年の秋くらいでしたね。
――日々のタスクに『勇者のくせになまいきだ。』という人気コンテンツを使うことは?
多田 最初は何か計画を立てて実行していくと、どんどんパラメーターがあがって、プレイヤーがレベルアップしていく……といった、ゲーム感覚で毎日が楽しくなるものを想定していました。それで、経験値があって成長していくということだと、「RPGがいいのでは?」ということになったんですね。さらに勇者がいて、剣と魔法があって……となるとさらに親しみが持てる。実際にどんな勇者がいいかな、と世界観を考えたときに、チームの中から「『勇者のくせになまいきだ。』がいいのでは?」ということになったんです。なにしろ独特の世界観があるし、『勇者のくせになまいきだ。』ということで、あまりがんばらなくてもいいテイストなので(笑)。
――『勇者のくせになまいきだ。』となると、いわゆるオーソドックスなRPGとはぜんぜん違いますね。
多田 そうですね。はじめは自分が勇者のほうがおもしろいのでは、と思ったのですが、それはほかに出てくるかもしれない。だから、ちょっと期待を裏切るというか、斜め上を目指すということで、自分が勇者ではなくて、勇者に攻められるのをいかに守るか……というゲームデザインにシフトしていきました。あまり難しいことをやると、日々の行動に影響がでてしまうので、魔物がどのようなロジックで生まれるかは、『勇者のくせになまいきだ。』とは変えてあります。最終的には、“ミッション”をどれだけこなしたかのバランスで、魔物は生まれるようになっています。
――となると、攻略的にゲームを進めたらおもしろくないかもしれませんね。
多田 そうですね。そういう意味では、いちばん苦労したところはゲームを進める条件ですね。最初は、位置情報を使って、特定の場所まで移動するとクリアーになるといったアイデアもあったのですが、きっちりとルールを設定すると、最終的にはどうしても義務になってしまう。本作の原点は、日常にあるタスクを達成すると経験値が貯まっていく楽しさという部分なので、ルールをきっちり決めるべきではないということで、最終的にタスクのクリアーは自己申告にしました。思い切った判断でしたが、これによりほかの決めかねていた仕様が一気に決まりました(笑)。
――PS Vitaの開発で、とくに苦労された点とかあります?
多田 とくに苦労……となるとないですが、逆に自分たちの課題としていたのが「いままでプレイステーションフォーマットで実現できなかった要素を積極的に取り入れる」というところですね。そういった意味では、タッチパネルかな。本作の操作はすべてタッチパネルのみなんです。コントローラを使わないゲームは、ほかにはないんじゃないかなあ。おそらく、PS Vitaの操作に慣れてもらうための最初のほうのソフトになると思うので、いままでとは少し違った感覚で遊んでほしいなと思っています。
――なるほど。では、ネットワーク関連について教えてください。ネットワーク機能にはどのような要素が盛り込まれているのですか?
多田 フレンドとタスクを共有できます。周囲の人がどんな目標を立てて生活しているかを眺めたり、フレンドのタスクをもらって、自分のタスクとして設定することも可能です。日常生活という従来のゲームにはない要素に通信を絡めたら、ユニークなものになりました。いろいろな人とコミュニケーションをとることで、より楽しめるような作りになっています。
――多くのPS Vitaタイトルでフレンドの重要性がフィーチャーされていますが、これはそういう命題が出ていたのですか?
多田 そういうわけでもないんですけどね(笑)。PS Vitaのキャッチコピーである「遊んだら仲間。」に象徴されているように、友だちと遊ぶことでつながりができるのが、PS Vitaの大きな魅力であることは間違いありません。PS Vitaはさまざまな機能を持っているので、作り手によっていろいろな方向性があると思うのですが、『勇者のきろく』の場合は、フレンドがおもしろいという方向性になりました。コミュニティーを考えた場合、フレンドは基本になりますよね。たとえば、ランキングひとつとっても日本全国の50000人のプレイヤー中、半分くらいとかだとなかなかモチベーションが上がりませんが、フレンドが15人いて何位くらい……とかになるとやる気も生まれる。フレンドで競ったり、協力したりというのはおもしろいですよね。
――コミュニティーを盛り上げるためのミッションや話題のきっかけになるコンテンツなども期待できそうですね。
多田 はい。これまでのパッケージと違って、作り手が絶えずユーザーの皆さんとコミュニケーションを取ったり、いろいろな追加コンテンツを提供していくことが必要だと思っています。そのへんは、いまソーシャルゲームのメーカーさんが上手にやっているところだと思うのですが、いろいろと飽きさせない仕組みを考えている。いわゆる“新鮮なネタ”を届けるというのは、必要かなと思っています。そういう意味では、『勇者のきろく』はPSNから出るサービスアプリ的な位置付けですね。
――ちなみに、“ミッション”は、どのような内容になるのですか?
多田 ミッションは日々の計画の集合体といったところなのですが、まだ詳細はこれから調整する感じです。日々の計画をいくつか用意して、それをまとめて“ミッション”とする予定でいます。全部の計画をクリアーすると、ミッションでしかもらえない魔物をもらえるという仕組みですね。で、最初はチュートリアル的なミッションで遊んでいただき、ゲームに親しんでいただくつもりです。いずれは有料の“ミッション”も用意していこうかなと思っています。どんな“ミッション”を用意するかについて、現状アイデアはいっぱい出ているのですが、具体的な内容に関しては、ユーザーさんとコミュニケーションを取りながら決めていきたいですね。将来的には、東京ゲームショウに来るとタスクをクリアーして、何かをもらえるようになる、といったこともやりたいと思っています。
――配信タイトルだけに、あとからアップデートして機能を加えていくということもできるのですね?
多田 はい。アップデートデータを配信して機能を追加していくというのは考えています。たとえば、将来的には位置情報機能を活かして“チェックイン”みたいに記録を残していくのもおもしろいかなと思っています。それがどうゲームに結びつくのかは、まだわからないのですが(笑)。
――タスクは、人それぞれの使いかたがありそうですね。
多田 そうですね。たとえば、「今日から気になる深夜アニメが始まるので録画する」とか、「このマンガが映画化されるのでチケットを入手する」とか、そういうタスクをメモ替わりに自分のために残しておくのもいいし、あるいは人に公開することによって情報源のひとつとして利用してもらうのもいいのではないかと。
――なるほど! ものすごく情報に敏感で、「あの人のタスクをチェックしておけば大丈夫!」という有名人が生まれる可能性もあるわけですね?
多田 そうなるといいですね。その人にフレンド申請をして、その人のタスクをチェックする……というような。情報ツールのような使いかたもあるかもしれないですね。たとえば、「毎日ダイエットをするために駅まで歩く」という計画を人に公開することによって、モチベーションを高めるとか。あるいは、ダイエットに成功した人にミッションを作ってもらって、実際にプレイヤーに試してもらうとか。ダイエットや禁煙などを説得力のある人に監修してもらったらおもしろいかなと。ちなみに、『勇者のきろく』には“ゲキレイ”という応援する機能があって、フレンドを勇気づけたり、逆に元気をもらったりすることもできるんです。
――ほう。ゲキレイされるとどのようなことがあるのですか?
多田 ゲキレイをしてもゲキレイをされても、ソーシャルプレイ回数が貯まっていきます。ソーシャルプレイ回数が貯まると、魔物のレベルがあがるんです。すごくレベルの高い魔物がいる人は、ソーシャルプレイ回数が多い人ですね。
――いろいろな遊びかたができそうですね。“『勇者のきろく』有名人”が出て、ファンがその人の日々のタスクをチェックしたりとか……。
多田 おもしろいですね! ユーザーの方にどういう遊びかたをしていただけるかには、とても興味があるのですが、今後いろいろな仕組みを入れて『勇者のきろく』に広がりを持たせたいと思っています。ご期待ください。