SCE新社長アンドリュー・ハウス氏が語るPS Vita、プレイステーションブランドの未来_01

 2011年12月15日、東京都品川区のソニーシティで、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の社長のアンドリュー・ハウス氏への囲み取材が行われた。9月1日付けで新社長に就任したばかりのハウス氏にとってのプレイステーションの未来とは。

 囲み取材は、ハウス氏の自己紹介からスタート。1990年にソニー本社に入社。1995年にSCEIのマーケティング&コミュニケーション部門に異動し、以降はアメリカとヨーロッパでプレイステーションブランドの市場拡大に取り組んできた人物だ。今回の就任により、15年ぶりにはじまった日本での生活を家族とともに楽しんでいるそう。日本には8年間住んだことがあるそうで、取材への受け答えもすべて日本語で行われていた。

SCE新社長アンドリュー・ハウス氏が語るPS Vita、プレイステーションブランドの未来_03

 続いて直近の販売状況に言及。2011年9月末時点でのハードウェアの累計売上台数は、プレイステーション3が5550万台以上で、中でも8月の価格改定後は11月上旬までの実売が全世界で12%増加し、普及が加速したという。コンテンツ面でも成熟し、本格的な収穫期を迎えているプレイステーション3のビジネスをこれからも拡大していくとの展望が語られた。
 一方、PSP(プレイステーション・ポータブル)の累計売上台数は9月末時点で7310万台以上で、新たな携帯ゲーム機の市場を確立したと評価。両ハードともに、今後もコストダウン努力を行いながら、さらなる普及を進めたいとのこと。ちなみに、次世代機についてや、プレイステーション3のライフサイクルについては明言を避けたものの、プレイステーション2が(プレイステーション3と時期を重ねながらも)10年近く活躍したことを受け、それを超えることを期待したいと語っていた。

 また、日本での発売を12月17日に控えたPlayStation Vita(以下、PS Vita)については、3G通信などを利用したネットワーク要素、そして17日よりTwitter用アプリを配信し、今後もFacebook、foursquare、Skype、Flickrなどに対応させていくとするコミュニケーション要素の3点をピックアップしていた。

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 ここからは、質問への回答をメインに、ハウス氏の考えに迫っていこう。就任にあたっては、各市場を見てきた経験を活かしたいとするハウス氏。自身が社長になって変えたいことを聞くと、これまで各地域に任されてきたマーケティングやコミュニケーション戦略について、より本社がコーディネートしていきたいという。

 そのポイントは、もちろん本社主導の情報統制といったようなことではなく、プレイステーションブランドをSCE全体で再確認し、再定義したいという点にある。これは、ゲームを取り巻く環境の世界的変化とも関係している。コンシューマーゲームはゲーム機と密接に関係してきたが、いまやその例外はPCだけでなく、スマートフォンゲーム、ソーシャルゲーム、ブラウザゲームなど、多岐に渡る。プレイステーションというビジネスそのものも、この流れとは無関係ではないのだろう。
 たとえばSCEの携帯ゲーム機戦略の点では、PlayStation Vitaと、PlayStation Certified対応機器も含むPlayStation Suiteも合わせてひとつと捉えているそうで、まずは対応スマートフォンでプレイステーションブランドのゲームに触れてもらい、そこからよりコアなゲーム(あるいはハード)へと移ってもらうという流れも想定されていた。

 では、いかに再定義するのか? これまで通りプレイステーションというブランドとハードウェアをイコールで結びつけるのではなく、そのコアにハードウェアを置きながらも、プレイステーションというブランドそのものをユーザー体験や多様な遊びかた・楽しみかたと結びつけ、拡大していきたいのだという。据え置き機であっても、携帯ゲーム機であっても、スマートフォンであっても、“プレイステーションという体験”をブランドとして提供したいというのがその考えだ。

 ちなみに、スマートフォンとソーシャルゲームの爆発的な普及によって、ゲーム専用機を必要とせずに満足する層も増えたのではないかという質問もあえてしてみたのだが、アメリカでクリスマスセールが始まる書き入れ時“ブラックフライデー”にニンテンドー3DSが大きく売れたということに触れつつ、まだゲーム専用機の需要は健在だとする。その上で、多彩なユーザーインターフェースとネットワーク・ソーシャル機能によりユーザーに新たな体験を提供できるPS Vitaであれば、十分に世界で勝負できるとの考えを示した。

 ソーシャルゲームの流行についての危機感の有無を問う質問も出たのだが、共存可能であるうえ、現代がコンテンツにふさわしいさまざまなビジネスモデルがあることは十分に認識すべきだとの考えを披露。基本プレイ無料のオンラインゲームを展開するようになったグループ会社のSOEなども例に出しつつ、PS Suiteやパッケージ販売、ダウンロード販売など、さまざまなビジネスモデルを検討したいと語った。PS Vitaでのパッケージとデジタル配信は、さまざまなユーザーのニーズに応えられるよう、できるだけ平行でやっていきたいとのこと。ゲーム会社が在庫を抱えずに済むことから、パッケージでは難しい実験的なタイトルや、コンテンツに見合った購入しやすい価格のタイトルの登場なども期待しているそう。

 また、海外でのキャリアが長いということ、2月にPS Vitaが発売される海外が日本よりも据え置き機が強い市場ということもあって、日本と海外の違いや、PS Vitaの海外での戦略についても質問が集中した。ハウス氏はまず、日本は欧米よりもコンテンツが引っ張る性格が強いとの見方を示す一方、欧米が据え置き機が強い市場である点についてはネットワーク対戦のゲームが流行していることや、電車通勤・通学中のゲームが少ないといったライフスタイルの違いなどに言及。ヨーロッパでの経験によると、PSPプレイヤーは家で遊んでいることが多いらしい。また、アメリカでは比較的若い世代が多かったという。
 海外でのPS Vitaについては、まずコアユーザーが満足できるゲーム機として展開したいとしており、そこから若い世代にアピールしていきたいとのこと。PSPとの違いとしては、ネットワーク機能、中でもソーシャル系の人の繋がりを、PSP以上に成功するためのキーのひとつとして挙げていた。

 コンテンツの重要性についてくり返し語られていたのも印象的。全体としては、家で据え置き機で遊ぶにせよ、携帯ゲーム機で遊ぶにせよ、すばらしいゲーム体験を提供したいと語り、その点で、PS Vitaとプレイステーション3の連携も重要だとする。また、PS Vitaのコンテンツ面では『アンチャーテッド -地図なき冒険の始まり-』を例に挙げ、多彩なインターフェースによりプレイステーション3で展開されてきた『アンチャーテッド』の世界を違った体験として提供できる点を評価していた。

 他ハードに対する強みとしても、まずソフト開発の強さを挙げる。日本、アメリカ、イギリスと、各地で新しいクリエイターとIPを育てられていると評価しつつ、グローバルにバリエーション豊かな開発力を持っていることが強みとしていた。またサービスの面では、北米におけるスポーツや、ヨーロッパにおけるMUBI(インディペンデント映画配信)などを挙げ、各地域に合わせてさまざまなサービスを展開していることに言及。今後もよりよいプラットフォームにしたいとのこと。

 そのほか、ソニー本体との連動にあたっては、SCEが持つユーザーエクスペリエンスとインターフェースの蓄積や、ハードとソフトウェアコンテンツとネットワークを融合したビジネスを展開している点などから、ソニー全体の将来的な製品やサービスに貢献したいと語っていた。

 取材を終えての感想としては、日米欧でマーケティングを手掛けてきたというだけあって、必ずしも旧来のやり方に固執しない、知見の広さと柔軟さが感じられた。ハウス氏はソニー内の新興ビジネスとして立ち上がったSCEが世界規模に成長したことで、かつては共有できていたものが薄れてきているとする。ゲームが大きく変わろうとする時代に、ブランドの再定義によりSCEがどのように進んでいくのか、今後に期待したい。