歴史をモチーフにしたコンテンツが集うイベント
2011年11月26日(土)~27日(日)の2日間、東映太秦映画村にて“太秦戦国祭り Hero&Legend”が開催された。歴史をモチーフにしたゲームやアニメ、マンガのコンテンツが集う“太秦戦国祭り”も今年で6回目。会場では、『戦国BASARA3 宴』ブースや、『戦国IXA』ブースなどが展開されていた。年々イベントの認知度も高まっているようで、会場は例年にも増して多数の来場者の姿が見られた。また、“太秦戦国祭り”の風物詩ともいうべき、コスプレは今年も健在。絶好のロケーションで撮影できることも手伝ってか、例年多くのコスプレイヤーさんが集まり、多彩なコスプレは、“太秦戦国祭り”になくてはならないものとなっていると言える。
出来立てホヤホヤのイラストも公開! 『エルシャダイ』の世界はさらに広がる
“太秦戦国祭り”の毎年の楽しみは、クリエイターらが出演してのトークショウ。今年は、恒例となったカプコン小林裕幸プロデューサーによる『戦国BASARA』関連のトークショウのほかに、『El Shaddai: Ascension of the Metatron(エルシャダイ: アセンション オブ メタトロン)』のディレクターとして知られる竹安佐和記氏らが参加してのパネルディスカッションが実施された。ここでは、『エルシャダイ』のイベントの模様をリポートしていこう。
竹安氏らが登壇して行われたのが、HISTORICA LIVE“デジタル化する神話・英雄の創造性”。竹安氏のほかにはマンガ『戦国驍刃デュラハン~下弦の継承者~』のクリエイティブディレクターを務める茶谷明茂氏らも参加しており、司会役を務めた立命館大学 映像学部 中村彰憲教授によると、「太秦戦国祭りでは初めての試みですが、“神話”や“英雄”を切り口に、西洋と東洋を融合させたらどうなるのか?」をテーマに、竹安氏と茶谷氏を招くことにしたのだという。トークショウは、竹安氏と茶谷氏が各々の構築する世界観について語り、その後に両者による対談という2部構成で行われた。
トークショウは、まずは竹安氏の“神話構造とエルシャダイ”という講演からスタート。2007年10月20日に竹安氏が構想を立てたときに、じつは全9章構成だったという『エルシャダイ』。竹安氏がいかに詳細な世界観を構築したかは驚嘆に値するが、ゲームの『エルシャダイ』は“第4章 メタトロン”に該当するという。これに対して竹安氏は「壮大過ぎました」と漏らし会場を笑わせたあとで、『エルシャダイ』の世界観は「ゲームなどのメディアに入りきらないものでした」と述懐した。ここへ来て、『エルシャダイ』の世界観に連なる小説やマンガなどのリリースが相次いでいるが、それはこの全9章を埋める作業なのだそう。小説の『Gideon ‐ギデオン‐ The man whom God disliked 』(原案・竹安佐和記、著・大竹康師)や、『なんでおまえが救世主!?』(原案・竹安佐和記、著・中川裕介)などの作品がこれにあたる。あわせて、「神話構造をサポートするため」(竹安)として、“MichaelのBlog”を開設(→こちら)、随時世界観の解説を行なっているという。
そして、『エルシャダイ』の世界はこのあとも拡大する。近いところでは、竹安氏が「真剣に取り組んでいる」という小説が企画中だ。セムヤザとイシュタルの物語になるというこの小説は、2012年春にも発売予定で、ただいまプロットが終わった段階で、いまはどんなエピソードを入れるべきか、考えているところなのだという。「妄想力を育てている」と竹安氏。竹安氏にとって“妄想力”こそクリエイティビティーの源泉となるもののよう。そして竹安氏は来場者へ“妄想力の種”を植えつけるべく、小説のヒントとなるイラストを紹介した。それは、ルシフェルが本来はイーノックの武器であるハズのアーチを駆使しているというもの。会場での公開を間に合わせるために、ギリギリの作業だったと竹安氏が語るこのイラストを紹介した瞬間、会場からは記者も思いもよらないほどの大きなざわめきが! そのざわめきが醒めやらぬなか、竹安氏はルシフェルとイーノックがアーチを使っているイラストを並べ、「同じアーチを使っているように見えますが、ルシフェルのアーチとイーノックのアーチには違いがあります」と追い打ちをかけるようにコメント。それはずばり、ルシフェルが小指を立てているのに対して、イーノックは立てていない点。「そ、そこにどんな違いが?」という会場からのつぶやきが聞こえてこないでもなかったが、どのような違いがあるのかが明らかにされるのは、来春発売予定の小説になりそうだ。ちなみに、今回公開したビジュアルは、いまのところ小説の表紙として考えているとのことだ。
また、会場では神の御前に立つことを許された7人のアークエンジェル、“ヘブンリー・セブン”のビジュアルも紹介された。いずれ劣らぬひと癖もふた癖もありそうな天使ばかりだが、近日中にホームページで詳細が明らかにされるという。こちらは、竹安氏がクリムを設立して初めてのオリジナルコンテンツになるとのことで、“ヘブンリー・セブン”にどのような展開が生まれるか、楽しみだ。さらに、2012年1月19日~31日には、竹安佐和記氏の原画展“【Elの世界】Vol.1”が都内にて実施されることも明らかにされている。
最後に竹安氏は、“繋がる感動”をこれからもやっていきたいと語った。いろいろなクロスメディアが展開される昨今、ひとつのコンテンツを提供するのは難しい。そんなときに竹安氏が大事にしたいのが何で出しても繋がるということ。「いろいろなコンテンツを出して、そのコンテンツが数珠つなぎに繋がることで、無形の価値を生み出せれば」というのだ。いかにも、今後の『エルシャダイ』を象徴するようなコメントだ。
茶谷氏による『戦国驍刃デュラハン~下弦の継承者~』の説明のあとは、ルシフェル役を演じた声優の竹内良太氏を交えてのトークショウに。竹内氏はルシフェル役と出会った経緯について聞かれて、「奇跡の連続で巡り会えました」とコメント。もともと竹内氏は高い声の持ち主だったようだが、それが嫌で耳鼻咽喉科で発声のことを勉強して、5~6年にわたって毎日同じ訓練を続け、いまのような響きのある声を手に入れたらしい。それで、リップシンクの収録をしていたときに竹安氏と出会い、ルシフェル役に即決したというのだ。ルシフェル役を巡っては、竹安氏側にも事情があって、当初ルシフェルはほかの声優さんに役が決まっていた。ただ、ルシフェル役の声としてはイメージから少し高かったので、声を少し加工して使っていたのだという。ところがある日、その人が声優を辞めてスーパーで働き始めたというのだ。弱ったところに救世主のごとく現れたのが、ルシフェルのイメージ通りの声を持つ竹内氏。「低音を自然に出せるのがいいですね」と竹安氏も竹内氏を絶賛する。
とくに興味深かったのが、竹安氏が自身の考えかたについて触れたとき。“デジタル化する神話”について問われた竹安氏は、いままでのゲーム開発歴で和から洋まで伝承ものはいろいろやっているが、小中学校はまったく興味がなかったとしたうえで、「もともとオタクなので、やればハマるし、調べるんですよ」と説明した。そのうえで辛かったのが、神話の辻褄が合わないこと。それを解読するために、考案した人たちを調べることにしたのだという。「ただし、そこを話し始めると、つまらなくなってしまうので、どこかで線引きしないといけませんけど。そこはいまも困っています(笑)」(竹安)とのことだ。また“学び”については、竹安氏は過去を調べていると、いろいろ気付かされることがあると説明。「先人たちはこうして生きてきたのか」というところが、学びがいちばん強いという。竹安氏は、人生は点の塊だと思っているそうで、点の塊だったときは、点そのものの評価はくだせるが、いずれ点は線になるときがきて、それが歴史になるのだという。その線になって見られることが学びになっていいのだとか。竹安氏の歴史観、ひいては『エルシャダイ』の世界観を考えるうえで、大いに参考になりそうなトークイベントだった。
※諸般の事情により、一部記事の掲載を一端取り下げさせていただきました。改めて掲載させていただく予定でいます。[2011年11月28日]