関西圏のゲーム会社によるコミュニティー形成の場に!

 2011年11月26日(土)、京都太秦ゲームフェスタが東映京都撮影所・東映太秦映画村にて行われた。京都発のコンテンツの祭典“KYOTO CMEX 2011(KYOTO Cross Media Experience 2011)”の一環として実施された京都太秦ゲームフェスタは、関西のゲーム企業が一堂に介したイベント。各社によるブース展示やイベントなどが展開された。出展したのは、トーセやインテリジェントシステム、キュー・ゲームスなど、京都を中心とした関西圏の開発会社および学校12団体。今回のイベントでは、関西のゲーム産業のコミュニティー形成といったことも視野に入れられているようで、会場ではメーカー相互の交流やクリエイターとファンが直接言葉を交わす……といった場面も数多く見られた。

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▲キュー・ゲームスはPlayStation Network向け配信タイトル『PixelJunk』シリーズを出展。シリーズ最新作である、『PixelJunk 4am』を国内初プレイアブル出展した。こちらはPlayStation Moveを操ることで音を奏でるというソフト(左)。ステージイベントでは、本作のディレクターを務めるBaiyon氏によるデモプレイも披露された(右)。
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▲大阪に本社を構えるユークスは、PlayStation NetworkとXbox LIVE アーケードにて配信中のアクションゲーム『リアルスティール』と、開発を担当する『WWE’12』を出展した。
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▲神戸の開発会社だというクアドラソフトは、この人のために用意したというスマーフォトとPCが連動した『スマホでしゅりけん』を出展。こちらスマートフォンで手裏剣をくり出して画面上の敵に当てるというしゅりけんゲーム。
▲もともとは印刷会社だったものの、4年前からデバッグ事業を立ち上げたという京都の会社、KINSHA。印刷会社に校閲作業は必須だが、ゲームのデバッグにも同じ方向性を感じたからとのこと。今回、日本マイクロソフトさんのご厚意で、『Kinect スポーツ: シーズン2』を出展。Kinect向けタイトルのデバッグを手掛けている……というわけではないようです。Kinect向けタイトルのイベントでの人気は鉄板。
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▲ステージでは、ブースに負けず劣らずバラエティーに富んだイベントが組まれた。こちらはゲームの企画アイデアの発表を1分間で行う“1分間ゲームアイデアコンテスト”。テーマは“京都”で行われたのだが、明智光秀を笑わせて謀反を防ぐ『本能寺が変!?』が見事優勝した。
▲ゲーム会社のクリエイターが語る“ゲームクリエーター本音トーク”では、アメージング、インテリジェントシステムズ、キュー・ゲームスのクリエイターが登壇した。
▲来場者が参加しての“ゲームクイズ大会”。

『リアルスティール』制作秘話が明らかに、ユークスには、会議室に金網がある……

 ユークスによるステージイベントでは、『リアルスティール』のゲームプランナーを担当した上野尚澄氏が登壇。雑誌社による公開インタビューという形で、同作の開発秘話などを語った。ご存じの通り、『リアルスティール』は、2011年12月9日から公開されるハリウッド映画のゲーム化作品にあたるが、もともとは映画制作会社のたっての希望でゲーム化が実現したとのこと。当初は急な話ゆえ開発を手掛ける会社がなかなか見つからず、「リングが出てくるから、(『WWE』 などの開発を手掛けている)ユークスが適しているのでは?」とのひょんな提案から、話が巡ってきたといったエピソードが明らかにされた。実際に制作もたいへんだったようで、映画とゲームの制作はほぼ同時作業で、映画のために制作したモーションキャプチャー用の映像を見ながら、想像を膨らませてゲームを作ったのだとか。さらに、映画の制作を担当したドリームワークスもディズニーもキャラに対する愛が極めて深く、映画の世界観を重視するためにいろいろな制約があったのだという。その網の目(?)をかいくぐりながらの開発だったらしい。そうした苦労の甲斐があってか、『リアルスティール』は上野氏も納得の1作に仕上がったようだ。

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▲ユークス上野氏。

 公開インタビューでは、「なぜ『リアルスティール』が配信タイトルとしてリリースされたのか?」という点にも言及された。それに対して上野氏は、「ものすごくたくさんの理由があります」と前置きした上で、「低価格を実現したかった」、「配信タイトルであれば、たとえば映画を遅い時間に見て、家に帰っても即座に家でダウンロードして楽しめるという気軽さがある」、「この手のタイトルが増えてくるのは間違いないので、ノウハウを溜めるため」、「発売後もアップデートができるから」といった点を挙げた。ちなみに、日本のユーザーの傾向としては、「後から課金というのには抵抗があるようで、“飲み放題”みたいな料金体系のほうがいいみたいですね」(上野)とのことだ。

 さらに、ユークスについて聞かれた上野氏は、「好きなことを仕事にできる会社」とひとこと。たとえば、開発者がこのキャラを使ったゲームを作りたい! ということになったら、実現できるかどうかを権利元の会社に掛けあう……といった社風がユークスにはあるのだという。そういった社風もあり、ユークスには自分の好きな題材を手掛けているスタッフが多いのだとか。また、『リアルスティール』を担当する前は、『WWE』シリーズを手掛けていたという上野氏は、それまでWWEに興味がなかったものの、ユークスに入社してからWWEファンになったとのことで、「ユークスに入社したら、WWEを好きにさせる自信がありますよ」(上野)とキッパリ。そのための環境作りかどうかはさだかではないが、ユークスでは会議室は金網でできていて、チャンピオンベルトが置いてある……といった事実が明らかにされた。

 最後に『リアルスティール』の魅力について上野氏は、「自分の相棒に出会えるゲームです。カスタマイズの種類は10000通りにも及び、いっしょに汗水垂らす相棒には必ず愛着が湧きます。随時アップデートをしていく予定なので、ご期待ください」とのことだ。

ガストの岡村佳人氏と日本一ソフトウェアの新川宗平氏が講演

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▲立命館大学 映像学部 中村彰憲教授。

 京都太秦ゲームフェスタのイベントの掉尾を飾る形で行われたのが“ゲームカンファレンス”。“ゲーム産業におけるクロスメディア戦略の展望~日本的インタラクティブストーリーテリングの行方~”と題されたトークイベントは、第1部がガストの岡村佳人氏と日本一ソフトウェアの新川宗平氏による公演、第2部は両者によるパネルディスカッションを行うというもの。モデレーター役として登壇した立命館大学 映像学部 中村彰憲教授は、ガストと日本一ソフトウェアに注目した理由について、「日本はソーシャルゲームに代表されるライトなメディアが台頭するなか、欧米は大規模なストーリーテリングなゲームがグローバルに展開されているという状況が進んでいます。一見、ハリウッド的な世界規模のスタジオでなければ世界で戦えないようにも見えますが、よく市場を見ると、中小規模の企業でも、じっくりとストーリーを語るタイプのもので、世界で戦えるのではないか? というときに、この2社が頭の中に浮かび上がったんです」と説明した。しかも、奇しくもガストの本社は長野、日本一ソフトウェアの本社は岐阜と、地方から情報を発信しているメーカーでもある。京都太秦ゲームフェスタにあいふさわしいのではないか……とのことで、今回の講演とあいなった。

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▲ガスト岡村佳人ディレクター。

 まずは、ガスト岡村佳人ディレクターによる講演。“アーランドのアトリエ 開発エピソード~アトリエシリーズの再興を考える~”は、ゲームデザインとシステム面から『アトリエ』シリーズに迫るというもの。1997年の『マリーのアトリエ ~ザールブルグの錬金術士?』以降、13作がリリースされている『アトリエ』シリーズ。まず岡村氏は同シリーズの“ビジュアルの変遷”からスタート。シリーズには“ぼうし”、“女の子”、“記号化”、“目線”の4つのルールがあるのだと説明した。たとえば、『アトリエ』シリーズでは、帽子と杖で“錬金術士”の特徴付けのひとつになっているが、それはこれまでの積み重ねに裏打ちされたお約束を大切にすることであることや、“目線”では、ユーザーの声を聞きながら方向性を判断するといったことなどが説明された。ただし、ユーザーの声を聞くといっても、ユーザーの言いなりになるわけではなくて、あくまで判断材料のひとつとして「ユーザーが何を望んでいるのか?」を見極めるバランスが重要であると補足した。まとめは、「デザインは開発者の自己満足ではない」というもの。『アトリエ』シリーズでも、以前は担当者の趣向を推すケースが多かったが、『アーランド』シリーズではイラストレーターである岸田メル氏の持ち味を活かす方針で、担当者とも意志統一が取れたのだとか。

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 一方で、「シリーズで13タイトルも作っていると人によってまったく異なる“自分の中の『アトリエ』像”ができてしまう」と岡村氏。そのためどうやって共通認識を作り上げていくかが重要で、コンセプトを明確にしてあとは担当者に任せる形にしたのだという。そこで岡村氏が自問したのが、『アトリエ』シリーズで自分が“表現したかったこと”。『アトリエ』シリーズは主人公の身近なものを救うのが目的、という解釈から『アーランド』シリーズは“日常生活”を描く内容になったのだという。いわば、“原点回帰”だ。「ただし、誤解を恐れずに言えば、『アトリエ』シリーズのゲーム性は1作目でほぼ完成しています。基本だけだとつまらない」と岡村氏。それで、岡村氏は「基本を変えず、プラスアルファで新たなおもしろさを提供するという方針をつねに考えています」のだという。たとえば、『アーランド』シリーズでは、ユーザーの行動を評価する“行動システム”などを導入し、徐々に洗練させていったとのことだ。

 さて、最後に『アトリエ』シリーズの今後に言及した岡村氏は、「今後も『アトリエ』シリーズが世に出る可能性が高い」としつつも、ずばり「未定」とのこと。そのうえで、「今後もユーザー目線でゲームを作っていきます。これまでは“開発が好きなことをやる”という名目で、開発の自己満足に陥っていました。今後とも、新しいおもしろさを提供していきたいです」と講演を締めくくった。

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▲日本一ソフトウェア 代表取締役社長、新川宗平氏。

 おつぎは、日本一ソフトウェア 代表取締役社長、新川宗平氏による“『魔界戦記ディスガイア』シリーズが全世界で170万本売れているワケ”。やり込み型ゲームとして知られる『魔界戦記ディスガイア』シリーズだが、なぜ世界的な評価を勝ち取るに至ったのか? その分析を新川氏は1993年の創業当初の経営理念にまで遡る。それは「ゲームは作品ではなく商品である」というもの。これはどういうことかというと、先ほどの岡村氏の話と通じる部分も多いが、ゲームは開発者のためのもの(作品)ではなくて、遊んでくれるお客さんのもの(商品)という思いを込めてのものだ。そのうえで、2011年には経営理念を進化。“Entertainment for All(エンターテインメント フォー オール)”とした。これは、「ゲームだけではなく、幅広いジャンルのエンターテインメントを世界に向けて発信する」、「エンターテインメントは必需品ではない。だからこそ、お客様に喜んでいただくことを第一に考える必要がある」という考えに基づいてのものだという。

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 という前提を踏まえた上で、講演はシリーズ1作目『魔界戦記ディスガイア』開発前夜へ。同作の開発に取り掛かる2002年当時、日本一ソフトウェアはこれといったヒット作もなく、業界的にきびしい時期だったことも相まって、つぎに何を作るべきか途方に暮れていたという。そんなときに、悩んでも答えはでないということで、開き直って「お客様に喜んでもらうために“おもしろい”と思うものをトコトン詰め込んだ」という発想で生まれたのが1作目『魔界戦記ディスガイア』。結果、同作はヒットを記録し、“おもしろいものをトコトン詰め込む”という精神はいまも大事な企業文化として同社に引き継がれているという。

 そんな『魔界戦記ディスガイア』に海外展開の話が持ち上がり、当初は「日本のコアファン向けのタイトルが売れるわけがない」と不安だったものの、結果は予想以上の大ヒットに。これにより「日本で喜んでいただけたものは世界にも通用する」(新川)と確信したのだという。とはいえ、新川氏は、「私たちは海外向けの商品を作ることはありません」と断言する。それは、海外のゲームファンは、海外向けのソフトを求めているわけではなくて、あくまで“日本一ソフトウェアだからこそ”生み出せるものを求めているからだ。“とにかくおもしろいものを詰め込むサービス精神”、“日本人だからこそ作れるものを、本気でこだわって作り込む”、それが日本一ソフトウェアという小さい規模の会社が世界市場に挑戦していくために導き出した結論だという。

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 第2部のパネルディスカッションは、司会役の立命館大学の中村彰憲教授が出した質問に、ガストの岡村佳人氏と日本一ソフトウェアの新川宗平氏が答えていくというスタイルで行われた。そのやり取りで見えるのも、両者の“まずはユーザーありき”の思い。象徴的だったのが、今後のシミュレーションRPGが変わらず受け入れられ続けるための可能性を問われたとき。これに対して、新川氏が「あらゆる手を尽くすべきだと思います。ゲームは娯楽なので、いつでもやめられます。飽きさせず、遊びたくなる楽しさを、作り手がつねに積極的に仕掛けていく必要があると思います」と返答すれば、岡村氏も「ユーザーの皆さんが求めているのが何なのか?ということを考える必要があると思います。ゲーム性なのか、キャラコンテンツなのか……。そのなかで、ガストはキャラとゲーム性の両方をしっかりと見て、今後も開発を続けていくことになると思います」と、ユーザーの好みがどこにあるかをつねに意識してゲーム作りを続けていくとのこと。「新しいものを出すときにつねに意識するのは、お客さんのほうが我々よりも進化が早いということ。我々が、“ここまでやればお客さんは長く遊んでくれるだろう”という思いも、お客さんは一瞬でなじんでクリアーしてしまう。つねにお客さんのほうが上をいっているので、そういうふうに思って作っていくしかないです」との新川氏は実感がこもっていた。

 ちなみに、パネルディスカッションでは、両氏ともシリーズに関して気になる発言が。PlayStation Vitaについて問われた岡村氏が、「“『アトリエ』シリーズはネットワーク対応にならないのか?”との要望もよくありましたし、ゲーム性自体も親和性があります。ほかのユーザーとのコミュニティーが成立する要素も多いので、そういったことも考えていければ……と思っています。そういった意味で、ユーザーさんに新しい価値観を提供することが、今後生き残っていくためには必要になってくると思います」と回答。一方の新川氏は「『5』もやりたいと思っています」と明言。その上で、正統進化にあたるナンバリングタイトルでの展開(“縦の進化”)とは別に、“横の進化”も考えているのだという。そちらを海外展開向けに考えているのだとか……。

 ソフトのクオリティーにこだわりつつ、ユーザーといっしょに進化していく『アトリエ』シリーズと『魔界戦記ディスガイア』シリーズ。ゲームファンにとっては、シリーズの動向を注目したいところだ。