音響機材マニアの光田氏がこだわった自社スタジオに潜入!

設立10周年を迎えた、光田康典氏率いるプロキオン・スタジオの新スタジオに潜入取材!_01
▲光田康典氏。スクウェア(現スクウェア・エニックス)を経て、2001年にプロキオン・スタジオを設立。前述の代表作以外に、テレビアニメや舞台などの楽曲も手掛ける。

 『クロノ・トリガー』や『ゼノギアス』、『イナズマイレブン』などの作曲で知られる、作曲家の光田康典氏。氏が代表を務めるサウンド制作会社プロキオン・スタジオが、2011年11月22日で設立から10周年を迎えた。そこで、週刊ファミ通2011年12月8・15日合併号(2011年11月24日発売)では、光田氏にプロキオン・スタジオの10年の歩みについて伺うインタビューを掲載している。なお、誌面で少し紹介しているが、プロキオン・スタジオは、2011年2月の社屋移転にともなって、社屋内に新たに録音スタジオを併設。光田氏が機材を選び、配置に試行錯誤したこだわりのスタジオになっている。ここでは、誌面で紹介しきれなかったスタジオ取材の模様を掲載。光田氏本人に、スタジオの特徴や機材について解説していただいた。

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▲会社の入り口にある、金属で作られたロゴ。天井のライトに照らされ、金属とその影の2重のロゴが映し出される。
▲録音した音の調整をする、コントロールルーム。スピーカーを通じて、音がキレイに耳に届くように、各機器の配置を計算されている。奥に設置されている液晶テレビは、立体視対応のもの。
▲スピーカーの横に設置されているのは、特別な木でできているディフューザー。スタジオ内に響く音の広がりを均等にする役目を持つ。「ディフューザーがある状態で目を閉じて音を聴くと、音が上下左右に広がっているのが、よくわかります」(光田氏)。
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▲音量の強さの最大値を調整するコンプレッサー。4台のうち下の2台は、日本でも数台しかないRETRO社の“RETRO-176”という特別なもの。「海外から試用を兼ねて取り寄せてみたんですが、使い心地があまりによくて、即買いでした(笑)。ボーカルならば目の前で歌っているような臨場感のあるサウンドに仕上がりますし、音が自然なんです。日本で使っている人はあまりいないと思います」(光田氏)。
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▲音量のレベルを調整するラインミキサー。写真上部にあるのが、MANLEY社の“16x2”。デジタルで出力される音声を一度アナログに変換し、再度デジタルに直す機能を持つ。「温かさを持ったアナログサウンドができあがるんです。ちなみに、この機械は卵焼きができるくらい熱くなりますよ(笑)」(光田氏)。
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▲コントロールルームの片隅に置かれていたフィアットの置物。こういうアイテムのひとつひとつも、光田氏がこだわって選んだものなんだとか。
▲録音ブース。楽器演奏のほか、8名程度までの音声収録にも対応している。
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▲来客時や社内の会議で使うミーティングルーム。奥の棚には、プロキオン・スタジオが関わった作品がズラリと並ぶ。その横には、光田氏愛用のギターも。なお、入り口にかかった小さな表札は光田氏の手作り。
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▲スタジオ前に設置された机。レコーディングの休憩や、ちょっとした打ち合わせなどに使われる。さりげなく置かれた地球儀など、おしゃれな小物がポイント。机の奥に設置されているのは、おいしいコーヒーが簡単に入れられるカプセルタイプのコーヒーメーカー。

光田氏に訊く、スタジオのこだわりポイント

――スタジオの機材にかなりこだわられているようですが、音響機材などを選ぶのはお好きなのでしょうか?
光田 大好きです(笑)。コンプレッサーにイコライザー、そしてミキサーと、どれを買って組み合わせたら、どんな音が鳴るんだろうと考えるのが大好きで。機材だけでなく、機材間をつなぐケーブルや、電源ケーブルなど、すべてこだわったセッティングになっています。でも、まだ完成形ではなくて、いまでもコソコソとスピーカーの位置を変えたりしています。

――やはりスピーカーの位置で、音の聞こえかたは大きく変わるのでしょうか?
光田 スピーカーによっては、特定の周波数はキンキンして聴こえてしまうというのがあるんですが、ディフューザーとスピーカーをうまく設置すれば、バランスよく均等な音になります。いまはスピーカーを専用の台の上に置いているんですが、これは別にオシャレだからここに置いているわけじゃありません(笑)。もともとスピーカーはスタジオの高い位置に置いていたんですが、ベースがベタッとした音になってしまっていたので、前に持ってきたんです。このスピーカーの位置のように、時間があるときに音を鳴らして、ちょっとずつ調整しているんですが、まだまだ終わりが見えませんね。

――本当にこだわっていらっしゃるんですね。
光田 でも、おかげで弊社のスタジオにいらっしゃった方からは、口々に「すごい音がいいスタジオですね」と言っていただけますね。中には、逆に「粗が見えそうで怖い」と言う方もいらっしゃいます。録音ブースは非常にS/N比(S(信号)とN(ノイズ)の比を対数であらわしたもの。信号に対するノイズの割合が小さければ、音質がよくなる)がよくノイズが入らないようにいろいろと工夫していまして、ゲーム用に声優さんの声を録った場合、たいていコンプレッサーを掛けて音圧を上げるのですが、録音した音のS/N比が悪いとノイズまでいっしょに大きくなってしまうんですね。また、携帯機向けのゲームだとデータを大きく圧縮するのですが、録音時のノイズの量によって音声のクオリティーに大きく影響してきますので、録った音がいかに大切かということがわかります。ここのスタジオで録ると、まったくと言っていいほどノイズが出ないので、後々の加工が非常にやりやすいんです。そうした意味でノイズのない設計、また声優さんやミュージシャンが気持ちよく収録ができる形を考えていました。録音ブースの設計は1年以上も前からいろいろと考えていましたね。

――では、ほかのスタジオにも負けないと?
光田 いろいろとこだわってますからね(笑)。とくに音質はほかのスタジオに負けないくらい、いいと思いますよ。

――スタジオを拝見するだけで、こだわりが伝わりますね。そういうこだわりは、社内のスタッフの方にも理解していただけているんですか?
光田 いえ、まったく(苦笑)。僕が独断と偏見で機材を選んで、勝手にセッティングしています。スタッフからは「何やってるんですか」とか「お金使いすぎですよ」と言われたりするので、「僕のギャラから差し引いてください」と(笑)。もともと機材が好きですし、最近はシンセサイザーが行き着くレベルまで到達してしまっているので、こういう録音機材に興味が集中してしまうんですよね。でも、そうやって機材のことを考えていじっているのが、いちばん楽しいときですよ(笑)。

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 なお、前述のとおり、週刊ファミ通2011年12月8・15日合併号(2011年11月24日発売)では、プロキオン・スタジオを特集したゲーム音楽記事を掲載中。プロキオン・スタジオの10周年を振り返る光田氏へのインタビューなどを掲載している。光田氏のファンの方はもちろんのこと、ゲーム音楽ファンの方はぜひチェックしてほしい。