「ゲームはゲーム」の割り切りが、先進的表現を生む
以前、週刊ファミ通の取材で、『コール オブ デューティ モダン・ウォーフェア3』の開発会社であるスレッジハンマー・ゲームズのスタッフにインタビューする機会があった。そこで、以前から聞いてみたかったこんな質問をしてみた。
「ビルが炎上し崩れてくる、戦場と化したマンハッタンのビジュアルは、9.11を想起させないか? このシーンに過剰に反応するアメリカ人はいないのか?」と。
別にこちらとしてもこの質問に深い意図はなく、こうした“9.11的ビジュアル”をもうアメリカ人はエンターテインメントとして飲み込めるのか? という部分の確認と、前作『モダン・ウォーフェア2』での象徴的シーンであるワシントン陥落の映像を、全米でもっとも視聴率が高いスーパーボウル中のCMとして流し、当時は物議を醸したことが気になっていたからだ。
スタッフからの回答は、自身がアメリカ東海岸出身であるがゆえに、9.11という痛ましい事件に対してはとくに深い哀悼の気持ちがあることを表明しつつ、「『モダン・ウォーフェア』の世界で起きていることはファンタジーだ。ゲームで描いている世界と現実の世界は違う」というものだった。
正直、この質問には答えにくそうだったし、通訳を介したコミュニケーションで、どこまでこちらの真意が伝わったかも怪しい感じになってしまったが、端的に言えば「ゲームはゲーム」、というよくある回答しか得られず終いだった。
あらためて言うが、筆者の関心は「戦争を娯楽として描いてけしからん!」ということではなく、「戦争を娯楽として描ける懐の深さ」の部分にある。『モダン・ウォーフェア』シリーズが踏み込んでいる表現レベルとは、“通行人を轢ける!”とか、“ヘッドショットで首が吹き飛んだ!”という、いままでビデオゲームの世界で過激とされていた表現とは、まったく違う次元で展開している。
核爆発で街ごと消滅する米海兵隊。
逃げ惑う民間人を虐殺する空港テロ。
アメリカの日常に降下してくるロシア軍空挺部隊。
炎上するワシントン議会議事堂……。
いままで天変地異と異星人にしか許されなかった、エンターテインメントの世界における"米本土攻撃"。『モダン・ウォーフェア』シリーズは、それを冷戦を展開したかつての敵性国、ロシア軍が行うというシナリオと、これ以上ない強烈なビジュアルで徹底的に描く。しかも、『モダン・ウォーフェア』シリーズは決してカルトなゲームではなく、いま世界でもっと売れるビデオゲームフランチャイズだ。すでに最新作『モダン・ウォーフェア3』は、欧米でのローンチが650万本を達成し、エンターテインメント業界の記録を更新したとの報道もある。
つまり、こうした結果がある程度答えを出しているとも言える。ユーザーにとっても「ゲームはゲーム」でしかなく、一連の過激なシーンは、プレイヤーにカタルシスを与えるためのいち要素でしかないのかもしれない。
だが、しかしである。『モダン・ウォーフェア3』のキャンペーンモードは、マンハッタン解放に向かう米軍特殊部隊デルタフォースの戦いから始まる。敵の攻撃を受け、横転した装甲車から顔を出したところでゲームはスタート。そこで最初にプレイヤーが見るものは、目の前のビルにミサイルが撃ち込まれ、ビルの破片が崩れながら下に落ちてくる場面だ。このシーンはよほど鈍感な人でない限り、“何か”を思い出すのは間違いない。そしてこうした“何か”は、ほかにもある。ロンドンの地下鉄でテロリストを追跡するシーンは、“ロンドン同時爆破テロ”を想起させる。地下鉄での戦いそのものはアクション映画的だが、地上に上がった際に警察車輌が道路封鎖を行い、民間人を誘導している様は、まるで同時爆破テロのときの再現だ。
この場面はイギリスでも問題となったようだが、英レーティング機関は「事件を想起させない。関連なし」とジャッジ。内容の修正は成されなかった。『モダン・ウォーフェア3』は世界中で"18歳以上推奨"というレーティングで販売されており、本作が明確に"大人向けゲーム"であることも大きなポイントだが、やはりここでも「ゲームはゲーム」という部分がフォーカスされたことが大きいのだろう。ゲームはフィクションでありファンタジーであることが、深く理解されていることの現れとも言える。
たとえば今後、ハリウッドで“ロシア軍がアメリカに攻めてくる映画”が作られることはないだろう。メジャー映画業界は、18歳以下を切り捨てて作品を作れないからだ。だがビデオゲームはそれができる。しかもそのうえで、どの映画も書籍も叶わない売上を達成できることも証明している。
もしアナタがいま18歳以上で、先進的なエンターテインメント作品を探しているなら、それはビデオゲームにある。「ゲームはゲーム」と思ってナメてはいけない。「ゲームはゲーム」だからこそ、ほかではなしえない表現領域に達することができたのだ。そしてそこに『モダン・ウォーフェア』シリーズという作品が果たした役割は大きく、そのシリーズ最新作が、『モダン・ウォーフェア3』というゲームなのだ。
▼筆者プロフィール
ポルノ鈴木
スーパー32Xの『DOOM』、Xboxの『Halo(ヘイロー)』を経て、Xbox 360で『コール オブ デューティ モダン・ウォーフェア』に出会ってしまい、以来重度の『コール オブ デューティ』患者に。『モダン・ウォーフェア』以降のシリーズ作は日本未発売作品も含めてすべてプレイ済み。『モダン・ウォーフェア3』もこれから1年間みっちり遊びます。みっちりとです。
コール オブ デューティ モダン・ウォーフェア3
対応機種:プレイステーション3、Xbox 360
発売日:2011年11月17日(※)
価格:7980円[税込]
備考:※日本語吹き替え版は12月22日発売予定