『俺屍』発売記念インタビュー!
ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンより2011年11月10日に発売されたPSP用ソフト『俺の屍を越えてゆけ』。本作のゲームデザインを手がける桝田省治氏にインタビューを敢行!
――どういったことを意識しながらリメイクしましたか?
桝田省治氏(以下、桝田) オリジナル版の発売から12年。アーカイブも含めてたくさんの人にプレイしていただいた中で“ここがわかりにくい”と意見を寄せていただいた部分をできる限り修正することを意識したよ。本当に細かい部分も入れると、修正点は5000項目を超えていたんだけど、制作期間を考えたうえで取捨選択をし、最終的に3000項目くらいに絞って修正したかな。だからリメイク作業の7~8割は修正作業に費やしたと思う。
――3000項目はすごいですね。目に見えないパラメーターもかなり修正されているのでは?
桝田 もちろん。たとえば、陽炎という相手の攻撃が当たりにくくする術があるんだけれど、オリジナル版では10回に1回くらいのヒット率だったものを、今回は5回に1回くらいに調整しているし、敵が仲間を呼ぶ回数にもリミッターをつけたりと、細かい部分の調整も行っている。リミッター関係は当時つけ忘れていたものなんだよ。僕がつけ忘れていたのか、プログラマーがつけ忘れていたのか、いまとなってはわからないけど(笑)。
――ははは(笑)。そういった部分もしっかり修正したんですね。そのほかにも便利になっている部分がたくさんありますよね。
桝田 そうだね。ユーザーからいちばん言われたのは、キャラクターの移動をアナログスティックに対応してくれってところなんだよ。だから今回はアナログスティックでキャラクター移動を行えるようにして、空いた方向キーに術や道具へのショートカットを割り振ったから操作性がかなり向上していると思うよ。ほかにも家系図の見られる範囲も増やしてあるし、ユーザーの不満はだいぶ解消されていると思う。
――修正箇所の取捨選択には苦労されたのではないでしょうか?
桝田 ユーザーの不満の中には、相互に矛盾しているものもあるからね。たとえば、Aが好きという人もいれば、Aが嫌いという人もいる。それならAが嫌いな原因のどれかを直しつつAが好きという部分を残す方法を試行錯誤していったんだ。リメイクの仕方としてはよくできていると思うよ。
――不満を全部直せば、というわけではないんですね。
桝田 そうだね。一族の顔イラストの種類を増やしてください。という要望が多かったのですが、それをやるには正直時間が足りないんだよね。それだったら新しい神様を増やしたほうがいいだろうと。だって、制作に3年かかって、1本10000円とかになっちゃったら買わないでしょ(笑)。
――さきほど、7~8割は修正に時間を費やしたと伺いましたが、残りの2割についてはどんな作業を行ったのでしょうか?
桝田 残りの2割は、続編の『2』で使おうと思っている新要素の探りを入れる感じだね。もともと『1』のセーブデータを『2』に引き継ぐ仕掛けを考えていたんだけれど、プレイステーションからではPSPにデータが写せないので、一度リメイクしてPSP版を出しておこうと。それもあって『2』に入れる予定の新要素をユーザーに評価してもらう意味も込めて、PSP版に入れてみたんだ。
――それが、オリジナルの刀?
桝田 そう。オリジナルの刀を作れるだとか、交神の相手となる神様の成長だとか、パラメーターに対してプレイヤーが干渉できる要素はどうかな?って。あるいは、“結魂(けっこん)”だよね。『俺屍』はひとりでとことん自分の好きなように遊ぶゲームなんだけれど、それに対して他人が作ったデータを混ぜるという行為はどうだろう? とね。俺はおもしろいと思うんだけれど、「ひょっとしたらこれは『俺屍』じゃないのかも?」という気もしたので、「この方向で進んでいいですか?」というユーザーへの僕からのメッセージですね。
――今回は、術だけではなく、奥義の“併せ”も可能になっていますね。
桝田 そうだね。奥義や術の併せで与えられるダメージの倍率は“ドカン”と上げているよ。オリジナル版で強敵と戦うときは、陽炎や石猿など補助系の術をかけたあとで、「さぁいくぞ」といった形で戦っていたけれど、今回は相手が何をしようと奥義や術を併せて攻撃に耐え、つぎのターンで大ダメージを与える戦術。つまりハイリスクハイリターンの戦術だね。とくに奥義の併せは、子孫を残すタイミングをしっかり調整しておかないとくり出せないじゃない。こういった、特定の状況を作るのがたいへんだけど、リターンが大きいといった要素はやり込み甲斐があると思うんだよ。だからこういった要素も『2』に入れるかもしれない。
――なるほど、リメイク版で追加されている要素は、『2』で導入されるかもしれないシステムなんですね。ちなみに、リメイク版はおもにどんな人たちにプレイしてもらいたいですか?
桝田 いちばんは、12年間『俺屍』を支えてくれた当時からのファンに遊んでもらいたいね。みなさんの要望は全部叶えていますから、と。もちろん、オリジナル版を遊んだことのない人にもプレイしてもらいたいと思っているよ。でも『俺屍』は、ゲームのルールは詳しく教えるけども、つぎに何をやれといったことは教えない、言わばプレイヤーを野放しにするゲームだから、道筋を示してくれる最近のゲームに慣れている人にとっては難しいかもしれない。これをやったらヒドイ目にあった、これをやったらうまくいっただとか、試行錯誤を重ねて、キャラクターのレベルアップよりもプレイヤー自身がレベルアップして行ってほしいね。
――そんな『俺屍』をプレイするうえでのアドバイスをいただけないでしょうか?
桝田 オリジナル版をプレイしたことのある人と、初めてプレイする人で、ゲームの進め方はすごく変わってくると思うよ。たとえば、オリジナル版経験者ならば、無駄に子孫は作らないで、一族は双子でまわしていくとあっという間に強くなるよ。ふたりなら4人で戦うより戦勝点が溜まりやすいし、双子が生まれれば交神の儀に使う奉納点が半分で済むし、かなり効率がいいはずだよ。ただし、ふたりでボスを倒すのはかなり高度な戦術が要求されると思うけど。
――たったふたりで強敵に挑むのはたいへんそうですね。それでは、初めてプレイするユーザーが序盤に気をつけるべきポイントは?
桝田 とにかく慎重に進むことだね。回復アイテムをたくさん持っていって、迷宮では絶対無理をしない。少しでもダメージを受けたらすぐに回復すること。『俺屍』は急に強い敵が登場したり、宝箱に罠が仕掛けられているから、一般的なRPGのような感覚で迷宮を探索していると、あっという間に全滅しちゃうからね。だから初心者は慎重に進んで、まずは『俺屍』のゲーム性に慣れてほしい。
――先日から『2』のシナリオライターの募集を開始していましたが、反響はいかがでしょうか?
桝田 アマチュアからプロまで、応募は山ほど来ているけれど、まだ決定にはいたっていないね。
――そこが決まらないと制作が進行しないのでは?
桝田 ぜんぜんそんなことないよ。『俺屍』の場合、シナリオは最後だからね。実際、オリジナル版もシナリオがフィックスしたのはかなりギリギリの段階なんだよ。だってアニメシーンの発注ギリギリの段階になって偉い人から「女性にも買ってもらいたいから美少年を入れてよ」と言われて、それで急遽“きつと”を男に変えたんだ。
――そんなことがあったんですね。
桝田 だから『俺屍』のシナリオなんてそんなもんなんだよ。世代交代を早めるために“短命の呪い”をかけ、CEROの審査をすり抜けるために神様としか交神できなくなり……とね(笑)。システムを説明するための方便でしかないんだよ。
――(笑)。とはいえ、誰でもいい、というわけではないですよね?
桝田 逆に言うと、システムありきでシナリオを書ける人ってことだよね。そういう人はアクションゲームを作ってる人に多いのかもしれない。
――桝田さんはシステム面の制作に注力する形でしょうか?
桝田 『俺屍』くらいの量なら自分で書けるんだけれど、システムを一新するとなると、そっちの仕様書をたくさん書かなければいけないからね。そうなるとシナリオを自分で書くのはかなりきびしい。
――システムは一新されるんですか?
桝田 見た目が前作とあまり変わらないということはあるかもしれないけれど、中身は全部変わると思ってもらって間違いないよ。
――それでは、最後に読者へのメッセージをお願いします。
桝田 さきほども言いましたが、オリジナル版経験者は自分の好きなように遊んでください。そして初めてプレイされる方は、いまどきのRPGとは違うからくれぐれも慎重に進んでください。また、次回作に入れるかもしれない新要素をいくつか盛り込んであるので、ぜひ試してみてほしいですね。楽しかったら褒めてくれればいいし、ダメだったらなじってくれてもいい。僕はネットで検索して調べるから、ツイッターに限らずブログなどでもいいので意見を書いてほしいですね。ただ、検索に引っかからなくなってしまうので、漢字を間違えないでください(笑)。
俺の屍を越えてゆけ
メーカー | ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパン |
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対応機種 | PSPPSP |
発売日 | 2011年11月10日 |
価格 | 4980円[税込] |
備考 | PS Store ダウンロード版は3800円[税込]、復活記念限定版は6980円[税込]、企画・ゲームデザイン・シナリオ:桝田 省治、キャラクターデザイン:佐嶋真実、音楽監督:樹原涼子、開発:アルファ・システム |