●『Crysis 2』と『バトルフィールド3』をサンプルに最新技術を解説

 ハードコアゲームのグラフィックはこれ以上進化するのか? NVIDIA Japan本社で、デベロッパー テクノロジーエンジニアを務める竹重雅也氏が最新のPCゲームに使われている技術について解説を行った。

 竹重氏は、まず『Crysis 2』PC版で行われたアップデートについての動画を紹介。DirectX 11向けの本アップデートでは、テッセレーションとディスプレイスメントマッピング、パララックスオクルージョンマッピングといった技法により、3Dモデルがより複雑に表現できるようになっているほか、反射表現も格段に進化している。

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 この動画で紹介されているもののすべてがDirectX 11必須のものではないそうだが、これまでのマシンパワーでは現実的ではなかった表現がDirectX 11世代のグラフィックチップによって実現可能になっているというわけだ。注目して見るとわかりやすいポイントは以下。

・Tesselation+Displacement Mapping
クローズアップされている像。シンプルなポリゴンモデルをテッセレーションで細かく分割し、ディスプレイスメントマップでより立体的にしている。像の映像の最後で髪の毛の部分がせり出しているのに注目。

・Parallax Occlusion Mapping
地面の轍。視線からの角度に応じて凹凸の遮蔽関係も考慮しつつ、陰影付けをして、地面をより立体的に見せている。

・Real Time Local Reflection
メタリックなクリーチャーと機械がお互いを反射しあっている点。ドアや水たまりが炎を反射していること。

・Interactive Water
水面反射だけでなく、物体の動きに対して波が起こるなど、複雑な水面表現が可能になっている。

・Realistic Shadows with Variable Penumbra
物体との距離に従って影が分散している部分。柵の根元側の影は濃く太いが、より遠くに落ちている柵の上の方の影は薄く細くなっている。

 続いて『バトルフィールド3』をサンプルに、メインのテーマはグローバルイルミネーションへ。相互反射・拡散反射光の影響などをちゃんと計算することで、より豊かなライティングが可能になっている。たとえば、コンテナの直接光が当たっていなかった面が、隣の赤いコンテナの反射を受けて赤っぽくほのかに明るくなっていたり、ただ暗かった部分にやわらかな反射光が当たる部分と当たらない部分ができて光の処理に深みが出ていたりする。

 グローバルイルミネーション自体は近年流行のトピックで、最新のゲームエンジンの説明などでもしばしば聞く技術。『バトルフィールド3』では、リアルタイムにグローバルイルミネーションを処理できる英Geomerics社のミドルウェア“Enlighten”を利用しているという。“Enlighten”はアンリアルエンジン3にも対応しており、『アンリアルトーナメント3』を改造したリアルタイムデモも行われた。

 すべての光源が対応可能で、リアルタイムに処理できるというだけあり、単一の光源である太陽の場所を動かしているだけなのに、微細な光の具合が変わっていくのが印象的だった。また、大量の動く光源(光線を撃ちながら戦う50体のBOT)を出した場合でも30フレームを少し下回る程度で処理できていた。

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 CCP Gamesのオンラインゲーム『EVE Online』などでは、スポットライトのみの限定的な光源だけで雰囲気あるシーンを作り出すのに使われているという。従来ならば、光が当たらない部分が真っ暗になってしまうため、補足するためにアーティストが光源を追加で配置しなければならなかったが、相互反射で柔らかに浮かび上がるような表現ができるのだ。

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 では、グラフィックとマシンパワーの進化はこれ以上必要なのだろうか? 最後に竹重氏は、長年ゲームの開発現場に携わってきた経験から、開発現場が要求するものに、その時々のハードウェアなどが足りていたことは一度もないと述べる。
 もちろんゲームの形は多様化してきているし、その要求がすべて正義ということもないだろうが、いまや低スペックの代名詞であったモバイル市場ですら、それこそNVIDIAのTegraシリーズなど、それなりの3Dグラフィック処理を念頭に置いたチップが搭載される時代だ。つねに最先端を走ってきたPCベースのグラフィック技術が今後いかに進化していくのか、これからも注目したい。