●ネットワークの中で、女性の人格をウイルスから守るためにプレイヤーは戦う。幻想的な映像は、本作ならではの魅力

 ユービーアイソフトのプレイステーション3、Xbox 360用ソフト『Child of Eden(チャイルド オブ エデン)』は、ゲームと映像、サウンドの一体感を追い求めてきたゲームクリエイター、水口哲也氏が送り出す最新作である。本作はネットワーク上でのウイルスとの戦いをテーマにしており、美しくエモーショナルなCGが印象的。ゲームジャンルはシューティングだが、敵の攻撃を避けるのではなく、ロックオンして撃ち落していく方式。どちらかといえばガンシューティングタイプといえる。時代の最先端を走りつつも、しっかりと一本筋の通ったゲーム性を持つ本作の魅力を、ファミ通 Xbox 360を中心にレビューや攻略記事を担当してきた古株ライター、石井ぜんじがインプレッションする。

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▲映像とサウンド、ゲーム性の見事な融合は、まさに水口ワールド。氏の作品のファンならば、見逃せないタイトルといえる。

●クオリティーの高いCGとサウンドが、プレイヤーの感情をダイレクトに揺さぶる

 『Child of Eden(チャイルド オブ エデン)』は、あらゆる点でクオリティーの高いシューティングゲームである。ゲーム性にも、興味深い点が多い。だがプレイヤーがまず目を奪われるのは、その美しいグラフィックと、サウンドの訴求力だろう。

 本作のストーリーは、ネットワークに保存されたLumiと呼ばれる女性の人格をウイルスから守るというものである。とはいえ、この世界観は言葉でくわしく説明されるわけではない。フィールドの映像によって“感じる”ものであり、体験するものなのだ。

 ネットワークの世界は象徴的な映像で表現され、草木やクジラ、不死鳥などの生物的なものから、歯車などのメカニックなものまで、さまざまなものが出現する。どれもがとても美しく、幻想的だ。それは現実に、目の前に存在しない形のものだけに、プレイヤーの心の奥底の感性を刺激する。映像の意味を感じ取り、そこに何を見出すのかはプレイヤー次第。これこそが“想像力を刺激する”ということなのだろう。

 本作におけるこの映像表現は、リアルな世界観を追求する海外ゲームの傾向と、一線を画しているといえる。だがこの方向性は、電気を使って映像、音を出せるようになった瞬間から、すでに存在していたものだ。生まれたばかりの原初の時代から、CGやシンセサイザーは、未来的な表現を追求してきた。作り手の創造力は、新たな技術に刺激されてきたのである。

 ところが技術が進歩し、ゲーム市場が巨大化するにつれて、表現はおとなしくなり、リアルな方向性へと変化していく。近年のゲームでは、創造力を持った挑戦的なゲームはあまり見られなくなってしまった。

 だが本作は、作り手が本来持っている情念をストレートに表現しているのが特徴だ。最新のハードで、CG技術を駆使し、サウンドとゲーム性を一体化させて、そこにしかない特別な世界を描き出そうとしている。これは特筆すべきことといえるだろう。

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▲CGが描き出すネットワークの世界は、とても美しく印象的だ。光と音楽の洪水に、思う存分没入してほしい。

●ロックオンタイプのシステムに潜む、奥深いゲーム性

 前述したように、本作は敵と同時に、敵の弾も撃ち落していくシューティングである。敵を倒すのにおもに使うのは、多重ロックが可能なロックオンミサイル。多くの敵をまとめてロックでき、ミサイルを発射して倒すことができる。いっぽう、敵の弾や、紫色の敵を倒すのに使うのがトレーサーだ。トレーサーは連射が可能で、弾が近づいたらこれで素早く撃ち落していく。そのほかユーフォリアという、画面上の敵を一掃できる攻撃がある。

 得点システムをのぞけば、これ以外に複雑なシステムはない。シューティングとしては、比較的シンプルな作りといえるだろう。しかしシンプルな中にも、奥の深いゲーム性が潜んでいる。とくにそれは、浄化率(いわゆる敵の撃墜率)やスコアを狙っていくことで明らかになっていく(スコアなどは、オプションで画面に表示できるようになる)。

 敵を逃さず撃つだけなら、ロックしたらすぐ撃っていけばよい。いっぽう高得点を出すには、敵をまとめてロックして撃つ必要がある。まとめてロックすれば撃つまでの時間が遅れるので、そのぶん敵を逃しやすくなってしまう。つまり逃さず撃つことと、高得点を出すことを両立させるのは、かなり難しいことなのだ。両立させるには、敵の出現位置とタイミングを覚えて、素早くロックできる腕前が要求される。

 また場所によっては、ロックするタイミングを変えたり、弾を撃たれる前に撃ったりしたほうが楽な場所もある。敵をすべて撃つことを優先するなら、ユーフォリアの使いどころも重要だろう。最初のうちは細かい点数にこだわる必要はないが、くり返しプレイすればそれだけ、新たなプレイスタイルが見えてくる。

 プレイを続ければ、アーカイブ(ステージ)がアンロックされていく。5つのアーカイブをクリアーすれば、ストーリー的な目標は達成することができる。だがそこで終わりではない。新たに難度の高い、Hopeというステージがアンロックされ、プレイヤーの前に立ちはだかる。Hopeに関しては、クリアーだけでも至難の業といえるだろう。またそのほかのアーカイブに対しても、難度ハードの設定で遊ぶことができる。やりこみという点では、かなり長く遊べる作品といえる。

 シューティングゲームは、同じステージを何度もくり返し遊ぶことにより、その本質が見えてくるものだ。一度クリアーしたから終わり、というのでは、シューティングのおもしろさの半分もわからない。本作も同様で、くり返し遊んで学習し、プレイの質が上がれば上がるほど、おもしろさは増してくる。その奥の深さを、ぜひ味わってほしい。

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▲敵の浄化率、スコアにこだわることにより、くり返し遊べる奥の深さがある。シューティングマニアも満足するはずだ。

●『Child of Eden(チャイルド オブ エデン)』に見る、シューティングの過去と未来

 本作は厳密なゲーム性から見れば、一般的なシューティングゲームとシステムは異なる。しかしシューティングと呼んで違和感がないどころか、シューティング黄金時代の作品群を思い起こさせる風格があると、筆者は思う。

 かつてシューティングというジャンルは、その時代の最新のハードを使い、クオリティーの高いグラフィック、サウンドによって作られていた。ゲーム性が優れていただけでなく、その時代の最高の技術、映像表現で作られていたからこそ、プレイヤーはシューティングに熱狂し、憧れを抱いたのだ。しかし時代が下るにつれて、シューティングゲームの開発にはそれほどの開発費をかけられなくなり、シューティングというジャンルは別の方向へと舵を切っていくことになる。

 本作は最先端のハード、技術を使い、ストレートに表現を追求したシューティングである。その点で本作は、近年の多くのシューティングとは色合いが異なる。そんなところに、筆者は古きよき時代の、シューティングの面影を見るのである。

 もちろん本作は、一般的なシューティングと異なる部分も多い。たとえば敵をロックしたとき、サウンドのタイミングに合わせて多重ロックを開放すると、高得点を稼ぐことができる。これは音楽ゲームの要素を取り入れたものであり、あまり他に例がない。サウンドとの一体感を重視した、水口作品ならではのシステムといえる。

 またXbox 360版においては、Kinectでの操作も魅力的だ。プレイしてみると、意外にもなじみやすいことに驚く。照準部分の表示がコントローラより広くなっており、プレイしやすくなっているのだ。さすがに最初のうちは難しいが、慣れれば確実に上達していく。コントローラと動作が異なり、動かす筋肉が違うので、脳が感じる感覚も変わってくる。アナログ的なおもしろさを感じることができるはずだ。

 撃って倒す爽快感、ち密でくり返し遊べるというシューティングの本質。本作はそれを受け継ぎながら、世界への没入感、サウンドの一体感をより深く追求している。これは現代における、シューティングの形に対する、ひとつの答えともいえるだろう。この作品には、シューティングの過去と未来が詰まっている。ぜひこの作品に触れて、そのエッセンスを感じ取ってほしい。

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▲サウンドとゲーム性の一体化、Kinectでの体感する操作。『Child of Eden(チャイルド オブ エデン)』は、シューティングに新たな息吹を吹き込んでいる。

筆者紹介 石井ぜんじ
ファミ通Xbox 360誌でクロスレビュー、攻略を担当する古株ライター。ゲームの文章を書き始めてから20数年、飽きずに続けております。過去に『NINJA GAIDEN(ニンジャガイデン)』シリーズ攻略本、『シュタインズ・ゲート公式資料集』『科学アドベンチャーシリーズマニアックス』などに参加。これらからも、ファンが本当に喜んでくれる本作りを目指していきたいですね。

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Child of Eden(チャイルド オブ エデン)
メーカー ユービーアイソフト
対応機種 プレイステーション3 / Xbox 360
発売日 2011年10月06日
価格 6,279円[税込]
ジャンル シューティング / シナスタジアシューターゲーム
備考 プレイステーション3版はPlayStation Move対応、Xbox 360版はKinect対応
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