●綿密な設定を下敷きにした未来の日本が舞台

 プロのクリエイターから一般ユーザーまで、誰もが参加できるコンテンツ制作プロジェクト“XXolution project:(エグゾリューション・プロジェクト)”。そのプロジェクトの第一弾作品となるのが、野島一成氏がみずから手がける『武装中学生(バスケットアーミー)』だ。本稿では、小説やコミックなど、複数のメディアで展開していく謎多き『武装中学生』の主要キャラクターを紹介するとともに、小説を手掛ける野島一成氏のインタビューを掲載する。“未来の日本”を描く、新機軸の物語に注目してほしい。

 なお、本作の公式ブログ[→こちら]からキャラクターの詳細や、本プロジェクトの展開を確認できる。ぜひ、チェックしてほしい。

■Introduction

2026年8月、富士演習場――。
名取トウコが所属する私立東都防衛学院中等部三年生は、
担当教官である神谷指導のもと、実戦訓練の最中にあった。
その過酷な訓練も、いよいよ最終日。
トウコたちを労う神谷は、"最新兵器研究"と題した課外授業を提案する。
そして……事件は起こる。
それが、15歳の少年少女たちが、世間に「武装中学生」と揶揄され、
日本全土を揺り動かすほどの事件になるとは、誰も知るよしがなかった――。

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▲本作の主役は、戦闘訓練を受けてきた8人の少年少女たち。その主軸となる名取トウコは、エリート自衛官である父に憧れ、私立東都防衛学院という特殊な学び舎を選んだ。

▲黒部カズキは、家庭の事情で8才のときに施設に引き取られた少年。ある思想を持ち、そのために他者を馬鹿にするような態度を取ってしまうことがある。

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▲他者の顔色をうかがいがちな瀬波ヒカリ。優秀な兄弟を持ち、自分に自信がないようだ。トウコを慕っているというが、それは彼女の凛とした姿に憧れているから?

▲何ごとも“中くらい”で満足してしまう、控え目な性格の吉野サトシ。自衛官の父を持ち、同じ境遇のトウコとは話が合うようだ。アニメが好きという一面も。

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▲狩野ナナミの将来の夢は、アイドルになること。しかし、ダンスは得意なものの、歌は微妙らしい。基本的に、興味のあること以外はスルー。人の話も聞き流しがち。

▲高津ヨウジは、ネットの閲覧が制限される学院において唯一スマートフォンを持ち、外部との接触が可能な少年。ネットの世界では有名人らしいが……。

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▲松浦アンは、美少女ながら、自分の容姿には関心がないクールな少女。両親がロック歌手と陶芸家という、特殊な家庭に育つ。ヨウジの話には関心があるようだ。

▲“気は優しくて力持ち”という言葉がぴったりの鶴見タロウ。ただ、言葉数が少なく、何を考えているのかわからないところがある。太って見えるが、意外と筋肉質。

■野島一成氏インタビュー

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■野島一成氏
『ファイナルファンタジー』シリーズや、『キングダム ハーツ』シリーズなどで知られるシナリオライター。ドラマチックな展開の筋書きに定評がある。将来の夢はギターヒーロー。

――まず、『武装中学生』というタイトルについて、お聞かせください。

野島一成(以下、野島) これは、主人公たちの世間的なイメージを象徴する言葉なんです。彼らは騒ぎを起こして、ワイドショーなどで「つぎは武装中学生問題です」という扱いを受けている。また、単に語感がイイというのもあって(笑)、本作のタイトルになりました。

――なぜ中学生をメインに据えているのでしょうか?

野島 中学生って、おもしろいじゃないですか。世の中的な位置付けや、存在自体が特別だと思うんです。高校生になると大人に近すぎるし、小学生だとまだ子供で。中学生は自意識が高まっているのに、社会的にはまだ子供なんです。それと、中学生は急激に成長していきますから、同じ学年でもぜんぜん体格が違ったりしますよね。そういった“不安定さ”が興味深いなと。

――彼らを描くにあたっては、野島さんご自身が、中学生だったころの思い出が影響しているのでしょうか?

野島 影響しているとは思いますが、この作品で描くのは近未来の中学生なので。僕が中学生だったころとは時代も違うし、地域性の違いもあると思うんですよね。

――野島さんが中学生だったころと、いまの中学生では、何が違うと思いますか?

野島 圧倒的な情報力です。携帯電話やPCの普及もあって、いまの子は何でもよく知っています。ただその半面、情報に踊らされている部分もあるかなと。僕が中学生の物語を書くにあたっては、“中学生になり切って”というのは無理なので(笑)、客観的に観察して進めていきたいと思っています。あまり、大人から見てステレオタイプな中学生にはしたくないですね。

――主人公たちは、どういう中学生たちなのでしょうか?

野島 東日本大震災があった2011年の日本に生まれて、いろいろな事情を抱え、防衛教育を受ける全寮制の学院に入学した中学生たちです。前述したような、この年ごろ独特の不安定さを持ちながら、戦うための能力も持っている。『武装中学生』は彼らの“今”を描く群像劇です。

――社会情勢などもだいぶ考慮されているようですね。

野島 そうですね。最初は……これは2011年3月以前の話になるのですが、当時の日本から想定できる近未来で、中学生たちが戦う物語を考えていました。景気の悪い状態が続いていて、そこにカリスマ的な政治家が現れ、世の中がドラスティックに変わるという設定を下敷きにして。その一方で、中学生が戦うべき敵は誰なのかを模索していましたね。そういったときに、東日本大震災があって。あの震災がなかった場合の日本は書けない、と思いました。いまは、あれが未来にどう影響するのかを考えています。

――なるほど。現実の出来事を反映しながらの創作活動だと。

野島 この作品は未来の日本が舞台になっているのですが、いろいろ想定できる未来の中でも、「こっちのほうに進んだら嫌だな」と思うような世界を構築しています。そうしたら、現実がそちらに寄ってきてもいて……。考えていて、怖いこともある。本当にこうなるんじゃないか、なんて。ただ、難しいのは、こういう流れにするには、こういう法案がないとダメだ、という逆算(笑)。法案が通ったところで実施はいつからかとか、設定がたいへんなことになっています(苦笑)。

――かなり綿密な設定のあるリアルな世界を描かれるようですが、ファンタジー要素などは?

野島 基本的に、剣や魔法などのファンタジー要素はありません。主人公たちは武器を手にしますが、それらの兵装も現在の延長上で、突飛すぎないものになります。とはいえ、僕の銃器の知識って、第二次世界大戦レベルで止まっているんですよ(笑)。兵装などに関しては、詳しい方に監修をお願いしています。

――野島さんとしては、あまりいままでにない方向性ですよね。

野島 こういった世界観や主人公たちは始めてなので、楽しみながら、苦しみながら作っています(笑)。

――楽しみです。では最後に、この作品を目にする方々にメッセージを。

野島 本作の舞台は、もしかしたらそうなってしまうかもしれない、“よくない日本”です。その中で、彼らがどういう未来を選択するのか。本作を手にした人が、日本や世界、さまざまな“外”に目を向けるきっかけになればと思います。あ、でも、難しい話になるわけではないんですよ!(笑)。あくまでも、彼女たちから見た世界を描きたいと思っているんです。主人公たちと同世代の読者はもちろん、かつて中学生だった方々が見て、共感してもらえるようなお話にしたいですね。

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