●デザイナーを志す若者へ!

 2011年9月11日、総合学園ヒューマンアカデミー横浜校にて、デザイネイションの皆葉英夫氏と、フリーデザイナーの相場良祐氏がグラフィッカー・デザイナー向けのセミナー“ゲームグラフィックス ワークショップ”を行った。このセミナーは、全国のヒューマンアカデミー校舎で行われているゲームクリエイターによるセミナー“ゲームサーキットフォーラム”の中のひとつで、会場にはグラフィック専攻の学生や、ゲーム業界に興味のある高校生が集まった。

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▲講師を務めた皆葉英夫氏(右)と相場良祐氏(左)。

 皆葉氏は、スクウェア・エニックスで『ファイナルファンタジーIX』のアートディレクターなどを務めた後、独立してデザイネイションを設立。『ファイナルファンタジーXII』や『ロード オブ ヴァーミリオン』などのスクウェア・エニックスのタイトルや、『ブルードラゴン』や『ロストオデッセイ』などの坂口博信氏のタイトルなどに携わっている。

 相場氏は、皆葉氏のスクウェア・エニックス時代の後輩。『ファイナルファンタジーXI』のアートディレクターなどを務めた後、スクウェア・エニックスを退社し、現在はフリーランスとして活躍中。

■ゲーム制作におけるデザイナーの仕事
 両氏の自己紹介兼作品紹介が終わった後、まずゲーム制作におけるデザイナーの仕事としては、どのようなものがあるのかが説明された。

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▲ゲーム制作グラフィックチームの大まかな区分け。2Dデザイン、キャラモデル、背景、エフェクト……ひと言で“グラフィック”と言っても、その幅は広い。

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 ちなみに、皆葉氏と相場氏はふたりとも背景デザインの出身。背景は、画面全部が自分が考えたグラフィックになるため、やりがいの大きい仕事とのことだ。

 ここで受講していた学生から、「カメラはプログラマーが付けるものではないのか?」という質問が。答えは、「キャラクターと背景などの割合が望ましい値になるよう、デザイナーが付けることもある」。また、『ファイナルファンタジー』シリーズでは、プランナーがひとつひとつ手付けでやっていたとか。

 また、エフェクトについて詳しく知りたい、という質問も。エフェクトはやりたがる人は少ないが、超大作からシンプルな携帯アプリにまでかならず入っている重要なもの。『ファイナルファンタジーIX』では、召喚シーンはエフェクト担当が作っていたとのことで、皆葉氏は「アニメやカメラの知識も必要で、データ配分の計算もしなければならない。たいへんだがやりがいのある仕事」とコメントしていた。

■情報伝達としてのデザイン
 続いて提示されたのは、「RPGを作るときの僕の頭の中」(皆葉氏)。ゲームのタイトルや、メインとなるシステムなどの、作品のコンセプトとなるキーワードを中央に置き、そこから“キャラクター”や“広大な世界”といった個々の要素に矢印が伸びていく図だ。これを、皆葉氏は“お皿”と呼ぶ。お皿は、ゲームの大事な部分であり、プロジェクトのねらいであり、お客さんが期待する部分。重要コンセプトというお皿に、召喚獣やキャラクターという具を、お皿のテイストに合うか乗せていったのだという。お皿をしっかりとゲームユーザーに伝えるには、デザイナーの努力が必要なのだ。

 ここで相場氏から、「わかりにくいので「北斗の拳」で例えてください」というオーダーが。皆葉氏は悩みつつも、「お皿は“友情・努力・勝利(「週刊少年ジャンプ」のキーワード)”。これはすごく巨大なお皿です。“ファンタジーだけど若干リアル”というのがお皿の柄。殴り合いの部分がファンタジーだと、その痛みや迫力が伝わらないからです。そこに“北斗神拳”という具が乗っかるのでは?」と例えていた。

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■グラフィックデザイナーに必要な能力
 両氏が提示した、デザイナーに必要なものは下記の3点。

・引き出しの広さ
・使用するツールの知識
・エンターテイナー(人を楽しませる)

 この3つが重要で、さらに+αとして自分の武器があるとよいのだという。お客様の欲しがっているものを提供し、お客様を楽しませるには、引き出しの広さが必要。そして引き出したものをツールで表現できなくてはならない。デザインを仕事にするなら、なくてはならない能力だ。

■上達するには?
 ここで、大学4、5年生になるまで絵を描いたことがなかったという相場氏による、絵を上達させるためのステップが紹介された。

 描きはじめた当初は、「そもそも何を描いて練習すればいいのかわからず、描けば描くほど絶望した」と、最初はかなり苦労したとのこと。真っ白い紙に向かうのが怖いと感じることもとか……。そこで、「冷静になって、みんなが描いてきた絵を見て、どういうトレーニングが必要なのかを考えた」という相場氏が考えだした練習法が、“四角を描く”ことからステップアップしていく方法。

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●四角地獄を始めよう
まずは四角の形をしっかりとる練習からスタート。これで空間を把握する力を鍛える。

●四角と円柱でなんでも描こう
四角が描けるようになったら、円柱も練習。円柱も描けるようになったら、円柱を組み合わせて、いろんなものを描いてみる。「この頃には、城は無理でも、サンシャイン60なら描けるかもと思うようになりました(笑)」(相場氏)

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●四角と円柱で顔も描いてみよう
このステップのころには、だんだんキャラクターの顔が描けるように。

●カラーで描いてみよう
線画が描けるようになったら、色を塗る練習。まずは陰面を黒く塗るところから始め、その後着彩するといい。

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まとめ
・簡単なことから始めよう
・手になじむまでくり返そう
・毎日練習しよう

 相場氏は「誰でも絵は描けるようになる。とにかく描き続けることが大事」と、才能がないから……と諦める必要はない、と自身の経験も交えながら熱く語った。「オススメは好きな絵の模写を10回以上くり返すこと。1回目は何時間も何時間もかかる。2〜3回目はまだくるしい。紙はぼろぼろになる。5回目ぐらいから、ラクになってくるのがわかる。10回目に入ると、すごくうまくなった! ってハッキリわかる。つぎの日にはちょっと下手になってるけど、昨日よりは早い段階で「うまくなった!」って思えるようになります」と述べた。

■質問タイム
 講義終了後は、質疑応答の時間に。ここではその内容を抜粋して紹介。

――スランプになってしまったは、どうしたらいいですか?
皆葉 僕自身、『ファイナルファンタジーVI』のときにスランプに陥り、ナルシェの町を描いては消して、描いては消して……ということがありました。高校を卒業して働き始めたので、絵の勉強をしっかりした経験がなく、描けないときにどうしたらいいかわからなかったんですね。いま思えば、「ナルシェはとても寒い街。オープニングに登場して、世界観をプレイヤーに説明する街」とコンセプトを定めて、寒さを表現するための色などを自分の引き出しから出してくればよかった、と思うのですが。引き出しをいろいろ持っておくと、スランプにはまらなくなりますよ。ただ、スランプは悪いことではありません。スランプは、自分の知識にないものを描かなければならないとき。これを超えるとつぎの自分が待っていますから。

――突拍子のない注文を付きつけられることはありますか?
相場 昔はありましたが……最近は、「お皿のはっきりしていないプロジェクトは生き残れない」、「突拍子のない注文をしたとして、誰がどのぐらい喜ぶのか?」とみんな考えていますので、減ってきましたね。「想像もしたことのないようなラスボスをお願い!」なんて言われることはありますけど(笑)。
皆葉 『ファイナルファンタジーIX』のとき、ラスボス担当からなかなか驚くようなデザインが出てこなかったんです。そうしたら、その担当がついに不思議な銀色の巨人を描きはじめて(笑)。もうびっくりして、そのまま行きました(笑)。

――企画志望ですが、グラフィック担当に絵を発注するのが苦手です。どのような発注をされたら描きやすいですか?
皆葉 イメージが、発注した人の頭の中にしかない場合は辛いです。そのモンスターなりキャラクターなりの、どの要素が必要なのかは最低限教えてほしいですね。“この地方の出身であることが重要”とか“このポーズをとることが重要”とか。
相場 発注者とデザイナーのふたりだけでやりとりするのではなく、プロジェクトメンバーみんなにそのやりとりがわかる形で発注してもらいたいです。ふたりだけでやりとりをしていると、そのふたりの枠に留まっている。うっかりふたりで間違った方向に進んでいたときに、「このデザインは、このプロジェクトではナシでしょう」などと意見を言ってもらえると助かります。みんなでおなじゴールを目指して作っているんですから。

――周りの人よりも絵が下手で、悩んでいます。自分をやる気にさせる方法を教えてください
皆葉 世の中に、絵が上手な人はいっぱいいますから、「自分の好きに描いたほうがいいや」と思うのがいいです。きっと自分が得意な分野がありますから。
相場 もし絵の勉強始めたばかりなのなら、「自分が向上し続けている!」と思えることがモチベーションにつながります。自分も進歩しているなら、いつか周りの人のレベルに届く。「下手だけど、進んでる」と言えるぐらいの努力を毎日すればいいと思います。

――この世界に実在しないものを描くときのコツは?
相場 特別に不思議である必要がなければ、合理的なデザインを心がけます。歩けそう、動けそう。噛みつくモンスターなら、噛みつけそうなデザイン。プレイヤーを襲っていないときでも、その世界で暮らしていけそうな、合理的なデザインにします。
皆葉 実際に存在しそうな、リアルな生物として描くなら骨格を考えることが重要になります。逆に、本当に想像もできないようなものを描くなら、もう骨格とかを考えるのではなくて……たとえばここにペットボトルがあって。これを逆さにしたら不思議で。これが浮いたらさらに不思議で。さらに容器がなくて水だけになったらもっと不思議で……このようにして、不思議なものを考えていきますね。

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 まだまだ質問したい学生はいたようだが、残念ながら時間切れでセミナーは終了に。2時間という短い時間ではあったが、一流の現役クリエイターから教えを受けたことは、学生たちに大きな刺激を与えたようだ。今日この日から、白い紙に四角を描き続けるような学生が多くいれば、きっとゲーム業界の未来は明るいだろう。