●ゲーム産業革命の本質とは
本日2011年9月15日から千葉県にある幕張メッセで開催されている東京ゲームショウ2011。その開催直後に実施されたTGSフォーラムで一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会会長の和田洋一氏(スクウェア・エニックス 代表取締役社長)による“ゲーム産業革命の本質”と題された基調講演が行われた。本稿ではその基調講演をリポートしよう。
本講演について和田氏は、これまでを振り返りながら今後を予測し、どう対応するか、また何が推進力かをテーマとして、まず、ゲームはどのように拡大していくかを3つに分けて説明した。
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■右肩上がりの成長をみせてきたゲーム市場
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まず和田氏はデータを示し、ゲーム業界は一貫して右肩上がりを続けていると説明。そのデータでは、ユーザー層は地層のように積み重なっている。これは、アーケードゲーム、コンシューマゲーム、PCゲームなどのユーザー層に加え、ブラウザゲーム、アプリゲームなどの新たなユーザー層が加わり、ゲームユーザー層はいまも年々増加傾向にあることを示している。
かつては、アーケードゲームに代表されるように、ゲームひとつに特殊なマシンが必要とされた。その後、任天堂がファミコンを作り、価格は個人が買える水準になり、家庭用ゲームという分野ができた。
プレイステーション2以降は、DVDプレイヤーも備えていたため、ゲームだけに費やす投資額は減っていったが、その分、幅広くユーザーに受け入れられたため、マーケットは拡大。
さらに、ケータイが登場。ケータイはゲームを利用するためだけには買わないもの。汎用機でもゲームが可能になり、和田氏はこれを“汎用機全盛時代”と表現。ゲームはゲーム専用機だけのものではなくなり、さらにゲーム対する投資額は相対的に極限まで減ってきていると指摘。
では、汎用機は専用機に取って変わられるのか。和田氏は「専用機は専用機のよさ、汎用機は汎用機のよさがある」と語り、今後も、ユーザー層は地層のような重なり続けるだろうとコメント。だが、プラットフォームは、iPhoneなどの登場でスマートフォンなどの汎用機が市場を席巻し始めた2007年以降、PlayStation NetworkやXbox Liveなどを展開するコンシューマーゲーム機も含め、ネットワークがプラットフォームの本質にシフトする時代がもうすぐに来ていると分析。それを踏まえ、「今後はブラウザ、クラウド(データ処理自体もクラウドになる)中心となり、マーケットはさらに拡大する」(和田)と予測する。この象徴的なゲーム機は、3G回線、Wi-Fiなどネットワーク機能とそれを利用するアプリを備えたPlayStation Vitaということになるのかもしれない。
■ゲーム市場拡大の推進力は何だったのか
つぎに和田氏は、ゲーム業界がユーザーを惹きつけてきた、マーケットを拡大してきた推進力は何だったのかその要因を分析した。'90年代は16bit競争、32bit競争など“CPU戦争”が論じられ、マシンスペックが注目された時代だ。処理能力の向上でゲーム性やグラフィックが激変し、見たものを驚かせた。ドット絵だった『FFVI』までの『FF』シリーズが『FFVII』で3Dポリゴンで描かれゲームファンを驚かせ、また、3D格闘ゲームが大流行したのがいい例だろうか。だが、現在では、ゲーム専用機以外のコンピュータ機器などの性能も上がり、購入者もマシンスペックだけでは魅力を感じなくてなっており、ゲーム市場の拡大にはあまりつながってはいかない。そんな中、つぎにユーザーを惹きつけたのはタッチパネル、モーションコントロール、ボイスコントロールなどの入力デバイス。これはニンテンドーDSやWiiのリモコンなどに代表される。これらのハードの登場により、新たなゲーム体験が生まれ、ユーザー層の拡大につながった。だが、それらのデバイスも汎用機に搭載される時代となり、ゲーム機ならでは、またはゲーム専用機の購入を推進する要素とは成り得なくなってきた。そこで、つぎの軸として現在の潮流となっているのがコミュニケーション要素。和田氏はこのコミュニケーション要素について「まだまだ始まったばかり。我々が追求しなければならないところ」と述べた。コミュニケーション要素の付加により、ふだんゲームをプレイしないような一般層にまでユーザーを抱えるソーシャルゲームやブラウザゲームの急激な飛躍に象徴されるように、ビジネスモデルやディストリビューション、ユーザー層などが一変。ゲーム業界に大きな変化が一気にもたらされた。これに関しては和田氏も「焦りました」と告白。ただ、これに関しては「大手メーカーはかなりキャッチアップしてきた」(和田)と手応えを感じている様子。「ネットワーク要素はゲーム機だけのものではないが、その分、チャンスも拡大する」(和田)と続けた。今後は、さらにサービスの質を磨き、新たなゲーム体験などを提供するための創意工夫といったところが重要となってくる。また、これまでのようなコアユーザーばかりではなく、一般ユーザーが増えてくる。和田氏はそこを自覚したゲーム作りや投資が必要となってくるだろうと述べた。
■フリーゲームは価格破壊ではなくネットワーク時代のひとつのシステム
最後の要素としてビジネスモデルを挙げた和田氏。ゲーム業界はアーケードに見られるようにプレイしたい回数の金額を支払う従量課金から始まり、パッケージゲームでは決まった価格を払えば好きなだけ楽しめる定額制となった。だが、ネットワーク時代になると、ユーザーの満足度に従って価値が決まる時代になったという。フリーゲームのようなアイテム課金は満足度をウリにしてユーザーにお金を払ってもらうシステムが、そのいい例だと言える。和田氏はフリーゲームは価格破壊ではなく、ネットワーク時代のひとつのシステムだと語り、今後はそれを踏まえたゲームの設計の必要性を説いた。
右肩上がりの続けるゲーム市場だが、ユーザー層拡大の推進力は時代とともに変化してきた。今後は、その推進力にクラウドの可能性を挙げ、「根本的な革命をもたらす」と予想する。そのときどきのユーザー層拡大の推進力、つまりはユーザーの満足度と言い換えてもいいかもしれないが、それを把握し「世の中が大きく変わることを自覚しながら、業界全体で環境認識を共有することによって、より質の高い正しい対応をしていくことが大切」と述べ、講演を締めくくった。