●大手SNS、ゲームメーカー、フリーランス……立場が違う3者が語った「Unityを使う理由」

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 2011年9月6日〜8日の3日間、神奈川県のパシフィコ横浜・国際会議センターにて、ゲーム開発者の技術交流などを目的としたCEDEC(コンピュータエンターテインメントデベロッパーズカンファレンス) 2011が開催された。

 開催最終日の9月8日にUnity Technologiesが行ったPRセッション“Unity3.4と日本の展開”は、日本支社設立を発表したばかりの同社の、日本のゲーム業界での勢いが伺える内容となった。まぁなんせ、全員オールスタンディングで詰め込んでも入りきらないだろう長蛇の列が開始前からできている始末。前日のEpic GamesによるPRセッションも恐ろしい人気で、市販ゲームエンジンへの注目度の高さが如実に現れたCEDECだったと言えるだろう。CEO(最高経営責任者)のDavid Helgason氏も来日し、講演の冒頭で同社の紹介を行ったのだが、CEDEC 2010のセッションでの集まりはイマイチだったようで、今回の人気ぶりに驚きと喜びの表情を隠し切れない様子だった。

 Unityのモットーは“ゲーム開発を民主化する”ということ。基本のUnityなら無料であり、できたプログラムを販売するためのライセンスにしても初期投資が少なくて済むことで、誰でも優秀な開発環境が安価かつ簡単に手に入れられるというのが特色だ。世界では60万人のユーザーがおり、日本には8000人の利用者がいるという。

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 利用する会社もさまざまだ。中盤では3社の開発者が登壇し、実際にどうやってUnityを使っているかのユーザー事例を報告した。まず登壇したのは、大手SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)の“GREE”をサービスするグリーで開発本部のエンジニアを務める芳賀洋行氏。

 芳賀氏は、現在のグリーは、グローバル戦略とマルチデバイス戦略を進めていることから、「できるだけ手間をかけずにゲームを作っていく必要がある」と説明。そのために同社が選んだのがUnityというわけだ。今年の6月に、今夏に数十タイトルのスマートフォン向けアプリをUnityで開発し、提供していくと発表しており、現在も自社開発のスマートフォン向け2Dゲームを2本Unityで開発中で、2011年内にリリース予定であることが明かされた。

 グリーはつい先日もUnityとの包括的業務提携を発表し、GREEにゲームを提供するデベロッパーにUnityのiOS、Android向けのライセンスを無償配布できるようにしたことを発表したばかり。豊富なタイトルをスピード感をもって投入していくことで、スマートフォン向けソーシャルゲームの市場でリードしようという同社の意気込みがうかがえる。

 採用の理由は、スピード(ゲームそのものに注力してアイデアをすぐ試せる)、長期に渡る開発実績(継続的なメンテナンスが行われており、巨大なユーザーベースがもたらす集合知がある)、高い拡張性といった部分を挙げていた。また、入門者からハイエンドにカスタマイズする人まで使える間口の広さも評価しているポイントだという。日本語フォントを改善したい、ユーザーインターフェースをもっと拡張したいとか、Flashをはじめとするベクターアセットを使いたいといった課題もあったが、これらの問題はエンジニアが拡張することで対応したとか。

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 次に登壇したのは、中裕司氏が率いるデベロッパー、プロペのプログラマーである小黒哲郎氏。iOS用アプリ『Power of Coin』と『REAL ANIMALS HD』の2本でUnityを使っている。前者ではコインを物理演算したり、派手なエフェクトを入れる一方、後者ではUnityを使って、iOSのデバイスでどこまで高品質な画面を作り込めるかを狙ったという。

 小黒氏がUnityを使って良かった点として、やはりスピードと、ネット上の集合知(コミュニティーでの情報交換やオンライン上の情報など)を挙げていたのは印象的。スピードについては、すぐに動くものを作成でき、iOS向け開発で必要なObjective-Cの知識が薄くても、特定の機能さえ使わなければ完成まで持っていける点を評価していた(だが、やはりiOSの機能を使うためにObjective-Cでプラグインを書く必要はあったとのこと)。そのほか、物理演算の実装や、モジュール単位での実行やデバッグなどもやりやすかったという。開発の9割近くをWindowsマシン上で行ってUnity上で確認し、デバイス上でのチェックはiOS特有の機能のみで十分だったというのも興味深いところだ。

 ちなみに、『REAL ANIMALS HD』はデザイナーがエンジン上にモデルを置いたサンプルから開発がスタートしたとのことで、そもそもプロペではUnityを使い始めて半年に満たないにもかかわらず、2タイトルをリリースしている。そして、同社ではAndroid向けの開発が遅れていたが、試験的にこれらのタイトルをAndroid向けに出力してみたところ問題なく動作し、いずれAndroid向けのサービスも開始予定だという。この、すべてに習熟しなくてもデモを作ったり、商用に耐えうるアプリを開発できるという点は、急速に変化する市場に対応するにあたって強力な武器となるだろう。

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 ここまでふたつの実例が話されたが、グリーは大手SNSの会社で、プロペはコンシューマー(家庭用ゲーム)でもタイトルをリリースする会社だ。ここでUnity Technologiesの大前広樹氏が「(Unityには)誰でも作れる、小さいチームでも作れるというメリットがあります」と呼び込んだのは、フリーランスの開発者である高橋啓治郎氏。ロゼッタがリリースしたiOS用ゲーム『CubeSieger』をUnityで開発した際の実例が話された。

 開発のテーマは、プロデューサーがかつて手掛けたボードゲームの『Posit』をiOS用ゲームにするというもので、方針は明確。実はこの案件、Unityを使ってみるというのが裏のテーマだったそうで、95%をUnity、残りの5%はプロペの例とおなじくプラグインをObjective-Cで書いている。このため、仮にほかのプラットフォームに移植することになっても、すぐ持っていけると語っていた。これによる開発上のメリットもあり、“詰めキューブ”という詰将棋のような問題を作成するにあたって、ゲームのコア部分をWeb用に書き出すことが可能になり、問題制作を簡単にアウトソースできたのだとか。

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●今後はサポートをさらに強化

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 さて、みっつのユーザー事例が提示されたところで、最後は大前広樹氏が今後の日本での活動について語った。IGDA Japan(国際ゲーム開発者協会日本支部)とセミナーを開催したり、さまざまな開発者が集まって短期間でゲーム制作を行う“GameJam”をサポートしたりといったこの1年の活動を「草の根活動だった」と振り返る大前氏。これまで日本法人はなく、大前氏があくまで日本担当として活動するレベルだったのだ。

 しかしながら、そういった地道な活動が今年のCEDECでの注目につながっているのは言うまでもない。2011年9月1日よりUnity Technologies Japanも発足し、企業としての活動が本格始動することになるのだが、なんと日本でのUnityの売り上げは、米国に次ぐ世界第2位になっていることが明かされた。今後は日本語情報を拡充するとともに、日本でのサポートも強化。コミュニティー活動もさらに活発にしていきたいとの意向が語られた。

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 『Unityによる3Dゲーム開発入門』(オライリー・ジャパン)を執筆したゼペットの宮川義之氏も登壇し、「この本では入門書の敷居を下げたかった」と本作の執筆意図を紹介。これまでのUnityには、“知っている人が少ないので開発チームを増強できない”、“日本語の情報が少ない”という“ふたつの死角”があったとするが、前者は「だが、もう大ブレイクした」、後者は「コミュニティーが活発化し、入門書も出た」として、Unityには「もう死角がない」(宮川氏)ので、本書を間口をさらに広げるきっかけにしてほしいと語った。ちなみにこの“うに本”(表紙にうにが描いてあるのだ)、CEDECの物販で先行販売されたのだが、9月7日は150冊ほど持ってきたのが完売、当日サイン会に合わせてもってきたものも完売したようだ。

 さて、記者はあくまでゲーマーである。ゲームエンジン的なものは、往年のクラシックなFPSのレベルエディターを使った程度だ。となればUnityが広まることによって願うのはただひとつ、これまでだったら埋もれていた、斬新なアイデアが盛り込まれたナイスなゲームがサクッと登場するようになるのを待っている。